排出ガス規制により販売を終了してから17年。DR-Z400S / DR-Z400SMがDR-Z4S / DR-Z4SMとなって還ってきた。2025年春のモーターサイクルショーでは人垣の中に埋もれるほど注目された2台がついに販売を開始、プレスにテストの機会が与えられた。つくるまサーキット那須にて行われたテストでその第一印象をお伝えしたい。まずはDR-Z4S / DR-Z4SMの詳細をお伝えしよ
- ■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信
- ■写真提供:SUZUKI ■協力:SUZUKI https://www1.suzuki.co.jp/motor/
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI https://store.56-design.com/collections/spidi、Xpd https://store.56-design.com/collections/xpd
四半世紀前
DR-Z400Sが登場したのは2000年のこと。1992年からスズキのデュアルパーパスモデルのスポーツ性番長としてクラス最強の一台でもあったRMX250Sが担ったスポーティネスを引き継ぐようなイメージが印象的なモデルだった。当時、モトクロッサーやエンデューロマシンのパワーユニットが2ストロークから4ストストロークエンジンへと環境規制の流れもあり、「トレールバイクも400㏄4ストロークへとなったか」と感慨深かった。乗ればもちろん250クラスとは比較にならないパワーとトルク、それでいてツーリングでも扱いやすい4ストロークのうま味がぎゅっと詰まったバイクだったのをよく覚えている。
そんな環境規制から進化したバイクもその波に洗われることになる。2008年の春の新作が最終型となり国内では販売を休止。その後は海外への輸出モデルとして活躍したが、2024年にUSモデルも販売を休止していた。
スズキの開発者の解説によれば長年の販売期間で醸成されたファンや販売店からの要望もありDR-Z400シリーズを現在のユーロ5規正に適合させ再び送り出す決断をしたのだという。
先代をベースにしながら新作と言える造り込みがなされた理由とは
開発車のベースとなったのはDR-Z400Sのエンジン、と前置きしながら、新たな規制に合わせるため、あるいは改善を施した部分を黄色に色分けしたエンジンの下のイラストを見てみよう。変更していないボア×ストロークのためクランクシャフトやコンロッド、シリンダー、カムカバーなどのほか、点検穴用プラグや一部のギア、シャフト、ボルト類に限られていることが解る。
エンジンの主要変更部分を列記すれば、バルブタイミングを最適化するためのカムシャフト、軽量化することで性能維持を図ったチタン製インテークバルブやナトリウム封入エキゾーストバルブ、バルブスプリングもそれに合わせて最適化のため変更されている。シリンダーヘッド形状も、燃焼安定性、性能向上などのために変更されφ90mmあるピストン面に確実、最適、素早く燃焼させるため点火プラグは1本から2本に増やされた。排出ガスの低減や燃費性能向上、そして右手に対するリニアな特性造りにも貢献しているという。
同時にピストンのコーティング技術でメカニカルロスを低減。クランクケース側でもポンイングロス低減とオイル攪拌抵抗の低減も徹底された。厳しい環境規制で減じるパワーとトルクをこうした草の根作戦でゲインする手法を徹底した。環境規制で限られた混合気での燃焼から最大限のパワー/トルクを取り出すため、エンジン全体でフリクションロスを減らすことなどが課題となったという。これは8000回転時で従来比17%低減させ、全体では20%も低減させたというからベースがあってももはや別物の新型エンジンとして良いレベルだ。
その他、操作力をアシストする機能も持たせたクラッチパックはスリッパークラッチ機構を投入。ミッションは5速のまま踏襲された。これは6速化によるメリットと、ミッション幅増加によるケース幅増がもたらす重量増加や、電子制御化により必須搭載部品の増加をまかなうスペースなどもあり、スリムでコントロールしやすい上質なライディングポジションを作るという部分とも相反する部分だから、と技術者は明解に説明する。
実際、必須になる電子制御関連の部品を内部にどう納めるのか。そうとう腐心してレイアウトしたことが語られた。発電系ではインジェクション化により必要になる燃料ポンプの駆動やECMの作動の確実性も含め発電効率もみなおされている。
