いよいよADV160を実走検証する日が来た。私にとってスクーターは街乗りのイメージが強く、当初は都市部を中心に実走することを考えたが、街乗りだけではアドベンチャー系を謳うADV160の真価を発揮できない。むしろ街乗りではないシチュエーションにおける走りと乗り心地、燃費を確かめることこそが実走検証だと思った。ということで今回は、調布市にある自宅を出発し、山梨県、長野県、群馬県を巡って東京都に戻るという1泊2日、走行距離約500㎞のルートで検証することにした。
- ■試乗・文:毛野ブースカ ■撮影協力:玉井久義
- ■協力:■協力:ホンダモーターサイクルジャパン
いよいよADV160を実走検証する日が来た。私にとってスクーターは街乗りのイメージが強く、当初は都市部を中心に実走することを考えたが、街乗りだけではアドベンチャー系を謳うADV160の真価を発揮できない。むしろ街乗りではないシチュエーションにおける走りと乗り心地、燃費を確かめることこそが実走検証だと思った。ということで今回は、調布市にある自宅を出発し、山梨県、長野県、群馬県を巡って東京都に戻るという1泊2日、走行距離約500㎞のルートで検証することにした。
出発当日、4月上旬とはいえ朝晩は冷え込む。平地では気温が17度前後まで上昇するが、長野県・群馬県方面はまだまだ寒いので、完全冬装備で午前7時00分に自宅を出発。通勤時間帯でやや混雑している国道20号線を八王子方面に走り、調布ICから中央自動車道に入る。人生初のスクーターでの高速走行だ。無段変速のスクーターらしい加速感とともに本線への合流完了。エンジンの回転数は90㎞/hで7,000回転ほど、100㎞/hで8,000回転以上になりレッドゾーンに近づく。以前乗車したスズキのジクサー150に比べてエンジンの回転数は高めだが余裕はある感じ。サスペンションは乗り始めはやや硬く感じたが、高速域で走ると車体全体が揺さぶられるようなフワフワした感じはなくしっかり踏ん張ってくれている。加速感も上々で、90㎞/hまでストレスなく加速していく。
八王子ICを過ぎるといよいよ小仏トンネルや笹子トンネルが続く山岳セクションだ。小排気量でスクーターということもありパワー不足を心配したが、登坂車線をものともせず力強くガンガン進んでいく。さすがに登坂車線を100㎞/hで走行するのはやや厳しいが、90㎞/hで巡航は問題なく行なえる。思った以上に横風の影響を受けにくくフラつくことなく走れる。90㎞/h、7,000~8,000回転付近で巡航を続けるうちに笹子トンネルを過ぎて降り口である勝沼ICで下車。ここからは長野県方面に向けて国道20号線を走る。
石和温泉付近から甲府昭和IC付近にかけての国道20号線は、走ったことのある方ならおわかりかと思うが、この区間の日中の時間帯は意外と流れが悪い。この時もアイドリングストップが頻繁に作動した。都市部のノロノロした渋滞ではないストップアンドゴーを繰り返すシチュエーションでは、アイドリングストップをオフにしようか非常に悩む。あくまでも好みの問題だが、今回はオンのままで走行した。
甲府昭和ICを過ぎたあたりから流れがスムーズになり、勝沼ICから約1時間30分かけて韮崎市にある名所「わに塚のサクラ」に到着。「わに塚のサクラ」は塚の上に立つ1本の樹齢300年を超えるエドヒガンザクラのこと。訪れた日はちょうど開花しており、見事な花を咲かせていた。平日にもかかわらず多くの観光客で賑わっていた。ここまで約120㎞走行して燃料ゲージが2つ減っていた。再び国道20号線に戻って長野県方面に進む。この辺りはツーリングでよく訪れているので土地勘があり迷うことなく進めた。
韮崎市を過ぎて北杜市に入って交通量が減り、交差点も少なくアイドリングストップがオンになる機会も減っていった。路面の凹凸を拾いやすい感じはあるもののシャキッとした安定感のある走りで疲れを感じさせない。街乗りだけでは感じられないADV160の魅力を徐々に感じ始めていた。サントリー白州蒸留所を通過したところで山梨県から長野県に入った。県境に近い道の駅「信州蔦木宿」で休憩。ここまで約150㎞を走行し、だんだんとツーリングらしくなってきた。気温も17度まで上昇して小春日和だ。
しばらく国道20号線を茅野市方面に向けて進む。度々訪れている地域をスクーターで走るとは思いもよらなかった。やがて茅野市に入り、白樺湖方面に向かう国道299号線に入る。眼前には雪を抱く山々がそびえ立つ様子を見てだんだんと気合いが入ってきた。ここからは国道299号線から国道152号線、県道40号線、国道142号線を進んで今日の最終目的地である長野県佐久市を目指す。
上り坂が続く国道299号線を進むにつれて標高が徐々に上がっていく。そんなシチュエーションでもADV160は力強く加速していく。お尻も心配していたほど痛くなっていない。気温は気が付けば10度を切り、一桁まで下がっていた。そろそろお腹が空いてきたので白樺湖の手前で見つけた食事処で昼食。暖かいお蕎麦が冷えた身体に染み渡る。お腹を満たしたところでさらに標高の高いところに進む。白樺湖から県道40号線を車山高原に方面に進み、標高1,500mの車山高原スキー場に差し掛かったところで小雪が舞ってきた。さすがにこれ以上進むのはやばいと思って白樺湖方面に引き返した。途中の駐車場と周囲の山々には雪が残り、春はまだまだ先の様相だった。
