250比で+28馬力 +6kg サイズ感は変わらない
主にタイヤサイズの変更によりほんのわずかに車体寸法は大きいものの、ZX4RのルックスはZX25Rと酷似している。特に今はZX25Rのサイレンサーが当初の腹下スタイルから別体になっていることもあって、本当にそっくり。400版ならではのアピールという意味ではちょっと寂しく感じることもあるかもしれないが、重量増がわずか6kgに留められ、シート高も+15mmと考えれば、400になったからと言って体格的な制約はほとんどないと考えてよいはず。よって今まで600ccクラスのスーパースポーツを「ちょっとハードル高いかな」と感じていた人には特に素敵な設定に感じ、400ccで77馬力という数値的には身構える部分もあるかもしれないものの、実車を目の前にすれば「乗れそう感」は高い。
他に250との相違点は、タイヤサイズが変わったことによる車高アップ、フロントのダブルディスク化、そしてキャスターやトレール値がよりスポーティなものに改められたぐらいであり、かなりコンパクトな構成と言える。パラツインのニンジャ250/400が兄弟車であるのと同じであり、650クラスと共通車体のエンジンが小さい版の400ccではなく、250と共通車体のエンジンが大きい版の400ccだ。これは楽しいに違いない。
意外やツアラーテイストで熟練ライダーも馴染めるポジション
跨り低速で走り出すと、サスが沈むこともあってシートは数値以上に低いイメージ。対してハンドルはタレ角がしっかりとついていることもあって、ネック位置が高くどこかツアラーテイストに感じられた。23.5°というキャスター角はかなり立っている印象でどれだけスポーティさを追求しているのだとちょっと心配になったが、そんなことは無くてむしろ低速ではリラックスした操舵性を持っていた。ちなみに攻めた数値のキャスター角はダブルディスク化によって増えたバネ下重量を相殺する狙いもあったと聞くことができた。
上半身の前傾角はそれなりにあり、パラツインのニンジャシリーズに比べるとよりスポーツにフォーカスした印象もあるものの、しかしこの包容力のあるハンドリングは公道でのワインディングで懐深く楽しませてくれるだろうし、モダンなバイクに慣れていないベテランライダーでもとっつきやすく馴染みやすいものだろう。何よりもシートが低くサスも良く動くため足がつきやすいというのが大きな安心感を提供してくれている。
回せ16000RPM! 高回転型ユニットに酔う
全体的な柔らかさや低重心さは公道での付き合いやすさを連想させてくれたが、今日はサーキット走行のみの試乗会。まずはZX10Rと同タイプのSHOWA製BFRC-liteサスペンションを装備するZX4RRの方で、1周2kmほどの袖ヶ浦フォレストレースウェイにコースインした。
走り出しの素直さはZX25Rと同じで、排気量増大のぶん低回転域のトルクが太くなっている……かと思いきや、ギア比がロングなようで、低回転域でもグイグイ進むという感じは希薄だ。むしろ常用回転域では250とあまり変わらないようなのんびりとした付き合いやすさを噛みしめながらウォームアップラップをこなした。
ペースアップをすると、とにかく高回転域重視なのだなと実感。1万回転以下ではアクセルの開け方に即座についてくるという感覚はなく、どこかツアラー然とした反応だ。それもそのはず、スペックを見ると最高出力発生が14500RPMなだけでなく、最大トルクも13000RPMで発生していたのだ。そのスペック通り、回転数がアクセルの開けに対して乗ってくるのは1万回転を超えてからで、しかもサーキット走行では16000RPMのレッド付近までしっかりと引っ張り切らないとシフトアップした際にパワーバンドを外してしまう感覚さえある。
400になったらトルクが厚くなって250よりも楽ができるかと思っていたが、少なくともサーキットを走った限りではそういう印象はなく、むしろ250以上に高回転を維持して、パワーバンドを外さない走りを意識することになった。開発者の弁では、ココ袖ヶ浦では少しコースが小さいのではないか、とのこと。もっと大きなコース(関東圏では富士やモテギということになるだろうか)の方がギア比が合ってきて、楽しめるのではないかとのことだった。とはいえ、400ccのサイズやパワーを考えると袖ヶ浦や筑波2000が楽しみやすいサイズのコースに思えるため、ここはスプロケットを交換して、いくらかショート方向にギア比を改めると、より積極的にオイシイ高回転域を使いやすいだろうな、というイメージとなった。
