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試乗・解説

SSジュニアやモンスターなど
歴代にも400ccモデルをラインアップしてきたドゥカティ。
それが現行スクランブラーの、名付けてSixty2=シックスティ・ツー。
この400が、800より1100より、実にスクランブラーらしい!
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:松川 忍 ■協力:Ducati Japan https://www.ducati.com/jp/ja/home ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、アルパインスターズ http://www.okada-corp.com/




400ccにも選択肢に「外国車」あり!

 スクランブラーシリーズは、ドゥカティが「スーパーバイク」や「モンスター」シリーズよりもっと明確に別ブランドとして打ち出したいモデルたち。つまり、ドゥカティというブランドのスクランブラーというモデルではなく、スクランブラーというブランドのIcon、Urban、Desert Sledというモデルたち、という位置づけです。
 その中にSixty2があります。Sixty2とは62、つまりドゥカティが「スクランブラー」という空冷単気筒モデルを発売した1962年をトリビュートしたモデル名。排気量は400ccですが、モデル名に排気量はつけられていない、排気量を超えた存在。でもここでは、便宜上「スクランブラー400」って呼びますね。

 スクランブラーは、ドゥカティが歴代でもラインアップしてきた、日本の免許制度に合わせた400ccの空冷Lツインエンジンを搭載したモデルです。800ccからスタートしたスクランブラーブランドの、普通二輪免許でも乗れる400ccバージョンか──と思う方もいるだろうけれど、そうではない。400は「スクランブラー」のスピリットを、いちばん具現化したモデルなんです。
 そもそもスクランブラーっていうのは、まだ「オフロードモデル」って呼び名が定着していなかった時代に、ダート走行もこなすモデルを指した言葉。当然、動力性能よりも走破性、使いやすいバイクで、それが誕生50年から60年近く経った今、ちょっとクラシックっぽい、バイクらしいスタイリングとして人気になった、ということ。いつでもどこでも、誰にでも乗れるバイクってことで、日本でいうネイキッドやトラッカーに通じるカテゴリーかもしれません。ちなみに近代の国産モデルでは、スクランブラーなイメージを打ち出したモデルはありませんね。
 

 
 そのスクランブラー400、乗ってすぐに気がつくのは、すごくしっくりくるということ。サイズもパワーも、サスペンションもブレーキも、すごくしっくりくる。速いバイク、もっとハンドリングがキレるバイクもたくさんあるし、ドゥカティは本来そういうモデルが得意なんだけれど、スクランブラーシリーズのスタートモデルである800ccのアイコン、クラシック、フルスロットルでは、きっちりドゥカティらしからぬ「のんびり」感を打ち出してきてました。
 けれど、まだまだ足りない。つまり、800cc空冷Lツインは、どうがんばってもまだまだ速すぎ、元気すぎました。800ccで70psと少し、車両重量は190kg前後。国産車でいうとスズキSV650やヤマハMT-07といったモデルが似たようなスペックなんだけれど、まだまだ速いし、元気。レスポンスが鋭く、アクセルひと開けでドン、と前に出る。
 ハンドリングこそスーパーバイク的シャープさはなかったけれど、うーん、もう少しダルい味付けがいいな、こんな元気なエンジンじゃ、未舗装路ですぐにホイールスピンしちゃう。まったくドゥカティって、のんびりとかゆっくり走るバイクを作るのがへたくそ(笑)。これ、誉め言葉ですからね。ネイキッドカテゴリーにあるモンスターとの境目も、やや曖昧だと思ったんです。
 

 
 そして2016年、次に登場したスクランブラーが、このSixty2=400。800とほとんど同じ大きさで、違いと言えばフロントフォークが倒立から正立になっているくらい。出力は40psで、排気量違いの、いわばコストダウンも考えた日本仕様だと思ったら大間違い! これがイイ!
 エンジンの回りも明らかに軽快な400ccの空冷Lツインは、レスポンスも鋭く、それでいて出力が抑えめ、というか人間に近いフィーリング。歴代のドゥカティ400ccよりも明らかに洗練されていて、力感もあって静かすぎない、いかにもフリクションロスの少ないフィーリングです。
 メインステージであるはずの街中を走っていると、低回転からほどほどにあるトルクが取り出しやすくて、高回転をブン回さなくても軽量なボディをぐいぐい進めてくれる。その時のハンドリングも、いかにも路面にベタッと貼りついている安定感で、これはビギナーやスキルに自信がないライダーが、いちばん安心できるタイプでしょう。
 手ごたえがあって安心、けれど悪く言えばこれは、ステアレスポンスが鈍で重い、ってことになるけれど、その味付けが絶妙なんです。国産車で言えば、レプリカブームが来る前、80年代初め頃のモデルの車体剛性を上げ、超高性能サスペンションを組んだようなわかりやすい動き。
 このフィーリングが気に入らない人は、フロントタイヤを1サイズ細くしたり、タイヤパターンをもっとオンロード寄りにすれば解決します。
 

