あえて1950年代の英国車風に。
Classic 500
プロポーションも含めて1950年代の英国車風に仕上げたという、その名の通りクラシックな外見から想像したより走りはしっかりとしていた。キャブレターではなく燃料噴射装置を採用している499ccの空冷OHVエンジンは、キックスターターとセルスターターの併用で、動物が身震いするかのように震えて目覚めた。アイドリング付近では1つのシリンダーの中で燃焼してピストンが上下し、クランクが回るのをイメージできるような鼓動感と、長いキャブトンタイプのマフラーから出る低い排気音は、いかにも単気筒といった感じ。景色の流れが速くなるとブルブルからバタバタとしたビートに変わった。
ロングストロークで美しく並んだ冷却フィンの見た目からイメージする通り、低中回転域の豊かなトルクで走るタイプのエンジンだ。スロットルグリップを掴んだ右手をさらにひねるとスムーズに高回転まで回り切るけれど、そこまで引っ張って飛ばして走るより、早めにシフトアップして路面をやさしく蹴るように走らせるほうが気持ちいい。80km/hくらいまですんなりと加速。このスタイルでスピードについて語るのはナンセンスかもしれないが、日常的な使い方で困ることはない。高速走行でのスタビリティに不安はなく、リラックスして乗れ、スプリング付サドル風シートの座り心地が柔らかく快適なクルージングができた。
フロントが19インチでリアは18インチという外径のホイールに、バイアスタイヤを履いたハンドリングはひらひらとしながらも実に素直で唐突な動きをしない。このエンジンから出せる速度内ではこれといってネガティブなところが見つからない。誰でも怖くなくイージーに走らせることができると思う。旋回しているときの安定性やコントロール性も申し分ない。街中でのちょっとした右左折から、それなりのスピードで曲がる場面でもナチュラルなハンドリングで戸惑わない。ブレーキも十分な効き。これなら趣味の乗り物としてだけでなく、移動の道具としても日常的に使える。
個人的にはどちらかといえば速いオートバイが好きなんだけれど、おべっかなんてなく、走りながらこれと一緒にすごすバイクライフもいいな、と考えていた。経験上、運転していてマイナスに感じるポイントがあると、速いとか遅いとか、新しいとか古いとか関係なく、“楽しい”という感想にはならないことが多い。このClassic 500に乗っているときは終始笑顔でいられた。いい意味でクセのあるルックスながら、乗り味に強いクセはまったくない。
金属の機械というより、まるで生きているかのようなフィールがおもしろい。国産メーカーにはない“ゆらぎ”がある。何かに例えるとしたらHARLEY-DAVIDSONの魅力と近い。数値では語れない。私にとってはどこか懐かしいけれど、若いライダーには新鮮かも。二輪で走るバイクという乗り物の多様性を感じさせる1台。ただ、正規輸入代理店の方にうかがうと、このClassic 500はもう国内に新規で入ってこないという。新車を手に入れるチャンスは在庫のみとなる。なんとももったいない。
■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒OHV ■総排気量:499cm3■最高出力:27.2bhp/5,250rpm ■最大トルク:41.3N・m/4,000rpm ■全長×全幅×全高:2,140×800×1,080mm■シート高:805mm ■車両重量:195kg ■燃料タンク容量:13.5L ■変速機:5段リターン ■タイヤ(前・後):90/90-19・110/80-18 ■ブレーキ(前/後):φ280mmディスク/φ240mmディスク■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):773,000円
ハリスのフレームに、650cc2気筒エンジン
Continental GT650
SOHC4バルブの空冷パラツインエンジンは、最近のこのレイアウトの2気筒エンジンでは定番となりつつある270°クランクを採用。燃焼してピストンが上下するときの慣性によって起こるトルクのバラツキを抑えることができ、スロットルを開けていく右手の動きとトルクの出方がダイレクトで気持ちいい。一次振動を抑えるバランサーが入っていることもあり、低回転域から粘り、明確な押し出し感がありながらも右手の動きにギクシャクするようなことがなくなめらか。古典テイストを入れてデザインされた姿から思い浮かべるより振動は少ない。ヌルヌルと滑るように前に進んでいくのは独特で、歩くような速度でも制御は簡単だ。
