Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

YAMAHA MT-09 SP ABS ようこそ! MTワールドへの 入り口はコチラです
熟成が進みすっかり定番商品となったMT-09。海外では新型も発表され人気は衰えずにファンを獲得し続けている個性的なバイクである。そんなMT-09に専用サスペンションが投入された「SP」は、実は更なる走りを求めるライダーではなく、これからMTの世界を知りたいライダーにこそ薦めたい一台だった。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信 ■協力:YAMAHA https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/




MTワールドは
ちょっとオッカナイ?

 MT-09が登場した時は、深夜の都市部を黒づくめのライダーがみなMT-09に乗り、集団で走り回るというワルっぽいイメージ映像が配信された。キャッチコピーも「ダークサイド・オブ・ジャパン」。西洋からするとエキゾチックでどこか危なっかしい深夜のアジア都市、というイメージがあるのだろうか、映画の中のワンシーンのようなこの映像を覚えている人も多いだろう。このモデルの活発さや内包する狂暴さなどを表していたと思う。

 しかしそんなワルっぽいイメージとは別に、MTは「シンクロナイズド・パフォーマンス・バイク」というコンセプトを掲げており、いかに大型バイクを身近に感じ、現実的な速度域でもその楽しさを満喫できるかということを求めたマジメなバイクだったのだ。モタード車のような柔らかいサスペンションに、スリムで強烈に速い3気筒エンジンを組み合わせ、コンパクトで誰でも扱える気にさせてくれる個性的な大型バイクとしてMTが登場し世界中でヒット作となった。
 

 
 ところが、ハードな走りを好む層には大歓迎された一方で、その性格の強烈さに驚いてしまったユーザーもいたことだろう。

 ジャーナリストの中でも発売当初はその突き抜けた性格を絶賛した人も多かったが、時が経つにつれ「サスペンションのセットアップを見直した方が乗りやすい」だとか「アクセルのツキが過敏で、インジェクションのセットアップもした方が良いだろう」という意見が徐々に出始めた。プロライダーというよりはストリート重視の筆者は、実は最初からMT-09は「ちょっと怖いな」と思ったクチ。どちらかというとパラツインのMT-07の方が使いやすくて好みだったというのが本音だ。特に最初期型のMT-09は色々な設定が既存のネイキッドと違い過ぎてなかなか馴染めなかった上、スピード違反で捕まったという苦い思い出もあったのだった……。
 

 

とはいえ熟成と慣れによって
MTはスタンダードに進化する

 その後MT-09は熟成を重ね、初期型が持っていたほどの強烈な個性はちょっと影を潜めたのと同時に、ライダー側もこの乗り物に慣れてきたという部分もあるだろう。発売当初の「ちょっと怖いぐらいだな」という感情は薄れ、活発で楽しく、個性的なバイクとして、またすっかり定番化したヤマハのネイキッドシリーズ「MT」の中核を担うモデルとしての地位を固めていった。
 しかしそれでも「もう少し普通な感じで……」という意見があったのだと思う。それに応えたのが18年から投入され、今回試乗したSPモデルである。こういった高級サスペンションを装着したバリエーションモデルは、よりスポーツマインドを持った人やサーキット走行も視野に入れる人に向けたラインナップだと思いそうなものだが、実際に乗ってみるとそんな風には感じず、むしろ「普通のバイク」に回帰したような印象であった。

 通常版のMT-09との違いは、フロントにKYB製、リアにはオーリンズ製のフルアジャスタブルサスペンションが備わったこと。この他に専用グラフィックやブルーのホイールなどルックスも専用となっているが、機能的にはサスペンションの変更のみと言ってしまって間違いはない。

 同時試乗したXSR900から乗り換えると、いかにMTが特殊な乗り物なのかが跨っただけで感じられる。とにかくタンクが極端に短く、ハンドルの近さがまさにオフ車のよう。それなのにステップ位置は通常というか、一般的なネイキッド的位置にあるためものすごくバックステップに感じる。姿勢を正してスクワットしているかのようなポジションは走っているうちに慣れはするものの、XSRから乗り換えるとかなり個性的に感じ、XSRの方が「普通」として受け入れられやすいだろう。
 

