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試乗・解説

2年前に大幅に進化して登場したDUKEシリーズの旗艦モデルが、さらなる武器を手にしてバージョンアップした。短時間の試乗ながら、そのポテンシャルの片鱗を味わってみた。
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:渕本智信 ■協力:KTM JAPAN https://www.ktm.com/ja-jp.html、JAIA https://www.jaia-jp.org/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、KADOYA https://ekadoya.com/




フルフェアリングを持っていないスーパースポーツ

 1301cc水冷4ストDOHC4バルブ75°V型2気筒のツインスパークLC8エンジンは、最高出力180馬力で、最大トルクは140 Nmもある。試乗した小さいコースが、スロットルを大きく開けたらスケールが一層小さく感じさせるほどの瞬発力。鋭い加速をしたかと思うと、すぐに急減速して向きを変えていかなければならない。狭い場所だととにかく忙しい。けれどスポーツライディング好きとしてはこの上なく楽しい。
 

 
 ライディングモードは『RAIN』『STREET』『SPORT』とあって、『SPORT』にするとレスポンスが鋭く、速さの中にも落ち着きを感じられた『STREET』モードとは違って、電子制御の介入がよりひかえめになり、不用意にフルスロットルをすると、さっきまで抑えてくれていたフロントが持ち上がる動きがいくぶんか開放されたのがわかる。
 いやはや、“速い”という言葉以外の形容が思いつかない。ところどころに小さい石や砂が浮いて、やや荒れた舗装路ながら、怖さを感じさせないスタビリティや、トラクションさせる能力はいかにもモダンスーパースポーツといったところだ。大きめに吠える排気音と含めて野獣の荒々しさばかりのように見えて、乗ってみるとインテリジェンスを感じさせる。スピードをのせていっても、320mm外径のディスクローター2枚を4ピストンのブレンボ製モノブロックキャリパーで挟み込むフロントブレーキと、純正のブリヂストン製BATTLAX HYPERSPORT S22の安定したグリップ力による減速は正確無比で強力だから慌てない。
 

 

最新の電子制御技術がぎっしり詰め込まれている

 車体の傾き、速度、ピッチング、スロットルの動き、ブレーキの効かせ方などをセンサリングして、安定した減速を可能とする、ありがたいモーターサイクルスタビリティコントロール(MSC)を無効にして、アンチウイリーも無効にできて、トラクションコントロールだけ9段階から選べたり、ホイールスリップとレスポンスをカスタマイズ可能な『TRACK』モードがオプションにあるが、環境的にもライダー的にも必要がない状況だった。
 2020年に新型となり大幅に走る能力を向上させ登場した1290 SUPER DUKE Rをベースにしながら進化した新型モデルであるEVOの最大の注目ポイントは、足周りのアップグレードだ。電子制御ダンピングを備えたセミアクティブサスペンションになっている。
 

 
 ダンピング設定は標準の『COMFORT』『STREET』『SPORT』に加え、試乗車はオプションのサスペンションPROが入っていたので、『TRACK』『ADVANCE』『AUTO』が追加されていた。リアの3つのプリセットプリロードを手元のスイッチから選べて、さらに10%刻みで0%から100%の間で細かく調整もできる。こうなると短い試乗時間であれこれ変更してみるのは不可能なので、6軸IMUからの情報などで走行状況に合わせたダンピングを瞬時に変更してくれる『AUTO』で走ることにした。
 残念ながら具体的に「やっぱりAUTOだな」と如実に感じさせるような動きを具体的に語れるほど味わえたとは言えない。それでも気張らずゆっくりと流し、あまり車体を傾けずに周回させているときと、一生懸命に走ったときで、変化させているのはわかった。どんなシーンでも素晴らしい安定感は損なわない。トリッキーな動きはこれっぽっちも見せず旋回もたやすい。
 

 

