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試乗・解説

Honda CRF1100L AFRICA TWIN    見出し 第二章は「深化論」。
世界のアドベンチャーバイクファンに愛されるアフリカツイン。多くのファンがそれぞれのツーリングや冒険旅行を楽しんでいる姿は、SNSでも多く投稿されている。同時にそこから生まれた要望や、人気セグメントであるアドベンチャーツアラーのトレンドをさらにキャッチアップすべく、CRF1100Lとしてフルモデルチェンジされた。走りに、装備に、新しく拡張された内容を一言で表現すれば「アフリカツインらしさをさらに煮詰めたような味わい」になったのだが、ファンは早速買い換える理由をいくつも見つけることになるだろう。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信 ■写真・協力:ホンダモーターサイクルジャパン(HMJ) https://www.honda.co.jp/motor/
こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/pgdA-HPaMUA

CRFアフリカツインのお復習い。

 2016年2月。アフリカツインが日本にも帰ってきた。CRF1000Lアフリカツインは、国内販売予定台数をわずかな日数で予約がそれを上回る快調な滑り出しを見せた。MT車のほか、ホンダ独自のDCTモデルが用意され、そのDCTにはオフロードでのアクセルワークに対する追従性を高めるため、クラッチをダイレクトに繋ぐG(グラベル)スイッチも装備されるなど、ほかのアドベンチャーバイクにはない特徴も光った。事実、DCTは想像以上にオフロードでの親和性が高い。
 エンジンも特徴的だ。先代XRVアフリカツインはVツインを搭載したが、CRFでは直列二気筒に270度位相クランクを入れて搭載。このエンジンは、前輪21インチ、後輪18インチのタイヤ。そして長いサスペンションストローク。オフロードをしっかり意識した車体にしながら、オン、オフを問わない高いアジリティーを両立するための重量配分の具現化や低重心の追求にも優位だった。狭角Vツインに位相クランクを入れた初代。そのモデルと同様の不等間隔爆発として、その排気音までも再現して見せた。エンジン形式というカタチではなく実を取った作り込みがホンダらしい。
 初代アフリカツインがオマージュしたパリ~ダカールレーサー、NXR750も45度という狭角Vツインでエンジン単体前後長を短くしたが、一次振動をキャンセルでき、トラクション特性に優れた90度Vツインと同様の爆発間隔を得るため、位相クランクを用いていたエピソードはおなじみ。二つの異なる要件を一つの器で実現する。それが技術なのだ。

 2017年にはマフラーなどの改良もあり、よりパンチのあるサウンドと、パワーとトルクも向上させて登場。「規制が厳しくなるから音もパワーも落ちるんでしょ」という一般論を払拭。ツインサウンドが印象的になった。
 さらに2018年には、24リットルタンクを装備し、よりサスペンションストロークの長い長距離ツアラーとしてアドベンチャースポーツが登場。また、スロットルバイワイヤーが採用され、ライディングモードが導入された。Tour、Urban、Gravel という3つのモードにUserという好みのモードにセットできるモードを加えた4モードが用意された。それぞれのモードで、HSTC(ホンダ セレクタブル トルク コントロール)やエンジンブレーキなどパラメータは好みに調整することもできる。
 2019年モデルではETC車載器がETC2.0に変更され、カラーリングなども変更を受けた。こうしてみると、2016年から2019年までもしっかりと進化をしているのが解る。
 

2つのキャラを
それぞれ強く打ち出す。

 CRF1000Lアフリカツインが登場したとき、『True Adventure』というキーワードと、オン、オフを問わない走破性と楽しさ、日常性をも高い次元でまとめたパッケージは見事だった。今作、CRF1100Lアフリカツイン、CRF1100Lアフリカツイン・アドベンチャースポーツも、その基本コンセプトを踏襲している。
 新型の開発は次の3点を軸に行われた。一つ目は軽量化。これは取り回し性能や運動性能の向上の要だ。メインフレームの形状、アルミ製として別体になったサブフレーム、スイングアームの刷新、エンジンのシリンダースリーブのアルミ化、ミッションなどを見直し達成している。
 二つ目は出力の向上。タンデムやラゲッジを積載した場合でもゆとりのある走行性能を得るためと、エモーショナルな走りの原資であるパワーの向上だ。吸気系の最適化やストロークを伸ばし、排気量を84ccアップしたエンジン、マフラー内に排気バルブを取り付けるなど排気系の刷新により得られている。
 三つ目は快適、安心を支える装備の追加だ。6.5インチTFTカラーモニターの採用、クルーズコントロールの装備、また、アドベンチャースポーツには、コーナリングライトやチューブレスホイールも新たに採用した。

