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試乗・解説

どこまででもどこまでも いつまでもいつまでも YAMAHA FJR1300A/AS
今やロングツーリングバイクと言えば
非4気筒エンジンのアドベンチャーカテゴリー花盛り
けれど、かつて日本のロングツーリングバイクといえば
並列4気筒エンジンのヘビー級ツアラーが主役だった。
ヤマハFJR1300は、国産モデルで1~2を争う
快適超平和ツーリングバイクなのだった。
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:松川 忍 ■協力:YAMAHA https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、クシタニ https://www.kushitani.co.jp/




レア車FJの正統血統者

 まだ見ぬ強豪──この言葉がピッタリのバイクだ。

 FJR1300、ヤマハの並列4気筒、ヘビー級ツーリングバイクだけれど、長く海外専売モデルだったこともあって、たとえば同じカテゴリーにハマるであろうCB1300スーパーボルドールやNinja1000なんかに比べて、あまり国内では知られていない存在なんだと思う。

 ヤマハ歴代モデルで言えば、1984年登場のFJ1100がルーツだ。ヤマハによると、FJ1100は「操縦性と安定性の両立を初めて開発に織り込んだモデル」なんだという。そういえば、車重250kgのカウル付きヘビー級ツーリングバイクで、前後16インチタイヤ、後のアルミデルタボックスフレームの元になったともいえる、ステアリングヘッドからスイングアームピボットまでを一直線に結んだ「ラテラルフレーム」を採用した、チャレンジングな1台だった。
 FJはその後、86年に1200cc化。けれど、その頃はもう900NinjaがGPZ1000RXになり、GSX-R1100が発売されたエキサイティングな時代だったから、ここでもFJ1200は、そう人気モデルではなかった。その後、ヤマハからもFZR1000が発売されたし、FZRも実は、1000ccのスーパースポーツと言うより、スーパースポーツルックスのツーリングバイクだったから。
 けれどFZR発売後も、FJはラインアップされ続けていました。90年にオーバーナナハンの国内販売が解禁になって、91年にはFJ1200の国内販売もスタート。96年には大型二輪免許が教習所で取れるようになり、2005年には高速道路でのタンデムも一部解禁。さぁFJの時代だ、と思ったけれど、そうはならなかった。

 そしてFJがFJRに進化したのが2001年。エンジンは1300cc化され、しかも他機種には使用されない専用の水冷4気筒エンジン。ソロはもちろん、タンデムでのロングツーリングの快適性も考えられた、ヨーロッパでスポーツGTとまで呼ばれたモデルだ。けれど、それが国内販売されるまでに、また10年以上かかったんだよね。そこが、国内で今ひとつ注目を浴びない理由なのかもしれない。
 

 
 FJRに初めて乗ったのは、06年にクラッチワーク不要のYCC-S(ヤマハ・チップ・コントロールド・シフト)を採用したFJR1300ASがモデル追加され、国内販売をスタートした13年以降。そんなに長い距離でもなかったから、見かけよりは軽く扱えるな、パワーあるなぁ、ロングツーリングの快適性もよさそうだな――そんな感想を持ったのは覚えています。当時のロングツーリングバイクと言えば、ZX-14Rとかハヤブサで、それよりも強烈すぎず、ソフトなロングツーリング。現在でいえばNinja1000やH2SXあたりがライバルになるのかな、ロングツーリングバイクも「非4気筒」のアドベンチャーに取って代わられつつあるから。

 それから約10年。FJRにガッツリ乗った。こういうバイク、長距離乗りたいな、と思ってガッツリ。1300ccだから1300kmを目標に、ってミスター・バイク伝統の「シーシーインプレ」(1000ccなら1000km乗る、ってコジツケです・笑)をしてみようと思ったんです。
 まず、FJRは重い。車両重量296kgは、ライダー体重を入れたらもう350kg。またがるとズッシリと重量を感じるビッグボディで、押し引き、取り回しにはかなり気を使う。ハヤブサは264kg、CB1300SBは272kgだから、かなりのヘビーウェイトだ。
 