さらに吸排気系に目をやっても、シートフレームに収納されるエアクリーナーボックスもドライバビリティを向上させるため、吸気取り入れ口を最適化。ユーロ5規格のパスには欠かせない燃焼室から吐き出された直後にエキゾーストパイプ内に必要となるキャタライザーやマフラー内にある2個目のキャタライザー。それらを含む吸排気レイアウトのベストチューニングなど課題は山積だったに違いない。
バイワイヤーながらあえてワイヤーケーブルを残し、
右手の手引き荷重で自然さそのままに
スペース効率の観点からいえば、ワイヤーケーブルをスロットルグリップに繋ぎ、ワイドなハンドルバーを左右に切る作動角でも問題無いような作動性を確保するにはケーブルを通すスペースが必要だ。スリムでコンパクトな車体を目指せば電気信号を送る細身の配線だけで済むバイワイヤー式のほうが設計上はラクだったはず。あえて人の感性を重視したところにDR-Zが400クラスという枠を越えたスポーツモデルとして重視していることがうかがえる。こうした部分も含め生産現場との調整の細かく行われたという。
このシステムなどと連携するトラクションコントロールシステムも、どのように介入ストーリーを描くのかもリソースを使って作り込んだという。有り体に言えばダートを走っても「切りたくなる邪魔なもの」ではないところまで作り込んだというから興味深い。
車体だって新作
フレーム形状はセミダブルクレードルを採用する。この形状呼称そのものはDR-Z400S/400SMから変化がないが、メインフレームの形状はDR-Z4S/4SMで新作となっている。大きな違いはタンクレールの部をシングルビームからツインスパー形状になった。
リアサブフレームはアルミ製で、これは先代同様。もちろん新作されたメインフレームとの剛性バランスを確保するのにデザインはまったく異なるものとなっている。スリムな車体外観を維持しながらABSのポンプと前後のブレーキキャリパーを結ぶオイルラインの配置、インジェクション化やスロットルバイワイアー化による電子制御部品、当然、燃料タンクにも燃料ポンプを搭載する必要があり、先代とは大きく異なる。そうしたパーツをパズルのように配置したと設計者達は話すが、実際にABSポンプを配置するために左側のラジエターは右側よりも天地を低くし、その上にABS周りがひっそりと載っている。マスの集中化という運動性がウリとなるDR-Z4では欠かせないレイアウトだったのだろう。
リアシート左後方にある筒はガソリンのキャニスターであり、こうしたパーツも現在の環境規制には欠かせないものなのだ。
足周りにも拘る
DR-Z4S / 4SMのサスペンションはKYB製。ともに倒立フォークを採用した。先代では400Sが正立フォーク、SMモデルが倒立フォークだった。
そもそも4Sはフロント80/100-21インチ、リア120/80-18インチを採用、ともにバイアスタイヤーでオフロードを得意とするデュアルパーパスモデル、DR-Z4SMはスーパーモトスタイルでオンロード重視のフロント120/70R17、リア140/70R17の前後ラジアルタイヤを装着したモデルだ。
両車のサスペンションストローク/リアトラベル量をみると
●DR-Z4S
フロントストローク/280mm、リアホイールトラベル/296mm
●DR-Z4SM
フロントストローク/260mm、リアホイールトラベル/277mm
であり、それぞれの走行シーンに合わせたチューニングが成されるの。フロントフォークブラケットを共用する2台だが、その剛性バランスのチューニングとしてアウターチューブ上部の形状を専用化して合わせ込みをしている。ホイール径に合わせたトレール量の最適化もアクスルホルダーをS、SMモデルで専用化しているのは言うまでもない。
フロントフォークは伸び側、圧側減衰圧の調整が可能。リアは伸び側、圧側減衰圧調整に加え、スプリングプリロード調整も可能にしたフルアジャスタブルを採用する。
ブレーキはDR-Z4Sがフロントディスクプレートにφ270mm+片押し2ピストンキャリパー、リアはディスクプレートがφ240mm+1ピストンキャリパーの組合せ。DR-Z4SMは同じくフロントにφ310mm+2ピストンキャリパー、リアはφ240mm+1ピストンキャリパーを組み合わせる。ディスクプレートはS/SMでそれぞれ専用パーツとなる。またSMではインナーローターとディスクプレートを繋げるフローティングピンが従来モデルの6個から8個に変更されている。
タイヤ&ホイールはDR-Z4S、DR-Z4SMともスポークホイールを採用。4Sは車体色がチャンピオンイエロー、ソリッドアイアングレーともにブラックリム。4SMではスカイグレーがブラック、ソリッドスペシャルホワイト№2ではブルーのリムとなる。装着タイヤは4SがIRC GP−410。4SMはダンロップ製SPORTMAX Q5Aを採用。専用に設計された内部構造とプロファイルによりチューニングされている。
