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試乗・解説

「走り出したらいつでもどこでも 愉快になるバイクを作りたかった!」 に、違いない。 Honda HAWK 11
HAWK 11──春のモーターサイクルショーにやってきたバイクは注目を集めた。グローバルな視点からの着想ではなく、モデル開発を務めた人のバイク好き目線で「こんなのが欲しい」を具現化。CRF1100L Africa Twinのエンジン、フレームをベースに仕立てられたロードスポーツ。
それがこのバイクだ。乗ったら沁みる、走りだしたらどんな速度、どんな走りでも感じ取れる操る悦び。僕らを満たすおもてなしはスペックだけではないよね、を体感した梅雨の晴れ間の1日を紹介しよう。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、HenlyBegins https://henlybegins.com/




あの頃のホンダ。

 HAWK 11の開発責任者を務めたエンジニアの人となりが紹介された。と、いうのも、このメディア向け発表試乗会の前に開発責任者を務めたエンジニアが定年を迎え引退したからだ。彼がホンダに入社したのはライバルメーカーとの嵐のような開発競争に明け暮れた時代のただ中、もしくはその直後だったに違いない。それこそ週イチで新機種を生み出すほど多々プロダクト開発に明け暮れた当時の様子をOBにインタビューしたことがあるが、やっている当人が複数のプロダクトを担当しているだけに、目の前の仕事が「これって、どれのをやってるんだっけ?」という疑問が湧いたとしても、その疑問に向き合う時間を挟みこむ余地がないほどの毎日だったという。

 ライバルメーカーとの間に勃発した販売台数競争。それに打ち勝つための原動力は「負けん気」だったのだろう。世界に打って出るタイミングだってスゴイ。2輪の世界グランプリ挑戦を宣言したのも、4輪のF1グランプリに参戦を決めたのだって市販プロダクトを出す前。世界で一番なら文句なしで日本一、そんなモーレツな勢いこそ創業から60年代を駆け抜け、80年代当時の研究開発部隊をまとめていたリーダー格の人達に通じた思いだった。
 

 
 まるでそれが当たり前のように展開するホンダで育ったHAWK 11のLPLは、指揮命令系統が明解で開発がいかにスピーディーなものでよどみがないか。その当時の「ホンダイズム」のような部分までこのバイクに注ぎ込んだに違いない。

 そう感じたのはこのバイクの造られ方だ。「アーキテクチャー・シリーズ・プロジェクト」。ASPと名付けられたこの手法は、(完成車開発部 完成車研究課アシスタントチーフエンジニア)よれば、「既存の車体を活用しながら、現行ラインナップとは異なる位置づけの派生展開として、市場規模、設定台数(想定される生産台数)に対応した造り方など検討成果も取り入れた開発を行うこと」となる。
 CRF1100Lの車体をベースにその第一号として生まれたのがこのHAWK 11だ。

 

だからの「上がりバイク」「速くない、でも少し速い」
というナゾかけ的キーワード

 試乗前に行われた技術説明会、通称技説(技術説明を略して僕らはギセツと呼んでいます)は、正直に言えば今一つすんなりとは腑に落ちなかった。モデルのコンセプトが「若い頃からバイクに乗り継ぎ、いつの間にか上がりバイクが視界に入る年齢になった」とか「バイクを乗り継いできた大人の、皮ジャン姿が似合うスポーツモデル」とか「速くない、でも少し速い」ときた瞬間、桃屋のラー油のラベルにある「辛そうで辛くない、でも少し辛いラー油」的ヒット狙いの戦略か? と妄想が頭の中をジャックしてその先の言葉が全く沁みてこない。

 いや待て。こんな解りやすい言葉もない……か……。
 以下しばらくは僕の勝手な空想が広がるのです……。

 このキラーワードが最初に編み出されたのは、こんな場面に向けた開発チームの事前ミーティングではなかったか。開発開始の許認可時期に、広い応接間に黒い革張りの椅子が並ぶ会議室で、新規開発モデル品評会的なものが大企業らしく行われたハズだ。そこにやってくるダークスーツ姿のボードメンバーは必ずしもバイク乗り、バイク愛好家ではなく「バイクは売るモノ」「これで何台売れるんだ?」という厳正なる商売の判断をする人が含まれる。それが面白いとかこの先のバイク界に必要だ、というコトよりも……。

 そこに同じアーキテクチャーを使い別キャラを生み出す。そうした人達を説得するのは骨の折れる仕事だ。しかも目指した本質は走ることで得る至福だ。熱狂的なバイクファンならまだしも、この心の琴線に触れるような部分を言葉で補うのは、プロ野球ファン一筋の人に別のスポーツの深淵を説くようなモノかもしれない。

