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レース・イベント

ジャーナリスト西村 章さんの現地直送レポート「続・MotoGPはいらんかね?」。今回はホンダをはじめ日本メーカーのお膝元となる栃木県・ツインリンクもてぎが舞台。スタートから強さを発揮したマルク・マルケス、MotoGPクラスで戦いはじめてから、ココもてぎでポールポジションを獲ったのは初めてだったとは意外!
文:西村 章 写真:Honda/Yamaha/Ducati/Suzuki
西村 章「続・MotoGPはいらんかね?」MotoGP第16戦・日本GP(ツインリンクもてぎ)Beneath, Between & Behind マルケス強しを印象付ける10勝目、ホンダ4年連続25回目のコンストラクターズタイトル獲得
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「日本人は水と安全をタダだと思っている」とは昔からよく言われることですが、それと似たような意味で、我々はひょっとしたら「マルケスがバカみたいに速くて強いのは当たり前」だと思っているふしがあるのかもしれないですね。というか、ふしもなにも、ホントにバカみたい速くて強いのは事実だからどうしようもないのですけど。

今回の第16戦日本GPでいえば、マルク・マルケス(Repsol Honda Team)はポールポジションからレースをスタートして、あっという間に独走モードでレースをコントロールして優勝。チャンピオンを確定させた前戦タイGPに続くシーズン10勝目。これにより、ホンダのコンストラクターズタイトルも決定。

まあ、マルケスならそれくらいのことは不思議でもなんでもないでしょう……、と思うかもしれないけれども、じつは彼が日本GPでMotoGPクラスのポールポジションを獲得したのは今回が初めて。現在開催されている全19会場で唯一、先頭のグリッド位置を取り損ねていたのが、ここツインリンクもてぎだったのである(ちなみに中小排気量時代まで遡れば、2010年の125ccクラスと2011年のMoto2クラスではポールポジションを獲得している)。

レースは、事前の作戦では1分46秒台で周回する想定だったようだが、思いのほかいいペースで走れたため、1分45秒台後半のラップタイムを刻みながら後続を引き離し、レースをコントロールする状況に持ち込んだ。ただ、このときの少し速いペースが影響して、残り1周半になったときにダッシュボードの燃料警告灯が点いてしまったのだとか。

「これが点いたら残り3周くらいしか持たないので、そこから先はうまくコントロールしながら無事にトップでゴールできた」
と、マルケスは終盤の展開を振り返った。決勝前には「もてぎは最初から最後まで高い集中力を維持するのが難しいコース」と述べていたのだが、それはおそらく、ストップアンドゴーのレイアウト特性で燃費に大きな負荷がかかることによるマッピングの変更管理などの対応、ということも一因なのだろう。ただバイクを速く走らせる能力だけではなく、そのような頭を使った冷静で精緻なレース戦略を組み立てる頭脳も備えているからこそ、尋常ではない高水準の成績を、さも当たり前のようにあっさりとこなしている風に見えてしまうのかもしれない。

ともあれ、今回の勝利でマルケスは世界選手権202戦中80勝目。勝率39.6パーセント。勝利数は歴代4位である。3位はアンヘル・ニエトの90勝、2位はバレンティーノ・ロッシ(Monster Energy Yamaha MotoGP)の115勝、1位がジャコモ・アゴスチーニの122勝。参考までにロッシの勝率と比較してみると、こちらの場合は399戦中115勝だから、勝率28.82%。マルケスと比較すれば少なく見えるかもしれないけれども、4回に1回以上の確率で勝っているのだから、この実績だって充分に驚異的である。ちなみに上記のとおり、ロッシは今回で399戦を達成。次回がなんと400戦の大台である。

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そして2位は、ファビオ・クアルタラロ(Petronas Yamaha SRT)。

こちらも、マルケスに勝てないのはともかくとしても、ルーキーながら表彰台獲得が当たり前に見えてしまうくらいの強さを、とくにこの数戦で発揮している。今回の決勝レースでは、終始マルケスの後ろで走り続けたことで様々な研究観察もできたようだ。

「マルクはこの週末を通してずっとぼくたちより速かったけど、レースでは何通りかラインを変えてみて、タイヤを温存する方法を試すことができた。1コーナーで自分は速く走れていた部分を、マルクがやっていたように少しワイド気味に走ってみると、タイヤをうまく温存できた。自分と彼の違いをしっかり見極めるくらい充分に近くで観察できたわけじゃないけど、加速面やタイヤが摩耗してくる終盤に苦労をするのも確かで、そこは改善の余地がある部分だけど、今回もタイヤマネージメントについて学ぶことができたレースだった」

マルケスが「来年はもっと強敵になる」と予見するのもむべなるかな、というくらい、じつに冷静で明晰な状況分析力である。

今回の2位でクアルタラロはルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得。この高パフォーマンスからすれば当然すぎるくらいの結果なのだが、彼の所属するPetronas Yamaha SRTはMotoGPクラス参戦初年度にもかかわらず、現在、チームランキングで総合4番手。インディペンデントチーム勢で見ると、LCR HondaやPramac Racingを大きくひき離してトップを独走している状態だ。このPetronas Yamaha SRTの躍進に関しては、今回のレースウィークにチーム代表のラズラン・ラザリからたっぷりといろんな話を聞いてきたので、近日中にロングインタビューとしてお届けする予定である。お楽しみに。

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3位はアンドレア・ドヴィツィオーゾ(Ducati Team)。16点を加算してチャンピオンシップポイントは231。アレックス・リンス(Team SUZUKI ECSTAR)とマーヴェリック・ヴィニャーレス(Monster Energy Yamaha MotoGP)がともに176ポイントで55点差。残り3戦でドヴィツィオーゾが連続転倒リタイア、などという極端な結果にならなければ、おそらく今年もランキング2位はほぼ確実だろう。

