「羊の革をかぶった狼」系スポーツバイク
モデル紹介と試乗と、めずらしく2回に分けてお送りしますZ H2。ちなみに前回のモデル紹介はこちら< https://mr-bike.jp/mb/archives/11724 >。今回は、いよいよ試乗してのご紹介です。
このZ H2って、Ninja H2→H2 SXに続くスーパーチャージドモンスター第3弾だけに、私は前回の紹介で「さすがにスーパーチャージドも第3世代まで展開されてきただけに、このZ H2の注目度はやや低め」なんて原稿を結びました。
けれど、やっぱりそんなことなかった。このZ H2は、普通の見た目にとんでもないエンジンを積んだ、実は本物のモンスターだったんです!
前の紹介原稿でも書いたように、カワサキの誇るスーパーチャージャーシリーズNinja H2とH2 SXは、その見た目からして特別感があふれていて「ちょっと普通じゃない」オーラをびんびんにまき散らしていました。
それに対してZ H2は、Z1000風のネイキッドスタイルの、特別感少なめのスタイリング。見た目はごく普通のロードスポーツなのに中身はスーパーチャージャー、という「羊の革をかぶったオオカミ」系スポーツだったんです。
エンジンをかけると、もうそこはスーパーチャージャーワールド。アイドリングでは、パワーあふれる「普通の」並列4気筒エンジンなんだけど、ひょいとアクセルを開けるとズヒョッ!ズヒョッ!とタダゴトでない音がする。スーパーチャージャーらしいインペラの「ヒュイィン!」サウンドが聞けるのは4000rpmくらいから。この音はやっぱり、テンションあがります!
発進も、気を付けておかないとガン、と飛び出そうとするZ H2。もともとのエンジンの素性がいいのか、アクセルレスポンスが鋭くて、そーっとクラッチをつなぐようにスタート。もちろん、発進そこそこの極低回転域では普通の、とはいえたっぷりトルクのあるエンジン特性なんだけれど、いよいよサウンドが変わってくる4000rpmあたりからスーパーチャージャーの本性が顔を出し始めることになる。
ここで気がつくのは、KQS=カワサキクイックシフトの作動の確実さ。2000rpm以上のエリアで、アクセルを開け方向ならばスパスパ決まって気持ちがいい。もう、スーパースポーツじゃなくてもクイックシフトが欲しくなって当然になって来てます。
いざ4000rpm以上のあたりまで踏み入ってみると、やっぱりそこはスーパーチャージゃーの凄みを思い知らされる。普通に加速していくつもりでも、この回転域からヒョオォォォって過給がかかり出して、ほかのどのバイクでも味わえない加速が顔を出す。体が瞬間的に後ろに持っていかれるような加速は、かつて経験したような2ストロークっぽいものじゃなく、もっと重量感があるグン!というG。
このあたりはやっぱりNinja H2→H2 SXと変わらない加速ショック。それどころか、いくらか過給の効きはじめを低回転に振ってあるから、過給のかかりを体験しやすいんです。この加速は6000rpm、8000rpmあたりにも盛り上がりがあって、もうそのへんの回転域は、ドラッグレースコースでもないと楽しめないなぁ。
それでもグゥゥゥンヒョッ! グゥゥゥンヒョッ!というアクセルオンオフで走るのが楽しい。気を付けておかないと、アッという間にスピードリミットは迫ってくる。やっぱり一般道では持て余しちゃうな、これ。
それでもストリートを無理なく流すなら、パワーモードを「ロード」にすればいくらか快適になる。トップ6速2000rpmで50km/hあたりをダラダラ流すのだってできるのだ。
ここで高速道路に駆け上がってみる。ひとまずの目安に100km/hくらいまでスピードを上げてみると、100km/hはトップ6速で4200rpmくらい。このあたりでスーパーチャージャーが効き始めるので、Z H2はぐんぐんスピードを上げたがる。スピードをキープするのがなかなか難しい特性ではあるけれど、クルーズコントロールをONにすると、Z H2は苦し気にスピードをキープしようとする。最近は120km/hまでOKな高速区間もあるので、そのへんでようやくエンジン回転数は5000rpmあたり。まだまだ先があると思うと、やっぱりスーパーチャージャーの魅惑ってスゴいなぁ、と思うのだ。
ワインディングでも、この加速特性に合わせたコントロールが求められる。というのも、過給がかかり始めて加速を始めると、車体が路面を押しつけ始めて、当然のようにフロントが軽くなってくるので、フロントからギュンと曲がる、という最近のスーパースポーツのセオリーではない乗り方の方がコントロールしやすいのだ。
加減速によるピッチングは大きめで、わざとスロットルを大きめにONしてみると、やっぱりフロント荷重が抜けるような動きになる。ここはストレートで怒涛の加速を楽しみつつ、コーナリングスピードは抑えめに。コーナースピードを上げるような走り方をしたいなら、フルアジャスタブルの前後サスをもう少しアジャストすると面白い。
具体的に言うと、フロントの伸び(=リバウンド)を抑えめにする方向がいいかな、と思います。今回はサスペンションのセッティングまではしなかったけれど、フロントの伸び減衰とリアの縮み減衰をかけていって、コーナリングの姿勢が安定するところまで狙ってみたい――そこまで考えちゃう楽しさがあるのだ。
ハンドリング自体は軽めで、これはNinja H2→H2 SXとも違う、専用のトラスフレームが効いているんだと思う。それでも高速道路のクルージングではピタッと安定性があって、ワインディングでは切り返しや倒しこみが軽い! スーパーチャージャー第1弾のNinja H2では「200PSでこのトラスフレームかぁ」って思ったけれど、もちろん乗ってみた不具合なんかナシ。あれからカワサキは、想像以上にトラスフレームのよさを引き出しています。軽くて剛性バランスがあってコンパクト、しかもスーパーチャージャーの発する高熱をきちんと逃すというフレームに求められる条件をしっかり達成したってことだ。
Z H2は、カワサキだけが持つ「スーパーチャージャー」というキョーレツな武器を、決して特別すぎないモデルに持ち込む可能性を見せてくれた。おそらくカワサキは、スーパーチャージャー第4弾も考えているだろうし、次はそろそろ1000ccの並列4気筒+スーパーチャージャーではなくて、小~中間排気量でどんなパワーになるのかも試してみたい。
Ninja250+スーパーチャージャーとか、Z650+スーパーチャージャーなんて見てみたいね!
(試乗・文:中村浩史)
■KAWASAKI Z H2 主要諸元
■全長×全幅×全高:2,085×810×1,130mm、ホイールベース:1,455mm、シート高:830mm、最低地上高:140mm、車両重量:240kg、エンジン:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ、排気量:998cm3、ボア×ストローク:76.0×55.0mm、最高出力:147kW(200PS)/11,000rpm、最大トルク:137N・m(14.0kgf-m)/8,500rpm、燃料供給装置:電子制御燃料噴射、遠心式スーパーチャージャー、燃料タンク容量:19L、タイヤサイズ:前120/70ZR17M/C 75W、後190/55ZR17M/C、ブレーキ形式:前φ320mm油圧式ダブルディスク、後φ260mm油圧式シングルディスク、フレーム形式:トレリス
■希望小売価格:1,892,000円