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試乗・解説

「正統派Vスト」が軽二輪に降臨 V-STROM250 SX
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明 ■協力:スズキhttps://www1.suzuki.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、アルパインスターズ Alpinestars https://www.okada-ridemoto.com/brand/Alpinestars/




何を言うか、250のVストと言えばパラツインの名車があるじゃないか! と怒られそうだ。しかしあのパラツインVストも名車には違いないが、前後17インチホイールであったりシリーズ唯一の丸ライトであったりと、いわゆるVストブランドからするとちょっと異色。SXこそが本来のVストか!?

 

充実の一途

 Vストロームシリーズはもうすっかりスズキの「顔」になっていると感じる。ビッグネームの「GSX-R」の少なくとも頂点の1000ccモデルは引退し、スズキと言えば今やハヤブサかカタナか。しかしその2機種はあくまで単一機種。一方でVストロームシリーズのなんと潤沢なことか!
 大排気量では800が登場し、最初はオフロード向けのDEだけだったのが今やスタンダード版も展開。頂点モデルの1050にもDEが設定され、そして名車650も継続ラインナップ。パラツインの250は相変わらずの安定した人気を維持しているのに、こんどは同じ軽二輪クラスにシングルのこのSXと来たものだ。
 650が日本に再紹介されてはや干支も一回り、当時スズキの社長は「カタナやハヤブサのように大切なブランドに育てていきたい」と言っていたが、まさにそれが現実になっているのだ。
 

 

「オフ車」のジレンマ

 Vストロームシリーズが展開され始めた頃から、常に「オフロード性能はどうなのか」ということを言う人はいた。アドベンチャーモデルなのだから、一定の不整地性能はあるのでしょう?というわけだ。確かに、1000が新型になった時のスペインでの国際ローンチでは不整地での走行テスト及び撮影もあったが、しかしVストロームブランドは一貫して「ロードスポーツである」という姿勢を崩したことはない。つい最近のDEの2機種が登場するまでは、あくまで舗装路を快適に走り続けるための乗り物だったのだ。
 では前輪に19インチホイールを履かせたシングルであるSXはどうなのか。特にDRなどスズキのオフロード車ファンからすると、これはオフロードも楽しめるのか!? という期待が膨らんでいるかと思うが、しかしやはりそこはあくまで「Vストローム」、メインのフィールドはオンロードなのである。
 ……残念がるため息が聞こえてくるようだが、しかし冷静に考えて欲しい。いわゆる「オフ車」というのは、オフロード性能を追求するほどに実用性は削がれていくのは事実だ。シートの快適性やタンク容量設定からくる航続距離、オフロード向けのタイヤやブレーキ、サスペンションなど、オフを追求すればするほど実用性やツーリング性能から離れていってしまう。だからこそ、スズキとしても「オフ車が楽しいのはよくわかる。だけど公道でより幅広く使えるのはVストなのでは?」とコレにしてくれたのだ。

本文中でも書いたように、これはあくまでVストロームでありオフ車ではないのだが、しかし砂利道やフラットダートぐらいならばVストらしい汎用性で何も問題なく走破できる。むしろそういった場面では積極的に飛ばしても楽しめてしまうほどだ。ただ石がゴロゴロしてるような河原や、獣道に近いような狭路はやめておいた方が良いだろう。突然車体の重量を感じてしまうような場面があるし、サイズが大きいゆえ獣道の奥でのUターンも難儀しそう。ダウンマフラーに傷をつけたくもない。

 
 そんなわけで、最初に不整地でのインプレッションを書いておこう。
 テストではワダチの深いシングルトレイルにも踏み入れたし、砂利ダート路も走ったが、印象としてはやはりフラットダートぐらいがちょうどいい、というものだ。サスペンションがそもそもロード向けなのだが、フラットダートではフロント19インチやタイヤの銘柄、余裕のあるライディングポジションのおかげでかなり良いペースで走って行けた。自由度が高く、そんなシチュエーションではむしろ本気のオフ車以上に、ダートトラッカー的な汎用性が光ったのだ。
 一方でワダチが深かったり、こぶし大の石が転がっていたりするような場面になるとちょっとおっかなくなってくるのは事実で、そのぐらい厳しい状況になって初めて「オフ車ではない」ということを認識させられる。
 よって、VストSXが想定するオフロード路は「合法的に踏み入れることができる林道程度なら十分こなす」というもの。アタック系、あるいは獣道系は想定外というイメージ。もっともそんな場面を求めるライダーはニッチなのである。林道やキャンプサイトへのアクセス未舗装路なら十分以上にこなすVストSXのオフロード走破性は「ちょうどいいよね」と感じさせるレベルに思った。
 

 

