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2025年のヤマハYZR-M1は22戦44レースを消化して、2チーム4台が参戦。表彰台に3回登壇し、ライダーランキングはファビオ・クアルタラロの9位が最高だった。一度も表彰台に上がることなくシーズンを終えた2024年シーズンより上向いたとは言えヤマハMotoGPはいまだ霧の中にいる。ただし、霧の先に少しだけ明るい光が見え始めたシーズンだった。
■文:中村浩史 ■写真提供:ヤマハ発動機

 ヤマハMotoGPヒストリーの中で、一番の惨敗を喫したシーズンといえば2024年だ。2023年から2年連続で未勝利だったのに加え、スプリント/フルレースを合わせた20戦40レースで一度も表彰台に上がることができず、最高位はクアルタラロの5位(スペイン&マレーシアグランプリ)、予選最高位は、これもクアルタラロの6位(インドネシア&タイグランプリ)。かつては“最強マシン”の称号をほしいままにしたYZR-M1とヤマハMotoGPチームは、とうとうどん底まで落ちてしまった、と当時のMotoGPグループリーダーが語っていたのを思い出す。

 そして2025年。ヤマハは1チームのみだった参戦が2チームとなり、参戦台数も2台から4台へ。そして第5戦スペイングランプリで、ようやくクアルタラロが2位を獲得し、2023年のインドネシアグランプリ以来、実に30戦ぶりに表彰台にたどり着いた。予選順位も大きく改善し、クアルタラロが3戦連続を含む5度のポールポジションを獲得し、2024年には一度もなかったフロントロースタートも10レースを数えた。成績的には大きく向上、再び上昇の兆しが見えたシーズンだったと言っていいだろう。

#YZR-M1
左のゼッケン7が26年モデルのV4エンジン車プロトタイプ、右のゼッケン20が2025年モデルのファビオ・クアルタラロ車。取材にお答えいただいたスタッフは、左からプラマックチームの担当エンジニア高木精一さん、YZR-M1プロジェクトリーダーの増田和宏さん、モンスターチームの担当エンジニア石井朗さん。

「2025年のYZR-M1は、エンジン、車体、電子制御、それにエアロダイナミクスも大きく改善して、2024年シーズ後半戦で掴んだ手応えを前進させることができました。パフォーマンスは明らかにジャンプアップできて、順位も向上させることができましたが、我々が進化したのと同様に、やはりライバルメーカーも進化していて、上位陣との差を大きく詰めるまでには至らなかったというのが正直な感想です」というのは、ヤマハMotoGPグループのプロジェクトリーダーを務める、増田和宏さん。
 2025年モデル開発のテーマは、やはりこの数年のヤマハの課題でもある最高速とリアグリップの向上。主にこのふたつでそれぞれ改善を試みたのだという。
 言うまでもなく、最高速の向上はマシン設計すべての箇所に及んでいる。エンジンの出力はもちろん、最高速を出しやすい車体設計もエアロダイナミクスも、最高速に至るひとつ前のコーナリング脱出速度も、そのコーナー旋回速度も、そのコーナーと次のコーナーへのブレーキングの深さも、すべで“最高速”につながっているのだ。

「本当にレースはすべての要素のバランスだというのをあらためて痛感したシーズンでした。さらにマシンのパフォーマンスだけでなく、その日のライダーの体調、メンタル、調子、コースの習熟度や、その日の天候、コースコンディションすべての複合要素がレース結果になって表れる。そこが上手くかみ合わなかった1年でもありました」(プラマックレーシング担当エンジニア・高木精一さん)

 エンジン、車体、電子制御、エアロダイナミクスといった開発要件にマジックはない。地道にコツコツと性能向上を目指し続けるのだが、2025年モデルは、シーズン中にエンジンスペックを複数回アップデート。
 車体に関しては、ベースとなるメインフレームを、毎レースのようにアジャストし続けた。
「車体に関しては、この数シーズンの傾向として、ライバルメーカーも合わせて、ガチガチの高剛性フレームというよりは、しなやかさを求めた方向にシフトしていると思います。ヤマハも、かつてない方向性の特性を持つフレームを投入して、アジャストパーツを追加することで剛性をコントロールしていました。この狙いは大きく外れることなく効果を出せたと思います」(増田さん)