 “アフリカツイン”はよりダイナミックでエキサイディングに。“アドベンチャースポーツ”は遠くに、もっと過酷な挑戦をしたい、というライダーのマインドに応えるものへしっかりとそれぞれの個性を明確化しているのだ。
 

左、中央は、アフリカツインアドベンチャースポーツES DCT、右アフリカツインDCT。

 

ひと騒動──。

 新型アフリカツインの国内でのお披露目の場として選ばれたのは東京モーターショー、ホンダブースだった。ここで、国内仕様のアフリカツインシリーズ全車がローダウン仕様となる旨が発表される。販売の現場で足着き性、シート高は思いのほかシビアだという話は多く聞く。しかし世界の未舗装路を旅できるバイク、アフリカツインにとって、そのスペックの象徴ともいえるサスペンションストロークを短縮し、ローダウンのみの販売というのがファンに声を上げさせた。スタンダードのサスペンションを装着したモデルも販売して欲しい。そんなSNSなどを通じメッセージが多方からあがり、販売を担当するHMJはわずかな時間で双方を購入できるようにする方針を打ち出した。

 これにはファンも一安心。この12月から大型AT免許の排気量制限も(ようやく)撤廃され、アフリカツインのDCTモデルが選択肢に入ってきた。ローダウンバージョン、スタンダードサスバージョン。選択肢があること。これこそ良質のユーザーサポートだと思う。

フレームは軽くタイトに。

 メインフレームは一見すると先代とよく似ているが、形状を変更して剛性バランスも見直しがされている。ステアリングヘッドからスイングアームピボットを結ぶメインチューブの幅を従来型よりも狭め、上から直線的に見えるような形状へとなったのだ。生産ラインでフレームにエンジンを搭載するために、フレームの右ロアパイプを組み立て式にしていたものを新型では一体式に。その分、エンジンハンガープレートを別体式にすることで、生産時のエンジン積載性をカバー。以前、他機種のフレームの設計者の話だが、別体式より一体式のほうが剛性バランスが取りやすいと聞いたことがある。そんなメリットもあるのだろう。

 また、従来型ではステアリングヘッドの後ろ側にクロスパイプが入っていたが、新型ではそれを省いている。開発時、テストライダー達がそのクロスパイプを取り外してみたところ、ハンドリングが理想的な方向に近づいたことを発見。その連絡を受けた設計者は肝心な部分を切り取ったことに冷静でいられるハズがなかったそうだが、とにかく乗ってみてくれと言われ、そのテスト車に試乗すると、なるほど良いフィーリングだった。そこでクロスパイプをなくした分、ステアリングヘッド下側のガセットプレートの形状や鉄板の厚みを見直すことで、理想的なハンドリングを維持したまま、オン、オフでの性能をグレードアップできたという。

 また、別体としてさらにサブフレーム取り出し部分の幅を従来型より40mm絞ることで、先代と同じシート高でもライダーが足をまっすぐに下ろせる分、足着き性は向上させている。これはポジションの要でもあるシート位置だけを下げずに足着き性向上を図れる機能となった。
 
 リアスイングアームもアーム部分をCRF450Rなどと同様にアルミチューブ製とすることで、剛性を確保しながら軽量化もはかれている。
 

 

エンジンはパワーアップと軽量化を敢行。

 CRF1000Lが登場した当時、アフリカツインのキャラクターは独自のもので、1200㏄クラスのモデルが持つ重厚でプレミアムな感覚よりも、ピュアなマルチロードツアラーとして高い存在感を持っていた。特にその良さがにじみ出るのがパニアケースなどを装着せず軽装でオフロード走行をしたとき。長いサスペンションストロークと扱いやすいエンジン特性に「これだ!」と思わず走りながら声をあげたことがある。

