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試乗・解説

トリシティといえば、ヤマハの三輪スクーター……というのは誰でも知っている。では、なんで3輪がいいの?ってのは、みんなボンヤリとしか知らないはず(笑)。125/155/300の三兄弟のうち、初めて乗った155で、三輪のアドバンテージがハッキリとしたのです。

■試乗・文:中村浩史 ■写真:島村英二 ■協力:YAMAHA ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、アルパインスターズhttps://www.okada-ridemoto.com/brand/Alpinestars/

 ヤマハが三輪バイク(LMW=リーニング・マルチ・ホイール)のトリシティ、またはナイケンを発表した時、LMWモデルのメリットのひとつに「圧倒的な安定性」というのを挙げていました。もちろん、前2輪なんだから、静的安定性(止まってるときね)はもちろんだし、走り出しや止まる寸前という、バイクがいちばんフラッとする瞬間にも強い。
 僕はトリシティ125をはじめに、その後のナイケンも、のちに発売されたトリシティ300も乗せてもらいましたが、よくわかんないのとよくわかるのと、ふたつの感想を持ったのです。

 もちろん、ヤマハがいうLMWのアッカーマン・ジオメトリ、つまり左右フォークをつなぐリンクと、左右それぞれのダブルフォークが複雑にリンクしながらバンクするシステムの動きは素晴らしいのだと実感できました。それはまず第一に、危なくないから素晴らしい! フルバンクの時、ギャップを乗り越えたとき、荒れた路面を走るときのフロント2輪の動きは、フロント1輪の時以上に、バイクを信頼しきっちゃって大丈夫、というものです。
 下に写真を載せますが、バイクがフルバンクしたとき、フロントの2輪が別々の高さにいるときの動きは、よくこんなの考えついたな、ってほど複雑に動いて、とにかく「なにがなんでもタイヤを路面から離さない!」って思いがよくわかるのです。

#YAMAHA-Tricty155

#YAMAHA-Tricty155
#YAMAHA-Tricty155
トリシティのアッカーマン・ジオメトリって構造は理解しにくいけどこうやって見るとよくわかりますね。フルバンクっぽい写真は横でヒトが傾けてるんだけど、両輪で段差に乗り上げたときの写真は、この状態でも手を添えていれば危なくないんです。

 それでも、特にトリシティ125では、その恩恵は決して大きくはありませんでした。だって常用スピードが低いから。フロント14/リア13インチ(125の初期型は12インチ)のスクーターで、最高速度は法定60km/hに、ちょいちょいそこをオーバーするくらい。もちろん、車両重量が168kgとLMWならではの重さもありますが、それも安定成分に振ってあって、おぉ普通のスクーターより安定してるなぁ――そんな印象なのです。ちなみに同じ155ccスクーターであるNMAXより40kg以上重いからね。
 125と155に乗るうえでの大きな違いは、その行動範囲。155は、もちろん高速道路を走れます! これが126cc以上の最大のメリットだよなぁと思いつつ高速道路に乗り入れると、その安定性にオドロキました! いや大げさではなく、ビッグスクーターじゃない、つまり250ccもない排気量のスクーターで、いちばん不安なく走れるバイクなんじゃなかろうか、と思ったのです。

 バイクの安定性にかかわるディメンジョンでいえば、車重やホイールベース、前後ホイール径などが大きく関係してきますが、車重は125より4kg増なだけで、ホイールベースも前後ホイール径も同じ。それでもこうも大きく安定感が違うんだ!というより、125ccでは許されないスピード域でも、きっとこの安定性は破綻しないのだと思います。やはりこれがLMWの大きなメリットなんでしょうね。

#YAMAHA-Tricty155

 155で高速道路に乗り入れてみると、やはり125比で30ccも排気量が大きく、パワーも3psアップの力強さがよくわかります。首都高速入り口から上り坂を上るトルク、加速して本線に合流するときの加速は、やはり155ならでは。そして、100km/hやそれ以上のスピードでクルージングした時に、LMWのメリットを大きく感じることができるのです。
 フロント14/リア13インチといえば、立派に小径ホイール。けれど、いわゆる小径ホイール車でスピードを出した時のような、ある一定スピードを超えたあたりのフラフラ感がまったくない。それが「LMWの安定性」のキモだと思います。

 巡航スピードは、そう無理しなくても110km/hくらいOK。それ以上はエンジンが回らないというより、ギア比の設定でスピードが頭打ちになる感じ。エンジンに負荷をかけすぎているような、SOHC4バルブ単気筒エンジンが悲鳴を上げる、というような精いっぱい感はなく、快適にクルージングできます。スクーター、しかも250cc以下のモデルで高速路なんておっかない、というフィーリングが、エンジンも車体もまったくないんです。これが155ccで感じた驚きでした。

