発売前に販売目標をほぼ達成
そうなのだ。メディア試乗会の会場でホンダのバイクをディストリビュートするホンダモーターサイクルジャパンの一人はこう語った。
「じつはRebel 1100 シリーズの年間販売計画とした3000台は、クリアするのが厳しい目標だろうと思っていました。しかし、現在の受注状況では、3月11日発売のDCT(Dual Clutch Transmission)モデルが1600台、5月13日発売予定のMTモデルが1100台とありがたいことに、全部で2700台もいただいています」
スゴイじゃないですか! と返すほかない。ちなみに、これは大ヒット級の台数であり、話題性も相当なものなのではないだろうか。お店の試乗車に乗って、とか、誰かが走らせるのを街でみて、とか、音を聞いて、とかの前段階での話だ。話題のニューモデルにオーダーが入るのは解るが、これほどまでに注目度があったとは、自分の認識不足を反省しました。
自分のなかでのRebelと言えば、250がメイン。クルーザーというコテコテのしきたり的スタイルから解き放たれ、カスタムをしたスポーツクルーザーのようなスタイルで、タンクの前端が後端よりギュっと高く、エンジンを丸出しにしたようなデザインが印象的なバイクだと思っていた。そこに前後とも太いタイヤと低いシート、シンプルでこれ以上なにも引けないようなルックスにはスキがない。だからこそ250らしくもあり、カテゴリーの壁を突き抜けた存在となっていた。
それに500もあるから、大型二輪ユーザーもしっかりキャッチアップしているし、全く同サイズの車体に倍の排気量だ。走りも期待通りだった。それも面白い。500のエンジンはCBR400Rや400Xと同系だから、Rebel400という選択肢もあったはず。でも500にしたところも個性を主張している。なにより、250も500も誰に聞いても走りが楽しいと評判なのだ。
そんなRebelに1100が加わると最初に聞いた時にはちょっと信じられなかった。二匹目ならぬ三匹目のドジョウは居るのか? などとうがった見方をしていたのだ。
その見立ては全く的外れだったことは現在の受注状況をみれば明らか。それでも今は、Rebelの走りの良さとアフリカツインに端を発したあのエンジン+DCTが組み合わさったことで単純に走らせるが楽しみで仕方がない。だって、つまらないハズがないからだ。
まずはDCTモデルから発売
今回は3月11日発売となるDCTモデルに試乗をした。パワーユニットはCRF1100L Africa Twin DCTをベースにRebelのキャラクターに合わせた作り込みがされている。より低中速領域のトルクを太らせた特性だという。また、スロットルバイワイヤーを備えたことで、Rebel 1100にはクルーズコントロールやライディングモードも搭載された。
2021年モデルでGold Wing シリーズがDCTモデルに一本化されたようにDCTモデルの受注がMTモデルの発売を待たずに伸びていることは、DCTがしっかりと根付いた証拠だろう、DCTファンの一人としては嬉しいニュース。クラッチ操作が必要なく、変速操作も滑らか。Dモードでお任せ自動変速も出来るし、MTモードで自ら変速することもできる。Dモード走行中でも左スイッチボックスにあるシフトパドルを駆使すればその時だけマニュアル操作できるから、自分のライディングのリズムも作りやすい。
この10年で何度もDCTモデルを体験したが、シフト操作するMTモデルより、走りや周囲への注意に集中できる感じで、発進、右折待ち、坂道のスタートなど緊張する場面でストレスがない。それに二人乗りしてもシフトアップやダウンの度にパッセンジャーのヘルメットがゴツンと当たるような駆動の途切れもわずかしかない。自分よりはるかに上手な人がクラッチとシフト操作というタイミング合わせがとても面倒なことを肩代わりしているようで、有り難い、それがDCTだ。
なにより滑らかなシフトの所作以外も自動なのに人間味溢れる乗り味があるのがいい。雨の日や滑りやすい路面でこれほど完璧にシフトダウンするDCTなら安心して任せられる。そう、こうした信頼感がなによりも大きいのだ。「なんだ、オートマでしょ!?」とか、「MTじゃないと操作した気がしない!」という意見はごもっともだ。かくいう私もそんな一人だった。しかし、どんなに比べても自分よりDCTの方がシフトワーク、クラッチワークが上手い。いつも完璧だ。またシフト操作へのそのこだわりが強いがために、ドライブチェーンの張り具合、クラッチレバーを自分の好みに合わせたり、シフトレーバーの角度やタッチが気になったり、一つが気になるとやっぱり、リズムが合わなくなったりする。その上で細心の操作でベストなシフト、クラッチミートを繰り返すのは確かに骨が折れる。