 しかし、パニアケースに荷物を入れて荷重が増えた状態で長い山岳路を走ったりすると、確かにパワーやトルクにゆとりが欲しくなったのも事実。ツーリングペースでシフトダウンすらサボってアクセルだけで加速をするときのゆとりのような部分が欲しいのだ。シフトダウンして回せばもちろんパワフルではあるのだが。
 
 また、それまで1200㏄あたりが上限だったライバル達が、可変バルブタイミングシステムの採用や排気量のアップで、アクセルの微少開度領域でのトルク感を上乗せしてきた時期とも重なって、アフリカツインにもモアパワーという声は世界からも要望として届いたにちがいない。

 詳細は写真キャプションでご覧いただくとして、ボアはそのまま、ストロークを6.3mm伸ばすことで、排気量を84㏄拡大。最高出力は70kW→75kWへ。最大トルクは99N.m→105N.mへと向上させた。もちろん、吸気系の諸元変更もあり、アクセルを開けた時のフィーリングが良さそうだ。エンジンパーツ軽量化もあり、先代よりもエンジン重量が軽いというのも注目点だ。

1台目は注目の電子制御サス装着車。

 テスト会場はモトスポーツランドしどき。これは2016年、アフリカツインが復活したときに選ばれたメディアテストの会場と同じだ。午前中はオフロードコース内、午後は一般道で新型を試すスケジュールだ。

 最初は注目の、アドベンチャースポーツES。ショーワが開発したEERAサスペンションを装着したモデルで、減衰圧を適宜状況に合わせ瞬時に可変させるいわばセミアクティブサスだ。
 個人的にも直近の10年で4台目のアドベンチャーバイクと暮らす今、WP製のフルアジャスタブルサスペンション装着車から乗り換えたその後の3台は、メーカーこそ違うがザックス製セミアクティブサスを装備したモデルだ。合計8万キロに渡って使ってきて、セミアクティブサスの恩恵はやはり大きいと感じている。性能面を声高に言うつもりはない。が、ライディングモードに呼応したサスペンションセッティングの変化、走る場面を問わず過度な動きを絶妙に是正し、快適な乗り心地を提供してくれるところは正直すごい。自分では気がつかないのだが、同じ道でバイクを乗り換え、コンベンショナルなサスで走ると「えー、こんなに道が悪かったの!」と驚いたことは一度や二度ではない。
 持てるテクニックを駆使しながら走る場面より、周囲の交通や景色、あるいは路面変化や雨の場面など、ほかのことに注意を向けたい場面などで乗り手を緊張させない黒子的なところがスゴイのだ。

 海外ブランドではなく、ホンダがセミアクティブを味付けしたらどうなるんだろう。これは長年待っていた、期待の瞬間が来た。

 まずは冷静にコクピットドリルならぬスイッチ類の操作法を確認する。TFTモニターは見やすい。エンジンを始動すると、先代よりスムーズでメカノイズが少なく洗練された印象がある。振動も少ないようだ。DCTモデルだったのでDにシフトしてゆっくりとアクセルを開く。アイドリングから少しだけ回転があがったところでスムーズに動き出す。このあたりもDCTの進化が感じられる。なにより、エンジン始動からDにシフトできるまでのタイムラグがすごく少ない気がする。
 その動き出しに満足してコースに出た。オフロードコースでの試乗だから一部にはアフリカツインには厳しいギャップもある。試乗しているのはローダウンモデル。ストロークも少ないからなおさらだ……。しかし、その心配をよそに想像以上にスムーズな姿勢変化でしかない。なによりカーブへのアプローチでバイクを寝かすとき安心感と一体感、そして軽快さがある。タイヤのグリップもわかりやすい。オフコース用にタイヤはOEMからコンチネンタルのTKC80に交換されているが、先代のアドベンチャースポーツに乗ったときより軽快感が立つ。アクセルを開けた瞬間のトルク感が厚く、旋回中のパワーオンにも一体感がある。とにかく軽快で楽しい。