 
 街中が得意ってことは高速クルージングがキツいと思われがちだけれど、高速道路に駆け上がると、このハンドル手応えがもっと安心感に変わって、とはいえレーンチェンジや高速道路のなだらかなアールのカーブでは軽快に感じることになる。この両立のバランスも絶妙!
 トップギア6速での80km/hは約4400rpm、100km/hで5800rpmといったあたり。この辺からノンカウルボディには走行風を感じてきて、これ以上トバす必要性があんまり感じられなくなるのもスクランブラー400。テストコースでトライした時には160km/hオーバーまで出たから、まだまだ余裕のスピード域です。
 この時のエンジンのフィーリングも気持ちよくて、定速で走っていても、エンジンがコロコロコロ、決してズドドドドではない回っている感じが頼もしい。これが800ccだと「僕もっと速く走ると気持ちいいですけど?」って急かしてくる感じで、クルージングスピードレンジはもう少し上、という感じなんです。
 

 
 そして、いちばん意外だったのはワインディング。吹け上がりが軽く、低回転からトルクのある車体は、その上の回転域でもうひと伸びを見せて、ミッションのつながりもピタッと来る。さすがに4気筒のような高回転の回り込みはないけれど、適度な振動も、力の出方に「表情」がある──。これがスクランブラー400のいちばんの気持ちいいシーンです。
 ちょっとスピードを乗せたときのハンドリングは、街中でのんびり走っている時よりもずいぶん軽快。フロント18/リア17という、ちょっと変わったサイズの組み合わせだけれど、リアタイヤが800ccの180サイズではなく、400独自に160サイズを選んでいるところも、この軽快なハンドリングを生んでいると思います。
 

 
 ドゥカティらしからぬ(これも誉め言葉ですよ・笑)急かされ感のなさ、オールマイティさ、そしてのんびり走っても楽しい、を感じられるスクランブラー400。普通二輪免許取った、さぁ400cc買おうかな、CB400SFにするか、Ninja400にするか、という選択肢に、ドゥカティ・スクランブラーは堂々と対抗機種になりえる存在です。いつでもどこでも、それもずっと乗っていたい気持ちにさせるのは、スクランブラーでも、1100より800より、この400の方がずっと上なんです!
 それが、タイトルに「800より1100よりスクランブラー」と謳った理由です。国産モデルも外国車も含め、そういやKTMの390DUKEもありますが、いま400ccの中で、僕にはいちばん魅力あるモデルです、Sixty2!
(試乗・文:中村浩史)
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

ブレンボ製片押し2ピストンキャリパーに、Φ320mmシングルディスクを装備。400/800/1100のスクランブラーファミリーのうち、400のみが正立フォークを採用。タイヤはちょっとしたダートならば躊躇なく踏み込んで行けるピレリMT60S。ホイールは10本スポークの18インチアルミ。

 

ドゥカティの歴代400cc=400SS、400ジュニア、モンスター400にも使用されていた空冷SOHC2バルブLツイン。空冷400ccと侮るなかれ、低回転からトルクがあり、軽快にフケ上がるフィーリングが気持ちいい。フラットトルクというより、6000rpmあたりからグッとパワーが盛り上がる。

 

湾曲レイアウトされたスチールスイングアーム。ブレーキはブレンボ製片押し1ピストンキャリパーにΦ245mmシングルディスクの組み合わせ。スプロケットはドライブ15/ドリブン48丁で、スイングアーム長は800よりも15mm長く設定されている。

 

マフラーはショートカットの右1本出し。400ccのみ、後方バンクのエキパイが後方排気のままエンジン右サイドに取り回されないレイアウト。サイレンサー裏側は消音と排出ガス浄化を兼ねるチャンバーを備える。
リアサスはKYB製モノショックで、リンクレス構造、プリロード調整が可能。沈み込みと動きがソフトで、全ドゥカティの中でもいちばん乗り心地もいいリアサスペンションという感じ。

 

リアタイヤは800が180サイズなのに対し、160サイズを採用。このワンサイズ細い選択と、400のみに使用されている正立フォークが軽いハンドリングを生んでいる。
400=Sixty2の専用ロゴがあしらわれたフューエルタンク。容量は14Lで、この取材時の参考燃費は約23km/L。計算上ではフルタンク約300km以上走ることになる。

 

前後の段差が緩やかなダブルシートは、ややシートストッパーを兼ねる形状。キーオープンで脱着でき、シート下にはちょうどETC車載器が収納できるくらいの小物入れスペースがある。
このアップハンドルがスクランブラー的。グリップ位置もかなりライダー側で、快適この上ないポジション! 800ICONとほぼ同形状のハンドルバーだが、400はシート高がやや低く、相対的にハンドル位置が高い。

 

ヘッドライト中央にイグニッションキーがあり、メーターはやや右サイドにオフセットされている。モノクロ液晶メーターは、外周下半分にバーグラフ式タコメーターを装備し、オド&ツイントリップメーターを採用。
ヘッドライト、ウィンカーなどはLEDを使用しないバルブタイプ。メーター外周方向にLEDのランニングデイライトランプを標準装備。この丸っこいスタイリングが、クラシックっぽさを生んでいる。

 

●Ducati SCRAMBLER Sixty2 主要諸元
■エンジン種類:空冷4ストロークL型2気筒デスモドロミック2バルブ ■総排気量:399cm3 ■ボア×ストローク:72.0×49.0mm ■圧縮比:10.7 ■最高出力:30kW(40ps)/8,750rpm ■最大トルク:34N・m(3.5kgm)/8,000rpm ■全長×全幅×全高:2,150×800×1165mm ■ホイールベース:1,460mm ■シート高:790mm ■車両重量:183kg ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式: 常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):110/80 R18・160/60 R17 ■ブレーキ(前/後):油圧式シングルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):920,000円

 



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2021/10/20掲載