#YAMAHA-Tricty155

 これが300ccになると、ボディサイズがひと回り大きく、車重も230kgオーバー。LMWの特徴であるフロント操舵系のリーンも、ほぼ自立するスイッチもついていて、これが300cc独自の特徴。同じLMWとはいえ、もう別物ですね。125と155は同じボディを使った排気量違いバージョン、それに大きい別物の300がある、というラインアップだと思います。

 ヤマハは、LMWのもうひとつのメリットに「旋回性」を挙げますが、この「旋回」って言葉はなにもコーナリングでグイグイ曲がってく、なんて意味じゃなくて、方向転換や、特にUターンが不安なくできる、ってことです。これはトリシティって重いよねぇ、って感じる人でも、それを乗り越えるメリットだと思います。これも小径ホイールのネガティブをカバーしてあまりあるLMWの魅力でしょう。
 でも実は、ナイケンのときに開発陣に伺ったんですが、全く同じパワーのモデルでも、LMWの方がフロントのグリップが高く、単純に比較したコーナリングスピードはLMWの方が高いんですって! 全日本ロードレースJSBクラスのV12チャンピオンがそう言っていたそうです。

#YAMAHA-Tricty155

 単なるスクーターと考えれば、大きくて重い、価格もお高めのトリシティ155。たとえば同じ排気量モデルでNMAX155もありますから、比較するとトリシティ155の方が41kg重く、ホイールベースも7cm長く、お値段も14万円高い。前2輪だってことでみんなが気にする「全幅」のサイズは、トリシティの方がわずかに10mm広いだけ。これはフロントのダブルタイヤというよりハンドル幅の差ですね。狭いところを通るときも「う!フロント2輪大丈夫だっけ?」と一瞬思うんですが、問題ありませんでした。
 それでも、この「差」を埋める魅力を、トリシティ155に感じました。スクーターってフラつくからちょっと苦手、っていうライダーたち、トリシティならそんなことないですよー!

#YAMAHA-Tricty155

#YAMAHA-Tricty155
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フロント2輪のこの姿がLMW。両タイヤとも2本のフロントフォークに支持されていて、内側にディスクローターを配置。タイヤは90/80サイズの14インチタイヤをダブルで装備している。
#YAMAHA-Tricty155
下半分はダブルタイヤで一瞬ギョッとしますけど、上半分は普通のスタイリッシュなスクーター。ヘッドライト、テールランプはLEDを、ウィンカーはノーマルバルブを使用している。

#YAMAHA-Tricty155

#YAMAHA-Tricty155
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ヤマハが「ブルーコア」と呼ぶ高燃焼効率、高冷却性能、ロス低減を実現したスクーター用エンジン。鍛造ピストン、可変バルブタイミングを使用するハイスペックエンジンなのだ。ON/OFFスイッチつきのアイドリングストップ機構も装備している。

#YAMAHA-Tricty155
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きちんとスクーターっぽくカバードハンドルを採用。左スイッチ部にあるレバーはパーキングブレーキ。イグニッションはキーレスで、いちどプッシュしてからON、シートオープンの位置がある。

#YAMAHA-Tricty155
横長のモノクロ液晶メーターパネル。スマホに専用アプリ「ヤマハ・モーターサイクル・コネクト」をインストールしておけば、メールや電話の着信、スマホのバッテリー残量がわかったり、燃費管理やメンテ推奨時期をお知らせしてくれたり、駐車位置情報などを表示してくれる。

#YAMAHA-Tricty155
イグニッション下には、軽いバッグやコンビニ買い物袋をかけておける収納式のフックつき。乗車時の右ひざの前には小物入れがあって、その奥にシガーソケットがある。
#YAMAHA-Tricty155
フロアはでっぱりのないフラットタイプ。もちろん車体サイズやホイールべースの制約があるんだろうけれど、もう少し前後に広いとありがたい。

#YAMAHA-Tricty155

#YAMAHA-Tricty155
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シート下トランクにはオープン時に内部を照らしてくれるLED照明付き。収納スペース前には給油口があって、イグニッションノブを「オープン」位置にして、下のシートボタンをワンプッシュする。

#YAMAHA-Tricty155
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●TRICTY155 主要諸元
■型式:8BK-SG81J ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒SOHC4バルブ ■総排気量:155cm3 ■ボア×ストローク:58.0×58.7mm ■圧縮比:11.6 ■最高出力:11kw(15PS)/8,000rpm ■最大トルク:14N・m(1.4kgf・m)/6,5000rpm ■全長×全幅×全高:1,995×750×1,215mm ■ホイールベース:1,410mm ■最低地上高:165mm ■シート高:7700mm ■車両重量:172kg ■燃料タンク容量:7.2L ■変速機形式:Vベルト式無段変速 ■タイヤ(前・後):90/80-14M/C 43P・130/70-13M/C 57P ■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック・ユニットスイング ■車体色:マットライトグリーニッシュグレーメタリック1、ホワイトメタリック6、マットグレーメタリック3 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):566,500円





2024/10/09掲載