
アジアタレントカップ(Idemitsu Asia Talent Cup)は、MotoGPへと直結する育成専用カテゴリーとして、ドルナ(MotoGP運営)/ホンダ/出光興産の3社によって共同運営されているワンメイク選手権である。使用マシンはHonda NSF250Rで、10代前半から半ばの若手ライダーが参戦する。
この選手権が創設される以前、日本の若手ライダーは地方選手権から全日本選手権へとステップアップし、名門チームに所属して技術を磨き、やがてメーカー契約ライダーとして世界へと羽ばたいていくのが王道だった。しかしメーカー系チームの縮小・撤退が相次ぎ、その道筋を描くことは年々困難となっていった。2014年に始まったこのアジアタレントカップは、そうした状況の中で新たな希望の場として注目を集めるようになる。
このシリーズでチャンピオン、あるいは上位成績を収めたライダーは、レッドブル・ルーキーズカップへ進み、選ばれた者はMoto3参戦へと続く可能性を持つ。
2014年の初代チャンピオンは鳥羽海斗、2015年は佐々木歩夢。小椋藍はタイトルこそ逃したものの、チームアジアの一員として世界選手権へと進出した。また、2021年全戦全勝で王座に輝いた古里太陽はMoto3へと進み、今季からMoto2に挑戦する。2024年チャンピオンの三谷然もMoto3へとステップアップした。
さらに、アジアタレントカップ出身者ではソムキャット・チャントラ、小椋藍がMoto3、Moto2を経てMotoGP参戦を果たしており、このカテゴリーが世界への登竜門として確固たる役割を担っていることを示している。
日本人ライダーがこのシリーズに参戦するためには、各国合同で行われるセレクションを突破するか、全日本選手権の特別枠で最上位となりスカラシップを獲得する必要がある。アジア各国から有望な若手が集うセレクションは年々競争が激化し、狭き門となっている。
2025年シーズンは全6戦12レースが行われ、日本からは#16荻原羚大、#14池上聖竜、#2松山遥希、#21飯高新吾の精鋭が参戦した。世界を目指す若者たちの熱戦が繰り広げられた。
開幕戦タイ大会では荻原がダブルウインを達成し、池上が2戦連続2位。松山も3位に入り表彰台に立った。第2戦カタールでも荻原が池上を逆転して連勝を飾り、池上が2位。飯高も表彰台に上がり、日本勢の存在感を示した。
第3戦セパンでは荻原と池上による白熱したトップ争いが展開され、0.041秒差で荻原が勝利。池上が2位、3位に飯高が入り、日本人ライダーが表彰台を独占した。
日本大会となった第4戦はモビリティリゾートもてぎで開催された。タイトル争いを続ける荻原と池上が激突し、レース1は荻原が0.015秒差で勝利、池上が2位。レース2では序盤から2人が抜け出したものの、5台による接戦となった。荻原が池上を振り切り8戦連続優勝を達成。2位池上、3位飯高とここでも日本人が表彰台を独占した。

荻原は「セレクションを受けたのは2022年で、今年が3年目。1年目がランキング3位、2年目が2位。今年(2025年)は1位しか考えていません。予選のタイムの出し方や決勝での展開にもこだわって、自分をアッピールできるように全勝を目指す」と語った。先輩の小椋のトレーニングに同行参加することもあり、「何に乗っても速いライダーになれ」という助言を受けているという。その言葉通りに昨季は全日本ST600に代役参戦し、アジアロードレース選手権AP250ではワイルドカードながら上位争いを演じていた。目標は「尊敬する小椋を超えること」だ。

第5戦マンダリカでは、レース1でタイトルを争う荻原と池上が最終コーナーで接触。アルフォンシ・ダキューガンが初優勝を挙げ、ポールスタートの松山が2位、飯高が3位となった。レース2ではダキューガン、池上、荻原に加え、飯高、ノプルットポン・ブンプラウェらがトップ争いを展開。荻原は3度のロングラップペナルティを受け、6位でフィニッシュ。勝利はダキューガン、2位池上、3位松山となった。
最終戦の第6戦セパンでは、レース1で池上が待望の初優勝を挙げ、2位に入った荻原が年間チャンピオンを確定。レース2は荻原とフレミングによる一騎打ちとなり、0.013秒差でフレミングが逆転勝利。荻原は2位、松山が3位に入った。
荻原は「全戦全勝はできなかったが、チャンピオンになれたことは素直にうれしい」と喜びを語った。荻原とダキューガンは、2026年にレッドブルMotoGPルーキーズカップへ参戦することが決定した。
すでに次年度のセレクションも実施され、オーストラリア、中国、インドネシア、日本、マレーシア、タイなど18カ国から83名が参加した。日本からは松山遥希が続投となり、新たに知識隼和、国立和玖、富樫虎太郎がエントリーリストに名を連ねた。いずれもMiniGP出身で、MotoGPへと続く育成のステップを着実に歩んでいる。
荻原がルーキーズカップへと駒を進め、次代を担う若手がアジアタレントカップ参戦する。アジアから世界へ──ライダー育成の道が続く。
2026年カレンダーはMotoGPと並行して5ラウンド開催予定。テストは2月9日~10日にセパンで行われ、開幕戦は2月27日~3月1日にタイで行われる。

(文:佐藤洋美、写真:赤松 孝)