特にサーキットを走るのであれば走るコースや好みによって細かなセッティングをしていった方が良いだろうが、いずれにせよ、エンジンの基本性格はかなり高回転仕様で、パワーバンドを外さないように走ってこそ最高に楽しいという、ちょっとストイックな設定に感じられた。
高級サスはセッティング前提
エンジンの性格は250以上にピンポイントに感じた部分もあった。対して車体は常に包容力のあるもので、銘柄と見た目は(ダンロップのベーシックグレードの)GPR300ながら中身は専用設計のタイヤと合わせて、気持ちの良いスポーツランが可能だった。
特にダブルディスクとなったフロントブレーキの効き及びコントロール性は本当に素晴らしく、減速しながらのコーナーアプローチもお手の物でその安心感は絶大だった。ただサスペンションについては、RRでは高級なものがついてはいるものの出荷時設定はかなりソフトとなっており、バシッとしたスポーツライディングをするには柔らかすぎる印象もあった。リアの踏ん張り不足でうまくクリップに付けないような印象もあったし、ストローク量がSEよりも大きい124mmあるということもあって動きすぎるような場面も。
一方で、他のライダーが「減衰を調整したらぐっと良くなったよ!」と教えてくれた通り、こういったフルアジャスタブルだからこそ、そこは好みに合わせてセッティングしていくのが良いだろう。SEグレードに対してわざわざこのRRグレードを設定しているぐらいなのだ。むしろ出荷時設定のままで乗る人はいないはず。サスペンションセッティングの楽しさ/奥深さを実感する良いスタート地点だろう。特にサーキット走行前提で購入する人はRR一択となるはずだ。
なお出荷時設定が柔らかすぎるのでは? との質問には「これで荒れたワインディングとか行くと最高なんですよ!」との答えを開発者から頂いた。なるほど、きっとそうだろうな、と期待が膨らむと同時に、荒れたワインディングでこの高回転型エンジンのパワーバンドを維持するのはけっこうホネかも? なんてことも頭をよぎった。
ちなみにフロントはプリロード調整がつく倒立フォークだが、こちらはしなやかでありつつハードブレーキングでも音を上げず、常に接地感が豊富でそれこそ荒れたワインディングでも信頼がおけそうな印象を得た。
メインはSEグレードか
RRでの走行で、ストイックなエンジンと奥深いサスセッティングの世界を実感させられた後、こんどはわずかに価格が抑えられたSEグレードに試乗。こちらはリアサスがプリロード調整機構のみのよりベーシックなものになっている代わりに、スクリーンはスモークタイプになり、そしてフレームスライダーも標準装備されるというのがその違いだが、その他の部分ではまるっきりRRと共通である。
スモークスクリーンはスタイリング的に惹きがあるし、フレームスライダーも転ばぬ先の杖的に助かる装備。それらがついているのに価格はむしろリーズナブルとなれば、むしろこちらがメインとなるはずだが、わざわざRRがあの高級サスがついてラインナップされているのだから、SEのサスは大丈夫なのか? との不安もよぎる。
リアサスは確かにベーシックな構成で5段階のプリロード設定のみ。出荷時は最弱から1段締め込んだところになっていた。開発者に伺うと「SEはツーリングでの荷物の積載やタンデムも想定した設定なので、締め込む方向に余裕を持たせました」とのこと。ちなみにバネレートなどは共通だというが、ストローク量はRRの124に対してSEは112とかなり短くなっている。ところが走り出すとSEが絶妙に良かったのだ。
不思議なもので、SEはエンジンすら違うように感じられた。アクセルの開けに対してより元気に加速していくようなイメージもあったし各ギアの繋がりも良かった。そしてコーナリングではリアがしっかりと踏ん張ってくれるため、(出荷時設定の)RR以上にしっかりとクリッピングに寄せていくことができ、かつ積極的にアクセルを開けて立ち上がっていくこともできたのだった。すっかり気持ちよくなってしまって、RRでは一度も擦らなかったステップもSEではカリカリと擦ってしまい、さらには調子に乗ってアクセルを開けすぎてリアが大きく流れてしまった場面も。あぶないあぶない、これはイイ気になってしまうぞ……。
