3月に発表された原付2種の電動二輪パーソナルコミューター「CUV e: (シーユーヴィ イー)」がついに2025年6月20日(金)に発売された。二人乗りが可能な原付2種で、動力用電源は交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:(MPP)」を2個使用。3つのライディングモードを用意し、さまざまな場面に応じて選択可能。そしてホンダ独自のコネクテッド機能「Honda RoadSync Duo」を初採用し、車両とスマートフォンを連携させることで、使い勝手良く、提案型ナビや会話など新たな価値の提供をする、としている。
- ■試乗・文・写真:青山義明
- ■写真提供:ホンダモーターサイクルジャパン
- ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン
グローバルに展開を予定している原付2種電動モデルの「CUV e:」の国内販売がスタートした。ひと足先に、この交換式バッテリーの「CUV e:」と、「EM1:e」をベースに固定式バッテリータイプの「ICON e: (アイコン イー)」の2モデルがインドネシアで発表(2024年10月)されており、ようやく日本国内でも販売となったことになる。モーターの生産はインドネシア、車体完成工場はタイとなっている。
CUVの名が冠された電動スクーターといえば、1994年に官公庁や地方自治体等へ200台限定でリース販売されたCUV ESが存在しているが、そのCUVという名称が再び市場に降臨したことになる。開発スタッフによるとCUV ESの名の由来となった「Clean Urban Vehicle」のシティーコミューターのコンセプトがまさに今回のモデルと合致しているということで、このネーミングを継承して、CUV e:となったという。
車両の概要については、ホンダの可搬型バッテリーMPP2本をシート下に前後に搭載し、リアに置かれたモーターで駆動する。好みに応じて、「STANDARDモード」「SPORTモード」「ECONモード」に切り替えが可能。後進をモーターでアシストする「リバースモード」も採用する。フロントにはディスクブレーキを装備。前・後輪に適切な割合で制動力を配分するコンビブレーキ(前・後輪連動ブレーキ)となる。
ホンダの電動原付2種モデルといえば、2018年に登場した「PCX Electric」、そして現行モデルである「ベンリィe:II」と、2機種が登場している。今回のCUV e:を含めた3機種ともにMPPを2本使用。モーターのレイアウトとしては3機種ともよく似ていて、サイドホイールモーターの2段階のリダクション(減速ギア)を経由して後輪を駆動させることになる。
ベンリィが一充電走行距離(60km/h定地走行値)で55km(発売当時は43kmだったがバッテリーの進化があって伸びることになった)だが、CUV e:は57kmを達成している。これは車両重量の軽量化やPCU等の見直しの結果という。
メーター部は丸々ディスプレイ?
コクピットには大型の7.0インチTFTフルカラー液晶メーターがどーんとインストールされている。もちろんこの画面ではナビゲーションなどのIVI(車載インフォテインメント)機能を表示可能。車両にはジャイロとGPSを搭載しており、自車位置を計測し、メーターに表示される時刻の自動補正も行ってくれる。ナビの案内では、バッテリー残量に応じて、バッテリー交換ステーションを中継するルート検索も可能となる。IVIの操作はハンドル左側に設置されるマルチセレクションスイッチで操作可能。
独自のコネクテッド機能「Honda RoadSync Duo」を採用しており、車両とスマートフォンを連携させることで、ナビゲーションの目的地をそのまま車両側に送ったり、ヘッドセットでのハンズフリー通話や音楽再生の利用が可能。
また今後のソフトウェアのアップデートも期待したいところ。CUVe:の開発とは別部隊であるUX・コネクテッド開発部が車種を横断してこのソフトウェア周りの開発を継続するとしており、車両は購入後もアップデートしていくことになる。
この車両のデザインコンセプトは「Simplicity and Emotion」とし、「シンプルな美しさが生む、印象的なスタイリング」と謳う。未来的過ぎず、でもEVらしさも感じるというところを狙ったとしており、シートまわりのボディパネルはいかにもパネルをはめ込みますという感じは薄れている。すべてLEDとなった灯火類は、デザイン的にも凝った造りとなっており、「Honda」のロゴが車体表面に貼り付けるタイプではなくライトユニットの内部に入って発光するものになっていたりする。