ABSユニットは小型で軽量なBosch製を採用。オフロード走行でも意のままにブレーキコントロールできるようリアABSカットが可能。このモードを使用するとフロントのABS制御もよりオフロードよりのマップとなる。4Sではさらに前後ともABSをカットするモードも装備されている。
シート高はDR-Z4S、DR-Z4SMとも890mm。シートの肉厚は4SMのほうが30mm肉厚のフォームを採用。4Sでは座面を低く広くしたシートとなる。
左右のハンドルスイッチは最新のスズキスポーツモデルと同様、多機能ながらシンプルなものに。左スイッチボックスにはウインカー、ホーン、パッシングに加え、モード切替ボタン、選択キーが備わる。このモード切替でスズキドライブモードセレクターを選択すればA、B、Cの3つのモードを切り替えられる。またトラクションコントロールを選択すれば、1、2、Gモード、オフの4つから走る状況、ライダーの好みに合わせて設定が可能。右はハザード、そしてエンジンスタータースイッチとエンジン切るスイッチが一体になったものを採用する。
ドライブモードセレクター/トラクションコントロールはどうだろう。モードA、モードB、モードCが描く出力イメージのグラフ。Aモードはもっともダイレクト感重視。それでいてアクセルの開け始めの立ち上がりを穏やかにすることでドンツキ感は軽減。ダイナミックな出力特性となる。モードBはフラットで開けた分だけパワーを取り出せる印象のカーブ。想像しやすいパワーカーブに。モードCではどんなコンディションでも、スキルレベルに問わず開けやすいようなマイルドな設定に。しかしどのモードも最終的にはフルパワー領域まで力を引き出す。面白いにはマイルドなCモードでも1速発進時にもたつき感のないよう2速以降よりも回転上昇にリニアにパワー感が出るように仕立ててある。
また、トラクションコントロールはホイールスピン量を低くする(介入度が高い)2、2よりもホイールスピン許容が増える1、さらにダートで活用したいG(グラベル)モードがある。4Sと4SMでしっかりと作動ストーリーを変化さえているのが解る。
ヘッドライトはLEDを採用。リフレクターの配光を調整しバンクしてコーナリングする時にも斜め前を照らすようにしているのも特徴。新型DR-Zでは主な灯火類は全てLEDとなる。フロントウインカーは方向指示器として作動していないときはポジションランプとして点灯する。
メーターは液晶ディスプレイ。コントラストの明解な点で白黒カラー表示が採用された。また、ABSのキャンセルスイッチはメーターユニットの下側の左に位置する。通常の前後ABS作動状態からリアだけオフ、4Sではさらに前後ともABS介入をキャンセルすることが可能になる。キーシリンダーはハンドルロック一体式となった。
●DR-Z4S / DR-Z4SM 主要諸元
■型式:8BL-ER1AH ■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ ■総排気量:398cm3 ■ボア×ストローク:90.0×62.6mm ■圧縮比:11.1■最高出力:28kW(38PS)/8,000rpm ■最大トルク:37N・m(3.8kgf・m)/6,500 rpm ■全長× 全幅× 全高:2,270[2,195] × 885 × 1,230[10190]mm ■ホイールベース:1,490[1,465]mm ■シート髙:890mm ■車両重量:151[154]kg ■燃料タンク容量:8.7L ■変速機形式:常時噛合式5段リターン ■タイヤサイズ:80/100-21M/C 51P[20/70R17M/C 58H ]・120/80-18M/C 62P[140/70R17M/C 66H] ■ブレーキ(前/後):油圧式シングルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS)■懸架方式(前・後):テレスコピック・スイングアーム ■車体色:チャンピオンイエローNo.2 ×ソリッドスペシャルホワイトNo.2、ソリッドアイアングレー[スカイグレー、ソリッドスペシャルホワイトNo.2] ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,199,000円[1,199,000円] ※[ ]はDR-Z4SM
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