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レース・イベント

●インタビュー・文:西村 章

 2021年は、ジョアン・ミル(Team SUZUKI ECSTAR)がチャンピオンとして戦う初めてのシーズンになる。本来ならば、2月上旬はマレーシアのセパンサーキットでプレシーズンテストが行われ、様々な話題があれやこれやと噴出する時期だが、あいかわらず世界各地で猛威をふるう新型コロナウイルス感染症のため、今年はこのセパンテストが中止になり、どの陣営からも開幕へ向けた具体的な動きはまだ見られない。

 そんななか、いつも先陣を切ってメディアへ話題を積極的に提供してきたスズキは、今回もZoomを利用したリモート取材という方法で選手との質疑応答機会を設定した。





リモート取材

 2月3日午後7時半(日本時間は4日の午前3時半!!)、PC画面の向こう側に登場したチャンピオンのジョアン・ミルは、年末年始に一週間ほど休んだ以外は、昨シーズン終了後からずっとトレーニングを続けていると述べた。そして意外なことに、今年のタイトル候補最右翼は自分ではない、ともいう。

「今シーズンはぼくが皆の倒すべき目標になっているけど、たぶん、自分は最有力候補ではないと思う。もちろん、最有力候補になるようにがんばるし、今年も勝つことができれば、最強ライダーの候補になれると思うけれども。だから、今年はしっかりと実力を発揮しながらレースを愉しく走り、さらに〈いいライダー〉になることを目標にしたい。ポールポジションを獲りたいし、もっと勝ちたい。それができるようになれば、本当の意味での安定感を発揮できるようになると思うんだ」

 自分自身が最強のタイトル候補ではないのであれば、では、ミルはいったい誰を最右翼と考えているのだろう。そこを訊ねる質問が出ると、
「体調が100パーセントに戻っているのであれば、マルク(・マルケス/Repsol Honda Team)だと思う」
 という言葉が返ってきた。

「彼はぼくよりもずっと経験があるし、何度もタイトルを獲ってきた。スピードもある。マルクを除けば、とくに突出したタイトル候補はいないと思う。きっと、ぼく、ということになるのかも。でも、マルクが復帰すれば、やはり彼が最強だと思う」

 2020年をまるまる棒に振ったマルケスは、Repsol Honda TeamがSNSに公開する情報やMotoGP公式サイトを経由して明らかにされるニュースなどから判断するかぎり、日々のトレーニングに余念がなく、復帰に向けた準備を着々と進めているようだ。

 2月上旬のセパンテスト中止は、開幕へ向けた助走という点でほとんどの陣営にとっては機会逸失という意味あいが強いものの、マルケスにとっては体調を本来の水準へ戻す時間の余裕ができたことになり、2月のセパンテスト中止はむしろ朗報、ということになるのかもしれない。

 だが、マルケスが万全の状態で復帰してくることは、ミルにとってもむしろ望むところかもしれない。万人が認める最強のライダーと真っ正面から勝負をして打ち負かすことで、自分こそが名実ともに新時代の王者であることを満天下に示すことができるのだから。上の質問に対する回答で「今年も勝つことができれば最強ライダーの候補になれる」と述べているのは、おそらくそういうことだろう。

#36
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 マシンを開発するスズキの技術者にとっても、それは同様であるかもしれない。2020年シーズンに、最も高い安定感を発揮していたのがGSX-RRであったことは衆目の一致するところだ。じっさいに、昨年の戦いを終えてプロジェクトリーダーの佐原伸一氏と技術監督の河内健氏に話を訊いた際にも、一年間の戦いで彼らが自信を蓄えてきた様子は、その言葉や口調の端々からも明確に感じ取ることができた。「行った年来た年MotoGP・SUZUKI篇」にもあるとおり、彼らは2021年を戦うにあたり、三冠達成、毎戦の表彰台争い、そして、最終的にSUZUKIのランキング1‐2フィニッシュという目標を掲げている。

 この目標をミルに説明し、はたしてどう思うかを彼に訊ねてみた。

 すると、「ワォ」といって小さく息をついてから、
「スズキがそういう目標を持っているのは、スーパーハッピーだよ」
 そういって、笑みを泛かべた。

「これはつまり、断固として戦う、という強い意志を彼らが考えていることの証拠だからね。2020年よりもさらに一段高いレベルのチームにしようと皆が思ってくれている、ということなので、すごくうれしいよ。周囲は強豪ばかりなので、超高水準の成績を続けてタイトルを連覇するのは非常にハードルが高いけど、強い気持ちで臨むことができれば、かならず達成できるとぼくは確信している」

 チームの結束、ということについていえば、Team SUZUKI ECSTARを現在のレベルに押し上げた功労者であるダビデ・ブリビオが突然の監督辞任表明でF1界へ去ったことは、年始の大きなサプライズニュースだった。だが、それにより生じた穴も、憂慮することではない、とミルは考えているようだ

SUZUKI

「大きな影響がないことを望みたいね。最初にその話を聞いたときはビックリしたけど、スズキの人々はレベルが高いし、佐原さんがうまくマネージしてくれているので、自分としても落ち着いている。だから、(ブリビオがいなくなったことによる悪影響は)とくに心配していないよ」

 バイクに関する質問も出た。2021年はテクニカルレギュレーションの要請により、エンジンは前年からの封印状態が継続するため、アップデートは施されない。これに関してミルは、
「去年は、異なるバイク間でもラップタイムが非常に接近していた。その状況は今シーズンも同様だと思う。(GSX-RRは)どこでもよく走ってくれたから、2021年もその方向性は変わらないと信じてるよ」
そういって、両手の人差し指と中指をクロスさせ、幸運を祈る仕草をしてみせた。

 最後に、大きな注目が集まる今シーズンのバイクナンバーだが、チャンピオンとして「1」をつけるのか、あるいは愛用してきた「36」のままでシーズンに臨むのか。これは、今月12日(金)に発表するようだ。それまで楽しみに待つといたしましょう。

#1

【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」は絶賛発売中。


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2021/02/04掲載