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試乗・解説

KAWASAKI Z H2試乗 誰でも“ちょっとだけ”味わえる スーパーチャージャーの魅惑
2019年のモーターショーで
Ninja ZX-25Rとともにスポットライトを浴びていた
スーパーチャージャー第3弾のZ H2。
おぉ、スーパーチャージャーのZ版か、なんてスルーしちゃいけない
新しい魅力を感じさせてくれるネイキッド・スーパーチャージャーだったのだ。
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:松川 忍 ■協力:カワサキモータースジャパンhttps://www.kawasaki-motors.com/

 

「羊の革をかぶった狼」系スポーツバイク

 モデル紹介と試乗と、めずらしく2回に分けてお送りしますZ H2。ちなみに前回のモデル紹介はこちら< https://mr-bike.jp/mb/archives/11724 >。今回は、いよいよ試乗してのご紹介です。
 このZ H2って、Ninja H2→H2 SXに続くスーパーチャージドモンスター第3弾だけに、私は前回の紹介で「さすがにスーパーチャージドも第3世代まで展開されてきただけに、このZ H2の注目度はやや低め」なんて原稿を結びました。
 けれど、やっぱりそんなことなかった。このZ H2は、普通の見た目にとんでもないエンジンを積んだ、実は本物のモンスターだったんです!
 

 
 前の紹介原稿でも書いたように、カワサキの誇るスーパーチャージャーシリーズNinja H2とH2 SXは、その見た目からして特別感があふれていて「ちょっと普通じゃない」オーラをびんびんにまき散らしていました。
 それに対してZ H2は、Z1000風のネイキッドスタイルの、特別感少なめのスタイリング。見た目はごく普通のロードスポーツなのに中身はスーパーチャージャー、という「羊の革をかぶったオオカミ」系スポーツだったんです。
 

 
 エンジンをかけると、もうそこはスーパーチャージャーワールド。アイドリングでは、パワーあふれる「普通の」並列4気筒エンジンなんだけど、ひょいとアクセルを開けるとズヒョッ!ズヒョッ!とタダゴトでない音がする。スーパーチャージャーらしいインペラの「ヒュイィン!」サウンドが聞けるのは4000rpmくらいから。この音はやっぱり、テンションあがります!
 発進も、気を付けておかないとガン、と飛び出そうとするZ H2。もともとのエンジンの素性がいいのか、アクセルレスポンスが鋭くて、そーっとクラッチをつなぐようにスタート。もちろん、発進そこそこの極低回転域では普通の、とはいえたっぷりトルクのあるエンジン特性なんだけれど、いよいよサウンドが変わってくる4000rpmあたりからスーパーチャージャーの本性が顔を出し始めることになる。
 ここで気がつくのは、KQS=カワサキクイックシフトの作動の確実さ。2000rpm以上のエリアで、アクセルを開け方向ならばスパスパ決まって気持ちがいい。もう、スーパースポーツじゃなくてもクイックシフトが欲しくなって当然になって来てます。
 

 
 いざ4000rpm以上のあたりまで踏み入ってみると、やっぱりそこはスーパーチャージゃーの凄みを思い知らされる。普通に加速していくつもりでも、この回転域からヒョオォォォって過給がかかり出して、ほかのどのバイクでも味わえない加速が顔を出す。体が瞬間的に後ろに持っていかれるような加速は、かつて経験したような2ストロークっぽいものじゃなく、もっと重量感があるグン!というG。
 このあたりはやっぱりNinja H2→H2 SXと変わらない加速ショック。それどころか、いくらか過給の効きはじめを低回転に振ってあるから、過給のかかりを体験しやすいんです。この加速は6000rpm、8000rpmあたりにも盛り上がりがあって、もうそのへんの回転域は、ドラッグレースコースでもないと楽しめないなぁ。
 それでもグゥゥゥンヒョッ! グゥゥゥンヒョッ!というアクセルオンオフで走るのが楽しい。気を付けておかないと、アッという間にスピードリミットは迫ってくる。やっぱり一般道では持て余しちゃうな、これ。
 それでもストリートを無理なく流すなら、パワーモードを「ロード」にすればいくらか快適になる。トップ6速2000rpmで50km/hあたりをダラダラ流すのだってできるのだ。
 

