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英国人ジャーナリストが直撃インタビュー! ホルヘ・ロレンソ、“99”パーセントに変化はあるのか!?

ホルヘ・ロレンソが戻ってきた。負傷に泣かされた2019年は思いどおりのライディングをできず、もはやモチベーションの維持が難しいという理由から、最終戦バレンシアGPで現役活動からの引退を表明。このニュースで世界を驚かせた彼が、約2ヶ月半を経て古巣のヤマハでテストライダーに就任したことを発表し、またしても世の中をどよめかせた。プレシーズンテストが行われたマレーシア・セパンサーキットで早速活動を開始したロレンソに、気鋭の英国人ジャーナリスト、サイモン・パターソンが真っ正面から質問をぶつけた。
●インタビュー・文:サイモン・パターソン ●翻訳:西村 章

まずは、2019年末に引退を決意するに至った経緯について、あらためて聞かせてください。

「ドゥカティ時代にムジェロ(イタリアGP)で優勝する前は、厳しい時期が続いたんだ。自分が望んでいたようなリザルトを獲得できず、ドゥカティは他のライダーと契約する意向だったため、ぼくの側も対応をせざるをえなかった。自分としては、ライダー人生の中でも調子がよく速さを発揮して研ぎ澄まされた状態だったけど、いろんな事情からいい成績を残せず、ドゥカティに残留できなくなった。ペトロナスヤマハへ移籍するという選択肢があって、サインする直前までいったけれども、ホンダに乗るチャンスが浮上してきた。断れるはずがないよね。だって、ホンダでレースをするのはライダーなら誰もが夢に思い描く、人生で一度は経験してみたいことなんだから。その話から3週間ほどで、3メーカーで勝つという史上稀なことを実現するチャンスを摑んだ、というわけなんだ。

 でも、舟状骨を骨折して状況がおかしくなり、2019年型バイクに苦労することになってしまった。ケガが原因で、いろいろと面倒なことになった。全然高い水準で走れなかったし、いいリザルトも残せなかった。そして、アッセン(第8戦オランダGP)でケガをしたことが最終的な決断につながっていった。あれがなければ今でも現役としてもう一年走っていたと思う。でも、あの負傷で自分の考え方が大幅に変わって、引退、ということが現実味を帯びてきた。シルバーストーン(第12戦イギリスGP)で復帰したときは、モチベーションがまだ自分の中にあってやり直せる自信を見いだせるのならがんばろう、と思ったけど、もはやそれがない状態でこれ以上耐え続けることはできなかった。
 勝たなきゃ、おはなしにもならない。ぼくは今まで戦い続けてきたのは、勝つ可能性があるからこそなんだ。世界じゅうを転戦することやイベントの参加、レースで押しつぶされそうになるプレッシャー、ケガをする危険性等々、辛いことはあまりにたくさんある。勝つことでようやく、その埋め合わせをできるんだ。ホンダでは苦しく辛いことばかりが続いたので、埋め合わせになるものがなにもなかった」

では、引退はすぐに決断できたのですか?

「苦渋の決断だったよ。だって、ホンダとアルベルト・プーチがぼくに抱いてくれた信頼に対して、自分からはなにひとつお返しをできなかったんだから。でも、ぼくもホンダも、勝つためにレースを必死で戦ってきた。10位や15位で満足するような人たちとは違うんだ。だから、2019年はぼくたちにとってかなり不本意なシーズンだった。勝てる状態のときなら人生はあんなにも愉しいのに、苦しいことばかりが続いたよ。

 後悔はしていないよ。後悔したところで、いまさら何かを変えられるわけではないからね。でも、もしもドゥカティ時代に1ヶ月早く優勝できていたなら、今ごろはどうなっていただろう、と思うことはあるよ。きっと、今こうやってあなたと話をしていなかっただろうね。自分のレース人生を振り返ると、ぼくは本当に幸運な男で幸運なスポーツマンだったと思う。そのことを誇らしく思っているし、とても幸せにも感じている。なにより、いまは手首も大丈夫だし、背中もまったく問題ない。痛みが残るんじゃないかとも思ったけど、いまのところは大丈夫だね」

ホルヘロレンソ

ヤマハとの契約は、どんなふうに進んでいったのですか?

「引退を発表したとき、ヤマハがぼくに興味を示してくれたんだ。自分の好きなことに参加できてバイクに乗れるのだから、申し分のない役割だと思った。プロジェクトの一員として改良に参加しているという実感を得るのは、やっぱりいつもいいものだよ。この仕事だと、たくさん飛び回るわけではなく、レースウィークにパドックで皆に囲まれてプレッシャーを感じることもない。悪いことがなくていいことばかりなんだから、『これはやるしかないね』と思った。ただ、MotoGPのレースで勝ちを目指すというレーサーの感情だけは得ることができないけれども、でもまあ、人生で何もかも手中に収めるなんてことは不可能なわけだからね。

 ぼくがなにかをするたびに、たとえばクルマを買ったりなんらかの発表ごとがあったり、そのたびに世の中の注目を集めていろんな深読みをされたりもするけど、自分としてはただやりたいことをしているだけなんだ。いま、こうやってヤマハにいると、いいことばかりで悪いことがなにもない、という気がするし、馴染みのあるチームに戻ってきたんだなと思う。べつにドゥカティやホンダでひどい扱いを受けたというわけじゃないよ。まったく逆で、彼らはいつもぼくにすごく良くしてくれたし、最高のものを提供してくれた。ドゥカティにもホンダにも友だちがいる。でも、ヤマハにいるのは、また違うんだ。バイクも、自分のラィディングスタイルとフィーリングがピッタリ合うからね」

