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レース・イベント






2025年スーパーモトクロス世界選手権(SMX)250ccクラスのチャンピオンに輝いた下田 丈選手(23歳・Honda HRC Progressive所属)が、アメリカから帰国。このビッグタイトル獲得を祝う凱旋イベントが11月18日、都内『ベルサール秋葉原』で開催された。スペシャルゲストとのト-クショー、じゃんけん大会やサイン会などで、詰めかけた多くのファンと交流のひと時を過ごした。
■文・写真:高橋絵里

 今や全米で、日本で、いや全世界で『ジョー・シモダ』の名を知らないモトクロスファンはいない。
「チャンピオンになることは長らく自分の悲願でした。その目標を絶対達成したいと思いましたから、それが叶って本当によかった」
 下田 丈選手は今年9月、SMXチャンピオンの栄光を手にした最初の日本人ライダーだ。
 今シーズン、1月開幕のス-パークロス選手権シリーズ・250westクラスでランキング4位、5月開幕のプロモトクロス選手権シリーズ・250クラスでランキング2位を獲得。両シリーズ中にはもちろん優勝シーンも見せてくれるトップライダーだ。そして9月のスーパーモトクロス(SMX)全3戦は、スーパークロスとプロモトクロスのトップライダー達に出場権が与えられ、シーズン最後に両シリーズの真の王者を決めようといういかにもアメリカらしい大会。ここで下田選手は、激闘を勝ち抜いて見事世界王者となった。

#下田 丈
#下田 丈
ゲストトークのトップはHRCエグゼクティブアドバイザーの佐藤琢磨さん。2017年・2020年インディ500チャンピオンの佐藤さんは日本人がアメリカで活躍する事の大変さを知る一人だけに、「英語でのコミュニケーションが重要。常にきちんと主張して自分を解ってもらう、パフォーマンスを発揮するための環境を作るところが一番難しいんです。そこで勝ち抜いたのだから、丈選手のセンスとか嗅覚がダントツに良かったんでしょうね。チャンピオンとしてこの瞬間を楽しんでほしいです」と祝福した。

 2019年にプロデビューしてからこれまでの、おそらく彼にだけしか解らないであろう悔しさや辛さ苦しさ、我慢したこと頑張ったことのすべてが報われた瞬間だったに違いない。
「SMXは3戦で6レースあって1回のミスができない中で、今回チャンピオンを獲得できたのは本当に嬉しいです。監督のラーズさん、家族全員、スタッフ全員に恵まれている環境の中、みんなの支えがあってのチャンピオン獲得だったと思うので、感謝の気持ちで一杯です」
 そう語る下田選手は、長身でスリムで爽やかで、さらに穏やかで礼儀正しい。普段からトップアスリート特有のパワーや強気な雰囲気を前面には出さない、という性格もあるのだろうが、モトクロスという激闘に必要不可欠なファイトや根性は、彼のスリムな鎧の中にきちんと格納されている。気さくで優しいその雰囲気にファンは皆『ジョー君!』『ジョー君!』と親しみを込める。

#下田 丈
#下田 丈
ラーズ・リンドストロム監督も来日。「Jo選手のアメリカでのチャンピオンシップ獲得は素晴らしく、ホンダにとっても特別なものです。それを手助けすることができて本当に嬉しい。マッピングなどセッティングについてJo選手から沢山のコミュニケーションをもらってマシンを作り上げることができ、スタートが良くなったことで自信を持ってレースに臨んで、成果に結びつけられるようになりました。Jo選手はフィジカルが強くライディングスタイルはとてもスムーズ、クレバーでユーモアのセンスもある。そういうところもアメリカのメディアやファンの皆様方にすごく愛されているポイントだと思います」と下田選手を絶賛。

 イベントステージは、下田選手が今シーズンを振り返るトークで始まった。スーパークロスとプロモトクロスの競技の違いやそれぞれの特徴について話すうち、下田選手がこう言った。
「例えば『太鼓の達人』でいうなら、スーパークロスは短い『おに』ハードレベルで、プロモトクロスは普通くらいのレベルを30分つなげる、という感じです」
 これには会場全体が「なるほど~」と多いに納得してすっかり和やかな雰囲気に。そしてSMXタイトル獲得に至るまでの現場の状況や本音の心境について、詳しく話してくれた。
 コースはスーパークロスとプロモトクロス両方の特徴を合わせたレイアウトで作られ、さらにポイントシステムが非常に独特で2戦目はポイント2倍、3戦目は3倍加算されるためタイトルの行方は最後まで解らない。つまりは多くのライダーにチャンピオンのチャンスがあり、最終戦にいくほどレースは熾烈な様相を呈する。