 
 ここで高速道路に駆け上がってみる。ひとまずの目安に100km/hくらいまでスピードを上げてみると、100km/hはトップ6速で4200rpmくらい。このあたりでスーパーチャージャーが効き始めるので、Z H2はぐんぐんスピードを上げたがる。スピードをキープするのがなかなか難しい特性ではあるけれど、クルーズコントロールをONにすると、Z H2は苦し気にスピードをキープしようとする。最近は120km/hまでOKな高速区間もあるので、そのへんでようやくエンジン回転数は5000rpmあたり。まだまだ先があると思うと、やっぱりスーパーチャージャーの魅惑ってスゴいなぁ、と思うのだ。

 ワインディングでも、この加速特性に合わせたコントロールが求められる。というのも、過給がかかり始めて加速を始めると、車体が路面を押しつけ始めて、当然のようにフロントが軽くなってくるので、フロントからギュンと曲がる、という最近のスーパースポーツのセオリーではない乗り方の方がコントロールしやすいのだ。
 加減速によるピッチングは大きめで、わざとスロットルを大きめにONしてみると、やっぱりフロント荷重が抜けるような動きになる。ここはストレートで怒涛の加速を楽しみつつ、コーナリングスピードは抑えめに。コーナースピードを上げるような走り方をしたいなら、フルアジャスタブルの前後サスをもう少しアジャストすると面白い。
 具体的に言うと、フロントの伸び(=リバウンド)を抑えめにする方向がいいかな、と思います。今回はサスペンションのセッティングまではしなかったけれど、フロントの伸び減衰とリアの縮み減衰をかけていって、コーナリングの姿勢が安定するところまで狙ってみたい――そこまで考えちゃう楽しさがあるのだ。
 

 
 ハンドリング自体は軽めで、これはNinja H2→H2 SXとも違う、専用のトラスフレームが効いているんだと思う。それでも高速道路のクルージングではピタッと安定性があって、ワインディングでは切り返しや倒しこみが軽い! スーパーチャージャー第1弾のNinja H2では「200PSでこのトラスフレームかぁ」って思ったけれど、もちろん乗ってみた不具合なんかナシ。あれからカワサキは、想像以上にトラスフレームのよさを引き出しています。軽くて剛性バランスがあってコンパクト、しかもスーパーチャージャーの発する高熱をきちんと逃すというフレームに求められる条件をしっかり達成したってことだ。
 

 
 Z H2は、カワサキだけが持つ「スーパーチャージャー」というキョーレツな武器を、決して特別すぎないモデルに持ち込む可能性を見せてくれた。おそらくカワサキは、スーパーチャージャー第4弾も考えているだろうし、次はそろそろ1000ccの並列4気筒+スーパーチャージャーではなくて、小~中間排気量でどんなパワーになるのかも試してみたい。
 Ninja250+スーパーチャージャーとか、Z650+スーパーチャージャーなんて見てみたいね!
(試乗・文:中村浩史)
 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

φ320mmローターにブレンボ製モノブロックキャリパーをラジアルマウント。キャリパーはブレンボM4.32というモデル。鋳造アルミブロックからの削り出しワンピースで、世界最高峰の逸品。超ド級加速に絶対必要なパーツだ。フロントフォークはSHOWA製SFF-BP、本文中にあるシステムで、伸び、縮みともビッグピストンの作動性の良さが印象的だった。

 

Z H2に採用されたスーパーチャージャーは、「バランス型」と呼ばれる、ハイパワーだけを狙わず、出力と好燃費を両立する仕様。それでも最高出力は200ps。ちなみにベースエンジンを同一のままパワーを追求した「公道走行不可」モデルNinja H2Rはラムエア加圧時に最高出力326psをマーク!