 ブレーキング時の姿勢変化もライダーがさほど配慮しなくても前のめりにはならないピッチングの少なさだ。もっとペースを上げてみるべきか。徐々にスピードを上げてみる。ギャップで前後のタイヤとも宙に浮く。そして着地の瞬間、ガツンとくるかと思ったら、シュンとサスペンションが受け止めた。さらにペースをあげるとさすがにストロークを使い果たしてしまうが、その直前までの粘りがいい。車輪が地面から浮いたと判断するとサスペンションも着地に備えるというから、このEERAというサスペンションはできるとみた。
 

スタンダートはさらに軽快に。

 次の試乗車はDCTのスタンダードモデルのローダウン仕様だ。タンクが小ぶりに見えるのと、スクリーンが短いが、それだけでアドベンチャースポーツから乗り換えるとコンパクトに感じる。オフロードコースに向かう前から軽快なことが伝わってくる。動きが軽く一体感がある。こちらはコンベンショナルなサスペンションだが、動きもなかなかいい。ペースを上げてギャップの深いところに入るとフルストロークするが、それまでの動きは減衰圧もストロークさせ方も満足できるもの。ローダウンモデルの隠し味は、フラットな路面なら重心が低い分、安定感もあるところだ。林道ならかなり行けるのではないだろうか。
 

 
 先代はストロークが長いが、ソフトな設定でライダーが乗っただけでもサスが沈むイメージだった。その分、リバウンドストロークがタップリあるためか、その接地性の良さが時にバイクの「重たさ」として感じとれたのでは、とも思える。だからオフ車のようにアクセルをあおってテールスライドで一気に振り回したくなったのかもしれない……、などと思いながらこの試乗を終えた。DCTをDもしくはS1を選択し、シフトダウンを積極的に使い、MTモードにせずともコースを堪能できた。このあたりのマッチングは相変わらずいい。ボクがアフリカツインを買うとしたらDCT以外考えられない。クラッチ操作というMT車では避けられない操作がない多段ミッション。頭のロジックをいくつか切り替える必要はあったが、クラッチ操作をしないことがポジションを自在にし、クラッチを操作するために左手に力が入らないので、旋回性にすごく優位だと気づいてからはもうその魅力に首ったけなのだ。

 
 

そしてMTを試す。

 最後にMTモデルを試乗する。サイズ感はスタンダードのアフリカツインで変わらない。足周りの印象もエンジンの低開度からのトルクデリバリーも同様に好印象だ。トラコンが入っていながら、ジワジワとテールをスライドさせてくれる所作も新型の美点。DCT同様だ。MTモデルでさらにペースアップすると、今度はカーブの奥まで行ってしまったときや、バンクの初期に旋回する姿勢に自分が入れなかった時など、クラッチを操作しながら立ち上がることに一瞬のタイムラグが生じるのが解る(それまでDCTと同じようにしてしまうと、という比較です)。次はもっと手前から、と唱えながら走るコトになる。狭い180度ターンやジャンプとカーブが続き、湿った土で柔らかい路面が混在するコースではひと手間増えるのがMTモデルの特徴だ。アフリカツインがもっと走れるよ、と誘惑する。その誘いに乗って熱くなるとこうなります、という見本。クールに乗ればもっと楽に楽しめる。
 

 

フルサス仕様も試乗。

 試乗会ではオフロードコース限定で発売予定の標準サス仕様も用意された。アドベンチャースポーツはES仕様だった。しどきのパドックからコースに向かって走りはじめた時からサスペンションの動きに余裕があるのが解る。ペースを上げるとガツンときたところもうわっと乗り越える。それでいて無駄にストロークする感覚もなく、ローダウンで感じた低重心のバランス感もしっかり楽しめる。オフロードによく行く人にはこちらがオススメだ。グランドクリアランスにゆとりがあり、ストロークという時間を掛けて吸収性を描ける点でさらにアフリカツインが魅力的に思えた。ただ、僕自身がオフロードを楽しみたい派なので特にそう思う部分は否定しない。
 スタンダードのMTモデルの標準サス仕様ではさらにオフロードが楽しめる印象だった。サスペンションと車体のバランスがよく、挙動がマイルドにでる。恐くない。オフロードコースの周回ルートの一部がコンクリート舗装されていたのだが、そこでもパワースライドして遊べるほど。滑る瞬間、グリップが回復する瞬間でビクっと動くような挙動がない。恐くないのだ。この点だけでもアフリカツインの洗練度が上がった印象につながる。

