スクランブラーシリーズの展開でドゥカティというブランドはずいぶんと親しみやすくなった。ただドゥカティのスポーツバイクってなると「やっぱりどこか手強いのでは?」というイメージも残っていることだろう。ご心配無用! このモンスターは誰にでも薦められる、素晴らしいドゥカティワールドへの扉なのだ!
- ■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信
- ■Ducati Japan https://www.ducati.com/jp/ja/home
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、カドヤhttps://ekadoya.com/ 、アルパインスターズ https://www.instagram.com/alpinestarsjapan/
決して入門機に見えないクオリティ
ドゥカティのモンスターと言えば、そもそもレーシングマシンに近いようなモデルばかり展開していたドゥカティが、ストリートユーザーに歩み寄ってドゥカティというプレミアムなメーカーをもっと日常的に楽しんでもらうために生まれたブランド。アップハンでカウルレス、いわゆる「ネイキッド」カテゴリーや、さらに言えばエンジンは元気なのだから「ストリートファイター」というカテゴリーの幕開けだったかもしれない。
ところがそんなモンスターも紆余曲折。親しみやすい空冷モデルや小排気量モデルもあれば、水冷エンジンのかなり本気度の高いモデルもあったし、リッターを超える排気量も珍しくなかった。エントリーモデルであり、それでいて究極のネイキッドという役割も兼任するというか……。
そんな中今のモンスターは原点に立ち返っているようなイメージだ。排気量は937ccで伝統のデスモドロミック機構を持つ、従順なテスタストレッタ11°エンジンを搭載。出力は111馬力、燃料を除く装備重量は179kg、日本仕様のシート高は775mm。スペックを見ただけで「優しそう」と感じられるのに、さらにクラッチは先代に対して20%も軽くなり、ハンドル切れ角も先代比+7°の36°を確保。細かい部分までかなり接しやすくなっていると言える。
それでいてドゥカティらしいルックスが素晴らしい。ミニマムなアルミフレームのおかげで強調されるエンジンとタンク、スポーティな2本出しマフラー、そして写真のドゥカティレッドの他、アイスバーグホワイトには赤いシートと黒いホイール、そしてアビエーターグレーにはレッドのホイール。特徴的なDRLを持つライトもモダンでありつつドゥカティらしい個性を放っている。ポジショニングとしてはわりとシンプルで入門機という位置づけだろうが、そうは感じさせないのである。
Uターンのしやすさ≒付き合いやすさ
Uターンがしやすいからといって必ずしも付き合いやすいというわけではないものの、これまでのドゥカティの多くはハンドル切れ角も少なく、エンジンも極低回転域でギクシャクすることがあり、Uターンがしやすいモデルは決して多くなかった。特にモンスターはせっかくアップハンで付き合いやすいのに予想外のハンドル切れ角の少なさで「オットット!」ということも少なくなかった。
ところがこの新型、走り出してすぐ極低回転域の扱いやすさに感銘を受けた。そもそもテスタストレッタ11°は他モデルに搭載されていた頃から扱いやすかったのだが、さらに低回転域の粘りが効いているし不意にエンストしそうな雰囲気はゼロ。排気音やメカニカルノイズがとても少ないのも冷静にUターンに臨める要因だろう。加えて先述したハンドル切れ角の増加とクラッチの軽さ及び繋がり感の明確さ。こういった部分はいい意味で国産車的ですらある。
低速の取り回しとUターンですっかり気に入ってしまったモンスター。走り出してすぐに自信を持てるというのは、その先の楽しい走行体験を約束してくれているようで嬉しい。
シンプルな構成だからこそ、芯を食う
水冷エンジンを搭載しているのに157万円~という車両価格は、ドゥカティラインナップでは優しい設定。それでいてトラコンやコーナリングABS、ウイリーコントロールやローンチコントロール、そしてもちろんパワーモードといった電子制御は惜しみなく投入されているのはありがたい。一方でサスペンションは調整機構はリアのプリロードのみにするなど簡略化。こういったベーシックなモデルは調整機構が少ないことが残念なように言われることもあるが、むしろこのシンプルさが良いということもあるのだ。
様々な細かいセットアップができないからこそ、出荷の時点であらゆる使い方を想定した良いバランス、良い総合点を提供しなければいけないわけだが、それゆえ誰でも難しいことを考えずにツーリングにもワインディングにもストリートにも使いやすいのも特徴。事実このモンスターは走り出しから汎用性の高さが感じられ、何気なくストリートを流すことも全く苦としない。シート高の低さからくる安心感もあり、ドゥカティから時として感じてしまう手強さがまるでないのだ。