 
 走り出すとエンジンの強烈さは、当然だが、XSR同様(そちらの記事を合わせてどうぞ! https://mr-bike.jp/mb/archives/18492 )。193kgの車体に116馬力のエンジンが載っていて、しかも常用域のトルクが非常に強い3気筒エンジン。車名の由来にもなっている「マスター・オブ・トルク」に偽りはなく、もうとにかく速い。

 しかしこのSPではその速さにアクセスしやすいとも気付く。MT-09の本来の意図された位置に人間が座っていることでフロントの荷重が大きく、XSRのようにすぐに前輪がフワフワ浮いてくるということもないし、サスペンションがさすがの仕事の良さで、SPではないスタンダードなMT-09で時として感じるバネ感というか、オフ車的にストロークし過ぎる感じもなく、おかげでますますアクセルが開けやすくとんでもない加速を存分に楽しめてしまう。XSRよりもコントロール下に置きやすい印象があり、だからこそXSRにはオールドスクール的な、どこかぶっきらぼうな興奮を感じるのだろう。

 MTは肘を開いてハンドルに覆いかぶさるようなポジションを半ば強要されるわけだが、こうなるとリアタイヤがかなり遠くに感じられ、その感覚は確かにオフ車、もしくはモタード的。リアがスライドやホッピングなど起こして多少暴れても、遥か後方で起きている事柄でありどこか他人事でいられることに気づき、「これがMTだよな!」などと、ステアリングステムの真上にまたがったような気持ちのまま、後方で起きている事柄を怖がらずに静観しつつ納得してしまう。これがスタンダードのMTではここまで冷静でいられなかったのだが、SPのサスペンションが提供してくれる絶対的安心感によって、本当に冷静にMTを味わえるようになったと感じるのだ。
 

 
 XSR試乗時には「こっちの方が普通で、万人向けでしょう」と思ったしその想いは今も変わらない。しかしMT-SPに乗ると、このバイクは本来この特別な経験をライダーにさせるために作りだされたバイクなんだ、と納得もしてしまい、XSRの記事でも書いたが、こちら(MT)が本来メーカーが意図したカタチ、アチラ(XSR)はやっぱり派生モデル、と改めて感じた。XSR試乗時に感じてしまったフレームの硬さのようなものをMTでは感じなかったのもその証拠だろう。ライダーがもっと前に座り、肘を開いて積極的に振り回しているとフレームの感じもシットリしていて全然気が付くところはなかったし、加えてSPでは上質なサスペンションが全てをワンランク上にしてくれ、日常域においても余裕もプラスしてくれているのだ。

 なお、今回の試乗では無限とも言えるようなセッティングの可能性を持っているサスペンションの設定は一切触っていない。まるっきり出荷時のままの状態で乗っているのに、まるで違う上質さを感じることができた。高級サスペンションはセッティング幅の広さも魅力ではあるが、そもそもの作動感が高級でありこれがもたらす恩恵は非常に大きい。だから「高級サスがついていても活かせないし」などと思うことはない。何もいじらなくてもその素晴らしさの恩恵にあやかっているのである。
 

 

強烈だけれど
ちゃんと「使える」

 非常にエキサイティングなバイクではあるものの、ストリートで楽しむことが主眼とされているだけに、各種の装備はなかなかフレンドリーだと感じる。

 特にXSRとの違いではシートがある。まずはシート高が低く、これはより多くのライダーに優しいということ。そしてライダー部とタンデム部がフラットなのも好印象だ。荷物を積むにも、タンデム時の一体感も、こういったフラットシートは有利なことが多い。また特徴的なハンドルの近さも気軽さに寄与していると思う。コンパクトなポジションは本当にオフ車のようで、これから大型バイクに乗るんだ!といったような気構えが必要ない。ただバックステップっぷりはちょっと慣れが必要だ。社外のステップで位置を逆にちょっと前に持ってきたいぐらいである。ただ、ヤマハのイメージ画像のライダーがそうしているように、積極的に走るとき以外は少し腰をひいてシートの後ろの方に座り、自分なりのしっくりくるポジションを探っても良いだろう。そういう意味でもフラットなシートは自由度が高くて良いと思う。
 

