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試乗・解説

テスラのバイク版? 高級電動バイクが日本上陸 ZERO MOTOCYCLES SR/F
アメリカ・カリフォルニアが本拠となる電動バイクメーカーのZERO MOTORCYCLES(ゼロ・モーターサイクルズ)のスポーツモデル「SR/F」が日本で初登場となる。
■レポート・撮影:青山義明 ■協力:XEAM https://www.xeam.jp/zero/

 
 2006年に創業した「ゼロ・モーターサイクルズ」は、シリコンバレーから山をひとつ隔てたスコッツバレーに本拠を構える新興電動バイクメーカー。少し前までは、武骨な印象のあるダートモデルやデュアルスポーツモデルなどを展開していたが、昨年登場したこのSR/Fというモデルは既存モデルからは大きく様変わりしている。そのゼロの最新モデル(先日SR/FをベースにしたフルカウルモデルであるSR/Sが発表されたので正確に言うと最新モデルではない)が日本に導入されることになった。

日本導入までの道のりは長かった

 これを日本に入れるのは、MSソリューションズが展開する、電動バイクを専門に取り扱う福岡の「XEAM(ジーム)」だ。ただ、ゼロは以前に日本での販売トラブルがあった関係で、日本市場を敬遠しており、今回の日本導入までの道のりは長かったようだ(扱いとしては並行輸入ということになっている)。そのゼロとの懸け橋になったのが、マン島TTやパイクスピーク・インターナショナルヒルクライムへEVバイクで挑戦を続けている岸本ヨシヒロ氏である。パイクスピーク参戦の現場でレース部門の関係者と交流がスタート、以後ゼロとのレース参戦車両の開発にまで関係が強くなっており、今回のこのジームとの縁をつないだ形となった。そしてこのSR/Fの取り扱いを機にジームのアドバイザーに就いている。
 2020年3月9日にそのSR/Fの取り扱いを開始したジームが、千葉県・袖ケ浦フォレストレースウェイでメディア向けの試乗会を開催し、実際に撮影そして試乗をする機会が設けられた。

ZERO MOTORCYCLES(ゼロ・モーターサイクルズ)SR/F日本導入の懸け橋役となった岸本ヨシヒロ氏(右)と、SR/Fを扱うXEAMを展開するMSソリューションズの塩川正明社長(左)。

大型スポーツモデルに近い実に堂々とした車両

 実際に目にしたSR/Fは、残念ながら3サイズの記述が無いため具体的な寸法は不明だが、大型スポーツモデルに近い実に堂々とした車両である。外寸以外のデータで見ると、ホイールベースは1450mm、シート高は787mm、車両重量は220kgとなる。電動バイクといえば、スクーターなどの小型モデルが多いだけに、この車格を見ただけですでにワクワクは止まらない。
 ちなみにその出力は、最高出力82kW(110PS)、最大トルクは190N・m(19.37kg・m)、最高速度は200km/hとなる。
 搭載するリチウムイオンバッテリーは14.4kWhもの容量を持つ。これは4輪EVでいえば、初代日産リーフ24kWhモデルの6割ほどの容量となる。軽自動車として登場した三菱i-MiEVに近い容量である(i-MiEVは当初16kWhモデルのみで展開し、のちに廉価版のモデルが登場したがその容量はSR/Fよりも少ない10.5kWhである)。

 14.4kWhのバッテリーを収めるバッテリーボックスは鋼管トラスフレームから覗き見ることができる。以前のゼロのモデルでは武骨でそっけない黒いバッテリーボックスだったが、このモデルではフィンを備えたボックスでデザイン的にも高い仕上がりを見せる。
 そのバッテリーボックスの後ろに置かれるのが、ゼロ社製ZF75-10モーター。こちらも縦にフィンを備えたケースに収められている。このモーターからダイレクトに出力し、ベルトを介して後輪の巨大なドライブスプロケットを回すのだが、出力軸とスイングアームピボットが同じ、コアキシャル(同軸)スイングアームとなっている。海外の一部車種でも採用されているこのコアキシャルスイングアームだが、これにより常に一定のベルト張力を保つことができて、EVのレスポンスの良さをさらに強調できる。
 足周りは、フロントに43mm径のショーワ製倒立サスペンション、リアにも同じくショーワ製の別体タンク付き減衰調整式のモノショックをを搭載。ボッシュ製のスタビリティコントロールシステム(MSC)も搭載する。ブレーキは、スペインのJ-Juan(Jファン)製キャリパーを採用。そしてタイヤは、ピレリのDiablo Rosso III(フロントは120/70-17、リアは180/55-17サイズ)を履く。
 気になるその航続距離だが、1回あたりの航続距離はシティレンジ計測値で259km(ハイウェイレンジで159km)となる。充電は、3kWの車載充電器があり、4輪のBEVやPHVでも使われるJ1772という規格の普通充電プラグで充電が可能となる(つまり、国内各所で設置されているAC普通充電の使用が可能)。充電時間は4.5時間(100V電源では8.5時間)となる。