 そこでかつてのLEON誌が起こした社会現象のように「ちょいワル」的フレーズを使い、この手のバイクに感度の良いヤング@ハートなライダーに向けたことを暗に滲ませ、大人、上がりバイクというワードも入れたに違いない。なんとなくそこに意味を感じたスーツ組は、黒皮の椅子をギュっときしませ、隣のメンバーの顔色を見つつ「売れるんだな。責任はキミが取ることになるんだぞ」なんて、ドラマのセリフのような言葉に続けて「短時間で作るんだ」と圧を掛けることも忘れない。そして開発責任者は「然るべく」と短く結び、HAWK11の開発は始まった……。

 以上、ここまでが妄想……。

 
 リアルに考えても「国内専用モデル」ながら、きっと世界から「ウチでも売って欲しい」というオファーは来るだろう。
 今、ネオクラシックな匂いのするラインの中で、ホンダには4気筒のCB1000Rがある。そして2気筒ではRebel 1100がある。これはネオクラシックラインでは必須のボバー的イメージ。で、HAWK 11はカフェレーサー風だ。これも必須。これまた勝手な想像に過ぎないが、あとASPにスクランブラーがあれば世界のメーカーが揃えるカフェ、ボバー、スクランブラーラインも完成する。

 で、弄りやすいよう、ベース価格は控えめ、電子制御も必要最低限。だから、HAWK 11の品評会会議のあと「スクランブラーは誰がやる?」なんて話すら開発チームが裏で進めているのではないか、とすら勘ぐりたくなる……。
 

 

乗って解ったその真意。

 バイク乗りなら潜在的に「コレなんだよ」という走る悦び成分を多分に持ちながら、乗らないと伝わりにくい細部ってあると思う。HAWK 11はそのタイプ。アフリカツイン、Rebel 1100といったバイクに乗った体験があれば想像はつきやすいというものだが、それを直感的に伝えるパッケージデザインとして、FRPという造形の自由度を持つマテリアルとそれにより再現可能になったカタチに拘りを入れたのだろう。

 つまり、乗ったら加速も旋回もブレーキングも日常でとても魅力的だったのだ。
 

 
 見ても跨がってもカフェスタイルがしっかりと楽しめる。ステップ、シートの位置関係も明確にスポーツバイクのそれ。でもCBR1000RRから103mmグリップ位置を上げたセパレートハンドルは、このバイクの乗り味を決定付けている。きつすぎない前傾姿勢、それでいてセパハン+カウルのバイクに乗っている感がスゴイ。それに、スクリーンを固定するボルトすら鋲頭のボルトが粋だ。確かにメーターやマフラーは流用されたパーツだが、そのへんはあえてカウル内のスペースを絞り、そのメーターがあたかもジャストサイズです、といっているようだ。

 ミラーだってそうだ。FRPでは避けにくいささくれや表面の割れ、削り粉の処理などを考えたら、フェアリングにドリルで穴を開けるよりこうしたほうがいいのでは、とゲスな勘ぐりをした。が、じつは、あくまでこのスタイルに拘ったから、というのが開発者達の思いだった。この模様は後日、HAWK11の開発者に聞いたインタビュー記事で紹介したい。

 シートフレームは100mmもバッサリ切り落としテールを短くした。これによりシートエンドの位置は長いスイングアームからまるまるリアタイヤがはみ出すようなルックスを取る。前に突き出したように見えて、フロントホイールのアクスル位置と同等の位置にフェアリング前端を合わせたことで、ロケットカウルの前にある前輪の存在感があり、17インチながら往年のロードバイクのようなもう少し大径タイヤを履いたプロポーションにも見えてくる。実際、1510mmとホイールベースは長く、大柄であることは隠していない。
 

 

動き出せば心と通じる不思議な乗り味。

 しかし、跨がってみるとこのバイクは前後に長いという印象が薄れてくる。セパハンに置いた両手と自分の尻のあたりまでであるかのような一体感がある。それは走り出せばなおさら強まった。

 まず扱いやすいエンジン特性はアフリカツインから継承されたもの。また214㎏と重すぎない車重が軽い操作感を与える。待てよ、ミラーの位置だって内側にフレーム入れてその上にミラー付けるなら、低い位置から出した方がロール方向の軽快さは出る……。

 これ、アフリカツインでも感じたコトだが、Vツインを積んだ750のアフリカツインより、排気量も車重も増えたCRF1100Lの方がマスを集中させ、取り回しや動きに軽さがあるのと一緒なのか……、と拘りの部分を感じ始める。もちろん、クラッチレバーなど操作系の軽さも同様。また、市街地で6速60㎞/h以下を許容するフレキシブルさ。一挙にバイクと自分の間合いが詰まる。