走りという視点では下のグレードのはずのSEの方が俄然元気に感じたのは不思議なことで、開発者に伺うと「リアサスのストローク量が少ないがゆえ、駆動力がよりダイレクトに後輪に伝わってキビキビした感覚になるのかもしれません。特に袖ヶ浦のように短いコースだとよりそれが良い方に作用するでしょう。あとは……個体差による部分も……」とのこと。
ここでいう個体差は製品制度のばらつきという意味ではなく、ナラシの進行具合を指している。というのもこの日の朝、試乗車はみなサラの新車だったのであり、我々が試乗した時もオドメーターは僅か200kmほど。「カワサキのエンジンが最も調子よくなるのは20000キロほど走った頃ですから」と関係者が話していたが、そう考えるとその100分の1も走っていない新車では確かにばらつきもあるだろう。
ただ、完全に出荷時の状態での比較では、SEの方がしっくりくる人が多いのは間違いないはず。RRはしっかりと自分好みに車体セットアップを楽しみ、かつサーキットも走るだけではなく突き詰めていく人に向けたグレードに思える。
精密機器・小排気量4気筒復権に期待
ZX25Rの投入により死に絶えたと思われていた小排気量4気筒を復活させてくれたカワサキ。こんどは400ccでもそれをやってくれて、その点については本当に大絶賛を送りたい。小排気量の精密な4気筒でパフォーマンスを追求するというのは日本車のお家芸だったのであり、大排気量車が飽和状態になっている今こそ、国内のライバルメーカーだけでなく海外メーカーに対しても独自性のあるアピールに思う。
そして何より、このサイズ感やパワー感は筆者含む一般的なライダーが楽しみやすいスポーツを提供してくれるのが魅力だ。公道でも一瞬のうちに意図せずに非合法&とても危険な速度帯へとワープすることはないし、サーキット走行だって1周1km~2kmほどの怖がらずにチャレンジしやすいコースから始めることができ、全てにおいていい意味で等身大に思える。
今回はあくまでサーキット試乗のみであり、公道での印象や使い勝手については改めてレポートしたい。しかし公道に出る前から、この400cc4気筒というカテゴリーが再び注目や人気を集め、アップハンネイキッド版のZ400や、もしくはZ900RSのようにかつてのノンカウルスタイルのZ400FX/Z400RS/ゼファー/ザンザス(!)といった車種のオマージュ版にも期待したい。普通二輪免許枠で乗れる400ccでありつつ80馬力となれば、十分ステータスをもった魅力的なバイクではないか。
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:399cm3 ■ボア×ストローク:57.0×39.1mm ■圧縮比:12.3 ■最高出力:57kW(77PS)【ラムエア加圧時59kW(80PS)】/13,000rpm ■最大トルク:39N・m(4.0kgf・m)/13,000rpm ■全長×全幅×全高:1,990×760×1,100mm ■軸間距離:1,380mm ■シート高:800mm ■車両重量:189[190]kg ■燃料タンク容量:15L ■変速機形式:6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C 58W・160/60ZR17M/C 69W ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク・油圧式シングルディスク ■車体色:ライムグリーン×エボニー[メタリックフラットスパークブラック×メタリックマットグラフェンスチールグレー、キャンディプラズマブルー×メタリックフラットスパークブラック] ■メーカー希望小売価格:1,155,000[1,122,000]円 ※[ ]はZX-4R SE
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