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試乗・解説

己の道を行くいさぎよさに惚れる Indian Motorcycle Sport Chief
1890ccの空冷サンダーストローク116Vツインを積んで専用設計されたインディアンのSport Chief。ビキニと呼ぶには大きなフェアリングを装備したスポーツクルーザーとして話題となっている1台。
こだわりのディテールや走りから感じたことを伝えよう。
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:渕本智信 ■協力:インディアン・モーターサイクルhttps://www.indianmotorcycle.co.jp ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、KADOYA https://ekadoya.com/




“クルーザー”の中で“スポーツ”を表現した

 とにかくスタイリングが際立っている。思いっきりのよいリアフェンダーのカットにライセンスプレートは車体左サイド、80年代スーパーバイクレースに出てきそうなレトロとモダンの両方が共存しためちゃ個性的なフェアリングを装着。ボバー? スポーツ? ツアラー? 他に似たようなものが思い浮かばない。もうこれだけで勝者として右手をつかんで上げたいくらいだ。この姿を違和感なく成立させていることに感心する。

 ソロのガンファイターシートはフィットしてお尻を支える。ハンドルグリップを掴むと、身長170cmで腕が短い私で前にならえするように腕を真っすぐ伸ばした状態から腕2本分下にあるような位置で、ヒジの曲がりに余裕ができるくらいのディスタンス。ミッドコントロールのペグに足を載せるとヒザの曲がりは90°近く、背筋は気持ち前かがみ。力を入れて踏み込みやすく、ハンドル操作に苦労しないライディングポジション。Vツインゆえの車体の細さもあり、知らなければ1890ccのバイクだとは思えない。

 インディアンは同じクルーザーブランドのハーレーとどうしても比較されてしまうが、実はどの機種に乗ってもはっきりとした違いがある。そういう感想になる大きな要因はエンジン。サンダーストローク116と呼ばれる空冷OHV2バルブ49°V型2気筒エンジンはヘッドカバーのデザインが、1940年代から50年代のインディアンチーフのエンジンをモチーフにした造形をしていて、ブランドアイデンティティを大切にした見た目。2021年にブランド設立100周年をむかえたそうで、昔のイメージをデザインモチーフすることで由緒正しい印象を与える。そんな昔のことなんて知らない、という人でも由来を知ればお気に入りのディテールになるはず。
 

 
 OHVの大排気量Vツインエンジンというと、ユッサユッサしながらずぶといトルクでゴロゴロっと進むのを想像するかもしれないが、このエンジン、実はとても洗練されたフィーリング。粗野なところがなく、アクセルを大きく開けて上昇する回転数やシフトタッチなど機械的に良くできている感じ。実際に機械としての精度や完成度はわからないけれど、運転しているとハーレーより日本や欧州のメーカーが作ったものに近づいている。だから2つのブランドははっきりと区別できる。回しても5千回転からレッドゾーンなので高回転までビュンビュン回る爽快さはないけれどスムーズ。信号などで停止すると後ろの気筒を休止させるのは暑い日に助かる。

 162Nmの最大トルクを3200rpmで発生。ハーレーのミルウォーキーエイト117(1923cc)の最大トルクは168Nm/3500rpmだから近いけれど、ミルウォーキーエイト117の方がアクセル操作に対して少し体が遅れるようにグイグイっとワイルドに進む迫力がおもしろく、このサンダーストローク116エンジンはもっと右手にリニアに反応して滑らか。レッドゾーン付近まで回して使おうとすると振動もあるしトルクは十分だから、早めにシフトアップして行くほうが加速が気持ちいい。とうぜん高いギア、低い回転数でゆったり進むクルージングも余裕だ。
 

 
 試乗に使われていたクローズドコースで可能な限り速度を上げて走ってみると、この個性的なフェアリングは意外と防風効果が高くハイウェイ巡航も楽そうである。スポーツクルーザーと表現されることが多いだろうが、考えてみると“スポーツ”と“クルーザー”という相容れなないような2つを一緒にするのはどうもしっくりこない。でも走ると剛性感もそこそこあり、φ320mmローター2枚にブレンボの4ピストンキャリパーを合わせたフロントブレーキは確実な効きと良好なタッチで減速可能で、19/16インチのホイールを履き普通の大排気量クルーザーよりシャキシャキと動く。車名にも入っているようにスポーツの走りはある。

