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第4回 メーカー不明の怪しげな激安ボアアップキット、圧縮比を計測してみたら……

 新型コロナウィルスによる外出自粛規制の影響でバイクをいじることができません。というのもバイクをいじる場所が自宅ではなく、ちょっと離れた場所だから。県境を跨ぐ移動を伴ってしまうからなのです。そんなことを書いておけば、更新が滞っていたのを許してもらえそうな気がしたので、言い訳っぽく書いてみましたが、今レポートさせていただいている作業をしたのは昨年秋……。外出自粛は全く関係ありませんね(笑)。

 さて、ボアアップキットを組み付けの続きです。組むに当たって、ちょっと気になることがあります。圧縮比がそれ。今回使うメーカー不明のボアアップキットは、ノーマルヘッド用、つまり排気量が増えても、ヘッドの燃焼室容積はノーマルのままで大丈夫というキットだと思われます。しかし排気量は50cc→80ccと1.6倍にもなるわけですから、圧縮比が相当高くなると思われます。エイプ50のノーマルの圧縮比は9.2:1なのですが、どれぐらい高くなってしまうのでしょうか? 

 言うまでもなくですけど、エンジンにとって圧縮はとても重要な要素のひとつです。高性能化には高圧縮化が必須。しかし高過ぎるとデトネーションの発生やポンピングロスの増大などの問題が発生します。そんなこともあり、メーカーのエンジニアさんや、エンジンチューナーさんなどは、カムシャフトのオーバーラップ量とか、求めるパワーとか、使用するシチュエーションとか、そんなもろもろの要素から圧縮の設定を行っているようです。

 メーカー不明の80ccボアアップキットを組み込んだ場合、圧縮比は実際のところいくつになるのか? 残念ながら説明書などに組み込み後の想定圧縮比の記載はありません。ちなみに一流メーカーのボアアップキットも、エイプ50用はノーマルヘッド用がほとんど。一流メーカーのボアアップキットなら、組み込み後の想定圧縮比などの情報も公開されているであろうと、ウェブサイトで検索してみたのですが、残念ながらどこにもボアアップ後の圧縮比に関する情報を見つけることができず(汗)。

 一流メーカーのキットなら、「メーカーが大丈夫と言っているんだから……」と自分を納得させることもできますが、メーカー不明の怪しげなボアアップキットとなると、正直なところちょっと心配です。そこでボアアップ後の圧縮比を計測してみました。ちなみに圧縮比は、上死点時のシリンダーと燃焼室の合計容積と下死点時のシリンダーと燃焼室の合計容積の比率。例えば下死点時の容積が50ccで上死点時の容積が5ccなら圧縮比は10:1となります。

 それでは上死点時、下死点時それぞれの容積をどう計測するか? まずはヘッドの燃焼室の容積を実測します。ピストントップの形状が完全にフラットで、上死点時にシリンダー上面とピストン上面が同じ高さとなるエンジンであれば、上死点時の容積は、ヘッドの燃焼室容積にヘッドガスケットの厚さ分の容積を加えたものとなります。下死点時はそれに1気筒分の排気量を足したものとなります。しかしピストントップ部が山型に盛り上がっていたり、バルブリセスが掘ってある場合は、実質の燃焼室容積は増減するため、その部分の容積を計測する必要があります。ちなみに今回組み付けるボアアップキットのピストンは、まさにその山やリセスがあるタイプとなります。

 実測した各部の容積はというと、まずエイプ50のノーマルヘッドの燃焼室容積が6.85cc。ちなみに可能な限り正確な計測値とすべく、5回計ったものの平均値となります。そしてピストンヘッド部の凹凸部分容積。これはシリンダーとピストンをエンジンに仮組みし、上死点からピストントップの凸部がシリンダー上面よりも低くなる任意の位置まで下げた状態で、シリンダー上面までの容積を液体を使って実測し、ボアに任意に下げた位置までの長さを掛けることで算出した円柱容積から実測値を差し引くことで求めることができます。その実測値が11.11cc。ピストンを上死点から5.43mm下げて計測していたので、ピストントップに凹凸がなければ11.93ccの容積となるので、そこから実測値の11.11ccを引くと0.82ccという数字がはじき出され、これがピストントップの凸凹部分の容積となります。

