モノコックフレームの歴史が、意外と長いドゥカティ。
昨年来多くのバイクメディアにカモフラージュ姿でテストをするムルティストラーダのスパイフォトが掲載されていた。なかでも目を引いたのがV4エンジンとその脇にあるはずのトレリスフレームがない、つまりモノコックフレームを採用されたと思しき姿だった。
ずいぶんと飛び道具を使ってきたな。最初はそう思った。しかし、昨年登場したV4を搭載した、ストリートファイターV4に乗った時、ある確信が頭をよぎった。このV4をムルティストラーダに積んだら、それは最高のパッケージなる! と。(ストリートファイターV4の試乗インプレッション記事はコチラ→ https://mr-bike.jp/mb/archives/14058 )
モノコックに関しては乗ってみないと解らないが、それまでドゥカティのV4エンジン、デスモセディッチ・ストラダーレ(MotoGPマシン、デスモセディッチGPシリーズが搭載するエンジンの呼称と一般道を意味するストラダーレを組み合わせたのがこの呼称)の経験は、パニガーレV4Sだけだった。パニガーレのエンジンはさすがサーキット最強に照準を合わせ、ストリートでも過不足なく走るけど、Lツインほど潤沢なトルクは期待しないでね、と言わんばかりの印象で、一般道の速度域ではエンジンが求める回転域を使えず、トルク感が薄い印象だった。
それに対し、ストリートファイターV4のエンジンはまったくの別物。まるで国産4気筒か、と言いたくなるほど不満がない。こんな乗りやすいドゥカティは初めてだ! むしろスムーズなトルクデリバリーが強烈に印象に残り、美しさの影から見るモノを威嚇するような鋭いスタイルをもちながら、まるでいい人なのだ。だからこのエンジンでムルティストラーダをつくれば、という発想は、ストリートファイターV4に乗り始め、数分後には頭の中でその思いがもたげてきたのだ。
では、モノコックフレームという具材とのカップリングはどうなのか。ドゥカティは2009年シーズンにトレリスフレームからモノコックフレームへと車体パッケージを切り替えたMotoGPマシン、デスモセディッチGP9で戦い始め成功を収めた。MotoGPではアルミハニカムとカーボンのコンポジットだったそのフレームは、2012年にはマテリアルをアルミダイキャストに置き換え1199パニガーレに投入される。
2014年には899パニガーレにもそれが踏襲された。その後、モノコックフレームはアルミダイキャストの製造技術や設計段階での解析技術の進歩によりソリッド感が強い乗り味から理想的な剛性バランスを持ち、ライダーにも直感的に乗りやすさを伝えるまでになった。
特に、V2パニガーレが登場した時、軽快さ、コーナリングのシャープさをまるでスローモーションで見せてくれるように一つ一つ起こる挙動をライダーに解りやすく伝えるまでになっていた。つまり、パニガーレV4やストリートファイターV4もそれと同様で、荒れた峠道でもしっかり、しんなりした吸収力を合わせ持つ車体へと進化している。
V4エンジンとモノコックフレームのカップリングがスパイフォトで裏付けられ、現実のものとなる。ドゥカティがそこに込めた意味はさらに深い。ムルティストラーダのコンセプト、4 Bikes in1をさらに高いステージに上げるには絶対に欠かせないパッケージだったのだ。その点を次でお伝えしたい。
理想への進化、すべてを望むならば、
選択肢は変化させることだった。
ムルティストラーダは2003年に誕生した。トレリスフレームに空冷2バルブLツインを搭載し、当時のスーパーバイク、999シリーズやMH900eなどのデザインを手がけたピエール・テルブランチによってスタイルは描かれた。片持ちリアスイングアームなど、ドゥカティのハイエンドモデルで採用される要素や、機能をデザインに落とし込むドゥカティの流儀があちこちに感じられるものだった。
その登場からすでに18年。この間、2010年に2代目が登場し2015年には3代目へとモデルチェンジをしている。
