7月末にロンドンで行われた試乗会では「スクランブラー650」も発表された。Part1で紹介した「バンタム350」試乗の帰り道は「スクランブラー650」にも試乗することができた。
- ■試乗・文:河野正士
- ■写真:BSA
- ■協力:BSA https://bsacompany.jp、ウイングフット https://wingfoot.co.jp
- ■ウエア協力:クシタニ、アルパインスターズ
インドからの再出発
エンジンやフレームといったプラットフォームは、先に発売された「ゴールドスター650」と共通。排気量652cc水冷単気筒DOHC4バルブ・ツインスパークのドライサンプエンジンは、スチールパイプ製のダブルクレードルフレームに搭載されている。そして、スクランブラースタイルの採用に合わせて、フロントホイールの19インチ化や、ハンドル形状やシート、および前後サスペンションを変更。それによりシート高はゴールドスター650から38mmアップの820mmとなり、車体全体のサイズ感も一回り大きくなっている。
跨がってみると、その大きさは歴然だ。発表会会場に展示されていたゴールドスター650に跨がることができたが、それは排気量や見た目からは想像できないほど足着き性が良い。それに比べると「スクランブラー650」は、やはり大きい。そう感じさせる理由は、高くなったシートによるものだけではない。スクランブラースタイルのハンドルは幅広く、高くなっただけではなく、垂れ角がほとんど付いておらず、グリップ位置が遠い。そのハンドルを掴むためには肘を開き、さらにはシート前側に乗らざるを得ない。ハンドルマウント部を緩めてバーハンドルをライダー側に傾けたり、ハンドルを変えたりすることで、この印象は変えることができるだろう。
そして「スクランブラー650」を走らせた印象は、なんとも不思議な感じだった。というのも試乗前、大排気量シングルエンジン特有の唐突なパワー感なのか、それともクラシカルなスタイルに合わせてモッサリとしたフィーリングなのか、想像していたからだ。
低回転域は非常にスムーズで力強く、スタート後にさっさとシフトアップしていって、高いギアをキープしたままでもアクセル操作だけでトトッと加速していく。感覚としては、どのギアを選択しても、どの回転域でも、アクセルを開けるとトトッと前に出る。このトトッというフィーリングは、ビッグシングルで造り上げるのは難しい。そして、そのときのエンジンの爆発は角が丸くて柔らかく、かつチカラ強いのだ。
この単気筒エンジンはふたつのカウンターバランサーが装備されていて振動をしっかりコントロールしているほか、燃調や点火時期、ギアレシオを吟味して最大トルクの約70%を1800回転ほどで発生する。どこからでも、トトッと加速する理由は、ここにあった。唐突なパワー感やモッサリ感といった走行前の想像は、見事に裏切られた。
そこからアクセルをさらに大きく開けると、もうひとつの驚きが待っていた。今回の試乗コースには高速道路もワインディングも含まれておらず、高い速度域および高回転域のエンジンや車体のフィーリングを試す機会が無かった。郊外の開けた道路で、何度か最高出力が発生する6000回転オーバーまでエンジンを回すことができただけだった。その領域では非常に力強く、速い。そのフィーリングは、同等の排気量ながら、よりビッグボア/ショートストロークなエンジンレイアウトを採用するライバルメーカーのスポーツシングル・モデルの、ピックアップの速いエンジンとは違う。次回は是非、ワインディング高速道路など、高い速度域やスポーティな走りでそのエンジンフィーリングや車体とのバランスを味わって見たいと感じた。
BSAブランドを管理するクラシックレジェンズ社は、インド二輪大手マヒンドラ社の傘下にある。したがって「バンタム350」および「スクランブラー650」は、インドにあるマヒンドラの工場で生産されている。しかし両車ともに、英国にあるBSAのデザインセンターでデザインを行い、車両開発の拠点はインドで行っているという。また「スクランブラー650」は、ゴールドスター650同様、インドを含む各地で販売を予定。「バンタム350」は、東欧を含む欧州各国、オーストラリアや北米、日本での販売を予定している。インドには同じくクラシックレジェンズ社が展開するチェコ生まれのバイクブランド/JAWA Motorcycle(ヤワ・モーターサイクル)を展開し、ラインナップする多くのモデルが競合するため、「バンタム350」はインドでは販売されないという。
日本では、さまざまな海外ブランドを日本に展開するウイングフットがBSAブランドの総輸入元になり、2025年春から「ゴールドスター650」の国内発売をスタートさせた。「バンタム350」および「スクランブラー650」は、2025年秋を目処に日本での発売準備を進めている。英国では「スクランブラー650」はゴールドスター650より400ポンド安く、また「バンタム350」はライバルであるロイヤルエンフィールド・ハンター350より400ポンド安い。ポンド/円換算で国内の販売価格が決まるわけではないが、国内においても先行するライバルたちと価格的にも渡り合えるのではないかと想像する。
かつてトライアンフすら傘下に収め、英国最大となった二輪車ブランド/BSAが、完成度も価格競争力も高い戦略的な350/650モデルを引っ提げて、再び二輪車市場に駆け上がってきたのだ。
(試乗・文河野正士、写真:BSA)
■エンジン形式:水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ・ツインスパーク ■総排気量:652㏄ ■圧縮比:11.5 ■最高出力:45hp / 6,500rpm ■最大トルク:55N・m/4,000rpm ■ホイールベース:1,463mm ■シート高:820mm ■キャスター角:26度 ■装備重量:218㎏ ■燃料タンク容量:12L ■サスペンション(前・後) :インナーチューブ径41mm正立タイプ・ツインショック5段階調整機構付 ■変速機形式:5速リターン ■ブレーキ形式(前・後):320mmシングルブレーキディスク+ブレンボ製2ピストンブレーキキャリパーABS付・225mmシングルブレーキディスク+ブレンボ製1ピストンブレーキキャリパーABS付 ■タイヤサイズ(前・後) :110/80-19 ピレリ製スコーピオンラリーSTR・150/70-R17 ピレリ製スコーピオンラリーSTR ■車体色:ビクターイエロー、サンダーグレー ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,179,200円