 SFF-BPを採用したフロントフォークが持つ初期ストロークの吸収性の良さ、ブレーキの制動力とそのフォークの動きがマッチしてタッチまで上質に感じる。直進からわずかにリーンしながら曲がり始める瞬間、その舵角の入りとバイクの動きの一体感は絶妙。解りやすいししっかりと曲がる実感を味わえる。

 全体に好印象ながら、例えばシフトタッチにもう一歩の切れ味が欲しいであるとか、道路を流れに合わせて走るとき、上腕の重みにより、スロットルチューブがハンドルバーと擦れ、微細なアクセル操作にギスギス感が出たり、触感の大切な部分のアップデイトは要望しておきたい。乗る前に心配だったミラーは、慣れるほど後方視界が確保できている意外性が嬉しかった。また、Uターンなどフルロックでのタンクとハンドルバーのクリアランス、操作性に不満なし。その点はしっかりと磨かれていた。
 

 

ハンドリングにアフリカツインの影!?

 アフリカツインはCRF1000Lが登場したときからメインフレームの剛性バランスをオン、オフ両刀となるようチューニングを施している。それは、メインフレームの剛性バランスが高いのはもちろん、味付けとしてエンジンの締結に使うエンジンハンガープレートの長さ、厚み、角度、その位置などを変えることで、車体の早いリーンにはしなやかに、ゆったりとしたリーンでは剛性感あるように調整されている。

 つまり、オフロードでは外乱を食らったときは、そのエンジンハンガーのしなりを使ってライダーがカキーンという動きで驚かないようなマイルドさを。オンロードをガンガン走った時に寝かす速度ではフレームとエンジンが同位相で動くことでしっかり感を味わえるというもの。このHAWK 11にも同様の手法が取り入れられていて、フロント21インチ、リア18インチと長いストロークのアフリカツインと、前後17インチでロードタイヤを履くHAWK 11ではどう違うのかも気になった。

 その印象は、右グリップをポンと押して左に傾けるようなカウンターを与えるとその速度、力具合によってエンジンがプルンと動くようなやや重たい挙動になり、ライダーの荷重だけで寝かせた車体に前輪が追従するような素直な曲げ方をするとその特性は顔を出さないことが解った。
 

 
 逆に、セパハンに上半身の体重を載せただけにしておくと、寝かせた動きに合わせて切れる前輪の動きを妨げて、手で操舵を押さえてしまっているような「手」アンダーを出しているような場面でも、同様に少しねっとり感が出る印象だった。マニアックと言えばマニアックだが、素直に旋回に導く操作をすればHAWK 11は麗しの走りをする。乗れている感をライダーにフィードバックしてくる。だからバイクが小柄に感じ、手の内感がグンと立ち上がる。そこに定評のあるこのエンジンだ。2500回転も回っていればトルクタップリのエンジンが繰り出す加速が楽しめる。高めのギア、低めの回転、ワイドに開けたスロットル。これを組み合わせた時、息の長い加速と寝かせた時の曲がり方は心にまたとない悦びを与えてくれた。

 その時の体感加速は充分に速く楽しい。コーナーを切り取る楽しさは魅力的だし、遠くのワインディングを走り続けたら、きっとオーナーはたった14リットルしかない燃料タンクを恨むだろう。「創りたかったのは、凄いバイクではなく、半日の自由をみつけて、出かけて楽しいバイクです」とあるが、なるほど、短時間でも楽しいバイク、という主張は同意するが、楽しい時間は長いがイイに決まっている。たぶん、多くの人がもっと沢山走りたいと思うだろう。
 

 

見ると乗るとでは大違い。

 正直言えば、最初見た時「このバイク長い?」とか「見た目でアフリカツインのフレームがそのまま過ぎ」と思った。が、乗った後の感想から見るとどこを見てもHAWK 11という個性の塊として映る。そして楽しい、乗るのが! その一言に尽きる。かといって僕はこれが「上がりのバイク」だとは全く思わない。妄想の中のボードメンバーは小手先の言葉でどうにかなっても、楽しさを知った今、この先のもっと楽しさを味わいたい。人の感性はすぐに進化を許容し慣れてくる。だからもっと刺激を欲しくなる。その刺激がスゴイ性能ではないことは僕も賛成だ。

