ロードレース世界選手権(WGP)の最高峰クラスで通算3勝を挙げた故阿部典史。ノリックの愛称で親しまれ、残したリザルト以上のインパクトと人気を誇り、一時代を築いたライダーだ。引退を表明したバレンティーノ・ロッシは、ノリックに憧れ、自分を“ロッシフミ”と名乗り、長髪だったノリックと同じロン毛にしていた。
ロッシは、9回もWGPチャンピオンに輝き、史上最強ライダーと呼ばれた生きる伝説で、昨年2021年に引退を表明した。そのロッシは故郷、イタリアはタヴッリアにプライベートコースを持っている。広大な敷地には、大小2つのオーバルを中心とした複合的なレイアウトのダートトラックがあり、トレーニング施設として活用されている。
そこを舞台に、世界で活躍できるライダーの育成を目指す『VR46 Riders Academy』が実施されている。そして2016年にヤマハはロッシとパートナーシップを結び、未来へと繋がるプロジェクトとして『Yamaha VR46 Master Camp』を開催している。これは年2回行われ、世界から若手の有望なライダーを選抜し、約1週間、『VR46 Riders Academy』の本拠地『The Motor Ranch』や『ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリ』でトレーニングを受けるというもので、若いライダーにとっては貴重な経験をすることになる。
昨年は新型コロナウィルスの影響で中止していたが、11回目となる『Yamaha VR46 Master Camp』が再開され、阿部の長男、真生騎(18歳)が参加した。他に、パッサコーン・サンルォン(タイ/19歳)、ウォラポット・トンドンムァン(タイ/17歳)、アルディー・スティア・マヒンドラ(インドシア/16歳)、アリフ・ダニエル・ビン・ムハマッド・アスリ(マレーシア/18歳)の計5人が指導を受ける幸運に恵まれた。
週末にはスーパーバイク世界選手権(SBK)が開催されているミサノ・ワールドサーキットを訪れ、ヤマハチームのライダーたちと面会した。パドックに招待され、SBKチャンピオンのT・ラズガットリオグルやチームメイトのA・ロカテッリに挨拶。SBKに参戦している野左根航太と共にとeSport のプレ・イベントを楽しんだ。
その後には、ポンポーサ・サーキットで YZF-R3 のライディングが予定されていたが、大雨によるコンディション悪化で中止。代わりに Fisio Gym へ行き、集中的にストレッチに励んだ。最後にバスケットボールのミニ・ゲームとバランス・トレーニングを行い、VR46 Riders Academy の N・アントネッリ、M・ベッツェッキと短い時間をともに過ごした。
キャンプ最終日には、VR46 本社を訪ね、プライベート・トレーニングでバレンティーノ・ロッシと対面した。さらにGalliano Park サーキットで YZF-R3 に乗ってのライディング・レッスン。インストラクターの指導を受け、コースイン。ツイスティでテクニカルなコースをタイムアタックし、1位マヒンドラ、2位にサンルォンに続き真生騎は3位となった。
そして卒業セレモニーに出席し、全日程を終えた。
この1週間の経験を振り返って真生騎は語った。
「ロッシは、一緒に写真を撮ろうと誘ってくれ、とても気さくな人でした。印象に残っているのは、観戦したスーパーバイク・レースのスケールの大きさです。参加したVR46マスターキャンプですが、トレーニングの場所も設備が整っていて、様々なコースがあり、いつでもトレーニングが出来る環境がありました。ジムもあり、レストランもあり、バスケットも出来る。自分たちは、トレーニングのために様々な場所に出かけますが、環境の違いが大きいなと感じました。また、ここに来たい、世界に挑戦したいという気持ちが強くなりました。すぐに望みは叶わないことは分かっているので、今、出来ることを懸命にやるしかないと思っています」
真生騎は13歳で初めてバイクに乗り、14歳から本格的に乗り始め、レース参戦を開始した。今季は全日本ロードレース選手権ST600にフル参戦、スポットでJSB1000にもトライしている。そして、鈴鹿8時間耐久にも初参戦する。それも「練習」だと言う。ポケバイから乗り始めている同世代に比べれば、明らかに遅いスタートだが、誰もが目を見張るスピードで急成長している。バイクに乗っていなかった時間を取り戻すかのように精力的なスケジュールをこなしている。
(レポート:佐藤洋美)