 KYB製の倒立フォークとFOX製ピギーバックタイプショックユニットを使った前後サスペンションの動きはいい。クルーザーというと少しハードなサスペンション(特にリア)だ、頭に思い浮かんだなら、そうじゃない。ちゃんとストロークして衝撃を吸収しながら路面にタイヤを押し付けているインフォメーションがわかり、マンホールの蓋や舗装の継ぎ目を高速で通過しても大きなショックは伝わらずにいなす。車両重量は311kgだし、ロードスポーツモデルのようなフットワークだと勘違いする人はたぶんいないと思うがヒラヒラと思うように制御できる。

 リーンアングルは29.5°で、クルーザーとしてはそこそこあるけれど、スポーツとしてはそれほど深く寝かせられない。目を三角にして積極的なコーナーリングはしなくても、ワインディングを流しながら楽しく走り抜けられるだけの走りは十分にある。言うならば“スポーツ”と“クルーザー”は対等ではなく、“クルーザー”の中で“スポーツ”を表現している。意外なほどしっかりと走りを作り込んでいるなぁという感想。ライバルはハーレーのローライダーSなのかな? でも乗った感想としてはそれほど2車は近くない。スタイリングも含めてオンリーワンなところがSport Chiefの魅力だ。
(試乗・文:濱矢文夫、撮影:渕本智信)
 

 

ライダーの身長は170cmで体重は67kg。シート高=686mm。

 

シンプルな鋼管フレームに搭載された空冷OHV2バルブ49°Vツインエンジン。赤信号などでアイドリング状態になると後ろのシリンダーが休止する「リアシリンダー・ディアクティベーション・システム」を備える。電子制御スロットルで3つ(ツアー、スタンダード、スポーツ)のライディングモードがある。ボア・ストロークは103.2mm x 113mmとロングストローク。圧縮比は11.1と高め。トランスミッションは6速。ヘッドカバーのデザインが古い時代のChiefを連想させる。
表面を切削した細いスポークのキャストホイール。フロントは19インチ外径。130mmのトラベルを有するKYB製倒立フォークを採用。インナーチューブ径はφ43mm。2枚のフロントブレーキローターはφ320mm。それにブレンボ製4ピストンキャリパーをラジアルマウントする。ABSはBOSCH製。前の方に厚みをもたせたショートフェンダーが特徴的。空冷エンジンなのでタイヤの後ろにラジエターがないから冷却フィンがしっかり見える。

 

 

リアショックはコンベンショナルな左右2本タイプながらカンチレバーのように大きくレイダウンされていおり動きがいい。トラベル量は100mmのFOX製ピギーバックタイプのショックユニット。スプリングはデュアルレート。リアホイールは16インチ外径。標準タイヤはピレリ製NIGHT DRAGON。ナンバープレートは車体の左側にオフセットしている。シートは専用にデザインされたガンファイタータイプ。リアブレーキはφ300mmローターに2ピストンキャリパー。リーンアングルは29.5°。
灯火類はLED。キーレスイグニッションでUSB充電ポートもある。ハンドルクランプ下にセットされたメーターは4インチのタッチスクリーン。Bluetooth接続も可能。このカラーはRuby Smoke。他にBlack Smoke、 Stealth Gray、 Icon Spirit Blue Smokeがある。ハンドルバーは6インチ(約165mm)のライザーによってクランプ位置をアップしている。燃料タンク容量は15.1L。

 

●Indian Sport Chief主要諸元
■エンジン種類:空油冷4ストロークOHV49度V型2気筒リアシリンダー休止システム付/Thunderstroke116 ■総排気量:1890cc ■ボア×ストローク:103.2×113.0mm ■圧縮比:11.0:1 ■最高出力:- ■最大トルク:162Nm/3200rpm■全長×全幅×全高:2301×-×-mm ■軸間距離:1640mm ■シート高:686mm ■車両重量:302kg ■燃料タンク容量:15.1L ■燃料供給方式:FI/クローズドループ直径54 mm シングルスロットルボディ ■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ形式(前・後):ブレンボ製320mmダブルディスク(セミフローティング型)×ブレンボ製4ピストンキャリパー・ブレンボ製300mmシングルディスク(フローティング型)×ブレンボ製2ピストンキャリパー ■ホイール(前・後):19×3.5インチ、16×5インチ ■タイヤ(前・後):Pirelli Night Dragon 130/60B19 61H・Pirelli Night Dragon 180/65 B16 81H ■車体色:ブラック・スモーク、ルビー・スモーク、ステルスグレー、スプリット・ブルー・スモーク■メーカー希望小売価格(消費税込み):3,280.000円~

 



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2023/10/06掲載