#YZR-M1
#YZR-M1

 シーズンを通して、2024年までと大きく変わったと筆者が感じたことがある。それは、クアルタラロに限らず、チームメイトであるアレックス・リンスも、プラマックチームのジャック・ミラー&ミゲル・オリベイラも、うまくタイヤマネジメントをして成績を上げたレースが多かったことだ。
 レースで成績を上げるには『ソフト目のタイヤを最後まで持たせる』か、『ハード目のタイヤを最初からグリップさせる』ことが大きなカギなのはずっと変わらないことだが、2025年シーズンのヤマハは、特にクアルタラロが『ソフト目のタイヤを最後まで持たせる』レースができたということなのではないか。この点に関しては、増田さんも2025年シーズンの変化のひとつとして認めてくれた。
「もともとファビオはタイヤマネジメントがうまく、それがハマったレースは多かったと思いますね。スプリントとレースで大きく成績が変わってしまうこともありましたが、それはライダーのスキルはもちろん、選択したタイヤに適した制御でマネジメントできたという結果でもあります」(増田さん)
「ファビオは、状況やコンディションに合わせたタイヤマネジメントが上手いです。対してリンスは、自分が理想とするブレーキングができたときに調子がよく、そうでないときには大きく順位を下げてしまう。インドネシアグランプリでは予選4位スタートでレースでもトップグループを走ってくれましたが、あのレースに限ってマシンやセッティングを大きく変えたなんてことはなかったんです。本当にちょっとしたきっかけでパフォーマンスを発揮できるライダーであり、マシンのバランスなのだったと思います」(ファクトリー担当エンジニア・石井朗さん)

 そして2025年シーズンは、4人のライダーに対して継続的なバックアップとアップデートを図った年でもあった。従来の2チーム制ならば、どちらかがファクトリー=メインチームで、もう片方のプライベート=サテライトチームという位置づけだったが、2025年はその定義も撤廃し、4人4台を平等に扱ったのだという。
 新しいパーツが出来たら、従来ならば4台分+スペアパーツの分が完成するまで投入を待っていたものを、パーツが出来上がったら順に投入。4人全員の分のパーツが揃わないときは、ランキング上位者から順に供給していったのだという。
「今はそれくらいのスピードでマシンを開発していかなければ戦えるマシンでいられません。もちろん、安全をきちんと担保したうえでの新パーツ投入ですが、4人のライダーのうち常にファビオが上位にはいましたが、ファクトリーチームのリンスよりも先にプラマックチームのミラーに新しいパーツが渡ったということもありました。伝統的に、ヤマハのグランプリマシンは黒フレーム+黒スイングアームなのですが、今年は表面処理の時間を短縮してアルミフレーム地肌のまま参戦したこともありました。4人で戦う、つまり開発しながら8台分のパーツを準備するという作業は確かに大変でしたが、同時に別のプロジェクトも並行して動かしていましたので、さらに厳しいシーズンでした」(増田さん)

#YZR-M1
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ついに走り出した新V型4気筒エンジン

 増田さんが言う『もうひとつのプロジェクト』とは、従来の並列4気筒エンジン車と、まったく新しいV4エンジンを搭載したマシンを同時進行で開発していたこと。2024年のシーズンインあたりから存在を噂されていた、ヤマハの新世代MotoGPマシンが、ついに実走テストを開始したのだ。
 V4マシンが動き始めたことは、すでに2024年の終わりごろにはヤマハも認めることとなったが、昨年のこの時期のインタビューでは『V4エンジンの開発スタートは事実ですが、まだ走り出すまでは時間がかかる』と増田さんが言っていたもの。もちろん、当時から公開できないことも多く、増田さんが言うよりも開発は進んでいたのだろうが、2025年シーズンインごろにはもう実走をはじめ、2025年シーズン中に世界初公開。アンドレア・ドビツィオーゾ、中須賀克行がテストを重ね、MotoGP公式テストにも参加したほか、第16戦サンマリノグランプリでは、ついにテストライダーのアウグスト・フェルナンデスの手によってワイルドカードデビューを果たした。

「V4エンジン車の開発スタートは、なにも従来の並列4気筒エンジンに見切りをつけたという意味ではありません。2002年から実戦投入している並列4気筒エンジンは、長い時間をかけて熟成を重ねてきたし、まだまだ完成しつくしたとは思っていません。けれど、V4エンジンの開発をスタートしてみて、並列4気筒エンジンと比べての優劣ではなく、将来性や伸びしろという部分で、並列4気筒エンジンにないものを感じられたのは事実です。それはエンジン単体のパフォーマンスだけではなく、車体に搭載して全体のパッケージングに関することのほうが多くて、V4エンジンにスイッチするというよりは、V4エンジン搭載車にスイッチする、という意識が強いですね。4ストロークV4エンジンについては、まだまだ勉強中、が正直なところです」(増田さん)

#YZR-M1
左がV4エンジン車プロトタイプ、右が25年モデルのYZR-M1。外観から見比べてみると、やはり車体・メインフレーム全幅がV4車の方がスリムなのを確認できた。