中でも重要な転換点となったのは2代目が登場した2010年( 2010年型 ムルティストラーダ1200試乗インプレッション記事はコチラ→ http://www.mr-bike.jp/feature/multistrada/ ) 。それまでの空冷L型2気筒からスーパーバイク由来の水冷テスタストレッタ11ディグリーというパフォーマンスをグッと引き上げたエンジンにスイッチ。排気量は1200㏄となった。このときドゥカティが掲げ、現在まで続くムルティストラーダのテーマが『4 Bikes in1』。
アーバン、ツーリング、スポーツ、エンデューロ──この4つのシーンを1台のバイクで、というもの。その手法は、エンジンのパワーデリバリー、サスペンション設定を、走る場面に合わせて変更。同調するようにトラクションコントロールやABSの介入設定パラメータも合わせて可変させる。2010年直前にはエンジンのパワーモードを切り替える制御が出回り始めていたが、サスペンション、電子制御、エンジン特性が一括してシーンに応じてプリセットされ、スイッチ一つでそれが変化する例はまだなかった。
エンジンはツーリングバイクの特性に相応しいよう仕立てられていた。11ディグリーの語源は、吸排気カムによるオーバーラップを11度に設定したということ。テスタストレッタと言えば、スーパーバイク用のハイパワーユニットの呼称で、モンスターでもS4RSなど「羊の皮を被った狼」系というか、激辛系モデルに搭載されるパワーユニットだ。そのエンジンのオーバラップをあえて11度に減らす。それはスポーツ系ドゥカティファンにとって理解しがたいものがあったにちがいない。言葉を換えればデチューンだからだ。
でも、その恩恵は乗れば納得。なんてスムーズで乗りやすいんだ。低回転領域から走りやすく、6000rpmあたりまでを使えば相当に速い。電子制御スロットルにより、ムルティストラーダの国内仕様は当時の環境規制に合わせ、本国仕様より50馬力ほど最高出力を絞られたが、当時のほかのドゥカティティが異様に低いレブリミットとしてそれに対応していたのに対し、きっちりとレッドゾーンまで回る特性にしつらえられていた。
それでも回せばドゥカティらしさが目覚め、アップライトなムルティストラーダのポジションなら相当なパンチを味わえる。もちろんヨーロッパ仕様などはフルパワーだからそのパンチ力は相当だっただろう。ただし、ツーリング用途のバイクでトップエンドの3000rpmでのパワー特性を云々するライダーは多くなかっただろう。
こうしたパッケージ全てがムルティストラーダを一躍ドゥカティの販売成績においてスターダムに押し上げた。
2013年。そのコンセプトを進化させるため、ムルティストラーダにはセミアクティブサスであるドゥカティ・スカイフック・サスペンションを搭載。電子制御に車体があの特性もマネージメントできるようになったのだ。車体が受けた衝撃を感知するGセンサーにより路面を推測。後輪が通過するころには減衰圧をフレキシブルに変更することで、まるで宙づりのような乗り心地を提供する、というもの。
このサスペンションを得たことで、前後170mmと2代目になってから不変のサスペンションストロークながら、ロードでは引き締まり、ダートではもっと長いサスペンションストロークに感じるほど高いベネフィットをもたらした。
そして2015年( 2015年型 ムルティストラーダ1200試乗インプレッション記事はコチラ→ http://www.mr-bike.jp/?p=86481 )。三代目にモデルチェンジしたムルティストラーダ。キープコンセプトながら、4 Bikes in1コンセプトの度合いを深めるため、吸排気それぞれに可変バルブタイミング、テスタストレッタDVTを搭載したエンジンを開発した。これは、2代目向けに作ったテスタストレッタ11ディグリーが低中速回転でのドライバビリティーを考慮したバルブオーバーラップだったのに対し、回転数を問わず全域で理想のオーバーラップを創り出すためのもの。まさに夢のL型2気筒。DOHCゆえ4本のカムそれぞれに可変バルブタイミング装置を取り付けるという大技である。その後、2018年には1200だった排気量を1260まで拡大した(2018年型 ムルティストラーダ1260S試乗記事はコチラ→ http://www.mr-bike.jp/?p=139816 )。
