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試乗・解説

Kawasaki Ninja ZX-10R/10RR『究極の速さは、すなわち扱いやすさ?』
ワールドスーパーバイク選手権で怒涛の6連覇(7回目)の総合優勝を果たしているカワサキZX-10R。「勝っているバイクを変える必要はない」という考えから今回のチェンジでは熟成路線を採ったというが、そのルックスは大きくチェンジ。細部の進化も見てみよう。
■解説:ノア セレン ■撮影:中村浩史 ■協力:カワサキモータースジャパン https://www.kawasaki-motors.com/




ライバルも認めるパッケージ

 これだけルックスが変わった新型ZX-10R。中身もさぞかしアップデートしているのだろうと思ってしまいそうなものだが、実は今回のモデルチェンジ、完全に熟成路線である。
 発表後に開発陣とのオンラインインタビューセッションがあったのだが、「スーパーバイクでライバルチームからさえも『カワサキは何も変える必要がないよね』と言われたほど、先代のZX-10Rはレーサーとしても良きバランスを持ったモデルでした。勝っているものを変える必要はない、という考えはカワサキとしても同じですから、マシンの根本的な部分はあくまで熟成とし、今回は空力関係でライダーをサポートできないかというアプローチを重視しました」という話が繰り返されていた。

 レースは細かいところの積み重ねで勝利を手繰り寄せていく世界。チームとしての力も大いに関係しているだろうが、それでも6連覇を成し遂げるにはマシンの素性の良さ、またはライダーとの相性という部分も大きいだろう。事実「レイをサポートしたい」と、チャンピオンライダー、ジョナサン・レイの名前も何度も聞かれ、市販車ベースで戦われるスーパーバイクを技術面でいかに支えられるかに熱意を注いでいるのが伝わってきた。インタビュー中の話題の多くはスーパーバイクについてであり、ZX-10Rは新型もレースにフォーカスしたモデルであることを印象付けた。
 

大きく変わったフェイスにより大幅なモデルチェンジを予想してしまうが、空力とダウンフォースを向上させたカウル以外の内容はあくまで熟成路線。開発者も「空力向上が今回のモデルチェンジの最大のメリット。あとはこのスタイリングが受け入れられてくれることを願うばかりです」とコメント。車体姿勢はサス設定およびフォークオフセットの微調整により、ホイールベースがいくらか伸ばされ、トレールが減らされている。ハンドルは前方に10mm移動しており、ライダーは前傾角が増えたものの余裕も生まれたためUターンなどしやすくなっているという。スクリーンも角度を立て40mm高くなっているためサーキットではコーナー進入時のライダーの自由度を助け、公道ではツーリングシーンをサポートする。※写真左から、ZX-10R KTR EDITION、ZX-10RR、ZX-10R。

 

小顔になってウイングレットも内蔵

 技術面から空力を追求した新形状カウルは、ルックス上の大きなイメージチェンジにもなっている。LEDとなったヘッドライトは大幅に小型化。突き出たカウルのツノの奥に隠されたような形状になり、逆に張り出したカウルの面積が増えたような印象だ。今はフロントのですねウイリーを抑えるための「ウイングレット」(羽)を付けるのがこの種のバイクの主流になっているが、ZX-10Rはあからさまに羽をはやすことはせず、ライト横を抜ける風に作用する一体型ウイングレットを採用。ウインドシールドは先代よりも高さを持たせることでウインドプロテクションを向上させると同時に、空力特性は7%向上、ダウンフォースに至っては17%も向上させ、コーナー脱出時のフロントホイールの浮き上がりを抑制している。

 また新形状のカウルはラムエアの導入部を小さくしているものの、そこへ風を導きやすい形状とすることで従来と同じ効率を維持。またサイドカウル開口部からエンジン熱を排出することでライダーの脚に排熱が当たりにくくするようにしたなど、乗り手への配慮もなされている。
 

新形状のカウルはダウンフォースを生むウイングレットをカウル外側につけることなく、ヘッドライト横のトンネル状の設計。新採用の小型軽量LEDライトを奥に埋め込むことによりニンジャシリーズに共通するフロントマスクイメージとなっている。カウル中央のラムエアインテークは面積こそ小さくなっているがカウル形状の見直しにより充填効率は先代と同等としている。