12kWタイプは1時間でほぼ満充電が可能

 今回試乗できたのはSR/Fのスタンダードモデルだが、本国では、上級モデルとしてのプレミアムモデルも選択が可能。こちらは車載充電器が6kWとなる。ゼロではさらにダミータンクスペースに追加できる6kWの充電器を設定することができ、それぞれ9kW、12kWと充電能力が大きく向上させることができる。3kWの充電器の場合、1時間に38マイル(61km)を走行できるだけの充電が可能だが、これが12kWタイプとなると1時間でほぼ満充電が可能ということになる。
 カラーラインナップはレッドとグレーの2色。その車両区分は大型自動二輪となるため、免許としては、大型二輪免許が必要となる。価格は330万円(税込)だ。

 SR/Fのシステムはゼロの「Cypher III(サイファー3)」で制御されている。走行モードは「エコ」、「ストリート」、「スポーツ」が用意され、発生トルクを抑えた「レイン」も設定される。この走行モードで面白いのは、フルパワーを発揮する「スポーツ」が回生ブレーキをほとんど取らないということだ。4輪EVでは、高出力モードを選択すると、回生も一番強くなるのが一般的だが、SR/Fではそうはならない。このあたりはゼロ社の思想に基づくものだろうが、実際にサーキット走行時などアクセルオフで強い減速が掛かるのは乗りにくさにつながるという考えからだろう。

電動バイクの良さをギュッと詰め込んだ一台

 そのあたりの確認も含め、3つのモードで実際にこの試乗会場となった袖ケ浦のコースを走行してみた。変速機を持たないので、クラッチレバーもチェンジペダルもない。アクセルを開ければそのまま走り出すわけだが、基本的にはインバータ音とともに素晴らしい加速を見せる。ポジションも違和感なく、コーナーへ向けてマシンを寝かしていっても安心感があり、バランスの良さを非常に感じる。そして狙ったラインをきれいにトレースしてくれる。走行モードをさらにサーキット走行を楽しめる「スポーツ」モードに切り替えてみる。するとアクセルのツキがさらに良く、凶暴なマシンへとひと段階上がった感じだ。さらにサーキットでの走行を堪能できるモードへと変わる。減速はアクセルオフによる自然な減速と、機械式ブレーキを自分の意志で操作でき、走りやすい。

 一方、航続距離を意識したエコモードは一般のエンジン車のような少しダルな加速、そして最高速120km/hで頭打ちとなるが、「スポーツ」と違ってしっかりと回生が効く。といっても神経質になるような回生減速ではなく、2ストロークマシンの1速落としたような滑らかな減速といった印象だ。テスラやBMWであるようなワンペダル操作(ブレーキペダルに踏み換えずにアクセルペダルのオンオフだけでクルマを操作する回生の利き方)のようで、アクセル操作だけで楽しめる。
 非常によくできた電動バイクの良さをギュッと詰め込んだ一台となっている。「今すぐにでも欲しい」というのが本音だが、税抜きで300万円というプライスタグはさすがに、厳しい。ジームの塩川正明社長は「エンジン車に負けない電動バイクをアピールする、そのイメージリーダーとして、このゼロSR/Fの取り扱いを始めました。ですので、これで大きく儲けようとして付けたプライスタグではありません」と語る。
 ただ、見方を変えればその価格の捉え方は変わってくるのかもしれない。14.4kWhの蓄電池として、自宅などでのエネルギーのバッファとして活用できるようになれば、この価格もベラボーに高い、ということにはならなくなる。ただ残念ながら現在このバイクからの放電はUSB端子経由でしかできない。どこかのタイミングで電力のV2H(ヴィークル・トゥ・ホーム)が可能になれば、趣味とエコ、そして非常時の対策として十分にその価値を発揮できるのだが…。現時点では、ゼロでそういったエネルギーストレージとしての利用を考えた開発の様子はないようだ。
(試乗・文:青山義明)
 

非常によくできた鋼管トラスフレームががっちりと14.4kWh容量のリチウムイオンバッテリーを抱え込むデザインとなる。
縦にフィンを持つモーターはベルトドライブで最高出力82kW、最大トルクは190N・mを発揮する。

 

自宅に充電設備を用意しているEVオーナーなら同じSAE J1772コネクタが使用でき自宅で充電が可能。
ダミータンク下側が充電口。充電は交流100V/200Vに対応するが、直流CHAdeMO急速充電には非対応となる。

 

タンク上部は小物入れスペースとなるが、オプション設定の車載充電器を追加する場合はこのスペースが使用される。
全灯火類LEDかと思いきや、残念ながらウインカーのバルブは通常の電球タイプとなる。

 

その充電時間は、AC200Vの充電で全くのカラの状態から満充電まで4.5時間。AC100Vでは8.5時間となる。
メータは5インチのTFT液晶パネルを中心に、インジケーターランプ類が並ぶ。走行モードによってメーターのバーは色が変わる。

 

 

■ZERO SR/F 主要諸元
 クラス:電動大型二輪
 バッテリー種類:リチウムイオン電池
 車体重量:約220kg
 バッテリー最大定格容量:14.4kwh
 最大出力:82kW(110PS)/5000rpm
 最大トルク:190N・m(19.37kgf・m)
 最大航続距離:≧259km
 ※高速道路(89km/h)の場合159km。街乗り+高速道路(89km/h)の場合198km。
 充電時間:4.5h
 ※レベル2(208V-240V)での充電時間。レベル1(110V-120V)の場合8.5H。
 最高速度:≧200km/h
 乗車定員:2名
 製造国:アメリカ
 カラー:Red/Gray
 販売予定価格:3,000,000円(税別)
2020/04/17掲載