 

一般道で驚いたEERAとの組み合わせ。

 一般道はEERA装着のアドベンチャースポーツ、ローダウンを走らせた。試乗に出てまもなく道路改修でアスファルトが剥がされ、短い区間だけ砂利道へとなる部分があった。40km/hほどでそのままのペースで進むと、このバイクがただ者では無いことがすぐに解る。タイヤがダートに入った瞬間、トレッドが砂利を踏み、それをきしませる音なのだが、シート、グリップ、ステップから感じる乗り心地は舗装路とほとんど変化がない。路面変化に合わせてサスペンションが車体の下で精密に動き、車体上側にその動きを伝えないように働いているのだ。
 ピッチングが少ないのはもちろん、ギャップで伸びたサスペンションを戻すときの速度調整が絶妙。例えば通常のサスの場合、ギャップを越えて縮んだサスペンションが伸び、そして再び沈んで元の姿勢に戻る。そのとき、少なくともライダーは跨がりながら上に持ち上げられ、それよりも早い速度で下にストンと落ち、下がり過ぎた分をそこからもう一度上に持ち上げられ通常の位置に戻る印象だ。もちろんそれが路面変化に合わせて短時間で起こるのだが、このEERAの場合、上に持ち上げられる段階から伸び側を感じさせず、戻るときも上から通常の位置にゆったりと戻される印象なのだ。つまり、路面の変化をさほど感じさせない。

 
 その道は、会場入りするとき、自分のクルマで走り短い周期でうねりがあり、意外と揺すられることを確認しているがアドベンチャースポーツESの何事もなかったような所作は驚いた。いや待て。クルマで通過したのは対向車線だ。そちらの道がより荒れているのかも。確かめるためUターンをして何度か往復したが、印象変わらず。これはビックリだ。

 さらに減速するときのこと。ストロークの長いバイクの宿命でもあり、アフリカツインでも感じたノーズダイブが少なく感じるのだ。この新型+EERAでは強めのブレーキングをしてエマージェンシーブレーキシグナルが点灯するほどの強さではもちろんノーズダイブをするが、テールの浮き上がり感がなく、とても安定して強力な減速を引き出せる。それよりも、通常の走行中、信号などで止まる時。その停止直前に、20km/hを割ったあたりから過度なピッチングを出さないよう、フロントブレーキ主体の減速からリアブレーキ主体の減速に移行しつつ停めるのだが、そこにあまり注力しなくても安定した姿勢で止まってくれる。これはとても楽に走らせられる。

 この乗り心地はライダーにとって快適性をあげるのはもちろん、パッセンジャーを乗せたとき、ラゲッジを積んだときに大いに味方するに違いない。DCTのスムーズなシフト操作も加わり、鬼に金棒だろう。

 
 余談だが、MT車を選択する人でパッセンジャーを乗せることが多い人にはオプションのクイックシフターをお勧めしたい。クラッチで駆動を断続するシフトよりも断然ピッチングが少なく、快適性が高い。ダートの滑りやすい場面でのシフトダウンも経験上リアタイヤからエンジンブレーキが途切れる時間が圧倒的に短いので滑りにくいからだ。

 惜しいのは、多くの輸入ブランドのライバルが標準装備するクイックシフターをオプション後付けにすると、アフリカツインの場合意外と高いことだ。それならいいか、とユーザーに敬遠されるぐらいなら、やっぱり最初から車両価格にまぶして標準装備してもらえたほうが嬉しい。

 見晴らしの良い高台まで登るワインディング。ここでも旋回中のサスペンションの動きや上り、下りの減速時の姿勢変化が少ないライディングはとても安心して楽しめた。少し濡れた場所もあるアスファルトをしっかり車体全体でしっかり捉えて走るような感覚。基本的なバイクの良さを味わえた。前輪21インチ、後輪18インチというオフ系サイズのタイヤを履きながらアドベンチャーバイクには欠かせないアスファルト性能も先代同様高い位置にある。