この第3世代ではバリエーションも増えた。2016年に1200エンデューロが登場する。4 Bikes in1のコンセプトの中でもエンデューロパートを強化した冒険ツアラーとしてのキャラクターを濃くしたモデルだ。前輪を19インチとし、サスペンションストロークを170mmから200mmへと伸ばしたほか、燃料タンクを20→30リッターへと拡大。大陸間冒険旅行対応の仕様としながら、持ち前の4 Bikes in 1コンセプトを下敷きにしているのは不変。
また、2017年には950シリーズが登場(2017年型ムルティストラーダ950の試乗記はコチラ→ http://www.mr-bike.jp/?p=123324 )。キャストホイールながらフロント19インチ、リア17インチを採用し、燃料タンクは1260系と同じ20リットル。エンジンだけをコンパクトにしたミドルクラスバージョンでもある。その後、電子制御サスを加えた950Sも加わり(2018年型ムルティストラーダ950Sの試乗記はコチラ→ http://www.mr-bike.jp/?p=158348 )、ムルティストラーダの世界が縦に横に広がりを持って進化をした。
次世代ムルティストラーダへの決意。
ここまでの長い前置きが必要になるのは、第4世代のムルティストラーダとしてさらなる「最適」を追い求めるためにパッケージデザインの変更が必須という答えにたどり着くための道のりだったのかも知れない、と思ったからだ。
ビッグボア×ショートストロークとはいえ、2気筒Lツインはサイズや重量面でも大きくなる。そしてエンジンの外側を囲うようにレイアウトされるトレリスフレームは、ノウハウをふんだんに持つドゥカティとはいえ、スリムにすればフレームパイプの内側に収めるべきパーツのレイアウトが厳しくなるし、拡げたらその外側にある燃料タンクの容量を削るか、外側に拡げるためにガワが大きくなる。もちろん、ライディングポジションにも影響がでる。
また、振り返ってみると2016年に登場した1200エンデューロは、オフロードライディングの楽しさを重視した車体作りとなっているだけに、峠でのアジリティーは前後17インチのモデルと比較すればやはり劣る部分がある(2016年型 ムルティストラーダ1200 ENDURO試乗インプレッション記事はコチラ→ http://www.mr-bike.jp/?p=110079 )。それは、伸ばしたサスペンションストロークとLツインエンジンが持つサイズやトレリスフレームというスペース上の制約もあり、動的には前後荷重バランスが前後17インチモデルに対してよりダイナミックに変化する傾向があったからだ。
2018年に1260へとスイッチしてサスペンションストロークを多少減らし、バランスがとれたが、その分、オフロードでは必須の最低地上高が下がる結果にもなった。まさにジレンマ。これは邪推なのだが、1200エンデューロというモデルに手を伸ばさなかったら、このジレンマにも目を向けずにすんだのかもしれない、とすら思う。
方向性を拡げたムルティストラーダだが、変化の時が来た。4 Bikes in1の純度をさらに高めたい。そして施されたモデルチェンジがV4エンジン+モノコックメインフレームというパッケージだったのだ。
パッケージの再定義
つまり、ムルティストラーダの純度を上げるにはパッケージの再定義が近道。ドゥカティが持っている技術と素材を考えたら、モノコックシャーシとV4エンジンを組み合わせるのが一番だ。それには次のようなメリットがある。
まずエンジン。ムルティストラーダV4が搭載するパワーユニットは、パニガーレV4やストリートファイターV4が搭載するデスモセディッチ・ストラダーレをベースとしている。ということはDNA的にはMotoGPマシンのV4ユニットから来ていることになる。ムルティストラーダのエンジンはV4グランツーリズモと呼ばれ、パニガーレ、ストリートファイターが搭載するものとストロークは同様だが、シリンダーボアを2mm拡大。排気量は55㏄増えて1158㏄となっている。
その他、バルブ周りではデスモセディッチ・ストラダーレと比較してインテークバルブ径をφ0.5mm小径化したφ33.5mm、エクゾーストバルブ径はφ0.7mm小径化してφ26.8mmへ。もちろんカムプロファイルなどもムルティストラーダに最適化され、その出力は125kW/10500rpm、最大トルクは125N.m/8750rpmとなっている。パニガーレV4が積むデスモセディッチ・ストラダーレのそれが157.5kW/13000rpm、124N・m/10000rpmであることからすればキャラクターの違いがよく分かる。