 

スーパーチャージドエンジンのメリットは、もちろんビッグパワーと広いパワーバンド。4000rpmほどから過給が効き始めるのを実感でき、その伸びが10000回転を超えても続く。
いち早く新排出ガス規制EURO5に対応した排気系。排気チャンバーを廃止し、大型触媒と長い集合部を確保。サイレンサーも、Ninja H2、Ninja H2SXと違う別デザインでスッキリ。サイレンサーエンドに別体のキャップピースを装着する。

 

Ninja H2シリーズ初の両持ちスイングアームを採用。形状はNinja ZX-10Rにも似るアルミ鋳造品。タイヤはピレリディアブロロッソⅢで、ディアブロシリーズ中、ドライグリップだけでなくウェットグリップや耐摩耗性がバランスされたタイヤ。
リアサスもSHOWA。Ninja ZX-10Rなどで使用しているホリゾンタルマウントではなく、通常のボトムリンク式リアサス。プリロード調整が可能で、ホイールトラベルは134mm。ちなみにNinja ZX-10Rは114mm、H2は135mm、SXは139mm。

 

ヘッドライトハウジングを持つネイキッドスタイルは、Z900やZ650とイメージを共通にするSUGOMIデザイン。ヘッドライト上センターにあるのは「川重」(=川崎重工業)マークで、スーパーチャージドモデルにしか装着が許されていない。
ヘッドライト、テールランプ、ウィンカーすべてにLEDを採用。テールランプは、ブレーキランプを点灯させると「Z」文字が浮かび上がる仕掛け。タンデムステップガードに「カワサキの良心」荷かけフックを装備している。

 

燃料タンク内部にスーパーチャージャーの吸気経路をもつため、上面を盛り上げるスタイルとし、ガソリン容量19Lを確保。写真のタンクパッド(2959円)/ニーグリップパッド(6323円)はカワサキ純正オプション用品。
キーロックで取り外しできるタンデムシート部と、シートカウル内のレバーを使用して取り外せるライダー側シート。国内仕様はタンデムシート下にETC車載器を標準装備。ライダーシート下のはバッテリーが収まる。

 
 

左タンデムステップにヘルメットホルダーを標準装備。Z H2の純正オプションにはこのほか、DC電源ソケット(7907円)、USB電源ソケット(1万1392円)、グリップヒーター(3万1350円)などの親切装備が用意されている。
2500rpm以上で作動するKQS=カワサキクイックシフターを標準装備。クラッチレバー操作なしでシフトアップ&ダウンが可能で、スポーツライディング時だけでなく、ツーリングや街乗り時にも一度味わったら止められない快適装備だ。

 

明暗表示で白黒反転を自動表示するTFT液晶メーター。ハンドルスイッチで表示項目を切り替えでき、デジタルスピード、バーグラフタコメーター、ギアポジションと同時に、オド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費、残ガス走行可能距離やなどを表示。画面左側、写真の「N」表示の横にはブースト計やABS作動状況などを表示。メーター横に電源供給ソケットあり。

 

スマホとZ H2をBluetooth接続できる専用アプリ「RIDEOLOGY」(=ライデオロジー)を対応。スマホにオド&ツイントリップ、燃料計や燃費、最大バンク角、その日に走った走行ログ軌跡が表示されるほか、パワーモードや電子制御サス搭載車の場合、そのセッティングもスマホ上で行なうことができる。写真は地図表示とオド&トリップ、燃料計を表示中。
セミアップハンドルによる自然なポジションが取れるZ H2。やはりH2やH2SXよりも「リラックスしたポジションが取れるのにスーパーチャージャー!」感がスゴい。上位は起きたポジションで、身長175cmあれば両カカトが接地しそう。

 

各種設定が行なえる左スイッチボタン。モードボタン上でオド&ツイントリップ、最大バンク角を、下でブレーキ、ブースト、スロットル開度を表示。表示を変えて瞬間&平均燃費、残ガス走行距離、平均速度、走行時間などを表示する。

 

■KAWASAKI Z H2 主要諸元
■全長×全幅×全高:2,085×810×1,130mm、ホイールベース:1,455mm、シート高:830mm、最低地上高:140mm、車両重量:240kg、エンジン:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ、排気量:998cm3、ボア×ストローク:76.0×55.0mm、最高出力:147kW(200PS)/11,000rpm、最大トルク:137N・m(14.0kgf-m)/8,500rpm、燃料供給装置:電子制御燃料噴射、遠心式スーパーチャージャー、燃料タンク容量:19L、タイヤサイズ:前120/70ZR17M/C 75W、後190/55ZR17M/C、ブレーキ形式:前φ320mm油圧式ダブルディスク、後φ260mm油圧式シングルディスク、フレーム形式:トレリス
■希望小売価格:1,892,000円



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2020/07/06掲載