Vストらしさが宿る

 パラツインのVスト250に対して軽量パワフルかつアクティブ、という記事も多く世に出ているが、そんなアクティブさに加え「Vストらしさ」が嬉しく思った部分。まずはシートが快適。加えてどこにも無理のないポジション、確かな防風効果を発揮するスクリーンなどとにかく距離をいくらでも稼げてしまう質実剛健な構成はまさにVストロームブランドそのものである。
 また語られることは少ないようだが、VストSXはかなりサイズが大きい。250ccなのに堂々とした乗り味だな、とは思っていたが、トランスポーターに積み込む際に改めてそのサイズ感を認識。Vスト650と変わらないような車格があるのだ。これは足つきなどではハードルとなる場合もあるものの、堂々としたその体躯は逆に余裕を生むという面もある。今回は高速道路を含めてかなりの距離を走り込んだが、どの場面でも堂々と、余裕を持って突き進むという感覚があり、それは本当にVスト650や、さらにはもしかしたらVスト800にも通じるような包容力に感じることもあったのだ。ドッシリとしたコーナリングも、決して重ったるいわけではないのだが、しかしVストらしい落ち着きを持ったものに感じられ、そういう意味ではパラツインのVスト250以上にVストブランド「らしさ」を感じられたようにも思う。
 もちろん、それは逆に足つきの厳しさや取り回しなどハードルを上げることもあるだろう。そういう意味では「シングルだし、パラツインの方よりも軽いし」などと、「きっと気軽に違いない」と思わずに、購入する際には一度実車を見ることも薦めておきたい。
 

高速道路やバイパス、流れの速い幹線道路などでも余裕の動力性能を見せる。オンロード向けのギア比設定で、しっかりとパワーバンドまで引っ張ればかなり元気だ。また巡航時にはシートの快適さやポジションのナチュラルさがとても良い。さらにステップ位置が適度に後退しているため、長距離移動でも股関節周りの疲労が少なく感じた。

 

その万能な速さ、ジクサー以上!?

 先にオフ性能や実用性ばかりを語ってしまったが、このシングルエンジンの元気さはなかなかのものであり、オンロードでも走らせる楽しみはかなり大きい。ベースモデルがジクサー250なのはご存知かと思うが、そのジクサー以上に元気に感じるほどだ。その要因は余裕のある車体のおかげだろう。長めのホイールベースや路面の状況に関わらずホールド性の高い19インチフロントホイール、そして絶妙なグリップを見せてくれるマキシスのタイヤなどのおかげで、「思い切って性能を活かしてやろう!」という気持ちになりやすいと思うのだ。
 ワインディングではブロックタイヤとは思えないグリップでグイグイと走れてしまうし、サスのしっかり感、良く効くブレーキなど、スポーツマインドを刺激されてしまう。路面状況や路面温度に関わらず豊富な接地感が伝わってくるのも自信に繋がっている。
 エンジンはシングルながら高回転域の伸びが気持ちよく、オフ車のようにポンポンとギアを変えていかずにしっかりと上まで引っ張り切ってパワーバンドを維持する走りが楽しく、ついついバイクとの一体感を満喫してしまうのだ。
 なお、シングルとはいえ高速道路のペース維持もなかなか優秀だ。100キロ、120キロの法定速度巡航は全く苦にせず、1速落としてからの追い越し加速でも力強い。最高速はパラツインの兄弟車を上回る実力を持っているし、250ccの枠を超えたような活発さや頼もしさを確かに持っているのだ。
 「Vストらしさ」というのは何も汎用性や快適性だけではない。場面を選ばずにスポーティなマインドにも応えるというのもVストらしさの一面。SXはこれにしっかりと応えてくれるのだ。
 

余裕のあるポジションから19インチのホイールをコーナーに放り込んでいく感覚は650や800といった兄弟車に通じる安定感があった。タイヤがまたよくグリップしてくれ、この寒い季節でも積極的にワインディングを楽しめたのは嬉しい誤算。大柄な車体や全体的な安定感ゆえ、もしかしたらジクサー以上にスポーツに没頭できてしまうのでは?

 

パラツインを追い落とすのか??

 それはない。とキッパリ書いておこう。活発でアクティブ、全体的な構成はより排気量の大きい兄弟車種と通じる魅力にあふれているVストSXだが、パラツインのVスト250が築いてきた牙城を崩すということはないだろう。それほど「違うバイク」なのだ。
 パラツインの方はさすが2気筒だけあって回り方が上品だし、静かで振動も少ない。車体も重心が低くライダーの体格や使い方を限定しないし、そして何よりも熟成が進んでいて完成度が高い。
 対するSXはシングルであるがゆえの振動や、重心が高いがゆえの操作感などが活発さを演出して楽しませてくれる一方で、上質さという意味ではパラツイン250に譲るように感じる。また出たばかりの車種ということもあり、熟成はこれからだろう。試乗をしていて気づいたが、ステムベアリングが若干締まりすぎていてUターン時にステアリングに重さを感じたり、またはウインカーなどスイッチ類が渋かったり、クラッチワイヤーの調整が不十分でニュートラルが出にくかったり、といった症状も体験した。いずれも対応可能な微々たる問題だが、納車整備や初回点検時にしっかりと販売店さんに診てもらいたい項目だ。
 また、2台の大きな違いはサイズ感だろう。先述したようにSXはかなり大柄なのだ。それがVストらしさや余裕を生んでいるのは間違いないが、取り回しや体格に不安がある人や、ガレージのスペースが限られている人は現車を見て、跨ってみることを(再度)お薦めしておく。
 