あなたの性格はよく物議を醸してきましたが、ここしばらくはそれも変わってきたのでしょうか。

「ぼくに対して批判的な言説が多かったおもな理由は、バレンティーノと戦ってきたからだと思うんだ。2015年マレーシアの一件があった後は、とくにね。でも、時間は最大の特効薬だよ。人はいいことも悪いこともすぐに忘れてしまうからね。時間が経つことで、ファンの人たちもぼくのことを少しよくわかってくれるようになったと思う。あるいは、ぼくが人として少し変化したのかもしれない。昨年のバレンシアで行った記者会見で、心を寄せてくれた人もひょっとしたらいるかもしれない。だから、人々のぼくに対する反応もよくなっていったんじゃないかな。

 今のぼくは、ファクトリーライダーとして配慮をする必要はないし、スポンサー活動もしていない。ソーシャルメディアでも、ある程度自分らしくふるまうことができる。ありのままの自分を見せることができるんだ。多くの人は愉しんでくれていると思うけど、なかにはそうじゃない人もいる。旅をすることや自分らしさを満喫していることを妬む人たちもいるけれども、それが今のぼくの本当の姿なのだから、やがて慣れてくれるのではないかとも思う。人間である以上、誰しも多少の嫉妬の感情からは逃れられないのだろうけど、そこはうまく折り合いをつけていくしかないよね」

ヤマハで2020年に再び仕事をすること、そしてファビオ・クアルタラロ選手の活動を支えることが愉しみでしょう?

「レースに勝ってチャンピオンを争える選手を3人も擁しているのは、現状だとヤマハだけだ。ホンダはいまのところマルクしかいないし、スズキはリンスひとり。ミルはまず初表彰台の獲得が目標だからね。ドゥカティも3名の有力選手がいるけど、同じ3人でもヤマハのほうが可能性は高い。

 ファビオのパーソナルな部分での性格は、誰ともいさかいを好まずいつもニコニコしているキャラクターだ。レースモードになるとガラッと変わってエネルギーの塊になるけど、いったんヘルメットを脱ぐとすごくクールなヤツなんだ。彼を嫌う人がいるとは思えないね。ホントに愛すべき性格だよ。いまのヤマハは、将来性のあるとてもいいチームだね。自分以外の誰かにレースで勝ってほしいと思ったのは、生まれて初めてだよ(笑)。去年は自分が1勝もできなかったので、マルクが勝ってくれたのはチームのためにもうれしかったけど、いまは本当に、バレンティーノとマーヴェリック、ファビオの3人に勝ってほしいと思っているんだ。フランコも、そこに加わるまであともうちょっとだよ」

ホルヘ
ホルヘ

ロッシ選手との今の関係はどうですか?

「真っ正面から競い合っているかぎり、親しくするのはムリだよ。だって僕たちは、MotoGPという舞台で殺し合ってるようなものなんだから。マルクは必殺者だよ、バレンティーノもそう、ぼくもそうだった。ぼくたちはいつも勝つことを目指し、そのためなら誰にも一歩も譲らない。そういう状態では、共に仲良く時間を過ごしたり、親近感を持って交流したりすることはすごく難しい。相手を憎んでいるわけじゃないにしても、遅くなれと思うし、毎回相手を打ち負かしたいと考えている。2015年のセパンで感情がぶつかり合ったときには、摩擦が発火して関係がさらに悪くなった。バレンティーノとの関係に関しては、お互いの距離が広くなればなるほど関係も良くなる、ぼくは常にそう言ってきた。少なくともいままでならね。一番関係が良かったのは、彼がドゥカティにいたとき、あるいはぼくがドゥカティにいたときだと思う。でも、現在はいままでにないくらい近い距離にいる。ヤマハの勝利という共通の目標があるからね」

ホルヘ
ホルヘ

2020年にワイルドカード参戦をする予定はありますか?

「モンメロ(第8戦カタルーニャGP)で参戦するとかいう話が流布しているようだけど、いまのところはまだなにも決まっていないんだ。懸賞でぼくのヘルメットを勝ち取った人に会うためにサーキットへは行くけれども、選手としてそこにいくのか観戦するために行くのかはまだ未定だ。バイクに乗ってみたときの自分の印象次第だろうね。非常に高いレベルの走りをできて、いいペースでレースを走りきれそうなら、ひょっとしてありえるかもしれない。速く走ることとレースペースがいいことは、また違うからね」

そこでうまく行けば、現役復帰もあり得ますか?

「現在のところは、いまの自分の役割で満足している。この20年間できなかった生活を、いま満喫しているんだ。いろんな計画や新しいことなどで、やりたいことが山のようにある。でも、人生はわからないことだらけだからね。去年のバレンシア後なら、99パーセント否定したね。でも、いまは98パーセントかな。この2ヶ月で1パーセント減ったから、この先も減ってゆくかもしれないけど、でもいまのところの返事は〈ノー〉だね」

ホルヘ

ホルヘ


[パオロ・イアニエリのインタビューシリーズ第9弾 ホルヘ・ロレンソに訊くへ ※旧PCサイトに移動します]

2020/02/17掲載