 事実、この並列4気筒エンジンからV4エンジンの切り替えについては、たくさんの質問をしたものの、4ストロークV4エンジン一年生のヤマハとして『まだまだ勉強中なので答えは出せません』の繰り返しだった。理論上のV4エンジンのメリットとデメリット、並列4気筒エンジンのメリットとデメリットはもちろんあるが、それを実証実験で確認している、というスタンスなのだろう。
 それでも、2025年も従来のYZR-M1の開発を続けながら、同時進行でV型4気筒のMotoGPエンジンを新規開発していた大変さは、想像を絶するほどハードなものだったのは想像に難くない。並列4気筒エンジンのYZR-M1の戦闘力を上げるべくシーズン中のアップデートも進めながら、V4エンジンへのスイッチを正式に決定したのは、2025年の夏頃だったのだという。
 もちろん、2026年からの新エンジン投入は、2027年からのMotoGP新レギュレーション=新排気量850ccを睨んでのものなのは間違いない。新ルールの初年度に新規エンジンを投入するよりも、1年前倒しで投入し、開発を進めるほうが混乱が少なく、戦闘力を発揮しやすいという意味だろう。

「もちろん、2027年からの新ルールに対応するために2026年から新規エンジンを投入するという考えはあります。ただ、私たちは2025年から26年への移行=並列4気筒エンジンからV4エンジンへのスイッチと、2026年から27年への移行=1000ccから850ccへの排気量変更が、全く別のものだとは考えていないんです。すべてゼロからの新規開発を2回続けるのではなくて、並列4気筒エンジンで培った技術をV4エンジンにも使用しているし、1000ccのV4エンジンで進めた開発技術は、850ccのV4エンジンにもつながります」(増田さん)

#YZR-M1
#YZR-M1

 仮にV4エンジンの新マシン名称をYZR-M1Vとすると、いまだ開発中のYZR-M1Vに対するライダーの評価はまだまだ芳しくない。走り始めたばかりの新規エンジン車だから当たり前のことだが、それでもYZR-M1Vのポテンシャルと将来性を感じて、開発テストは続いている。
「ここまで何度か行なったテストでは、まだまだ私たちが想定したスぺックのエンジンに到達していないし、アウグストのV4エンジン車でのワイルドカード参戦も、実はフルパワーではなく、パワーセーブした状態でのレースでした。シーズン終了後のテストで、ようやく何度かフルパワーエンジンの評価をしてもらいましたが、それでもその時点でのフルパワーなだけで、想定したスペックの新規V4エンジン車が完成するのは2026年の開幕戦だと思っています」(増田さん)

 苦戦続くシーズンの最終章、そして新規エンジンの投入初年度ということで、2026年の成績は評価外とするのか、という質問に、増田さんは力強く反論した。
「新規エンジンの一年目だからしょうがない、という言葉は使いたくないです。先ほども言ったように、V4エンジン車の初年度ではなく、2026年シーズンは、2002年からスタートしたヤマハMotoGPの25年目です。2026年の目標は、変わらず勝つこと、優勝することです。決して実現不可能な夢物語ではないと思っています」
(文:中村浩史、写真提供:ヤマハ発動機)

#YZR-M1
オーリンズ製カーボンフォーク、ブレンボ製カーボンディスク+アルミ削りだしGP4キャリパー。ディスクは320/340/355mmが用意され、コースによって選択する。
#YZR-M1
ウィングレットだけでなく、この数シーズンはカウルボディもエアロダイナミクスを徹底研究される。メインボディは2層レイヤー構造でアンダーカウル部にもブリスターを持つ。

#YZR-M1
ヤマハGPマシン伝統の黒フレーム+黒スイングアームだが、2025年は表面処理の時間も惜しんでアルミ地のまま走行することも多かった。スイングアームピボット部に追加されたボルト類が、フレーム剛性のアジャスト部品をつけ外ししていた箇所だ。
#YZR-M1
ウィングレットを含むエアロパーツは、シーズン中2度のアップデートが認められ、実行。ウィングレットも2024年モデルに似ているものの、ウィング外端の形状が違っている。

#YZR-M1
車体全体で、方向によっては剛性を落とす方向だったという2025年モデル。トップブリッジの肉抜き形状も大きく、フォーク締結剛性も高すぎていないことがわかる。
#YZR-M1
フィンの形状や本数、左右連結の有無など、試行錯誤の末に決定したシートカウルフィン。テールエンドの形状も変更され、エンド部分にデータ収集用のポートが見える。


2026/01/23掲載