白樺湖から国道152号線を上田市方面には行かずにそのまま県道40号線を立科町方面に進む。ワインディング路でもADV160は余裕。カーブでも安定しており不安感はまったくない。ワインディングではシフトチェンジを楽しみたいと思いつつ、レスポンスのいい無段変速のイージーさに感覚が慣れ始めていた。スクーターはニーグリップできないことがずっと気になっていたが、ここまで走ってきてニーグリップできないことに対する不安感は薄れていた。ADV160の魅力にのめり込んでいる自分がいた。
湖面全体が凍結している女神湖に驚きしつつ、途中荒れた箇所やアップダウンが続く道をものともせずADV160は進んでいく。アドベンチャー系の本領発揮といったところだ。徐々に標高が下がるにつれて気温が上昇し、国道142号線に合流する立科町では1時間ほど前とは10度くらい違っていた。佐久市にあるビジネスホテルにチェックインするまで時間があるので、小諸市にある「布引観音・布引山釈尊寺」に行ってみた。ここは「牛にひかれて善光寺参り」伝説の舞台になったお寺。切り立った断崖に建つ観音堂までは急で険しい山道を息を切らしながら登らなければならないが、観音堂の近くで出迎えてくれた猫のお陰で疲れが吹っ飛んだ。
無事ゴツゴツとした山道を降りきり、小諸市外に戻ってから最終目的地である佐久市にあるビジネスホテルに向かう。市街地が続いた後は流れのスムーズな一般道を走行して17時30分に目的地に到着。この日だけで約286㎞走行した。スクーターの1日分の走行距離としてはなかなかだろう。アップライトなポジションで乗りやすいためか思ったよりも疲れなかった。シート下にラゲッジボックスがあるなどスクーターらしさが負担軽減に功を奏しているのかもしれない。燃料ゲージはあと1目盛りになっていて、燃料タンク容量が8.1リットルなので、燃費をWMTCモードのリッター42.5㎞で計算すると残量は約1リットルのはずだが、念のために翌朝給油することにした。
翌朝、まずはホテル近くのガソリンスタンドで給油。給油量は6.30リットル、燃費はリッター46.2㎞となり、メーターに表示されている平均燃費とほぼ同じ数値だった。前々回乗車したスズキのジクサー150の燃費(リッター約53㎞)には届かなかったが、WMTCモードよりも数値がよく非常に優秀だろう。ツーリング前の街中での燃費がリッター35㎞であったことを考慮すると、実際にはWMTCモードに近い数値になるのだろう。
2日目は国道254号線を群馬県方面に進み、群馬県藤岡市に到着したら上信越自動車道の藤岡ICから乗車して上信越自動車道→関越自動車道を走って帰京するルートだ。ホテルからほどなくして国道254号線に合流し、土曜日ながら交通量は少なく快適。300kmくらい走るとだいぶADV160に慣れてきた。最初の目的地である「下仁田こんにゃく観光センター」に予定よりもだいぶ早く到着してしまい、まだ開店していなかった。時間調整のために、妙義山方面に向かう県道196号線沿いにある「中之嶽神社」に行ってみることにした。適度なワインディング路を走って到着すると、眼前に険しい山肌の妙義山が見渡せるロケーションのいい場所だった。境内には高さ20mの金色の大黒様が祀られており、多くの参拝者が訪れていた。
中之嶽神社を参拝後、下仁田こんにゃく観光センターに戻ったら開店していたので、名物の「みそおでん」と、こんにゃくが入った「下仁田コロッケ」を食べた。ここからは藤岡市を目指して走る。藤岡市が近づくにつれて交通量が多くなり、アイドリングストップが作動する機会も増えた。藤岡市に到着したのがお昼前で、昼食をどうしようか悩んでいたところに「登利平」の看板が目に入った。登利平といえば群馬県の名物弁当「鳥めし弁当」が有名だが、今回は店内で「鳥合わせ定食」をいただいた。腹を満たしたところで藤岡ICから乗車して帰京。今回のツーリングでは477.6㎞走行した。
試乗車を返却する前に走行した走行距離は525.3㎞、ガソリンは11.66リッター消費してリッター45.0㎞だった。この間、アイドリングストップはずっとオンのままだった。混雑する街中を走行すると燃費が下がる傾向だが、それでもWMTCモード以上の数値となった。アイドリングストップのオンオフのタイミングについては今回の実走だけでは正直結論づけられなかった。オン状態からオフへの切り替わりはタイムラグがなく非常に好感が持てるが、都内のノロノロ渋滞ではオフにしたほうが使いやすいと感じた。基本はオンにしておき交通状況に応じてオフにするのがいいのかもしれない。
原付二種ではなく普通二輪にカテゴライズされる「160㏄」という排気量をどう考えるかだが、ジクサー150と同様、高速走行や長時間走行もこなせるが、あくまでも一般道を走行する日常使いがメインで、イザという時に高速道路を走行でき、ツーリングできるのが普通免許のスクーターのメリットだろう。今後、機会があれば原付二種のPCX125や250㏄のFORZAと乗り比べてみたい。
短い期間ではあったがADV160に乗車して、燃費のよさはもちろんパワフルでスムーズな走行性能、高速走行における安定感、不整地での走破性、ボディ剛性の高さ、スタイリッシュなデザイン、優れたユーザビリティ、安全性能に至るまで、不満を感じる要素がほとんどなかった。ホンダのこのモデルに対する気合いの入れようを実感した。普通免許で乗れるADV160やPCX160が売れる理由がわかったような気がした。アドベンチャー系が好きでバイク通勤している者としてADV160はなかなか悩ましい存在だ。(完)
(試乗・文:毛野ブースカ、撮影協力:玉井久義)
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