そして、今回の3位表彰台で、ドヴィツィオーゾは記念すべき世界選手権100表彰台を達成した。そこで、その100表彰台のうち〈印象深かったベストスリー〉をドビちゃんに訊ねてみた。

「ここ2~3年の勝利は、クレイジーなものばかりだよね。マルクとのバトルになると、どうしてもいつもクレイジーになるから」
と微笑みながら、まず思い浮かんだひとつめのベスト表彰台は「今年のオーストリアは、すごく良かったね」と振り返るレッドブルリンクの死闘。最終コーナーのオーバーテイクでマルケスのブレーキレバー防具が飛ぶ接近戦が記憶に新しい、2019年第11戦オーストリアGP。このバトルの激しさは、勝利の瞬間にチームマネージャーのダビデ・タルドッツィが壊れたおもちゃのようなガッツポーズで狂喜した姿に、すべてが象徴されている。

次に挙げたのが2017年のイタリアGP、ムジェロサーキットでの勝利。
「ムジェロはバトルじゃないけど、とても意義の大きい、思いのこもった勝利なんだ」
ドゥカティの地元コースで達成したこの優勝が契機になって、ここから〈デスモドビ〉の快進撃が始まった記念すべき一戦だ。

そして三つ目の印象深い表彰台はというと「今もレースを見返すたびにビックリする」という、同じく2017年の日本GP。あの年のツインリンクもてぎは最初から最後までフルウェットの決勝レースで、「あの雨の中で勝負内容といいスピードといい、我がことながらあんなことをよくやったなと思う。歳を取ってもういちどレースを見返したら、もっとビックリするんじゃないかな」
とのことである。

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チャンピオンシップではランキング3番手につけているスズキのリンちゃんことアレックス・リンスは、7位でゴール。4列目11番グリッドからレースの最初でいくつかポジションを落とし、ややもたついて見えたのは、「クラッチに問題があっていいスタートができなかった。それで1周目にポジションをふたつ落としてしまった」からなのだとか。

そこから全力で追い上げる間にタイヤを消耗してしまい、終盤のバトルでは他選手の前に出る余力は残っていなかった、と話した。予選でもっと上位を獲得できていれば追い上げでタイヤを使い切ることもなかったであろうだけに、予選の改善、すなわちソフトタイヤで渾身の一発タイムを決めること、が現状の課題といえそうだ。

それはチームメイトのルーキー、ジョアン・ミルにとっても同様だ。ジョアンはリンちゃんよりもひとつ下の12番グリッドから決勝レースをスタート。レース中に目立つ位置で走ることはなかったが、中盤以降も安定したペースを維持し、トップを独走していたマルケスと遜色ないラップタイムで最後まで走行し続けた。8位でレースを終えたジョアン本人は、その点に関して「リザルトはベストじゃないけど、内容は今季ベストだと思う」と振り返った。ただし、結果は上々というほどでもないためか、「満足はできたけど、ハッピーというわけじゃない」とも述べている。

ジョアンにも、今回のレースウィーク期間中に時間を割いてもらって、たっぷりと一対一で質疑応答を行った。こちらも、近日中にロングインタビュー記事をお届けしたい。

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日本人選手の中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)は、ポイント圏内へわずかに届かず16位で完走。レースに先だち、来年へ向けた契約更改および、このレースを終えて右肩の手術を実施することが発表された。特に右肩の手術については、この発表まで本人がいっさいケガによる不調を口外していなかったことに加え、結果的に日本GPがシーズン最終戦になってしまうために、日本のファンの間では大きな衝撃をもって受け止められたようだ。

中上の右肩負傷は第8戦オランダGPで転倒した際に傷めたものだが、このときは翌戦のドイツGPと2週連続開催というスケジュールで、ザクセンリンクサーキットで最も注目を集めていたのは、見るからに痛々しく引きずっていた左足のほうだった。

ドイツGPのレースウィークに先だち、木曜午後にチームのホスピタリティで中上と交わしたこのときの質疑応答の録音をあらためて聞き直してみると、足の状態に関するやりとりが続いた後に
(西村)「足のケガ以外では、上半身は大丈夫だった?」
(中上)「からだ自体は、まだちょっと痛いですね。首とか。右肩はイマイチ調子が悪いので……、ちょっと神経を痛めたのかどうかはわからないけど」
という会話を交わしていた。

取材をするこちら側の稚拙な注意力不足、といってしまえばそれまでなのだが、このときは上記のとおり、どうしても状態の良くなかった左足にまず注意が向かっていたこともあり、肩に関する会話はこれだけで終了。ふたたび転倒時の状況などに話題が転じている。中上が先週に右肩手術を公表した際、レースを重ねるにつれて次第に状態が悪化していった、という旨のことを述べているので、おそらくこの段階では本人も打ち身程度に軽く捉えていたのかもしれない。

いずれにせよ、内視鏡による右肩手術は今週実施。3~4週間ほど固定した後にリハビリを開始、というのが大まかなスケジュールだという。IDEMITSUカラーのマシンに跨がる中上の勇姿を次に見る機会は、来年2月のセパン、プレシーズンテストから、ということになりそうだ。時間は充分にあるので、しっかりと治療と回復に専念し、万全の状態で2020年シーズンを迎えてほしいものである。

というわけで、今回は以上。では、また。

もてぎ
【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはMotosprintなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」受賞。

[第15戦 タイGP| 第16戦 日本GP |第19戦 バレンシアGP]
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2019/10/21掲載