またここが最大のポイント。バルブ駆動方式をドゥカティ伝統の機械式開閉システム、デスモドロミックから、コンベンショナルなバルブ式へと変更している。これはメンテナンスサイクルを伸ばすこと、エンジンノイズを低減することなどユーザーベネフィット向上を追い求めたものだ。
ドゥカティは手が掛かる。そんな言葉を聞くことがあるが、現在のドゥカティではそれは当てはまらない。ちなみにデスモドロミックのストリートファイターV4Sのメンテナンスサイクルは、バルブクリアランス点検もしくは調整が30000㎞ごと、エンジンオイル交換が15000㎞もしくは12ヶ月。これはコンベンショナルなバルブトレーンを持つ車両と同等レベルだと思う。
対してV4ストラダーレエンジンは、バルブクリアランス点検もしくは調整、スパークプラグ交換が60000㎞、エンジンオイル交換は15000㎞もしくは24ヶ月となっている。スプリング方式のバルブトレーンでもこれほど長いメンテサイクルは多くない。なぜドゥカティがスプリング方式のバルブトレーンにしたらそれが達成できたのか。これは長い期間デスモドロミックでレース活動を続けた技術的蓄積、特にコーティング技術によりそれが達成できたという。
V4と、エンジンの小型軽量化がもたらすメリット。
ユーザーにとってはメンテナンスのコストはもちろん、ディーラーに入庫して点検で乗れない週末を大きく減らすことが可能になった。特にアドベンチャー系ライダーには年に数万㎞を走行する人も珍しくないだけにこれは大きなメリットになるはずだ。
ではLツインに対するV4のほかにメリットを見てみよう。サイズ、重量などを比較すると……。
■V4グランツーリズモエンジン
重量:66.7㎏
長さ:565mm
高さ:520mm
幅:455mm
■テスタストレッタDVT(2気筒)
重量:67.9㎏ +1.2㎏
長さ:650mm +85mm
高さ:615mm +90mm
幅:435mm -20mm
この数値を見ると、V4グランツーリズモのエンジン幅がテスタストレッタDVTのLツインエンジンより20mm広いことを除いては、V4エンジンのほうが小さく軽量ということが解る。V4グランツーリズモでは、オイルパン形状をムルティストラーダに合わせ、より平坦な形状とした。デスモセディッチ・ストラダーレを搭載するパニガーレ、ストリートファイターでは、サーキット走行での深いリーンアングルでも安定したオイル供給ができるようにオイルパンが逆三角形型形状でエンジン下側に突出している。最低地上高も必要なムルティストラーダの場合、平らなオイルパンにしつつも安定したオイルサンプに影響がないように設計を見直している。
オイルパン形状の変更や、コンパクトなサイズにより上方かつ前方に搭載が可能になったことで、2インチ大径になった前輪への分担加重を理想的にし、従来モデルでは175mm程度だったグランドクリアランスは、大径の前輪もあり220mmまで拡大している。ダートでの走破性という意味では大きなメリットをもたらしつつ、ロードセクションでのアジリティーにも貢献するいくつものメリットをもたらしたのだ。
エンジンのシリンダー挟み角は90度。さらにクランクピンを70度オフセットすることでまるでLツインのようなサウンドと爆発間隔を手に入れたことで、トラクション特性はもちろん、ドゥカティらしさを損なっていない。これもこだわり。
それでいて、ツインと比べ、V4グランツーリズモは基本的に4気筒らしいメリットももたらしている。低回転領域からエンジンの回転が滑らかかつスムーズ。そのトルクカーブは回転の上昇とともに盛り上がる。それはテスタストレッタDVTエンジンと比較すると……。
3速選択した時で比較。
80 km/h +16%
100km/h +25%
120km/h +25%
このデータは全開特性の差異だと思うが、V4のメリットを活かし回転が上がるとその差がより明解になる。ほかにもV4エンジンは、パニガーレなどと同様、水温が一定以上となればアイドリング時にリアバンクの2気筒の燃焼を休止するシステムも与えられている。ライダーへの熱負荷低減や燃料消費低減に優位なものとなっている。