DCTに乗って一番感じたのは「自分がそうまでして拘っていたのは、バイクを思い通りに走らせることで、クラッチ操作もシフト操作もその各論にすぎない。ならばラインやブレーキングポイントに集中したいし、市街地では他にも注意を払いたい。それが出来るDCTは最高だ」となったのだ。
エンジンも専用チューン
エンジンは吸排気系を専用にチューニングしたRebel 1100用となっている。低い回転域でのパルス感、低速からアクセルを開けた時に感じるトルク感を軸にモディファイされ、Rebel用カムシャフトの採用やフライホイールも32%質量を増したというから、後輪の蹴り感を想像しただけでワクワクする。エアクリーナーボックスや排気系もRebelに合わせて新設計されているから、そのへんの味付けも気になるところ。キャラに合わせてしっかり排気音はRebelらしさを演出しているそうだ。そのへんも含め実走で確認したい。
またエンジンの素性に加え、試すのが楽しみなのがライディングモードだ。
RAIN、STANDARD、SPORT、 USERという4つのモードをRebel1100は持っている。
1.RAINでは、パワーモード=穏やか、HSTC/ウイリーコントロール=介入度強い、エンジンブレーキ=穏やか、DCTシフトスケジュール=低回転多用となる。
2.STANDARDでは、パワーモード=標準、HSTC/ウイリーコントロール=介入度標準、エンジンブレーキ=標準、DCTシフトスケジュール=標準となる。
3.SPORTでは、パワーモード=アグレッシブ、HSTC/ウイリーコントロール、介入度弱い、エンジンブレーキ、標準、DCTシフトスケジュール=高回転多用となる。
4.USERでは、パワーモード=設定値を3段階からチョイス可能、HSTC/ウイリーコントロール=設定値を3段階からチョイス可能、エンジンブレーキ=設定値を3段階からチョイス可能、DCTシフトスケジュール=設定値を3段階からチョイス可能となる。
これらのパラメータはメーターでも確認が出来るので、各モード走行時がどのように電子制御が介入し、エンジンレスポンスが銅片かするのか視覚的にも理解できるようになっている。
ザ・トルク!! な走り出し
エンジンを始動すると250、500とは別物であることがハッキリ解る。走る気がみなぎるというか、こっちまでやる気が出るというか、とにかくマッシブだ。それでいてライディングポジションはRebel一族同様、低めのシートに腰を下ろし、伸ばすでもたたむでもない絶妙な膝角となる足をフットペグに落とす印象だ。ハンドルグリップも手を適度に伸ばした場所にある。このポジションに自分をフィットさせるだけで、何年来かの友のようにバイクと意思疎通が始まる。
せっかくのテストなのに雨模様。降ったりやんだりの中、濡れた路面にRAINモードを選択した。シフトスイッチでDを選択。あとはアクセルを開けるとRebel 1100は静かに走りだした。市街地を抜ける時も230㎏を越える車体が嘘のように軽々と進む。アクセルはわずかに開けているレベル。その時でもエンジンの鼓動感と排気音で満たされる。低めの回転数でシフトアップするDCT。その設定もRebelらしさにつながっている。
市街地を抜け高速道路へと進む。RAINモードだからといってアクセルへの反応が鈍いとかパワー感がない、と言う印象はない。これが普通のモードです、と言われたら納得できるレベルだ。日常的なアクセル開度にはたおやかに、追い越し加速的な瞬発力を右手から指示すれば、それに応じてパワーとトルクをしっかり上乗せしてくれる印象だ。
STANDARDも試してみる。RAINで感じた微少開度のアクセル領域からもう一声トルクが乗った乾いた加速感がある。なるほど、これが標準なのか。エンジンブレーキの効き具合は一般道の速度や80km/h制限の横浜横須賀道路を6速で流している時のアクセルオフでは閉じた瞬間がマイルドな印象で、キャラクター的に大きな違いは感じなかった。
クルージングは快適。定速の巡航でもしっかりと生命感があり走る楽しさを醸成されてくる。13リットルタンクだから給油レンジは長くないだろうが、休憩を挟みつつ遠距離ライドも悪くなさそうだ、と、早くも頭のなかで見知らぬ遠くの風景が浮かぶ。これ、自分にとっては良いバイクと出会ったら見る蜃気楼のようなもの。Rebel 1100、早くも合格確定のようだ。
コミューターとしてはどうか?