 
 走り出すと気にならなくなる重量も、ごく低速時や停止寸前にグラッとでも来たらタイヘン。けれどスピードが乗ってくると、低回転からトルクが湧き出るような特性で、乗っている車重が本当に気にならなくなる。
 試乗した1300ASは、いわゆるクラッチ操作が不要なギアチェンジシステムのこと。ここは、ホンダのDCT(=デュアル・クラッチ・トランスミッション)と混同している人が多いかもしれないけれど、1300ASはクラッチ操作なしで、左スイッチのボタンでシフトアップ&ダウンができるというものだ。だからDCTはノークラッチ自動変速、ASはノークラッチ手動変速。シフトペダルも装備されているけれど、これはミッションにはつながっていなくて、左スイッチのボタンを、わざわざライダーの感覚に合うように、左足部分に持ってきているだけだ。
 シフトダウンは、スピードダウンと連動して自動で行なってくれる。スピード低下から停止までの区間を検知すると、車速に合わせたギアにシフトダウンしてくれて、停止時には自動でローギアにしてくれるのだ。
 このAS、乗り出してすぐはクイックシフトのようにアクセルONのまま左手でシフト操作していたけれど、そうすると変速ショックがギクシャクするから、通常のクラッチワーク+ミッション操作をするように、変速時に一瞬アクセルを戻すようにするとスムーズに走ることができる。
 

 
 エンジン特性は、かなりの低回転トルク型。それも、身体が持って行かれるような「グン」というトルクではなく、燃え始めがきれい、と表現すると分かりやすいように、スウッとトルクが湧き出てくる。これは高いギアでも同じことで、ちょっとエンジンをいじめるつもりで6速2000rpmとかからアクセルを開けてみても、スーッと車速が乗り始める。このスムーズさは、さすがに1300ccの並列4気筒。トルクの出方がすごくきれい。
 FJRがその本領を発揮するのは、やはり高速道路のクルージング。6速80km/hは2400rpm、100km/hは3000rpm、120km/hは3500rpmほど。最大トルクを7000rpmで発揮するエンジンの3500rpmなんて、ほんとに平和なエリアで、さらに電動スクリーンをハイポジションにセットして、クルーズコントロールをONにすると、もうチョー平和なクルージングが味わえるのだ。
 ただしこのクルーズコントロールは、最高設定時速が50~110km/hまで。この辺はすこしアップデートしてほしかったな、今や日本だって120km/h制限の高速道路があるんだから。ヨーロッパ仕様はおそらく設定速度無制限だから、たとえばYSPで120km/hまで設定できるとサイコーです。
 

 
 6速に放り込んで、クルーズコントロールを110km/hに設定して走ると、FJRはビタリと安定してクルージングすることができる。そうか、FJRの車重はこの超安定性のためのものなのだ。
 上半身はほぼ前傾しないポジションで、ステップも高すぎないから下半身も窮屈じゃないFJR。しっかりクッション厚のあるシート、路面のうねりや凸凹を吸収してくれるサスペンションもあって、FJRのクルージングの快適性は、国産モデルで1~2を争うレベルのものだ。

 FJRの魅力のひとつであるASに関しては、シフトアップ方向が自動じゃないから、イージーなライディングとは無縁なのかな、とも思ったけれど、これが慣れたらかなり快適なシステムだと分かってくる。ストップ&ゴーを繰り返す一般道の渋滞だって、発進時に半クラッチのことを意識しなくていいから、ライディングのキャリアが浅いライダーなんかには安心なはずだ。
「欧州横断ツアラー」と銘打って、ふたり乗りで10日間、のべ3000kmのツーリングを快適に過ごせる、というコンセプトは、きちんと達成できていると思う。ただし、FJRのよさをきちんと実感するには、日本は狭すぎるかもねー。
(試乗・文:中村浩史)
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

アルミダイキャスト製フレームは、FJ1100のラテラルフレームのレイアウトを継承したもので、操縦性と安定性の両立を目指したもの。写真は初期モデルだが、シートレールの頑丈なつくりもふたり乗りやロングランを意識したものだ。
03年にはABS車が追加され、06年には標準装備に。前後17インチホイールに、タイヤはブリヂストンBT-023と、ひと世代前の最新スポーツツーリングラジアルを履いているのがわかる。写真の右側キャリパーはリアブレーキと連動している。