 サンプルとしてギセツでは、「ドリーム店で乗り換えたユーザーはCBR1000RR、CB250RR、CB1100が多かった」と説明があった。また、60%が40代、50代が占めているそうだ。9月下旬にハンドオーバーが始まるバイクの初速としてはこのような数値になっている、というものだが、期待度はこれからさらに高まるだろう。バイクとライダーが取れる密なコミュニケーション。その質の高さ、深さは誰もが作れるモノではない。設計現場が編み出した味を工場出荷時に再現出来ているか、という一連性だって凄く重要だ。
 大量生産のプロダクトに新たな挑戦をした。HAWK 11はそんなバイクに思えた試乗だったのだ。こればかりは乗ってみるべし、と推すしかない。バイクの魅力はスペックやシリンダーの数ではない。乗って感じたフィーリングが全てだと思う。正直、ホークⅡでバイク人生を始めた自分は、この車名、HAWK 11なんてなんにも響かなかった。そう、名前でも形骸でもない。乗ったらどうか。バイクと人との意思の疎通。そのへんの密度こそバイクへの愛情を感じる源泉。そう思うからである。その点で「乗りたいモノを造った」という開発陣の意気、タップリ感じたのでした。※次回は、開発車インタビューをお届けします。
(試乗・文:松井 勉)
 

 

ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

左にスプリング、右にダンパーという機能を左右のフォークで分けたSFF-BPタイプの倒立フォークを採用。ニッシン製対向4ピストンキャリパーを採用したフロント周り。

 

キャスター、トレールのディメンションを最適化するためスイングアームピボットから見ると時計回りに回転するようにしたことでキャスター角を25度へ。トレール量は98mmとなるHAWK 11。エンジンは1082㏄直列2気筒、270度クランクを持つ不等間隔爆発をするエンジン。ヘッド周りの軽量化を目的にDOHCではなくOHC、ユニカムタイプとしている。

 

ステップ周りではヒールガードがもう少しピボット側に追い込みくるぶし周りの自由度が増えたらと感じた。ブレーキは〇。あえてクイックシフターの設定をしないのであれば、もう少しアップ、ダウンともクッキリしたタッチと操作時の上質感が欲しいところ。

 

180/55ZR17という普遍的なサイズのタイヤをチョイスしたHAWK11。リプレイスマーケットには魅力的なタイヤが多く選択肢が多いのも嬉しい。サイレンサーはNT1100と共通ながら角度の違いなどによりライダーの耳に届く音、鼓動感は異なるという。

 

スイングアームはアルミダイキャスト製。チェーンガードは金属製を採用。サイドスタンドもアルミ製を採用。
リアサスペンションはダイヤル式のイニシャルプリロード調整を備える。

 

キーでロックを解除、着脱可能なシート。シート下にはETC2.0 、ツール、書類、バッテリーなどが収まる。

 

スイッチ周りはRebel 1100と共通。MODEスイッチと上下切り替えのSELスイッチでメーター内の表示画面を選び、その中からコンテンツを選び変更をする。
SFF-BPフォークの左側トップキャップにはイニシャルプリロード調整ダイヤルが備わる。

 

丸型メーター表示部分とワーニングランプが収まるエリアで構成されたシンプルなメーター。カウル内のFRPの地肌が見える。
セパレートハンドルもさることながら、カウルのシルバーに塗り分けられた部分の造形がHAWK 11の一つの見所。

 

ライダーの膝がコンタクトするエリアと膝上のエリアで抑揚を付け個性をだしている燃料タンク。14リットル入る容量の内側には専用設計されたエアクリーナーボックスが収まる。
テールエンドはシートエンドで短く仕上げている。テールランプ、ウインカーはLED。

 

独特の造形をそのまま再現するために選ばれたFRP整形。ヘッドライト周りやライダーの手が触れそうな部分の折り返しなど、安全面にもしっかり配慮した造り込み。ヘッドライトはLEDを採用。ミラーとそのステーは、カウルステー側から伸びる。ミラーステーそのものはミラー専用で交換も可能になる。
車体色はパールホークスアイブルー(左)とグラファイトブラック(右)の2色が用意されている。

 

●HAWK 11 主要諸元
■型式: 8BL-SC85 ■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒OHC4バルブ ■総排気量:1,082cm3 ■ボア×ストローク:92.0×81.4mm ■圧縮比:10.1■最高出力:75kW(102PS)/7,500rpm ■最大トルク:104N・m(10.6kgf・m)/6,250rpm ■全長×全幅×全高:2,190×710×1,160mm ■ホイールベース:1,510mm ■最低地上高:200mm ■シート高:820mm ■車両重量:214kg ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式: 6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR 17M/C・180/55ZR 17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:パールホークスアイブルー、グラファイトブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,397,000円

 



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2022/06/17掲載