何を言うか、250のVストと言えばパラツインの名車があるじゃないか! と怒られそうだ。しかしあのパラツインVストも名車には違いないが、前後17インチホイールであったりシリーズ唯一の丸ライトであったりと、いわゆるVストブランドからするとちょっと異色。SXこそが本来のVストか!?
充実の一途
Vストロームシリーズはもうすっかりスズキの「顔」になっていると感じる。ビッグネームの「GSX-R」の少なくとも頂点の1000ccモデルは引退し、スズキと言えば今やハヤブサかカタナか。しかしその2機種はあくまで単一機種。一方でVストロームシリーズのなんと潤沢なことか!
大排気量では800が登場し、最初はオフロード向けのDEだけだったのが今やスタンダード版も展開。頂点モデルの1050にもDEが設定され、そして名車650も継続ラインナップ。パラツインの250は相変わらずの安定した人気を維持しているのに、こんどは同じ軽二輪クラスにシングルのこのSXと来たものだ。
650が日本に再紹介されてはや干支も一回り、当時スズキの社長は「カタナやハヤブサのように大切なブランドに育てていきたい」と言っていたが、まさにそれが現実になっているのだ。
「オフ車」のジレンマ
Vストロームシリーズが展開され始めた頃から、常に「オフロード性能はどうなのか」ということを言う人はいた。アドベンチャーモデルなのだから、一定の不整地性能はあるのでしょう?というわけだ。確かに、1000が新型になった時のスペインでの国際ローンチでは不整地での走行テスト及び撮影もあったが、しかしVストロームブランドは一貫して「ロードスポーツである」という姿勢を崩したことはない。つい最近のDEの2機種が登場するまでは、あくまで舗装路を快適に走り続けるための乗り物だったのだ。
では前輪に19インチホイールを履かせたシングルであるSXはどうなのか。特にDRなどスズキのオフロード車ファンからすると、これはオフロードも楽しめるのか!? という期待が膨らんでいるかと思うが、しかしやはりそこはあくまで「Vストローム」、メインのフィールドはオンロードなのである。
……残念がるため息が聞こえてくるようだが、しかし冷静に考えて欲しい。いわゆる「オフ車」というのは、オフロード性能を追求するほどに実用性は削がれていくのは事実だ。シートの快適性やタンク容量設定からくる航続距離、オフロード向けのタイヤやブレーキ、サスペンションなど、オフを追求すればするほど実用性やツーリング性能から離れていってしまう。だからこそ、スズキとしても「オフ車が楽しいのはよくわかる。だけど公道でより幅広く使えるのはVストなのでは?」とコレにしてくれたのだ。
そんなわけで、最初に不整地でのインプレッションを書いておこう。
テストではワダチの深いシングルトレイルにも踏み入れたし、砂利ダート路も走ったが、印象としてはやはりフラットダートぐらいがちょうどいい、というものだ。サスペンションがそもそもロード向けなのだが、フラットダートではフロント19インチやタイヤの銘柄、余裕のあるライディングポジションのおかげでかなり良いペースで走って行けた。自由度が高く、そんなシチュエーションではむしろ本気のオフ車以上に、ダートトラッカー的な汎用性が光ったのだ。
一方でワダチが深かったり、こぶし大の石が転がっていたりするような場面になるとちょっとおっかなくなってくるのは事実で、そのぐらい厳しい状況になって初めて「オフ車ではない」ということを認識させられる。
よって、VストSXが想定するオフロード路は「合法的に踏み入れることができる林道程度なら十分こなす」というもの。アタック系、あるいは獣道系は想定外というイメージ。もっともそんな場面を求めるライダーはニッチなのである。林道やキャンプサイトへのアクセス未舗装路なら十分以上にこなすVストSXのオフロード走破性は「ちょうどいいよね」と感じさせるレベルに思った。
Vストらしさが宿る
パラツインのVスト250に対して軽量パワフルかつアクティブ、という記事も多く世に出ているが、そんなアクティブさに加え「Vストらしさ」が嬉しく思った部分。まずはシートが快適。加えてどこにも無理のないポジション、確かな防風効果を発揮するスクリーンなどとにかく距離をいくらでも稼げてしまう質実剛健な構成はまさにVストロームブランドそのものである。
また語られることは少ないようだが、VストSXはかなりサイズが大きい。250ccなのに堂々とした乗り味だな、とは思っていたが、トランスポーターに積み込む際に改めてそのサイズ感を認識。Vスト650と変わらないような車格があるのだ。これは足つきなどではハードルとなる場合もあるものの、堂々としたその体躯は逆に余裕を生むという面もある。今回は高速道路を含めてかなりの距離を走り込んだが、どの場面でも堂々と、余裕を持って突き進むという感覚があり、それは本当にVスト650や、さらにはもしかしたらVスト800にも通じるような包容力に感じることもあったのだ。ドッシリとしたコーナリングも、決して重ったるいわけではないのだが、しかしVストらしい落ち着きを持ったものに感じられ、そういう意味ではパラツインのVスト250以上にVストブランド「らしさ」を感じられたようにも思う。
もちろん、それは逆に足つきの厳しさや取り回しなどハードルを上げることもあるだろう。そういう意味では「シングルだし、パラツインの方よりも軽いし」などと、「きっと気軽に違いない」と思わずに、購入する際には一度実車を見ることも薦めておきたい。
その万能な速さ、ジクサー以上!?