 

空冷オイルクーラー装着・熟成の203馬力エンジン

 トルクフルで扱いやすいエンジンは、スーパーバイクからのフィードバックにより熟成を重ねてきたユニット。ダイヤモンドライクカーボンコーティングがなされたフィンガーフォロワーロッカーアームにより高いレブリミットを実現すると共に動弁系の質量も軽減。そのバルブはチタン製、シリンダーヘッドはレースキットのハイリフトカムを装着できるようクリアランスも確保。しかしこれらは先代から引き継ぐことで、エンジンに関しては新たに空冷式のオイルクーラーが装備され、ギアレシオをよりサーキット向けに改めた以外、大きな変更は加えられていない。

 逆にこの性能と扱いやすさを維持したまま、より高い冷却性能の獲得とユーロ5規制に対応させたことが凄いことだろう。ユーロ5対応でマフラーは集合方式を変更し、触媒の位置をエギゾースト前方へと移動している。
 なお、一人乗り仕様のZX-10RRはスーパーバイクのレギュレーションを最大限活用するため、エアボックスのインテークファンネルの廃止、高回転型の専用カムシャフト、専用バルブスプリング、Pankl社製ピストン及びチタン製コネクティングロッドを採用。ピストンリングもZX-10Rよりも1本少ない設計とするなどスペシャルな仕様となっている。
 

安定方向へと微調整されたシャーシ

 ツインスパーのフレームに大きな変更はないが、スイングアームのピボットは1ミリだけ下方に移動させコーナー脱出時のリアサスペンションの作動性を向上。これは向上した空力によるダウンフォースの増大とセットの微調整だろう。この他フォークオフセットが増やされたことでホイールベースは10mm伸ばされ、引き換えにトレール量はわずかに減少。安定感を更に強化すると同時に、コーナー進入時の回頭性を高めているそうだが、こういった流れはMotoGPにも通じているようで、最近の流行りのようにも感じる。以前にも増して直線でのハードブレーキング時の安定感が求められ、かつ良く曲がる性能は維持しなければいけないという兼ね合いでの模索だろう。

 サスペンションは変わらないがセッティングはよりサーキットにフォーカス。フロントはスプリングレートを下げ、逆にリアはスプリングレートを上げて、フロントに荷重をかけやすく変更している。なお3本スポークのホイールはこのクラスで最軽量クラスといい、軽さと剛性バランスの絶妙さがサーキットにおけるグリップ力のカギとなるとか。ちなみにRRではマルケジーニ製7本スポークタイプを採用した。
 

公道で楽しめるのか

 リリースでもインタビューでも、新型ZX-10Rはよりサーキットにフォーカスしたバイクであることは明らかだった。多くの時間がスーパーバイクの話題に割かれたのもその証拠だろう。しかし「ミスターバイク」的には公道での使い勝手も気になるところである。ナンバーが付いて公道で走れるモデルである以上、公道で気持ち良く走れる場面があって欲しい。

 まずは嬉しいアクセサリーを紹介しておこう。グリップヒーターとETCである。グリップヒーターは冬のライディングだけでなく朝晩がまだ寒い時、夜の雨などで活躍する場面が多い機能。特にこういったハイパフォーマンスなモデルでは正確なライダー入力が求められるため、これは快適機能ではなく安全機能として捉えたい。グリップヒーターのアクセサリー設定は大英断である。そしてETC。こういったモデルで高速道路に乗らないということは考えにくいのだから、例えコンパクトな車体でもETCユニットを余裕をもって搭載できるぐらいのスペースは欲しい。ZX-10Rではリアシート下にETC2.0ユニットを収納できるスペースを確保し、かつメーター内にはあらかじめETCインジケーターを用意してくれている。

 しかしその他の部分で、公道で活きるような装備はあるだろうか。開発者に伺ったところ「サーキットでも乗りやすいバイクは公道でも乗りやすい」という大前提がまずあるという話があった。確かにそうだろう。ジョナサン・レイでも乗りやすくなければ6連覇は難しい。また今回の前後サスの変更で前輪荷重が増えているため、一般的なスキルのライダーでも直感的に乗りやすいと感じるはず、そしてハンドリングがよりニュートラルになっているため、誰にでも扱いやすいと感じるはず、という話も聞けた。「熟成されたモデルを楽しんで下さい」という自信に満ちた発言もあったこともお伝えしておこう。