 ヘッドの燃焼室容積である6.85ccからピストントップの凸凹部分の容積0.82ccを引くと6.03ccとなり、これにガスケット厚(0.25mm)分の容積となる0.55ccを足すことで、上死点時の実質容積が6.58ccと判明しました。下死点時はそれに排気量となる78ccを加えた84.58ccとなります。よって圧縮比は84.58÷6.58でおおよそ12.9:1と判明しました。

 12.9なんていう圧縮比は、フルチューンしたエンジンなどでよく聞く数値。ちょっと高過ぎる気がします。そこでチューニングに詳しい方何人かに聞いてみると、「すごいカム入れてフルチューンするならともかく、ちょっと高過ぎじゃない?」的なお答えばかり。街乗りやツーリングがメインとなるXLR80Rのエンジンにはちょっと? いやかなり? 高過ぎるようです。さて、どうするか? 対応策は次回レポートさせていただきます。

シリンダーヘッド
取り外したエイプ50のシリンダーヘッドです。結構カーボン蓄積してまして(その割に排気バルブが焼けてる?)、このままではこびり付いているカーボン分燃焼室容積が狭くなっていて正確な燃焼室容積が測れないので、まずは洗浄してやることにしました。

洗浄
洗浄と言っても、当初はバルブをバラす気もなかったので、燃焼室をエンジンコンディショナーを満たす作戦。エンジンコンディショナーは洗浄能力がかなり高いので、カーボン汚れもいい感じで落としてくれます。しかしバルブ自体とその周辺の汚れを落とし切れず……。

バルブを分解
汚れを落としきれないので、バルブを分解します。昔クルマ(と言っても軽自動車ですけど)のエンジンを組む時に使っていたシリンダーヘッドスタンドとバルブスプリングコンプレッサーで作業しました。スタンドの方は原付のエンジンには少々大き過ぎですね(笑)。

バルブ
取り外したバルブは、ボール盤がないので電気ドリルにくわえさせて、真鍮ブラシで焼き付いたカーボンをこすり取ってやります。せっかくなのでステム側もきれいにしたので、吸排気効率もこれまでよりはよくなってくれるはず。鏡面加工などマニアックなことはしません。

インテーク、エキゾースト
磨いて地肌が出たインテーク、エキゾーストそれぞれのバルブを再びシリンダーヘッドに組み込んだ状態。これで誤差少なくと燃焼室容積を測定できます。写真ではまだ装着されていませんが、測定時には、スパークプラグ(勿体ないので中古品)を装着します。

アクリル板
穴を開けたアクリル板を、グリスを接着剤(?)代わりにしてシリンダーヘッドのシリンダーとの合わせ面に貼付けます。そして穴から灯油に適度な粘度増しと色づけの為に2ストオイル混ぜた溶液を注射器を使って注入。その注入量が燃焼室の容積となるわけです。

ボアアップ用52.9mm径ピストン
前回もお見せしたボアアップ用52.9mm径ピストン。ご覧のようにピストントップ部が盛り上がる形状で、さらにいえば吸排気バルブの逃げとなるリセスも掘られています。この部分はシリンダーヘッドの燃焼室に突き出すことになるので、正確に容積を計る必要があります。

何mm下がったかを計測
ピストンとシリンダーをクランクケースに組み、ダイヤルゲージで上死点を出し、そこからピストントップがシリンダー上面よりも低くなる位置まで下げ、何mm下がったかを計測します。切りのいい数値なら後の計算が楽なんですが、思い通りクランクが止まらず、止まったところで計測しました。

灯油と2ストオイル溶液を注射器で注入して測定
シリンダーヘッドの時と同じように、灯油と2ストオイル溶液を注射器で注入して測定。ちなみに使用している注射器は、ガラス製の浣腸器(笑)として売られているものを使用してます(もちろん新品で購入してます)。樹脂製もありますが、ガラス製の方が精度が高いようです。

ツボ8
ツボ8(戸籍上は坪内英樹):主に四輪誌などで活躍中のフリー・ライター。月刊四輪誌「ジェイズ・ティーポ」(現在休刊)在籍時代には510ブルーバードや240Zのレストア&日本一周の企画を大成功させた立役者。二輪免許は小型限定しか持っていないという筋金入りのG2(原付二種)フリーク。趣味はスクリューマウントのスーパータクマ―レンズを装着したEOS20Dでの写真撮影。



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2020/06/11掲載