 なにより、この新型のDCTと来たら、ワインディングを気持ち良く走っている時、減速に向けてアクセルを閉じると、必要に応じてシフトダウンするのだけど、ライダーの気持ちに呼応するように気持ち良くブリッピングを入れてくれる。その入り方が前作より明確で思わず「そうそう、これこれ!」とヘルメットの中で声が出るレベル。DよりS1やS2でのほうがそれに遭遇できる確率は高いし、Dモードでも自分でシフトダウンすれば自分のタイミングでそれが手に入る。そのことを開発の人に尋ねたら「そのように味付けしました」とのことなので、是非、DCTを選択したらそのあたりも体感してみてほしい。高速道路の巡航でも乗り心地の良さと待望のクルーズコントロールが装備されたことで快適性は飛躍的に向上している。このセグメントのバイクとして深化度。それがしっかり感じられたことが嬉しかった。アフリカツイン、太鼓判である。
 
(試乗・文:松井 勉)
 

 

排気量を84㏄拡大し7%の出力向上を果たしたエンジン。吸気ポートレイアウトやインジェクターの燃料噴射角度の見直しで燃焼効率も上げている。また、ピストン、クランクなどの形状の見直しや、駆動系一次減速ギアからセラシギアを廃止するなどしてエンジン単体でMT車で2.5㎏、DCT車で2.2㎏の軽量化がなされた。写真はDCT車のエンジン。環境規制適合に合わせ2つのキャタライザーを持つことに。エンジン右、スキッドプレート内に置かれている。

 

2018年モデル比、MT車で595g、DCT車で237gそれぞれのクラッチパック単体でも軽量化がなされた。コンパクト化された様子が分かる。また、一次減速ギアからセラシギアを省くことで282g(DCT車の場合)クラッチパック側のリングギアの幅なども狭めることができ、軽量化につながっている。

 

フロントブレーキにφ310mmのディスクプレートとラジアルマウントされた4ポッドキャリパーを使う。ローダウンモデルのフロントフォークのストロークは185mmを確保。フロントフェンダーの塗り分けも含め、軽量でスポーティーになったスタンダートタイプのアフリカツインの軽快さをより主張する。

 

スイングアームはCRF450Rなどと同様の手法で作られたものを採用することで高剛性、500gの軽量化も果たしている。リアサブフレームのスリム化の影響か、足を地面に着いた状態の時、タンデムステップホルダーが膝裏を押されることがあったが、気にならなくなった。

 

リアブレーキは片押しタイプのキャリパーとφ256mmのディスクプレートを組み合わせる。オフロードモード、ユーザーモードではリアのみABSをキャンセルすることが可能。
CRF1100Lアフリカツインの燃料タンク容量は18リットル。軽快なライディングと航続距離をバランスさせたもの。赤をストレートにライダーに届けるため、赤の見える領域、その見せ方のため、白のラインの配置、黒のパートの割合などデザインにこだわったという。

 

スイッチ周りも一新。DCTのN―D-S1-S2-S3へのセレクタースイッチと、その下に待望のクルーズコントロールが装備された。丸いグレーのスイッチで起動させ、親指で上下に操作するSETスイッチで巡航速度を決める。オートクルーズ中でも、上下にタップすれば1km/hづつ設定速度を変更できる。また、アクセルのリターンスプリングの強さも見直され、手首へのストレスが低減しているのも嬉しいニュース。
左側スイッチボックスは機能が増えたことでスイッチが加算されている。正直、ぱっと乗って直感的にすぐにすべてを把握するのは難しいが、オーナーズマニュアルを読めば(つまりオーナーになれば)操作性は悪くない。上下キー、横方向キー、ENTキー、リターンキー、☆キーと、右側スイッチボックスにあるファンクションスイッチと左ボックス上側にある選択キーの関連が肝に。DCTのシフトスイッチも一新され、シフトダウンはもとより、シフトアップの操作性がさらに良くなっていた。

 

6.5インチTFTモニターを新装備。停車時であれば画面タッチで設定変更も可能になっている。また、Bluetoothでヘッドセット、iPhoneを繋げばアップルカープレイでナビゲーション表示も可能に。スマホホルダーや充電ケーブルがハンドル周りに無くても同等のことができるようになった。

