今、街中でいちばん走っている原付二種のスクーターといえばホンダのPCX125だろう。通勤・通学はもちろん、最近ではウーバーイーツなどの出前&宅配用として見かけない日はないほど大活躍している。そんなPCX125にはPCX160という普通二輪免許が必要な軽二輪の兄弟がいる。実はこのPCX160も2024年の二輪車新聞の公表値によれば、125cc~250㏄全国販売台数で2位(6,133台)にランクインされている。ちなみに1位はホンダのRebel250/Sエディションで9,015台となっている。ホンダのPCXシリーズは原付二種&軽二輪のスクーターでは無敵の存在である。
- ■試乗・文:毛野ブースカ ■撮影協力:玉井久義
- ■協力:ホンダモーターサイクルジャパンhttps://www.honda.co.jp/motor//
今回、実証検証することになったホンダADV160は、このPCX160のバリエーションである。先ほどの二輪車新聞の公表値ではADV160の2024年度の販売台数は4,402台とPCX160に次ぐ3位となっており、PCX160とADV160で軽二輪のスクーターの販売台数上位を独占している。通勤・通学用のシティコミューターとしてはもちろん、いざとなれば高速道路も走れるというオールラウンドな性格がウケているのかもしれない。税込価格はPCX160が462,000円、ADV160が495,000円。同カテゴリーのライバルであるヤマハNMAX155(459,000円)と比較しても、ADV160はやや割高となっている。
PCX160とADV160の最大の違いはスタイルである。ADV160は2020年に登場したADV150のフルモデルチェンジ版として2023年から販売開始された。ADV150はスクーターとしては異例のアドベンチャースタイルに149cc単気筒エンジンを搭載したモデルとして話題になった。ホンダのDio XR BAJAやヤマハのBW’Sのようなオフ車を意識した原付スクーターは存在したものの、イマドキのアドベンチャー系らしいマッシブでタフな感じのフロント周りとウインドスクリーンを採用したスクーターは珍しい。ちなみにホンダのHPではADV160はスクーターではなく私の愛車である400X(NX400)と同じアドベンチャーにカテゴライズされている。ホンダにはADV160と同じような名前とスタイルの大型クロスオーバーモデル「X-ADV」と呼ばれるモデルがあり、こちらは2気筒745㏄エンジンにDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を搭載したスクーターライクなモデルもある。
「都市での使い勝手と高い走破性を両立したシティアドベンチャー」という売り文句のADV160はアドベンチャー系が好きな私は以前から気になっていた。これは私の勝手な推測だがADVは「アドベンチャー」の略称ではないかと。そう考えるとホンダのADV160に対する気合いの入れ具合が伺える。でも「アドベンチャー系なのにスクーター? どういうこと? そんなの見たことがないよ」と、どちらかというとネガティブな印象だった。実車を目の前にした感想は「カッコいい!」。物腰柔らかなジェントルマンな雰囲気のPCX160に対して、ADV160はマッシブで引き締まったアウトドアマンな雰囲気を受ける。両車の外観上の差別化はしっかり図られている。
PCX160をベースとしつつ特徴的なフロント周りはADV160になってロボットアニメに登場するロボットのような鋭角的でゴツゴツしたデザインとなり、一般的なスクーターとは差別化が図られている。個人的には好みのスタイルだ。ボディカラーは今回試乗したミレニアムレッドとアステロイドブラックメタリック、パールスモーキーグレーの3色。不整地での走行を意識して最低地上高はPCX160の135mmから165mmに上げられている。シート高はPCX160の764mmに対してADV160は780mmで、PCX160よりもシート高はあるもののADV150の795mmよりも下げられており、私が跨った感じでは足着き性は良好だった。
フロント周りに加えてハンドルやメーターパネル周りのデザインは全く異なる。PCX160は一体感のあるスタイリッシュなデザインに対して、ADV160はスクエアなメーターパネルとテーパーバーハンドルが採用されている。ここだけを見るとまるでオフ車のようだ。フロント左側には容量2リットルのインナーボックス、シート下には容量29リットルのラゲッジボックスが備わっており、スクーターらしい使い勝手は継承されている。ラゲッジボックスは日常使いだけではなく、今回行った泊りがけのツーリング時に非常に便利だ。