 車体ディメンション変更の他、今回はハンドルが少し遠くなっているというが、ポジション的にはいくらか前傾が増した替わりに、ハンドル周りに余裕が生まれUターンは先代に比べ格段にしやすくなっているという。またウインドスクリーンが高くなったことで防風性が向上し、これもまた公道で活きる変更と言えるだろうし、クルーズコントロールがついたことで高速ツーリングもサポートしてくれる。

 もう一つ嬉しい変更は走行モードに公道を強く意識した設定が設けられたことだ。走行モード4及び5は公道用、もしくは初心者用に今回制御内容を見直してあり、このモードならばツーリングや雨天走行も安心して行えるという。ワールドスーパーバイクでの連覇を伸ばすために細部を進化させる究極のバイクである一方で、こうした公道での使い勝手も決してないがしろにしないのはカワサキらしい! と嬉しくなる話だった。

全国カワサキプラザにて

 各方面で話題になり、今年のスーパーバイクもまた楽しみだが、この新型ZX-10Rが国内で購入できるようになるのは5月28日。日本国内にどれだけの数が割り当てられるかは公表されていないが、世界では年間8000台(RRは500台)を用意しているという。販売されるカワサキプラザでは3年間のメンテナンスパックも付いてくるため、カワサキラインナップの頂点であるハイパフォーマンスモデルに安心して乗れるというわけだ。
 

ZX-10Rの強みの一つはブレーキング性能。これについては先代でも優秀だったため変更は加えられていない。サスペンションはショーワのバランスフリーフロントフォークを先代から継承。スプリングを若干柔らかく変更しフロント荷重を稼いでいる。
フレームはスイングアームピボット部を1mm下げた以外変更なし。写真の7本スポークマルケジーニホイールはRRに標準装備されるが、部品単体での入手も可能のため10Rへの装着もできる。スイングアームは8mm伸ばされ安定性を向上させている。

 

リアサスはバネレートを上げ、車体姿勢を保持する方向へと変更。併せてダンピングも設定し直している。
今回、ユーロ5対応のためキャタライザーの位置など見直されたマフラー。エキパイの連結パイプもこれまでの1-4&2-3バイパスから1-2&3-4バイパスへと変更されている。

 

シート後端が若干持ち上げられ更なるスポーツライディングに対応。RRは一人乗り仕様のためシングルシートとなる。シート下にはETC2.0が収まるよう設計されており、ETCインジケーターはあらかじめメーター内に用意されている。

 

フルカラーTFT液晶メーターを新採用。パワーモードや各種電子制御技術の管理が行え、今回クルーズコントロールも新たに設定。メーター内にはBluetoothチップが内蔵され、スマートフォンと相互通信も可能。専用アプリによりライディングログを記録するなど、多角的に楽しめる。

 
●ZX-10R KRT EDITON

 
●ZX-10RR

●Ninja ZX-10R/10RR 主要諸元
■型式:2BL-ZXT02L ■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:998cm3 ■ボア×ストローク:76.0×55.0mm ■圧縮比:13.0 ■最高出力:149kw(203PS)/13,200rpm・ラムエア加圧時:156.8kw(213.1P)/13.200rpm [150kw(204PS)/14.000rpm・ラムエア加圧時:157.5(214.1PS)/14.000rpm] ■最大トルク:115N・m(11.7kgf・m)/11,400rpm[112N・m(11.4kgf・m)/11,700rpm] ■全長×全幅×全高:2,085×750×1,185mm ■ホイールベース:1,450mm ■最低地上高:135mm ■シート高:835mm ■車両重量:207kg ■燃料タンク容量:17L ■変速機形式:6段変速 ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M・190/55ZR17M ■ブレーキ(前/後):油圧式デュアルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:ZX-10R:フラットエボニー、ZX-10R KTR EDITION:ライムグリーン×エボニー、ZX-10RR:ライムグリーン] ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):2,299,000円 [3,289,000円] ※[ ]はZX-10RR


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2021/04/14掲載