高速道路を下りると再び市街地へ。アスファルトに路線バスが長年かけて刻んだ轍が掘れ、マンホールやギャップも少なくない。ゴーストップも頻繁ななか次第に路地は狭い下町感覚の場所へとやってきた。1100のバイクで走っていることを考えたら、手に余る印象があってもおかしくない。それでも、700mmと低いシート高と手の内にあるポジション、アクセルコントロールがしやすいエンジン特性にDCTのクラッチレスで走れるゆとりが加わりまるでコミューターじゃないか。
バックパックを背負って走るRebel 250のライダーと同じ気軽さ、と言ったら言葉が過ぎるが、これだけ気苦労なく走れるのもRebelらしさだろう。
開けたらスゴイんです
郊外に出たタイミングで開けた道を選んだ。力強くアクセルを開けたら、いったいどうなるのか興味があったからだ。まだ濡れた路面、風が強い高台にRebelと立っていた。アクセルを開けてスタンディングスタートをする。その加速はライダーをシートの後部に押しつけ、そしてステップに乗せているハズの足の裏から重みを消し去った。
発進と同時に地面を離れたフロントタイヤが着地する感触が伝わる。ほんの数秒のなかでRebel 1100のマジックを見た印象だ。速い。もう一度……。グイと開けたスロットルに呼応してフロントフォークが伸びる。同時にメーター内でオレンジ色のワーニングが点滅した。HSTCが後輪の空転を検出! パワーを絞りました! と伝えている。
それにしても瞬間移動のワープ感はスゴイ。ドバッとウイリーするような印象ではなく、前輪を超低空で路面すれすれに飛ばすような印象だ。
ここまで乗ってきて足周りが硬めかな、とも思った。ブラック系のコーティングが施されたフロントフォークは、作動性の良さも狙ったそうだが、この加速を体感すると、ワインディングを楽しんだり、アベレージが高い道をスイスイいくような場面で足周りの動きは再確認擦る必要がありそうだ。まだまだ実力は高い、ということ。
わずか数時間でRebel 1100の楽しさは充分に確認できた。同時に、その奥にまだまだ広い世界があることも想像できる。もっと遠くへ。もっとペースの速い道でそれを確かめるほかない。このバイクがそんな楽しみまで持ったスライリッシュでオールパーパスなバイクであるこが解った。きっと、すでにオーダーした方達はそんな意味でステキなライディングプレジャーは保証済みということだろう。それだけは確かなようだ。(試乗・文:松井 勉)
●Rebel 1100 / Rebel 1100 DCT 主要諸元
■型式:ホンダ・8BL-SC83 ■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒OHC4バルブ ■総排気量:1,082cm3 ■ボア×ストローク:92.0×81.4mm ■圧縮比:10.1■最高出力:64kw(87PS)/7,000rpm ■最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/4,750rpm ■燃料消費率:国土交通省届出値、定地燃費値31.5km/L〈60km/h、2名乗車時〉 WMTCモード値18.7km/L(クラス 3-2)〈1名乗車時〉■全長×全幅×全高:2,240×850[830]×1,115mm ■ホイールベース:1,520mm ■最低地上高:120mm ■シート高:700mm ■車両重量:223[233]kg ■燃料タンク容量:13L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン[電子式6段変速(DCT)] ■タイヤ(前・後):130/70B 18M/C 63H・180/65B 16M/C 81H ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:ガンメタルブラックメタリック、ボルドーレッドメタリック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,100,000円[1,210,000円] ※[ ] はDCT
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