誰でも簡単に操れるが、誰もがすべてを味わえるわけではない

 このままでは、もっと倒し込みを軽快にしたい、もっと小さく曲がりたい、と自分の気持と少しズレがあり、逆にバイクに自分の乗り方を合わせようとした。この1290 SUPER DUKE R EVOといっそう親しくなれる時間を与えてくれたなら、自分好みにアジャストして、一緒に走る幸せを大幅に増すことができそうなのに。優れた電子制御技術が山盛りにあって、エンジンの特性も選べるから、スタイリッシュな姿に惹かれたならば、ビギナーでもおもしろく乗ることはできるだろう。ただし、この究極DUKE本来のポテンシャルを一段と引き出すには、走りをロジカルに判断できる知識と経験が必要だと思う。極端に言うならば、ストリートでそこまで必要なのか、と考えてしまうほど、細かなセッティングができ、それに見合う性能を持っている。逆にとらえるなら、それを活用できるライダーにとって、この上なく心躍らせるネイキッドスポーツである。このモーターサイクルを作ったKTMスタッフの、やれることは全部盛りしたという満足顔を想像してしまった。
(試乗・文:濱矢文夫)
 

 

ライダースペック 身長=170cm 体重=66kg

 

旧型の1290 SUPER DUKE Rより3倍の剛性を手に入れたトレリスフレーム。それだけでなく2kgの軽量化もしている。75°バンクの水冷Vツインエンジンは1気筒あたり2本のプラグを備える。インテークには窒化クロムPVDコーティングチタンバルブを使う。シリンダーヘッドにはレゾネーターチャンバーがあり、それで低中回転域のトルクを豊かにしている。オイル圧送式PASCアンチホッピングクラッチは強いバックトルクを逃し、クラッチレバー操作のやりやすさに貢献。
ハンドルバーの幅はオンロードスポーツモデルとしてはワイドな760mm。ハンドルまでの距離は前後調節可能で4つのポジションから選べる。スチール製燃料タンクの容量は16Lを確保。ライダーの太ももが挟まるようにフィットする。ライダーはメーターの前に何もないように見える開放感。刺さるように鋭利なシュラウドも含めスタイリングのあちこちが尖っている独特の造形。シート高は835mm。またがると数値より低く感じた。メーターはTFTカラーディスプレイ。

 

インナーチューブ径48mmの倒立式フロントフォークは、WP製APEXセミアクティブテクノロジー(SAT)が備わる。SATシステムは、走りに応じたダンピング調整を高速でおこなう。ブレーキローターφ320mmとラジアルマウントされたブレンボ製モノブロック4ピストンキャリパーを組み合わせたフロントブレーキ。純正タイヤはBRIDGESTONE  BATTLAX HYPERSPORT S22(120/70R17)
メインフレームにボルト・オンされたサブフレームはスチールではなく、軽量コンポジット素材。アンチスクワットを改善するためにスイングアームピボットは5mm高くなった。長い片持ちアルミスイングアームはドライブスプロケットに近くなり、トラクション向上に貢献している。リアタイヤは200/55R17と太い。サスペンションPROと組み合わせた自動プリロードアジャスターを備えるリアサスペンション。『LOW』『STANDARD』『HIGHT』のプリセットと、0%~100%の間で10%刻みのマニュアル調整も可能。そのすべてはスイッチ操作ででき、モードはモニターに表示される。

 

左側のメニュースイッチなど操作する項目が多いけれど、使ってみると直感的に操作ができた。クルーズコントロールも備わっている。フロントブレーキはもちろん、クラッチも油圧式。ブレンボ製ブレーキマスターのレバーはリーチの調整ができる。スロットルは物理ケーブルのないライドバイワイヤ。イグニッションオン/オフだけでなく給油口のロックもスマートキーで解除できる。

 

DUKEに共通したアイコンとなるフロントマスク。LEDヘッドライトの間にある縦長の溝は、ラムエア吸気口になっている。とりこんだ空気は直接エアボックスに導かれる。トリプルクランプは軽量かつ剛性の高い鍛造アルミ製。KTM MYRIDEを使えばスマートフォンとリンクして電話や音楽ライブラリにアクセス可能。

 

●1290 SUPER DUKE R EVO
■エンジン種類:水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:1301cm3 ■ボア×ストローク:–mm×–mm ■圧縮比:– ■最高出力:180PS/9,500rpm ■最大トルク:–N・m(–kgf・m)/–rpm ■全長×全幅×全高:–mm×–mm×–mm ■ホイールベース:1497mm ■シート高:835mm ■車両重量:198kg(乾燥) ■燃料タンク容量:–L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR-17・200/55ZR-17 ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク・油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:シルバー×オレンジ、ブルー×ブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):2,499,000円




2022/05/13掲載