 

エンジンはこのFJR専用の水冷4気筒DOHC4バルブで、最高出力は147psをマーク。パワーモードはT(タウン)/S(スポーツ)の2種類が選べ、トラクションコントロールも標準装備。試乗車のASは「オートシフト」の略で、ハンドシフトのほか、通常のチェンジペダルの位置にシフトペダルも装備。しかしこのペダルはミッションには連結されず、左ハンドルスイッチと同じ電子スイッチを足操作としたものだ。

 

ファイナルドライブはシャフトドライブ。スプロケット交換でギア比の変更こそできないが、ヨーロッパではメンテナンスフリーでロングランツアーに不可欠、といまだにシャフト信仰は根強い。シャフトのクセなど皆無の自然なフィーリングだった。

 

本文中では触れなかったが、ASは電子制御サスペンションも装備。フロントの減衰、リアのイニシャル&減衰を組み合わせ、「ひとり乗り」「ひとり乗り+荷物」「ふたり乗り」「ふたり乗り+荷物」の4パターンを、それぞれソフト/スタンダード/ハードに7段階に調整できる。つまりサスセットを4×3×7=84通り、ハンドルスイッチでセッティングできるもので、いささかオーバースペックだったが、10日間で3000kmの旅を想定するに必要な装備なのだろう。

 

先代モデルよりも動作スピードが上がった電動スクリーンは、上下に130mm動かすことができる。カウルサイドのフラップは、クイックファスナー留めで20mm動き、カウル内へのエア流入量を調整することができる。ASにはバンク角に応じて点灯するコーナリングランプを標準装備。

 

シート下の取り付けベースパーツの位置を変えることにより、シート高を805/825mmの2段階に調整できる。シートの出来は素晴らしく疲れ知らずで、そうクッションがソフトではない印象ながら、長時間のライドにお尻の痛みも少なかった。

 

左からアナログタコ、デジタルスピード、マルチファンクション表示が並ぶ。マルチファンクションには、オド&ツイントリップ、残ガス走行可能距離や走行時間、気温&水温、瞬間&平均燃費を表示する。いずれも左ハンドルスイッチで操作できる。

 

ハンドルスイッチは、右にセル&キル/パワーモード切り替え/ハザード、左にはメニュー上下セレクトスイッチ、ストップモード、クルーズコントロール、ハンドシフトレバーなどが収まる。メニューボタンで選択し、スクリーン高、グリップヒーター、電子制御サスの調整が可能。

 

写真の人差し指位置にあるのがシフトアップスイッチで、親指位置がシフトダウンスイッチ。左スイッチはウィンカー、ホーンにクルーズコントロールやメニューボタンが密集しているため、慣れるまでは目視確認が必要で、夜間には押し間違いもあった。

 

フューエルタンクは大容量の25L。今回の試乗では高速道路メインで約22km/L、一般道メインで17km/Lの実測燃費をマークしたので、高速道路では1タンク500kmオーバーの走行が可能だ。
2000年9月のインターモトでデビュー、01年からヨーロッパで販売を開始し、国内発売開始は13年12月。今年で満20周年を迎え、写真のエンブレムを装着する20thアニバーサリーエディションも発売された。

 

●FJR1300A/AS
■型式:2BL-RP27J/P518E ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:1297cm3 ■ボア×ストローク:79.0mm×66.2mm ■圧縮比:10.8 ■最高出力:108kW(147PS)/8,000rpm ■最大トルク:138N・m(14.1kgf・m)/7,000rpm ■全長×全幅×全高:2,230mm×750mm×1,325mm ■ホイールベース:1,545mm ■最低地上高:130[125]mm ■シート高:805mm/825mm ■車両重量:289kg[296kg] ■燃料タンク容量:25L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・180/55ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:マットダークパープリッシュブルーメタリック1、ダークグレーメタリックN[マットダークパープリッシュブルーメタリック1、ダークグレーメタリックN] ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,540,000円[1,870,000円] ※[ ] はFJR1300AS

 



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2022/05/27掲載