実際に試乗をしてみる。シートもフロアスペースの広めでライディングポジションの自由度も高い。走り出しは力強くEVらしいトルクフルで軽快な走りを見せてくれる。ただECONモードはあまりにも低出力過ぎてちょっと心配だという印象で、このモードは無くても良いのでは? と思うほど。走行中のモード変更については、ボタン操作はできるものの出力の切り替えはアクセルをいったん閉じなければ切り替わらない。走り出しはスタンダードやスポーツモードで勢いよく加速して、流れに乗ったらスイッチを切り替え、アクセルをいったん戻してECONで走るという使い方が電費的にも良いと思うが、ECONのまま信号で停止して、モードを戻すのを忘れて再発進して、スタートからもたつくことが何度かあった。こういう時に限って後続車がピタッと張り付いていたりして、加速時にアクセルを戻すことなくモードを変更できればよいのにと思う。
また、ハンドル左側のマルチセレクションスイッチが大きく、マルチセレクションスイッチの操作は問題ないが、そのほかのスイッチ類の操作がしにくく、特にウインカースイッチは一番下にあってわかりにくく、視線を落として操作することも多かった。
今回の試乗ではGachaco(ガチャコ)のステーションを巡るルートが設定されていた。ガチャコは、エネオスと国産2輪メーカー4社の共同出資による、電動バイク向けバッテリーのシェアリングサービスを展開している会社で、バッテリー交換ステーションに満充電されたバッテリーを用意しており、そこで使用済のバッテリーと交換することで、バッテリーの充電待機時間問題を解決するサービスを提供している。現在ステーションは東京に46基、大阪北摂エリアに7基設置されている(2025年6月8日時点)。
バッテリー代は結構な価格で、今回実際の購入に際しての購入シミュレーション資料を出してもらっている。CUV e:通常購入の場合、車両本体とバッテリー2本、そしてその充電器を入れると合計で52万8000円となる。国のCEV補助金が現在なら3万5000円あるので、実質49万3000円となる。一方、バッテリーレスでガチャコを利用する場合は、車両のみ20万0200円となりCEV補助金を組み込むと16万5200円と非常にリーズナブルになる。
ガチャコのステーションを利用するプランで見てみる。このプラン利用の場合、まず最初に貸与バッテリーを借りる。これが月々2530円/本だからCUV e:の場合2本で5060円/月となる。ステーション利用については交換回数ではなく、使用電力量課金(99円/kWh)となる。これは、ステーションで満タンのバッテリーと交換する際に戻したバッテリーの残電力量でどれだけ使ったかが計算されるという。MPP 1本の容量は1.3kWhで、実際の走り方に近いWMTC(欧州の届出値)での航続走行距離は72km。2本をしっかり使って70kmほど走っても200円ほど、という電費計算が推測できるだろう。
ちなみに現在日本国内でCUV e:を最も安く購入できるのは東京都である。東京都では国の補助金とは別に手厚い補助金が用意されている。車両とバッテリーに10万7000円、そして充電器にも5万円の補助金があり、これらの都の補助金を充てるとCUV e:は通常購入で33万6000円となるのだ。ガチャコ利用の場合でも東京都から車両の補助金に6万7000円が補助され、さらにバッテリーシェアリングサービスに月額1400円の助成金が36か月分出ることになる。
このCUV e:の開発責任者の後藤香織さんに「CUV e:をどう使いたい?」と質問を投げかけた。
「私、買ったんです。使うのはまずは通勤ですね。片道15kmくらいなんですけど、大通りを走行するのに原付2種ならちょうど良いですし。ガチャコさんのステーションは都内に多いので、それをうまく使うと、都内へのお買い物とかカフェ巡りとか、そういうのもできるなって思ってて、これからそういう使い方も追加したいなって思ってます」
と語ってくれた。
CUV e:発売を前にすでに200台を超える受注を受けているという。アンテナ感度の高いファーストユーザーだけでなく、金額面でも実際の使い勝手でも、もっと普通に使用する環境が整いつつあると実感できた取材だった。
(試乗・文・写真:青山義明、写真提供:ホンダモーターサイクルジャパン)
[新車詳報へ]
[HondaのWEBサイトへ]