648ccの排気量から7150rpmで46馬力ちょっとを出す最高出力と、52Nm/5250rpmという最大トルクで、車両重量が198kg。このスペックは目をみはるものではないけれど、乗ってみると走りが退屈なんて思わせない。低回転域のスムーズなトルクから回していくと乾いた排気音をともなって5千回転くらいからスルスルと速度が伸びていく。そこで加速に忙しさはない。絶対的な速度は高くなくても心の中はご機嫌だ。これはロイヤルエンフィールドが現時点でラインアップしている機種に共通している数値からはわからない魅力。
フレームビルダーとして名高い英国のハリス社が設計した鋼管ダブルクレードルフレームを使う車体は、またがるとお腹の前にある燃料タンクの存在感があるけれど実際はコンパクト。クリップオンハンドルでそれなりの前傾姿勢になるスポーティなポジションながら下半身のフィット感もよく試乗している間にキツく思うことはなかった。ステップの位置も適度に後ろでポジションに違和感がない。サスペンションはしなやかに動いてリアタイヤの存在を把握しやすく、積極的に走る気持ちを文字通り後押しする。
重心が低いこともあり低速でも安定して動かせるから、ビギナーでもすんなり乗れると思う。扱いやすいエンジンの特性に加えてハンドルが大きく切れるからUターンも楽だ。
その分、飛ばしていくと切り返しなどで若干粘る感じがあり、いつでもどこでもヒラヒラと機敏なフットワークとはいかない。日常速度域では逆にそれゆえに乗りやすいと思うライダーも少なからずいるだろう。車両と一体になって操っている手応えを楽しめる。思いっきり頑張って走りだすとサスペンションに少し頼りなさが垣間見えたけれど、そうやって走らなくても気持ちよさがある。
レトロカフェレーサースタイルと乗り味が同期しているから整合性がとれて戸惑わない。ちゃんとスポーティさを味わえる。国内でのライバルはカワサキの新しいメグロK3やW800シリーズになるだろう。走りと個性、実用性も含めてもいい勝負になりそうだ。単気筒のClassic 500と一緒でまとめかたがうまくバランスがいい。あれもこれもと欲張っていびつになるより奇をてらわずに全体が調和しているから、それがフレンドリーな印象につながって個人的なツボにハマった。
■エンジン種類:空冷4ストローク並列2気筒SOHC4バルブ ■総排気量:648cm3■最高出力:47bhp/7,150rpm ■最大トルク:52N・m/5,250rpm ■全長×全幅×全高:2,122×744×1,024mm ■シート高:793mm ■車両重量:198kg ■燃料タンク容量:12.5L ■変速機:6段リターン ■タイヤ(前・後):100/90-18・130/70-18 ■ブレーキ(前/後):φ320mmディスク ABS/φ240mmディスク ABS ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):795,000円
カフェレーサーのGT650に対し、こちらはスクランブラー
INT 650
INAT 650は、GT650とダブルクレードルフレームや648ccの空冷パラツインエンジンなど基本を共有する兄弟車。カフェレーサーのGT650に対して、アップハンドルでステップ位置がGT650より前にあるスクランブラー。アップライトで背筋がおきて、足を前に置くポジション。他は燃料タンクとシートもデザインが違う。スペックはほぼ同じはずだけど、このポジションの違いもあり走りのフィーリングが違う。スクランブラーらしくアップマフラーが欲しくなる。最初にやりたくなるカスタマイズかもしれない。
流行りのアドベンチャーもラインアップ
HIMALAYAN
単気筒エンジンモデルにはアドベンチャーのヒマラヤ(英記では“HIMALAYAN”なので、“ヒマラヤン”と言われることがあるが、日本での正式呼称は“ヒマラヤ”)。でもClassic 500とはエンジンは別物の空冷4ストロークSOHC2バルブ。排気量は411ccで、最高出力(24.3bhp/6500rpm)と最大トルク(32Nm/4000-4500rpm)と数値はClassic 500より低いが、それが気になる不満にはならない。フロント21インチ、リア17インチの足周りでダートでもコントロールしやすい。フロントブレーキのディスクローターはφ300mm。パイプのガードでシュラウド風演出をしているのが興味深い。段付シートのライダー側の高さは800mmで、大径ホイールながらClassic 500より数値は5mm下回る。テールには小さいキャリアを装着。思うより効果的な働きをしてくれるスクリーンもアドベンチャーらしいところ。