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試乗・解説

魅力的な要素を詰め込んで 復活した三叉の矛。 Triumph TRIDENT660
お家芸である並列3気筒エンジンを搭載して、トライアンフ伝統の“TRIDENT”の名前がオーセンティックなストリートネイキッドとして復活した。
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:渕本智信 ■協力:Triumph https://www.triumphmotorcycles.jp 、JAIA 日本自動車輸入組合 http://www.jaia-jp.org/ ■ウエア協力:KADOYA https://ekadoya.com/




魅力的な水冷並列3気筒エンジンをベースにしたロードスター。

 ストリートトリプルSの水冷並列3気筒をベースにした660ccエンジンを積んでいるということで、乗る前からワクワクしていた。なぜならストリートトリプルSはコンパクトな車体でシャキシャキと軽い運動性と、湧き上がるようなトルクとレスポンスが実に気持ちいい走りで、個人的にお気に入りの1台だからだ。
 スロットルを開けたくなる走り好きのツボをしっかりおさえた機種のエンジンを譲り受けた、胸が高鳴るコンパクトなネイキッド、トライアンフ的にはロードスター。それがメーカー希望小売価格100万円を切った97万9千円のプライスタグをつけての登場なのだから、「待ってました!」と心のなかで拍手したい気分だ。
 惹かれたところはそれだけでなく、前側にボリュームを置いて後側を小さくした今風ながら、メーカーロゴが大胆に入ったラウンドした燃料タンク部分などオーソドックスな雰囲気もあるスタイリングが実に魅力的。
 
 逆に、ストリートトリプルSと価格が近く、排気量クラスも同じ故に競合してしまい、トライアンフはどういう棲み分けにしたのだろうかが気になった。大きなお世話かもしれないが、ユーザーが買うときに悩みそう。ただ、そうは言ってもストリートトリプルSのエンジンをベースにしただけで、実際にはエンジンにはきっちり手が入って変わっている。同じ排気量でもボア・ストロークが76.0mm×48.5mmのストリートトリプルSに対し、トライデント660は74.0mm×51.1mmとよりストロークアップ。81PS (60kW)/10,250rpmは、95.2PS (70kW)/11,250rpmのストリートトリプルSより最高出力が低く、最大トルクは66Nm/9,250rpmから64Nm/6,250rpmと、より低い回転数で発揮するようになっている。圧縮比もトライデント660の方がやや低い。
 

 
 ロングストローク化して、最高出力、最大トルクの発生回転数を下げて───というやり方は、よりストリートで扱いやすくするための定番レシピ。スペックだけでもストリートトリプルSとトライデント660の差別化は見えてくる。御存知の通り、いわゆるストリートファイターをベースに古典を感じさせるスタイリングにしたネイキッドモデルが最近多い。ハンドリングの味付けを変更し、過渡特性を穏やかにするのが定番だけど、時にはワインディングを楽しみたい派にとっては穏やかになりすぎてちょっぴり残念に思うこともある。もちろん、これはビギナーを含む多くの人に当てはまる感想ではないから、いろんなバイクに乗ってああだこうだと感想を述べるのを仕事としている立場からすると「間違いではない」と言い切れる。しかし、ひとりのライダーとしては、もっとスポーツ性を残しといて、と思ってしまうのである。

 この作り手側からすればめんどくさい微妙な嗜好にうなずいてくれる人がいると信じて、じゃあ、それらと同じ成り立ちをしたトライデント660はどんな具合なのか。穏やかすぎていないのか。乗り出してすぐにわかった、ちゃんとスポーツライドしたくなるフィーリングがある。安穏さを優先しておらずひと安心(個人的に)。ただ、ストリートトリプル系とは走りが違うのは事実だ。1400mmと400ccクラス並の短いホイールベースをしたコンパクトな車体だから、フットワークが軽くて小気味よく動きながら、ストリートトリプルのフロントからさっと素早く向きを替えていくのとは違い、トレールが大きくしっとりと粘りがあり自分で曲げていく要素が増したみたい。いい意味で角を落としている感じ。前後のサスペンションもソフト。
 

