ついに6世代目に
「ロード」シリーズと言えば、細かく切られた「サイプ」と呼ばれる細いミゾが特徴的で、今やミシュランタイヤのイメージの一部にもなっているだろう。
このサイプによりウェット性能を飛躍的に向上させたのは2011年に登場したこのロードシリーズ3世代目に当たる「パイロットロード3」から。サイプ技術をさらに追及しつつ、2014年にはGTスペックタイヤも導入したロード4へ、そして2018年には新たにACT+を採用しパターンも「パワー」シリーズに寄せ、ネーミングも「パイロット」を外した「ロード5」へと進化。この時点でツーリングタイヤとして素晴らしいバランスを持ったタイヤだったが、今回のロード6はさらにウェット性能を15%、ライフを10%向上させ、進化を止めていない。
2002年に始まったこのロードシリーズもついに6世代目。今回もメディア向けに新型タイヤと先代タイヤを同じ車両に装着して試乗できる環境をミシュランに用意いただけたため、カワサキZ900RSでの比較試乗と、スズキVストローム650でのインプレッションをお届けする。
「パワー5」の存在が「ロード」の方向性を変えたか
技術の進歩が目覚ましいとはいえ、ロードシリーズが新しくなるたびに10%、15%とライフやウェット性能が向上していけるなんて、本当だろうか? などと勘繰りたくもなるもの。特にロードは先代の5の時点でウェットの安心感もとても高く、かつライフもかなりのレベルにあるとされたタイヤ。それでいて癖のないハンドリングはスポーティさもあり、レインタイヤを連想させるサイプが多く切られているのに、それによる剛性の低さのようなものは感じなかった。
それなのに6ではさらにライフやウェット性能を向上。にわかには信じられなかったが、乗ってみて納得、という部分もあった。というのは、6は5比で「ツーリングタイヤ感」が増しているのだ。わりにスポーティな味付けだった5に対して、6はドシッと安定したフィーリングになっており、路面の上をヒラヒラとなぞっていくというよりも、しっかりと地に足を着けた安定感があったのだ。
高速周回路を時速200キロを超えるような速度で回っていると、外乱にも揺るがないこの安定感が安心感にもつながり、現実社会ではここまでの速度を出すことはないだろうが、それでも高速道路走行時の安心感や疲労の少なさは容易に想像できた。一方で高速域で用意されたスラローム路では5の方が車体を軽くバンクさせることができるような印象。6は直進安定性の方が強く、速度が出ている所からクイックに曲げようと思うと意図的なアクションやハンドル入力が必要に思えた。
一般道のワインディングを模したようなテストコースにおいても、同様にツーリングタイヤとしての印象が強い。Z900RSのステップや、革ツナギのヒザを擦るようなバンク角へはたやすくアクセスできるが、車体をシャキシャキと動かそうと思うほどに、タイヤの安定感と戦うことになってしまう。鋭いブレーキングからフルバンクに持ち込む、もしくは深いバンク角から大パワーをかけていくといった、タイヤに無理させるような動きは比較的不得手と言えるだろう。逆にペースを落とし、リーンウィズで、高いギアでスイスイと走っている時はタイヤに任せて何も意識せずともコーナーをクリアしていくことができた。
こと「軽快なスポーツ性」に関しては、もしかしたら先代のロード5の方が好み、というライダーもいそうな気がする。しかしスポーツ性を求めるなら去年登場したばかりの「パワー5」という優秀なタイヤがあるため、そちらを選べばよいこと。逆にパワー5があったからこそ、ロード6は棲み分ける意味で安定方向へと味付けをシフトし、かつ耐摩耗性やウェット性能を更に突き詰めることができたのだろう。
アドベンチャーサイズも継続展開
ロード5との直接比較試乗はできなかったが、新型ロード6を装着したVストローム650にも試乗できた。実は先代のロード5までは「トレール」と呼ばれた、専用チューニングされたアドベンチャーモデル向けサイズが展開されていたのだが、ロード6ではこの「トレール」チューニングは廃止。しかしアドベンチャーモデル向けのサイズラインナップは継続して展開しているため、様々なアドベンチャーモデルに引き続き装着可能だ。
乗った印象はZ900RS以上に良く、細身のタイヤや大径フロントホイール、またストロークの大きなサスペンションとの相性は上々だった。こちらでも深いバンク角は余裕で、ある程度スポーティな走りも許容。また特にタイヤが細いということもあって、Z900RSで感じたツーリングタイヤらしい安定感(≒コーナリング時の重たいイメージ)はまるでなく、ロード5と似たような感覚で走ることができた。
スポーツバイクに比べアドベンチャーバイクは、タイヤがバイク本来の走行性能に影響を与える割合が低いように感じている筆者だが、Vストローム650もまさにその通りに感じた。これならば向上されたライフやウェット性能を純粋に享受することができるだろう。ロングランを楽しむアドベンチャーバイクライダーには特にお薦めできると思う。
ウェット性能15%向上という暗示
トータルパフォーマンスを掲げるミシュランの試乗会ではもはや恒例となっているが、ウェット路面でのブレーキングとスラロームが試せるコースも用意された。ロード5、ロード6とそれぞれ試したが、ブレーキングについてはABSも作動することもあり、明らかに15%向上している、と体感できるほどではなかった。
一方でスラロームは6の方がいくらか安心感が高く、より深いバンク角で走れていたようにも思う。いずれにせよウェット路面を走る機会というのは、基本的に出先で雨に降られた場合や路面に染み出した湧き水を通過する時が多いだろう。そういった場面で「15%向上しているんだ」という心理的安心感は嬉しい。
自分に合ったタイヤ選びを
近年のタイヤ性能向上は目覚ましく、どのタイヤもそれぞれとても魅力的ではある。またツーリングタイヤだけでなくよりスポーティな銘柄でも耐摩耗性やウェット性能がある程度確保されていることが増えたため、ツーリング先でタイヤのせいで怖い思いをする、ということは減っただろう。ただどのタイヤもそれぞれ良いからこそ、自分に合った物を選ぶというのは楽しくもあり、時には難しい。
今回で言えば、ロードシリーズは先述したように「よりツーリングタイヤ方向へと進化」したと言える進化。よって先代のロード5を使っていて「意外やスポーティな走りもできる!」という所に魅力を感じていたライダーがいたとするならば、そういった人は次はスポーティでありながら耐摩耗性やウェット性能もある程度確保している「パワー5」を試して欲しいと思う。一方で高速道路走行が多い人、あるいはタンデムや荷物の積載をして長距離を安定して(雨にもまけず)走りたいという人は、新作ロード6がフィットするはずだ。
(試乗・文:ノア セレン)