しかし付き合いやすいだけではない。アクセルを開けて行けば100馬力超のエンジンが途端に目覚めて活発な動力性能を見せるし、ハンドリングだって素直だからこそ突っ込んだ操作をしてみようかという気にもさせてくれる。全体的な包容力が「マシンをしっかりとセットアップしなければ」といった真面目さや強迫観念から解放してくれ、あくまでライダーが主役で最大限楽しもう!というキモチで付き合えるのだ。
シンプルな入門機だからこそ、誰にでも直感的に馴染みやすく、さらにはその先にあるドゥカティらしさもしっかり感じさせなくてはいけない。モンスターは複雑な各種調整機構を持っていないながら絶妙なバランスを持っていて、まさにドゥカティの魅力の芯を食っていると感じた。
サーキットへも誘う
親しみやすい基本性格だと逆に限界性能は限られているようなイメージにもなるかもしれないが、実は今回の試乗の直前にサーキットで同じバイクに乗る機会があり、あまりに良かったから今回このバイクをピックアップしたという背景がある。
サーキットでも低いシート高や初期沈みがしっかり感じられるサスペンションなど親しみやすさはあったが、しかしペースを上げていくとどこも破綻せずに非常に楽しい運動性を見せてくれたのだった。ブレーキはとても良く効くし、減衰力の調整機構こそないもののサスペンションも奥で良く踏ん張ってくれた。特にリアはストロークが140mmと多いにもかかわらず非常にしなやかに作動し、かなりのハードアクセラレーションでもトラコンが介入せずに強力に路面を蹴ってくれていた。
日本仕様は出荷時にローシート&ローダウンサスペンション仕様なのだが、確かにシートがもう少し高ければなお軽快に振り回せそうだとも感じる一方で、ライダーの重心が低いからこその安心感が自信につながる側面もあるため、ローダウン仕様だからダメと言う風には感じなかった。
ドゥカティラインナップの中では入門機の位置づけにもかかわらず、サーキット走行でも妥協ないその性能はさすがドゥカティと納得させてくれるもの。所有することがあれば是非ともサーキット走行会に参加してほしいと思う。
現実的なドゥカティ
比較的気軽に乗りやすいスクランブラーシリーズは置いておいて、やはりスポーツマインドに溢れるドゥカティとなるとなんとなくハードルの高さもあるだろうし、ちょっと非現実的なパワーや極端とも言えるようなスポーツにフォーカスした姿勢が、むしろ同ブランドの魅力にもなっていることだろう。
しかしそれとは対照的に、ストリートでも付き合いやすく、それでいて一般的なスポーツ走行好きをしっかりと納得させてくれるレベルのスポーティさを兼ねているモンスターは、「現実的」だな、と思った。憧れのスーパーバイクを手に入れるのは最高だが、スーパーバイクを走らせるには相応の心持や環境、体力、技術、時間やコストがかかるのに対して、モンスターならばもう少しデイリーライフに寄り添った楽しみ方ができることだろう。
ドゥカティブランドに興味はあるが踏み出せないでいたライダー、もしくはドゥカティは手強いというイメージを抱いていたライダーに薦めたいモンスターである。
■エンジン種類:水冷4ストロークL型2気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:937cm3 ■ボア×ストローク:94.0mm×67.5mm ■圧縮比:13.3 ■最高出力:82kW(111PS)/9,250rpm ■最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/6,500rpm ■全長×全幅×全高:–mm×–mm×–mm ■ホイールベース:1,474mm ■シート高:775mm ■車両重量:179kg(装備) ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):Pirelliディアブロ・ロッソ3 120/70ZR17・Pirelliディアブロ・ロッソ3 180/55ZR17 ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク・油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:ドゥカティ・レッド、アイスバーグ・ホワイト、アビエーター・グレイ ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,514,000円〜