 

「買い!」のオールラウンダー

 この価格で、このオールラウンド性は素晴らしいパッケージであることは間違いない。「神機」と名高いVストローム650や、その他大排気量兄弟車と同種類の実力を確かに感じられるし、事実、二輪業界内でも「買った」「オフ車から乗り換えた」という人が何人もいる。
 車検のない軽二輪で、ソコソコ軽量で、スポーティにも走らせられてツーリングもOK。いつでも快適で燃費もリッター30と経済的。タンデムや荷物の積載も許容する。……死角はない。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:富樫秀明)
 

 

丸ライトで小柄な車体のパラツイン版に比べると、伸びやかで活発なイメージをした車体。185cmの筆者が跨っても「けっこう大柄だな」と感じ、どんな場面で走っても窮屈さを感じることはなかった。ただそのサイズ感は見てみないとわかりにくいもので、足つきに不安がある場合はぜひとも実車を見てみた方が良いだろう。カラーはブラックとイエローの他、今回のオレンジの3色設定。オレンジはどこか朱色っぽくて独特の色合いが魅力的だ。

 

とてもコンパクトな新世代油冷エンジンはジクサーと同タイプ。エンジンの性格もミッションの設定もオンロード寄りのためツーリング向きな上に、パワーバンドを維持すれば積極的な走りも十分可能だ。今回は特に燃費も気にせずに高速道路、一般道、ワインディングなど走り込んで、その燃費はリッター30ほどだった。

 

19インチとなったフロントホイールにはマキシス製のタイヤがつく。正立フォークの作動性はオンロード的でブレーキの効きも十分。ダート路面でもオンロード路でも常に確かな接地感を提供してくれるのはVストロームシリーズらしいところ。
17インチのリアホイールと、コントロール性の高いブレーキ。ABSを標準装備するのは今の常識だが、一部オフ車のように「リアだけABSをカット」といった機能はついておらず、不整地でブレーキターンはできない。ダウンマフラーはとても静かなだけでなく、タンデムや荷物の積載時に触ってしまう心配がなく個人的には好きな設定。

 

ライダー側、タンデム側共に座面が広く、尻を広範囲で支えてくれるシートはとても快適。ヘルメットホルダー機能がどこにもないのが惜しく、当面は社外品で対応するしかない。モデルチェンジで追加を期待。
タンデムシートと標準装備のリアキャリアがおおよそフラットなため、大きめの荷物もしっかりと固定しやすいのは兄弟車種同様。荷掛けフックが充実しているのもさすがだ。

 

3階建てのLEDヘッドライトもジクサー同様。スクリーンは非調整式だが長身の筆者でも防風性は十分感じられた。なおナックルガードはバーエンド側まで回り込むタイプで、防風性はもちろんのこと、転倒時にはレバー破損などを一定の範囲で守ってくれるだろう。
大きなアップハンでポジションは常に安楽。

 

スイッチ類などは誰でも直感的に扱えるもので、複雑な設定は一切ないシンプルさが潔く親近感を持ちやすい。ヒサシがついて見やすいメーターやスクリーンなどの設定が縦長で、どこかラリーマシンのように感じるビジュアルだ。実際に握るグリップ部はあまり幅広には感じないが、大き目のバーエンドウェイトやナックルガードがあるため車幅は想像よりも少し広い印象。渋滞路では気を付けたい。

 

速度やタコメーター、ギアポジション、燃料計に加え、時計や燃費計など様々な機能が全部載せのモダンなメーター。加えてメーター左側にはUSB電源アウトレットもあるためスマホやナビなどの充電にも使える。こういった装備もまた「オフ車」ではなく「アドベンチャー」と感じさせる部分。

 

■V-STROM250 ABS 主要諸元
■型式:8BK-EL11L ■エンジン種類:油冷4ストローク単気筒SOHC 4バルブ■総排気量:249cm3 ■ボア× ストローク:76.0× 54.9mm ■圧縮比:10.7 ■最高出力:19kW(25PS)/9,300rpm ■最大トルク:22N・m(2.2 kgf・m)/7,300 rpm ■全長×全幅× 全高:2,180×880×1,355mm ■軸距離:1,440mm ■シート高:835mm ■車両重量:164kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機:6段リターン■タイヤ(前・後):100/90-19M/C57S・140/70-17M/C66S ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク[ABS]・油圧式シングルディスク[ABS] ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:チャンピオンイエローNo.2、パールブレイズオレンジ、グラススパークルブラック ■メーカー希望小売価格(消費税込み):569,800円

 



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2024/04/04掲載