バイクのEV化で脱炭素社会を推進
日本郵便が全国の配達局に導入したホンダの「BENLY e:」は約200台。同社はこれを今年度中に10倍の2000台まで増やす予定だ。
視察先の日本橋郵便局には、あわせて72台の二輪車がある。これまでに10台がエンジンバイクから「BENLY e:」に置き換えられた。さらに18台を追加配備する予定だ。少しずつだが着実に郵便カブから電動の赤いBENLY e:に、郵便配達の風景は変わりつつある。
小泉氏は視察のきっかけをこう言う。
「新型コロナの流行でフードデリバリーなどのラストワンマイルの配送の需要が非常に伸びていることもあって、新たな日常、ニューノーマルにおける取り組みの一つとして、二輪のEV化によるCO2の削減、これが非常に重要だと考えています」
ホンダは「BENLY e:」をはじめとして「PCX ELECTRIC」など異なる電動コミューターのバッテリーを共通化。このバッテリーを交換式にすることで充電の待ち時間を実質0にして、エンジンバイク以上の使い勝手のよさを実現することを目指している。単にエンジンバイクからEVバイクに切り替えるだけの単純な脱炭素でないところも、小泉氏の関心を引いた。
「交換式のバッテリーステーションが災害時に非常用の電源として活用されることにも期待をしています」
日本橋郵便局にはホンダの「BENLY e:」の開発担当者が駆けつけ、小泉氏に交換式バッテリーの装着方法などを説明した。郵便局のバッテリー充電は、単体の急速充電器をラックに複数台並べて置いただけのものだが、これがバッテリーステーションに成長する未来に小泉氏は期待を寄せる。
「今は会社の敷地内ですが、将来的には町中にもバッテリーステーションが置かれることで、いざという時の防災面の非常用の電源としてさまざまな社会の利用が可能となる。例えば、今の時代、災害時の情報をつかむうえでもスマホの充電ポイントがしっかりあることは不可欠。会社や家族との連絡を取る上でも欠かせないですよね。将来的にはこういうバッテリーステーションが町中にあって、スマホの充電も可能な絵姿を描いています」
そして、バイクのEV化を力強く後押しする言葉を残した。
「環境省では今年度からラストワンマイルの配送車両のEV化の支援を開始しています。日本郵便では今後、配達業務用の電動二輪車を導入すると、環境省としても後押し、すでに支援が決まったと承知しています。このほかフードデリバリー業界をはじめとして関心を示している事業者が複数ありますので、これからも案件形成をしっかり進めていきたい」
『もっと軽く、もっと整備をしやすく』厳しいユーザーの声
しかし、ヘビーユーザーである郵便配達社員は「BENLY e:」に厳しい注文を付けた。小泉氏との対話で「使っているお2人から感想を」と求められた若い女性配達員は、こう話した。
「郵便局でも女性が増えてきています。バッテリーが1つ10kgというのが、けっこう重たいなと思ってしまって。もしできたら、もう少し軽くなったらいいと思っています」
日本橋郵便局では午前中の配達から帰社すると、充電器にバッテリーを差し込む。充電されたバッテリーは、午後の配達で出発するときに再び装着する。1日最低2回、バッテリー重量の軽減は、まさに疲労の蓄積を軽くすることに直結する。
さらに、男性社員も改善点をあげた。
「自分も使っていると、スーパーカブより気持ち馬力はある感じがしていて、コーナーリングも曲がりやすい気がします。これからガソリンスタンドが少ない地域でも使えて、将来的にも気になるバイクだと思っていますが、ひとつだけ言うと、タイヤなどの点検がしにくい」
エンジンバイクと比較すると、EVバイクの不満はまだ多い。日本郵便の担当者もEV化を妨げる要因をこう指摘した。
「気になるのが航続距離。広域のテリトリーを持っている配達局も多いが、適応できないところもある。バッテリーの消耗が激しいので、その耐久力がよくなるといい」
同社の厳しい指摘には、理由がある。
「2025年にはユーロ5の規制が強化されて、50ccについてはEVでないと環境性能がクリアできないと聞いている。私共が今後も二輪を使っていくとなると、その頃にはそういう動きをとっていかないと続けられなくなる」
2025年は遠い未来ではない。日本郵便にとっても、エンジンバイクに引けを取らないEVバイクの登場は喫緊の課題だ。それなのに、バイクのEV化は四輪車と比較してもはるかに遅れている。
「日本郵便やホンダのような先行的な取り組みを実施している人と連携しながら、環境省としてラストワンマイルの配送のEV化、これを力強く進めていきたいと思います」
そんな中で、小泉氏の言葉は、力強い後押しとなるだろう。
(レポート:中島みなみ)