また、振動が少ないのもV4の特徴で、50km/h、90km/h、130km/h、160km/hというヨーロッパの多くの一般道の市街地や郊外での上限制限速度、高速道路の制限速度などでの巡航時に、2気筒のライバルと比較して、10%、35%、25%、27%と振動を低減できたという。
空力パッケージを
快適性にフル活用。
エンジンの振動とともにノイズについても巡航速度の高いヨーロッパでのベストを目指し開発が進められた。全体のスタイルは2010年以降のムルティストラーダらしい左右セパレートのヘッドライト、そして着色樹脂であしらったノーズセクションといったスタイルを踏襲している。ようやく国内でも認可になったデイタイム・ライニング・ライトが隈取りのようにキリッとした印象に光るライトセクション。正面から見たモチーフは映画「プレデター」なのだそうだ。モノコックフレームはエンジン上部にのるように設置され、ステアリングヘッドへとつながるが、それは外観意匠にはでてこない。
サイドから眺めると、リアセクションがカバーではなくトレリス構造のサブフレームであることが解る。これまでサイドカバー的なボディー意匠でフロント周りからリアセクションへと流れを作ってきたムルティストラーダ。新型ではリアセクションにボディーパネルはなく、逆に今回の試乗車となったムルティストラーダV4Sツアー&レーダーパッケージだとサイドケースが付き、そのケース上部にある赤いパートがそれをしっかりと補うようなスタイルになっている。見方によってはライバルGSと似ているが、ケースを使うとこれまでのムルティストラーダらしいデザインを楽しめるのだ。
そして今作で力を入れられたのが空力だ。これは主に快適性にまつわるもの。エンジンの振動が減少したことに加え、ウインドスクリーンやカウルとそのスクリーンの間にあるサブスクリーンの追加、また、ラジエターの配置やそのエアアウトレットの形状、サイドカウル下側に付くウイングによってライダーにエンジンの排熱が直接当たらないよう配慮されるなどユニークな仕掛けが多い。
中でも2枚あるサブスクリーンは、あえて取り付け剛性を落とし、風圧を受けたときにしなりなどの動きを許容。これが速度域を問わない快適さを生む要因になっているのだとか。また、ラジエターの取り付けも正面に1枚だったものを左右2枚に分割。その取り付け角度もサイドラジエター風に斜めとすることで、外装をスリムにしつつ、冷却効果を高めている。
また、ラジエターを冷却した走行風を排出する場面でも、空力デバイスを使い、ライダーに熱風が当たらないようデザインされているのだ。パニガーレV4などで採用されるウイングは、ムルティストラーダではそうした風の整流でまた別の効果を生み出すようになっている。
こうした空気の流し方は快適性として走行中の風切り音などを含めたノイズも先代よりかなり抑えているという。つまり走行環境を上質に仕立てることへのこだわりを、MotoGPを戦うブランドとして取り組んだとも言えるだろう。
ACCとBSD
四輪ではすでにお馴染み。アダプティブクルーズコントロール(ACC)と、ブラインドスポットディテクション(BSD)を新型ムルティストラーダV4Sトラベル&レーダーパッケージ車に装備する。市販二輪車として国内で販売される初めての例となる。
この双方のシステムのカギとなるのは、77GHzのミリ波レーダーセンサーだ。これを前後に各1個搭載する。OEM供給をするボッシュによれば、このレーダーセンサーにより二輪車周囲の状況を正確に把握することが可能となった。さらにACCではエンジンECUやMSC(モーターサイクルスタビリティーコントロール)と協調し、設定速度で走行中、前走車との車間をモニターし、追従。必要であれば、加速や減速の操作を行うというもの。また、車載の六軸加速度センサーであるIMUやABSの車輪センサーなどから走行状態も把握し、コーナーで車体が一定以上バンクした場合、自動的に速度もコントロール、50度以上傾ければキャンセルされる。
また、後方から接近する車両やミラーの死角に入った車両の存在を知らせるBSDも同様に77GHzのミリ波レーダーセンサーを使い、その位置、接近速度差によって警告の発出タイミングを変えている。警告ランプは左右のリアビューミラーの部分にあるなど、四輪のドアミラー内に表示されるのがポピュラーな機能との親和性も持たせている。
