個性的な見た目から想像するよりクセがない
日常的に使える乗りやすさ
昨年12月に国内初のお披露目をしたときに、ハブセンターステアのbimota TESIシリーズの生みの親であり、カワサキが再生支援にかかわる新生bimotaを主導するCOO(最高執行責任者)のピエルルイジ・マルコーニ(Pierluigi Marconi)氏は、「600ccクラスのような乗り味を1000ccで実現したかった」と話した(KB4発表会参照→ https://mr-bike.jp/mb/archives/26609 )。走り出してすぐに、その言葉が、“なるほど”と合点がいった。乗る前に押し引きをしているときからすでにその軽さに少なからず驚きを感じた。1390mmとZX-6Rより短いホイールベースで、発表会場の壇上に置かれていたときよりコンパクトさがきわだつ。
それはそうだ、水冷4気筒エンジンを譲ったスポーツツアラーのカワサキNinja 1000SXよりスペック上で42kgも軽くなっているのだから、違いがあって当然である。気のせいかと疑う余地もない。ロケットカウル的なクラシックテイストながら独特な造形をしたCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)フロントマスクから、後方ラジエターにつながるダクトを内包しながら絞り込むようにリアにつながる造形など、ひとめでKB4とわかる個性に、bimotaらしさを感じる。剛性の高そうな太いスイングアームを筆頭にアルミ削り出し部品の仕上がりの美しさもまたbimotaらしさ。この良い意味でクセが強いスタイリングから想像するより、運転すると拍子抜けするほどクセがない。ハードで手強いところはどこにも見当たらない。
1043ccエンジンは、スポーツツアラーのNinja 1000SXに搭載されたスタンダードのままだ。排気系も変更はない。マフラーのテールエンドとヒートガードをCFRPに変更しただけ。ECUや電子制御もそのまま。パワフルながら猛々しく荒ぶるみたいな尖った一面はどこにもない。
最高出力104.5kW(142PS)/10,000rpm、111N・m(11.3kgf・m)/8,000rpmのスペックは、最高出力の表記が0.5kWだけNinja 1000SXより増えているけれど、基本は何も変わらないもの。全域がトルクに支配されていると表現したくなる、いわゆるどこからでもスロットルを開ければ前に進むイージーさ。その押し出しは7千回転から強みを増すが力強いながらオンとオフがはっきりとした過渡なところがなくいたってジェントル。車体が軽い恩恵でNinja 1000SXよりリアクションがよく速さが盛られている。
「スポーツ」「ロード」「レイン」とあるライディングモードを最もレスポンスのいい「スポーツ」で日常的な街中を走り、郊外を流してもストレスにならなかった。
パワーユニット関連に変更がないことで、6軸IMUを使い出力特性モードと連携したトラクションコントロールやABSの細かいコントロールなどライダーを助けてくれる電子制御も受け継いでいる。トップブリッジ下にあるハンドルバーを掴んでの前傾姿勢は思ったより強くはない。グリップ位置まで遠くなく、拳はライダーのヒザよりやや上の高さ。身長170cmで腕が短いライダーでも無理なく操作可能だ。ペグの位置はやや高めで、瞬時に踏み込みができてスポーツライディングにはちょうどいい。
反面、ヒザと足首の曲がりがやや大きくなる。ハンドルの開き具合は市販車のセパレートタイプとしては標準的と言えるもの。ニーグリップはキュッと股ぐらで締め保持しやすいフィット感だから、重力によって前に倒れようとする上半身を腕だけで支えるようなことはなく、それほど苦労することなくハンドルから力を抜くことができる。
前後のフルアジャスタブルクッションユニットはOHLINS製。フロントはボトムエンドパーツの削り出しがキレイなFG R&T 43フォークで、リアはプリロードを右サイドにあるダイヤルで遠隔操作できるTTX36ショック。前後ともに走行速度が遅くてもスムーズに動いて当たりが柔らかい。ゴツゴツした路面の凹凸をいなす乗り心地の良さに感心した。そこから積極的にペースを上げて走っても、ショックを吸収しながらタイヤをしっかり路面に押し付け音を上げないのはさすが。コストをかけた足になっている。フロント左右のインテークから空気を取り入れてシートの下を通し、テールカウルに隠れるよう水平に近いカタチで設置されたラジエターに導く役割をするCFRP外装と中の細いリアフレームが腰を下ろすライダーを支える。リアのボトムリンク式サスペンションは、ショックの上部がそれらと接続しない、スイングアーム内で支持するホンダのユニットプロリンクと似た方式になっている。都市部から高速道路を使って郊外へと脱出し、ワインディングなどを走り回ったかぎり、リアホイールトラベル=122mmという中で動きの制御を上手にこなしていると思う。
特異なレイアウトを否定する理由が見当たらない
スーパースポーツとは異なる
ラジエターの位置を一般的な場所から移したから前後の重量配分をbimotaが理想とする53.6:46.4にできて、短いホイールベースの中で555mmと長いスイングアーム長を実現したと昨年のお披露目で説明があった。ステップ荷重に素早く反応する軽快なフットワークでリーンしていくと見合ったセルフステアが入って気持ちよく曲がれる。そこには特別なテクニックを必要としない従順さがある。平凡でない冷却レイアウトのおかげかどうかわからないけれど、結果としてスポーツライドする楽しさを手に入れていることは事実だ。
ラジエターには大きな電磁ファンが付いており、外気温が摂氏25℃以上になった東京の中を移動していると比較的早めにファンが回りだす。信号で停止していると回っていることがわかる音が聞こえるけれど、耳障りではない。当然ながら排出されていく熱気によって尻の付近は暖かい。それでも耐えられないほど熱い体験にはならなかった。
気になったのは工具を使わないとほとんど写し出す方向を調整できないCFRPカウルに直付けされているサイドミラー。立ちゴケのみならず、何かに強く触れるだけで美しい仕上げのカウルを破損させそうで気を使った。さらに走行中はミラーが上下に揺れて見づらい&不安で精神的に良くない。もし私がKB4を手に入れたならバーエンドミラーにするだろう。
満タンで出発して樹脂でできたインナー燃料タンクの19.5Lをほぼ使い切った(ちなみに燃費のアベレージ表示は18.8Lだった)。 いろいろなシチュエーションで行動をともにして、KB4が、ここ10年で7回もタイトルを手にしたZX-10Rの最強4気筒エンジンを使わなかった理由が理解できた。速さと運動性能の気持ちよさと同じくらい、ライダーを選ばない乗りやすさがある。これはトラック走行も考慮した誰よりも速く走ることにこだわったスーパースポーツではないということをお伝えしたい。
エンジン特性、車体操作のフィーリング、強すぎない前傾姿勢に2車線あれば無理なくUターンができるハンドル切れ角なども含め極端なところがない、あくまでもストリートスポーツバイクとしての理想を追求したもの。ときには刺激的でありながら、ときにはリラックスもできる。KB4においてカワサキとbimotaのタッグはとてもうまくいっている。
(試乗・文:濱矢文夫)
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1,043cm3 ■ボア×ストローク:77.0×56.0mm ■圧縮比:11.8 ■最高出力:104.5kW(142PS)/11,000rpm ■最大トルク:111N・m(11.3kgf・m)/8,000rpm ■全長×全幅×全高:2,050×774×1,150mm ■ホイールベース:1,390mm ■シート高:810mm[+/-8mm] ■車両重量:194kg ■燃料タンク容量:19.5L ■変速機形式: 常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17・190/50ZR17 ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):4,378,000円
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