エンジンは力強い走りと燃費性能を追求した水冷・4ストローク・OHC・4バルブ・156㏄の単気筒エンジン「eSP+」を搭載。ADV150の149㏄から排気量がアップしている。PCX160と同様、アイドリングストップシステムが採用されている。まさにイマドキらしい装備だが、その印象については後ほど述べよう。安全機能としてHondaセレクタブル・トルク・コントロール(HSTC)が新採用され、後輪への駆動力レベルを必要に応じて制御することで滑りやすい路面でも安心して乗車できる。フロントブレーキのABSとともに走行性能と安全性を両立した装備はカテゴリートップのスクーターらしい。
気になる燃費は、PCX160の定地燃費値がリッター53.5㎞、WMTCモードがリッター44.9㎞。ADV160はそれぞれ52.0㎞、42.5㎞となっており、ADV160のほうがやや値が低い。最高出力と最大トルクは同じだが車両重量がPCX160は134㎏、ADV160が136㎏と2㎏重く、さらにADV160には荒れた路面での走破性を重視して専用開発されたブロックパターンのチューブレスタイヤが装着されており、サイズがリアは同じだがフロントは異なっており、それらが燃費に影響しているのかもしれない。燃費については実走検証で明らかにしよう。
最低地上高の向上はサスペンションによるところが大きい。フロントサスペンションのストローク量は130mm、リアサスペンションは110mmストロークの3段レートスプリング+リザーバータンク付きダンパーを採用。「SHOWA」のロゴが映えるゴールドのダンパーはADV160だとひと目でわかる。やる気を感じるアドベンチャー系を意識したリアサスペンションが実走では走行フィーリングに大きな影響を与えていた。
試乗車を受け取った際、正直緊張した。というのもスクーターに乗るのは実に20年ぶり。前回は原付スクーターで、軽二輪のスクーターに乗車するは初めて。フラットステップではないセンタートンネル内にメインフレームと床下にガソリンタンクを設けたスポーツスクーターも初めての体験だ。走り出してみると、無段変速機らしい滑らかなでグイグイ進むフィーリングにちょっと戸惑いつつも乗りやすさを即座に感じた。
交差点で停車するとエンジンが止まってアイドリングストップ。ブレーキをかけて停止してからアイドリングストップするまでの時間を測ったところ5秒だった。スロットルをごくわずかに開けるとエンジンが再始動するのでタイムラグはほとんど感じない。この「5秒」という時間の扱いについてはもっと実走してから考えてみたい。
普段マニュアル車の400Xと自動遠心クラッチのスーパーカブC70に乗っている私は、しばらく走行してから「あ、そうか左側はリアブレーキなんだな」と思い出した。逆にスクーターをメインで乗っている方はマニュアル車に戸惑うかもしれない。試乗車をお借りした当日は雨で、路面はかなり濡れている状況だったが不安感はゼロ。ボディサイズは見た感じでは大きかったが、走るとその大きさが功を奏して安定感がある。座面は広くてシートにコシがあるので座りやすく長距離走行してもお尻が痛くなりにくそうだ。スクーターらしい走り出しと乗り心地はシティコミューターとしての実力の高さを感じた。
この日は一般道を中心に走行して60㎞/hで5,000回転ほど。借り出してからツーリングに出かけるまでに66.2㎞、ガソリンは1.89リットル消費して燃費はリッター35㎞だった。アイドリングストップはオンの状態で走行。渋滞が多かったせいもあるがデータ値よりも悪かった。この燃費を参考にしつつ、今回は山梨県→長野県→群馬県を巡るアドベンチャー系らしい実走検証をしてみた。(後編に続く)
(試乗・文:毛野ブースカ、撮影協力:玉井久義)
■型式:8BK-KF54 ■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒SOHC ■総排気量:156cm3 ■ボア×ストローク:60.0×55.5mm ■圧縮比:12.0 ■最高出力:12kW(16PS)/8,500rpm ■最大トルク:15N・m(1.5kgf・m)/6,500rpm ■全長×全幅×全高:1,950×760×1,195mm ■ホイールベース:1,325mm ■最低地上高:165mm ■シート高:780mm ■車両重量:136kg ■燃料タンク容量:8.1L■変速機形式:無段変速式(Vマチック) ■タイヤ(前・後):110/80-14 M/C 53P・130/70-13M/C 57P ■ブレーキ(前・後):油圧式ディスク・油圧式ディスク■懸架方式(前・後):テレスコピック式・ユニットスイング式■車体色:ミレニアムレッド、アステロイドブラックメタリック、パールスモーキーグレー ■メーカー希望小売価格(消費税込み):495,000円
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