ACC機能としては四輪で言えば自動ブレーキやレーンキープアシスト、そしてACCなどを装備したレベル1自動運転の項目に含まれるもの。先日発表されたホンダ・レジェンドはレベル3「条件付き自動運転」を可能にするなど進化も加速する。こうした先進技術を持つ四輪車と混走する今後の二輪車にとって、大きな一歩だと感じた。
ACCに関しては、30km/h以上160km/h以下の領域で設定が可能。ただし、5速や6速などで走行中、減速した場合、30km/hまで速度が低下しなくても、再加速やエンジン回転を維持出来ないと判断した場合、ACCはライダーに速度低下の警告を発し、それでもライダーがシフト操作(ドゥカティクイックシフトを使ったシフト操作、2秒以内のクラッチ操作を伴うマニュアルシフトも許容する)など適切な操作をしない場合、自動的に機能がキャンセルされる。
また、ミリ波レーダーセンサーのみをセンシングに使うため、前走車が四輪の場合は同一車線内に居る場合は補足を維持しやすくなるが、バイクのグループツーリングでポピュラーな「チドリ走行」をした場合、前走車が同一車線内にいるかまでの判断が出来ないため、例えば5台でチドリ走行中、3番目を走っていた場合、レーダーは2番目ではなく、先頭のライダーを補足するケースもあるという。2番目に走行するバイクがオフセットした位置にいるため、隣の車線と判断するからだそうだ。逆にこれをシビアに補足すると、3車線の道で隣の車線のクルマまで補足することになるからだという。
四輪の場合、ミリ波レーダーセンサーに加え、単眼カメラ、あるいはステレオビデオカメラなどで道路の車線なども含めモニターするケースが多いのでそのへんの検知も出来るのだが、バイクの場合、システムを搭載するスペースなどの問題もあり、ミリ波レーダーセンサーのみで検出する方法を選択した。
ちなみに、このシステムは、イグニッションを入れるたびに搭載されるミリ波レーダーは周囲の交通状況から、右側通行、左側通行なのかを学習し判定するという。これはフェリーでフランスからイギリスへと渡った場合など、通行帯が変わることを想定したものとのこと。
アドバンスト・ライダー・アシスタンス──。ボッシュが掲げる電子制御技術を使った安全運転支援装置。実は2021年、KTMのスーパーアドベンチャーやBMWのR1250RTにもACCが搭載される。今後もクルーズコントロールはミリ波レーダー時代に入るのでは、と思う。
ムルティストラーダの出来映えはどうなのか。走りの質感はどう上がったのか。かいつまんで新しい機能を紹介しただけでこれだけ長大な文章になった。走った印象はパート2でお届けする。次回へ続く。
(試乗・文:松井 勉)
■エンジン種類:水冷4ストロークV型4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1,158cm3 ■ボア×ストローク:83.0×53.5mm ■圧縮比:14.0 ■最高出力:125kw(170PS)/10,500rpm ■最大トルク:125N・m(12.7kgf・m)/8,7500rpm ■ホイールベース:1,567mm ■シート高:810 / 830mm(可変式) ■車両重量:243kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機: 6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70 ZR19・120/60R ZR17 ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■フレーム:モノコック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):2,880,000円
| 2015年型 ムルティストラーダ1200 / 1200S海外試乗 |
| 2016年型 ムルティストラーダ1200 ENDURO海外試乗 |
| 2018年型 ムルティストラーダシリーズ 950 / 1200S / 1200 ENDURO試乗 |