 
 その他、ストリートで使いやすいのはパワーモードで、チョイ乗りならBモードを活用してMTの獰猛さから解放されても良い。ヘルメットホルダーが標準装備されていることや、排気音が常識的でうるさくないのも好印象。発光部分が小さいため心配していたLEDのヘッドライトもビカッと明るく安心できる。都市部の生活にもフィットできそうな、実用性・汎用性をもったパッケージだと思う。

 なお、XSRにはなかったがSP含めMTシリーズはクイックシフターを標準装備する。ただこれがシフトアップのみのタイプで、またそもそもミッションの入りはとても良いエンジンのため個人的(そもそも筆者はクイックシフターという機構そのものに対してあまり肯定的ではないが)には不要に思った。
 

 

MT初心者にこそ贈りたい

 スタンダードモデルより10万円割高という設定のSP。上級仕様という立ち位置であり、一般ライダーからしてみれば「不要かな? スタンダードで十分かな?」と思うこともあるだろう。SPという名前が付くぐらいなのだから、よりハイレベルな走りを求める人向けの商品だろう、と。

 しかし試乗して思ったのはむしろ初めてMTワールドに接するライダーこそこのSPを選んでほしいということだった。スタンダードのMTももちろん良いのだが、SPの上質さや正確さ、安心感は別段ハイペースで走らずとも十分感じられるものであるし、そのおかげでMT-09の本当の楽しさにアクセスしやすいとも感じるのだ。

「ちょっと速すぎるかも」「ちょっと過激すぎるかも」そして「ちょっと怖いかも」といった、大型バイクに感じる可能性が高い感情が、SPの方ではかなり和らぐだろうし、MTのような特殊なバイクの場合これはかなり大切なことだろう。

 初めて大型バイクに乗るという人、初めてMTに乗るという人こそ、例えサスセッティングの知識などなくても、このSP仕様を薦めたい。逆に百戦錬磨ライダーならスタンダード仕様を自分仕様に煮詰めていくというのも良いかもしれない。
(試乗・文:ノア セレン)
 

ライダーの身長は185cm。(※写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます)

 

YAMAHA MT-09 SP ABS 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ■総排気量(ボア× ストローク):845cm3(78.0× 59.0mm) ■最高出力:85kw(116PS)/10,000rpm ■最大トルク:87N・m(8.9 kgf・m)/8,500 rpm ■変速機:6段リターン ■全長× 全幅× 全高:2,075 × 815 × 1,120mm ■軸距離:1,440mm ■シート高:820mm ■キャスター/トレール:25°00′/103mm ■タイヤ:前120/70ZR17M、後180/55ZR17M ■車両重量:193kg ■車体色:ブラックメタリックX ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,133,500 円

 



| XSR900 ABSの試乗インプレッション記事・ノア セレン編はコチラ |


| XSR900 ABSの試乗インプレッション記事・松井 勉編はコチラ |


| 2019年型MT-09 ABSの試乗インプレッション記事はコチラ(旧PCサイトに移動します) |


| 2018年型TRACER900 GT ABSの試乗インプレッション記事はコチラ(旧PCサイトに移動します) |


| 2015年型 MT-09 ABSの試乗インプレッション記事はコチラ(旧PCサイトに移動します) |


| 2015年型MT-09 TRACER ABSの試乗インプレッション記事はコチラ(旧PCサイトに移動します) |


| 2014年型 MT-09 ABSの試乗インプレッション記事はコチラ(旧PCサイトに移動します) |


| 2014年型 MT-09 ABSの試乗インプレッション記事はコチラ(旧PCサイトに移動します) |

| ヤマハのWEBサイトへ |





2021/02/19掲載