先にオフ性能や実用性ばかりを語ってしまったが、このシングルエンジンの元気さはなかなかのものであり、オンロードでも走らせる楽しみはかなり大きい。ベースモデルがジクサー250なのはご存知かと思うが、そのジクサー以上に元気に感じるほどだ。その要因は余裕のある車体のおかげだろう。長めのホイールベースや路面の状況に関わらずホールド性の高い19インチフロントホイール、そして絶妙なグリップを見せてくれるマキシスのタイヤなどのおかげで、「思い切って性能を活かしてやろう!」という気持ちになりやすいと思うのだ。
ワインディングではブロックタイヤとは思えないグリップでグイグイと走れてしまうし、サスのしっかり感、良く効くブレーキなど、スポーツマインドを刺激されてしまう。路面状況や路面温度に関わらず豊富な接地感が伝わってくるのも自信に繋がっている。
エンジンはシングルながら高回転域の伸びが気持ちよく、オフ車のようにポンポンとギアを変えていかずにしっかりと上まで引っ張り切ってパワーバンドを維持する走りが楽しく、ついついバイクとの一体感を満喫してしまうのだ。
なお、シングルとはいえ高速道路のペース維持もなかなか優秀だ。100キロ、120キロの法定速度巡航は全く苦にせず、1速落としてからの追い越し加速でも力強い。最高速はパラツインの兄弟車を上回る実力を持っているし、250ccの枠を超えたような活発さや頼もしさを確かに持っているのだ。
「Vストらしさ」というのは何も汎用性や快適性だけではない。場面を選ばずにスポーティなマインドにも応えるというのもVストらしさの一面。SXはこれにしっかりと応えてくれるのだ。
パラツインを追い落とすのか??
それはない。とキッパリ書いておこう。活発でアクティブ、全体的な構成はより排気量の大きい兄弟車種と通じる魅力にあふれているVストSXだが、パラツインのVスト250が築いてきた牙城を崩すということはないだろう。それほど「違うバイク」なのだ。
パラツインの方はさすが2気筒だけあって回り方が上品だし、静かで振動も少ない。車体も重心が低くライダーの体格や使い方を限定しないし、そして何よりも熟成が進んでいて完成度が高い。
対するSXはシングルであるがゆえの振動や、重心が高いがゆえの操作感などが活発さを演出して楽しませてくれる一方で、上質さという意味ではパラツイン250に譲るように感じる。また出たばかりの車種ということもあり、熟成はこれからだろう。試乗をしていて気づいたが、ステムベアリングが若干締まりすぎていてUターン時にステアリングに重さを感じたり、またはウインカーなどスイッチ類が渋かったり、クラッチワイヤーの調整が不十分でニュートラルが出にくかったり、といった症状も体験した。いずれも対応可能な微々たる問題だが、納車整備や初回点検時にしっかりと販売店さんに診てもらいたい項目だ。
また、2台の大きな違いはサイズ感だろう。先述したようにSXはかなり大柄なのだ。それがVストらしさや余裕を生んでいるのは間違いないが、取り回しや体格に不安がある人や、ガレージのスペースが限られている人は現車を見て、跨ってみることを(再度)お薦めしておく。
「買い!」のオールラウンダー
この価格で、このオールラウンド性は素晴らしいパッケージであることは間違いない。「神機」と名高いVストローム650や、その他大排気量兄弟車と同種類の実力を確かに感じられるし、事実、二輪業界内でも「買った」「オフ車から乗り換えた」という人が何人もいる。
車検のない軽二輪で、ソコソコ軽量で、スポーティにも走らせられてツーリングもOK。いつでも快適で燃費もリッター30と経済的。タンデムや荷物の積載も許容する。……死角はない。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:富樫秀明)
■型式:8BK-EL11L ■エンジン種類:油冷4ストローク単気筒SOHC 4バルブ■総排気量:249cm3 ■ボア× ストローク:76.0× 54.9mm ■圧縮比:10.7 ■最高出力:19kW(25PS)/9,300rpm ■最大トルク:22N・m(2.2 kgf・m)/7,300 rpm ■全長×全幅× 全高:2,180×880×1,355mm ■軸距離:1,440mm ■シート高:835mm ■車両重量:164kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機:6段リターン■タイヤ(前・後):100/90-19M/C57S・140/70-17M/C66S ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク[ABS]・油圧式シングルディスク[ABS] ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:チャンピオンイエローNo.2、パールブレイズオレンジ、グラススパークルブラック ■メーカー希望小売価格(消費税込み):569,800円
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