 

 

TFTカラーモニターが見せる表現力。バックライトの明度は環境に合わせて変更される。TOURモード同士で見てみても、情報が充実しているのが分かる。アドベンチャーライダーにとって大切な情報でもある外気温計のフォントは、時計と同等以上にしてもらいたいところ。また、モードによって速度表示が下のLCDモニターのみの表示になり、ギアポジションがDCTの場合、DあるいはS1などだけになるのはちょっと不満。

 

スタンダードのアフリカツインは固定式のショートスクリーンを装備。アドベンチャースポーツと比較すると短いが、実際はかなり高い位置まで風をカバーしてくれるそうだ。オプションでトールスクリーンも用意される。新型アフリカツインシリーズでは、ヘッドライトのロービームは左右同時点灯になった。フロントから見ても赤成分が際立つことが解る。

 

リアキャリアを省いたテール周り。シート後ろ側までカラーパーツを伸ばし、スリムさを協調。オフロードバイク風味なディテールを取り入れ、軽快さを印象づける。
リアサブフレームはアルミ製。艶のある赤に塗られている。シートは先代に対しより一体型に見えるほど連続感がある。それでいて20mm低い位置に差し替えれば足着き向上にも一役買う。また新型ではタンデムシートもキー操作で簡単に取り外せることに。リアサブフレームの取り付け位置を前作より幅で40mm狭めたことでシート前端部の形状も細身にシェイプされている。テールセクションへと続くサイドカバー部からテールカウルへのつながりも滑らか。

 

新型アドベンチャースポーツではスタンダードモデルと共通のライザーを装備。ESバージョンでは、ショーワ製EERA(エレクトロニカリー・イクイップド・ライド・アジャストメントの頭文字。イーラと呼ばれる)セミアクティブサスを装備する。写真は車体前部左側から後方を向いてフロントフォーク部を撮ったカット。向かって右(左フロントフォーク)に減衰圧調整を司る。フォーク上部にあるのがソレノイドバルブで作動する減衰圧調整部。向かって左側(右フロントフォーク)はストロークセンサーとスプリングのみを装備。カートリッジタイプのフロントフォーク構造を活かし、フォークオイルを上部のシムの部分に送りこみ、ソレノイドバルブがそのシムどうしの幅を自在に動かすことで瞬時に適した減衰圧特性を生み出す。BMWやドゥカティが採用するザックス製のそれとは異なり、メインスイッチをオフにした状態でも通常のフォークのようにストロークをするのも特徴。シームレスな減衰圧特性を生み出すのに、ステッピングモーターではなくソレノイドバルブを使ったのが特徴。フロントフォークは、HRCのダカールマシン、CRF450RALLYにも装備されていたものと同等の構造で作動するという。ちなみに、CRF1100Lアフリカツインとアドベンチャースポーツでは、基本同じサスペンションスプリングを使用するが、前後ともプリロード設定を専用化。重量と高荷重を想定したアドベンチャースポーツには2mm多くプリドーロド掛けているという。

 

こちらはアドベンチャースポーツ用シート、そしてテールエンドにはアルミ製ラゲッジキャリアを備える。パッセンジャー用シートの座面とリアキャリアの高さを揃え、一人乗り時での積載性を高める工夫も。また、シート前端部を盛り上げ、ブレーキング時の快適性をあげている。
アドベンチャースポーツが採用する燃料タンクは24リットル。走り方次第では燃費も稼げるCRF世代のアフリカツイン。地方の郊外で消えつつある小規模なガソリンスタンドの状況を考えるとロングディスタンス性能は国内でもありがたい。重たさを感じささせないのも新型の特徴。

 