 
 並列3気筒エンジンは、ストリートトリプルの高回転域の伸びの良さを少しシャベルですくって、それをそのまま低中回転域の上にのせたようなフィール。フラットな特性が強まって、スロットルを全開にしてものけぞるようなところはないけれど速度は伸びている。レスポンシブルでも神経質なところがなく、低回転域からでもスロットルだけでよどみなく高回転域までつながっていく。ハンドリングもエンジン特性も急がつくところがない。実にコントローラブル。それでいて、スポーツライド好きが落胆しない軽快な動き。丸く柔らかくはなっているけれど、スポーツモデルという太い柱が中心に正しくあるところを評価したい。
 

 
 それに加え、コンパクトな車体と、アップライトなポジションでゆっくり流して乗っても姿勢が楽で、視線が下を向かず、身長170cm体重66kgの(平均より短足だと思う)私で両足カカトまではいかないが、力が込められる拇指球部分はしっかり接地するシート高だから何にでも使える万能性は高い。試乗したのはクローズされた一般道ではないコースだったので、普段の道では現実的ではない速度で思いっきり飛ばして走ってみた。より攻め込んでいくと今のままでもじゅうぶんだけど、もっと性能の良い前後サスペンションだったらさらにおもしろいのに、と思ったから、試乗を終えてトライアンフのテントにいたスタッフに「お金をかけたサスのトライデント660RSが欲しいです」と言ったら笑われた。トライデント660はストリートトリプルより万人向けスポーツとして棲み分けがはっきりとできている。スポーツ過ぎない、穏やかすぎない良いあんばいだ。
(試乗・文:濱矢文夫)
 

ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

ストリートトリプルSの水冷並列3気筒DOHC4バルブエンジンをベースにしながらボア・ストロークを変更し、圧縮比も下げられている。吸気にはマルチポイントシーケンシャル電子燃料噴射を採用し、排気はステンレス製3 into 1レイアウトのショートタイプマフラー。1万250回転で最高出力81PS (60kW)を発生する。フレームはチューブラースチールのペリメータータイプ。変速は6段。スリップアシストクラッチと解除も可能なトラクションコントロールを装備する。
トライアンフのロゴを大胆に使った燃料タンク部分。形状と、ニーグリップラバー風のデザインがオーソドックスな雰囲気を醸し出している。燃料タンク容量は14L。イグニッションキーの差し込みはトップブリッジよりライダー側、フレームのネックの部分。

 

アルミ鋳造のフロントホイールは17 x 3.5サイズ。タイヤは120/70R17サイズのミシュラン・ロード5。ダブルディスクブレーキのローター径は310mm。キャリパーはニッシン製ピンスライドの型押し2ポッド。SHOWA製インナーチューブ径41mmのSeparate Function front Fork [SFF]を装着。
スイングアームはアルミではなくスチール製。ショートテールで行き場を失ったリアフェンダーとナンバーはスイングアームマウント。リアサスペンションはプリロード調整機能のあるSHOWA製モノショック。φ255mmシングルディスクとニッシン製シングルピストン。もちろん前後ABS付。リアホイールサイズは17 x 5.5。履いているミシュランのロード5サイズは180/55R17。

 

ライダーに近くアップライトなポジションを提供するパイプのハンドルバー。手前へ適度に絞られていて手首に負担がかかりにくい。100万円を切る価格で、電子制御スロットルにシンプルながらTFTカラーディスプレイを使うマルチファンクションメーターなのは立派だ。ライドバイワイヤによるライディングモードは『ROAD』『RAIN』の2種類。灯火類はすべてLED。ウインカーには自動キャンセル機能もある。

 

●Triumph TRIDENT 660 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク並列3気筒 ■総排気量:660cm3 ■ボア×ストローク:74.0×51.1mm ■圧縮比:11.95 ■最高出力:60kw(81PS)/10, 250rpm ■最大トルク:64N・m/6,250rpm ■全幅×全高:795×1,089mm ■ホイールベース:1,400mm ■シート高:805mm ■車両重量:190kg ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式: 6段リターン■タイヤ(前・後):120/70 R17・180/55R 17 ■ブレーキ(前/後):デュアルディスク・310mm/シングルディスク・255mm ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):979,000円

 



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2021/05/21掲載