#下田 丈
#下田 丈
BMXフリースタイルの中村輪夢選手(左)、全日本モトクロスIA1チャンピオン大倉由揮選手(右)と下田選手、3人ともに幼少の頃からバイクや自転車に乗り、夢を持って頑張る者同士の軽快トーク。「レースや練習以外のプライベートでも乗るか? 乗らないか?」では意見が分かれる場面も。中村選手がその場でBMXパフォーマンスを見せると、大倉選手の「イメージできてきました!」と、下田選手の「絶対ムリ!」で会場大盛り上がり。

 下田選手の全3戦を振り返ると、第1戦のモト1(決勝第1レース)は接触転倒に見舞われたが後方から3位まで追い上げた。モト2(決勝第2レース)はまさかの雷雨のためレース中止となり、よって下田選手は総合3位。続く第2戦、今度は下田選手がまさかの事態で「インフルエンザだったのかも。高熱が出て体調不良の中で集中できない、ご飯も食べられなくてエネルギー切れの状態で走りました」と言うが、そんな中でもモト1・モト2共に2位フィニッシュにより総合優勝を遂げるあたり、尋常ではないというかさすがというか。これによりポイントリーダーとなって、最終戦で総合2位以上になればといったタイトル計算も見えてきた。
「ポイントが3倍になるので他のライダーにもチャンスがあるし、ポイントリーダーの自分は狙われる、プレッシャー的にも大変でした」

#下田 丈
#下田 丈
展示マシン、ステージ脇の2台は#30下田丈車、#1大倉由揮車。さらにジェット・ローレンス車(プロモトクロス・SMX)、トニー・ボウ車(トライアル)、ティム・ガイザー車(MXGP)、リッキー・ブラベック車(ダカールラリー)の、世界で活躍するHRCマシン展示で注目を集めた。

 第3戦モト2、ライバルからのあからさまに執拗なアタックを、下田選手は冷静にかわし続けた。接触転倒で怪我をしたり、バイクが壊れて走れなくなることを一番避けたかったと言う。
「やっぱりモータースポーツで接触は本当に危険なので、僕が意識したのはなるべく接触を避けること。本当に怪我をしたくなかったので、気配を感じたらできるだけペースダウンして注意して」
 そんな状況下での“忍耐力”もまた下田選手の強さだ。ギリギリのせめぎ合いの中で一時は両者が転倒するシーンもあったが、下田選手は落ち着いて再スタート、結果的に総合優勝を決め、アメリカで日本人初のチャンピオンとなった。プレッシャーが膨らむ中でも勝つメンタルが、今シーズンの自分が成長したところ、と下田選手は自己分析する。

 トークショーも豪華絢爛な顔ぶれで、HRCエグゼクティブアドバイザーの佐藤琢磨さん、Honda HRC Progressive監督のラーズ・リンドストロムさん、BMXプロライダーでオリンピック日本代表、X Games Osaka2025優勝の中村輪夢選手、2025年全日本モトクロスIA1チャンピオン大倉由揮選手というビッグフェイスが次々ステージへ上がり、それぞれの競技のアスリート・トークで下田選手を祝福した。

#下田 丈
#下田 丈

#下田 丈
#下田 丈
トークショーに続いて下田選手のサイン入りグッズが当たるじゃんけん大会が賑やかにおこなわれ、レース着用ウェアやキャップ、ゴーグルなどがプレゼントされた。イベントの最後には下田選手と大倉選手によるサイン会が開かれ、ファンの皆様の長い列ができた。

#下田 丈
下田選手は2026年もラーズ監督率いるHonda HRC Progressiveからスーパークロス、プロモトクロス、ス-パーモトクロスに参戦予定。そして2025年に続き『FIMモトクロス・オブ・ネイションズ』日本代表の最有力候補。「好きな食べ物は、卵かけご飯。僕は地元が鈴鹿で伊勢が近いんですけど、卵かけご飯専用の伊勢の醤油を5、6個買ってスーツケースに入れてアメリカに持ち帰ります」これぞニッポンのTKGパワー、来シーズンも下田選手の活躍に期待しよう。


■下田丈選手 プロフィール
2002年三重県生まれ。4歳でモトクロスを始め国内キッズレースで活躍後、海外へ進出し欧米の大会に出場、2016年全米アマチュアモトクロス選手権スーパーミニ2クラス優勝。2017年アメリカFactory Conneciton アマチュアプログラム契約。2019年終盤プロデビュー。2020年AMAスーパークロス ルーキー・オブ・ザ・イヤー受賞。2021~2023年Pro Circuit Kawasaki契約、2021年日本人として初めてAMA SX優勝。2022年日本人として初めてAMAプロモトクロス総合優勝。2024年よりHonda HRC Progressive契約。2025年SMX250クラスチャンピオン。2025年『第55回内閣総理大臣顕彰 日本プロスポーツ大賞 敢闘賞』受賞。


2025/12/26掲載