アドベンチャースポーツの特徴であるコーナリングランプ。ヘッドライト下左右に装備する補助ランプだが、日暮れの早かった晩秋の試乗会で、舗装林道のような狭い道を走るときその機能の片鱗を味わえた(上のコーナリング中の写真参照)。明確に照射エリアが解るので安心感が高く走りから緊張感が和らぐ。旋回方向直近の明るさと、ヘッドライトが照射するエリアとの明暗のバランスがもう少し整うと嬉しいと感じた。手前だけが明るく感じるのだ。また5段階に調整可能なスクリーンを新たに採用。左右のラッチを操作して高さの調整をするのだが、走行中、簡単に安全に作動させられないのは、ちょっと恐いな、と感じた。おそらくメーカーとしての安全基準なのだろうが、個人的に逆だと考える。もし高速道路を走行中に大雨になったり、泥で汚れたアスファルトで先行する大型車が巻き上げる飛沫であげていたスクリーンが汚れたら。または、水がしたたり落ちるトンネルでヘルメットのシールドを濡らしたくない時、スクリーンを早急に操作したい時もそうだ。気温、気分でも上げ下げしたいのが正直なところ。2010年に登場したドゥカティのムルティストラーダ1200も左右のネジ式ノブを緩めて上げ下げをする新型アフリカツインと五十歩百歩のものだったが、2013年には片手でつまんでスライドできる優れた仕様に変わり、現在もそれを踏襲している。電動で、なんてコストと重量がかさむことはお願いしないが、せめて片手で安全にサクッと動かせるようにしてもらいたい。それが今のアドベンチャーバイクの「普通」だからだ。

 

先代からタンク横の金属プレートなどディテールにあるアイテムを引き継ぎながら見事にイメージ一新。アフリカ大陸を模した網掛けの部分。そこに記されたアフリカツインのロゴがサハラ砂漠の砂丘の色のようにも見えるし、Aの文字がダーツのように指し示すのがセネガルの首都、ダカールのあたりだろうか、と空想まで広がるロゴマーク。初代アドベンチャースポーツが1988年にデビューした初期型アフリカツインをオマージュしたカラーリングだったのに対し、新型もそのエッセンスを上手く生かし懐かしくもあり、しかし2台を並べると配色は似ていても新しさがしっかり立っていることも解る。アドベンチャーバイクセグメントにあってアフリカツインはヘリテイジという風味が欠かせないモデルがある。それを見事に表現している。左が新型、右が初代のアドベンチャースポーツ。

 

新型のマフラーはCBR1000RRにも使われるエキゾーストバルブを採用したサイレンサーを装着する。カットモデルの下側が新型のもの。上は2018年モデル。排気バルブはサイレンサー内を直線的に抜ける写真上側のパイプの付け根に付近にあり、バルブ作動のタイミングは、低回転時はマフラー下部の細いパイプを通るように、閉じ、膨張室を通りながら、細いパイプを主体に吐き出される。上部のパイプからもバルブ直後の小穴群を通って吐き出される。これらによりパルス感を演出。高回転時はバルブが開き、メインパイプを直線的に吐き出され効率化を図るシステム。

 

リアサスはフレームのピボットプレート奥側に。ESモデルには走行状況や選択されたライディングモードに合わせソレノイドバルブで減衰圧を適宜調整するセミアクティブサスが装備される。それ以外のモデルにはフルアジャスタブルのリアショックを装備。セミアクティブサス・EERAでは、リアサスもサブタンク付近に置かれたソレノイドとバルブシムが備わる部分で減衰を発生させている。リアサスユニットにホースで連結しているのは、電動イニシャルプリロードアジャスター。荷重設定をライダー一人、一人乗り+荷物、二人乗り、二人乗り+荷物から選択ができるほか、24段階に設定可能なユーザーモードも用意されている。

 

ライダーの身長は183cm。横向きの写真はノーマルシート高の足着き性(写真の上でクリックするとハイシート時の状態が見られます)。

 

 

 
■CRF1100L Africa Twin 主要諸元

全長×全幅×全高:2,310×960×1,355mm、ホールベース:1,560mm、最低地上高:210mm、シート高:830mm、車両重量:226kg、燃料消費率32.0km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、21.3km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)、エンジン:水冷4ストローク直列2気筒SOHC(ユニカム)4バルブ、総排気量:1,082cm3、最高出力75kW(102PS)/7,500rpm、105N・m(10.7kgf・m)/6,250rpm、燃料タンク容量:18L、タイヤサイズ:前90/90-21M/C 54H、後150/70R18M/C 70H。メーカー希望小売価格:1,617,000円~。
 



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2019/12/12掲載