Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

待望の「オフロード性能強化!」 新型CRF250L/RALLY発表
2012年に新型車種として登場したホンダのトレールモデル「CRF250L」が、初めてのフルモデルチェンジを敢行。もともと持っていた高いオンロード能力に加え、今回はオフロードでの性能を大幅に強化したビッグチェンジ。同時にRALLYの方も刷新し、昨年ダカールラリーを制したばかりのホンダオフロードDNAを全力アピールする。
■解説:ノア セレン ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/




ホンダの「オフ車」を少し遡る

 ここ8年間、ホンダの、いわゆる「オフ車」として安定した人気を保ってきたCRF250L。250ccで不整地も走れるこれら「オフ車」といえば、ホンダではXRブランドが長らく存在し、それこそコアなファンを多く獲得していた。オフロードを走る前提だけれどもコンペモデルではなく、オンロードシーンやツーリングシーン、さらには軽量・省燃費などの観点から街乗りにも重宝がられるこのカテゴリーは「トレールモデル」などと呼ばれることが多かったが、2012年にCRF250Lが初登場した際に「オン・オフ」という言葉が使われた。「トレール」に対して、より「オンロードもオフロードも、何でもできますよ」そして「平日(オン)休日(オフ)」みたいな楽しみ方の切り替えも示唆し、わかりやすい表現だと思ったものだ。
 XRブランドが築き上げてきた評判を引き継ぐのは大変なことだっただろう。年々厳しくなる環境規制に合わせて、CBR250Rの水冷シングルエンジンに専用チューンを施し使用し、フレームもコンペモデル同様の車体左右に大きなビームを持つツインチューブタイプに変更。まさに完全新設計、ホンダの「オフ車」に新たな1ページが加わった瞬間だった。

先代CRFの評価は

 8年間もモデルチェンジせずにきたCRF250L、販売台数も安定していることを思えば結果として広く受け入れられた、新世代のホンダトレールとして定着したニューモデルだった。ただ、発売当初は驚くほど高いオンロード性能と、そして増えてしまった重量のせいもあってか、一部オフロードファンからは「かつてのXRとは別路線になってしまったか」という声も聞かれた。
 しかしそれはトレールモデルに対しオフロード性能を特に重視していた一部のユーザーだったようで、ホンダが提唱した「オン・オフ」をバランスよく楽しむ層には好意的に受け入れられたのはここまでの歴史を見ても明らかだ。ただ、今回のモデルチェンジにおいて、やはり「もう少しオフロード性能も高めてくれれば」という要望が、複数の市場から出たのは事実だったという。
 というのも、CRF250Lはグローバルモデルであり、アメリカやタイといったまだ多くのオフロード、楽しみやすいオフロードシーンが残されている地域にも展開しているからだ。そしてもちろん、国内でも林道ツーリングを楽しむユーザーがいて、そういった意見を踏まえ、新型CRF250L開発の一つの大きなキーポイントとして「オフロード性能の向上」が掲げられたのだった。
 
 

「Evolved ON-OFF GEAR」

 新型の開発コンセプトは、ON・日常の便利さと、OFF・休日の楽しさに磨きをかける という意味で「Evolved ON-OFF GEAR」とされた。何にでも使える扱いやすさという大切な柱を守りつつ、その扱いやすさを「オンでの扱いやすさを犠牲にせず、オフ性能アップを狙う」とする。また他に「最新のCRFデザイン」の採用や、先代もそうであったように「納得できるバリューでの提供」という要素も柱となっている。
 こう書くと「新型は本気のオフ車になったのか」という印象となってしまう気もするが、よりオフ車らしくというよりは、全体的な性能の底上げ、また扱いやすさに磨きをかけた、というのが本質のようだ。オフ性能に限らず何でもそうだが、尖りすぎてしまっては他の部分が犠牲になりがちなのに対し、新型CRF250Lは操縦しやすいライディングポジションや日常的に使用する低中回転域の出力特性といった部分も重視し、さらにクラッチレバー荷重の低減や多機能なメーターを採用するなど、これまで同様にON領域でこのモデルを使いたいユーザーにもしっかりと魅力を上乗せしている。
 

車体周りの変更はしなやか方向へ

 今回のモデルチェンジは、オフ性能アップの一環として最低地上高及びサスペンションストロークのアップを果たしている。従来モデルに対してフレームの形状変更やクランクケースの変更、またドレンボルトの位置を変更することで、足つきはしっかりと確保しつつ最低地上高を10mmアップさせることに成功。なお、新型では従来のローダウン(LD)モデル(シート高・新旧変わらず830mm)をスタンダードとし、サスストロークの長い従来のスタンダードモデル(シート高875mm)を〈S〉モデル(シート高880mm)として新たに設定した。
 さらに大きなチェンジはフレームの抜本的な見直しだ。まずはなんといっても軽量化。車体全体で約6キロもの軽量化を果たしているなかで、フレーム単体でもなんと2kg以上(2150g)落としているのだ。またオフロード性能確保において有効なしなやかさを得るため、メインパイプは内側に追い込まれ、ダウンチューブはかなりスリム化。横剛性は25%も減らされ操縦性の向上を狙っている。
 

 
 軽量化は多岐にわたり、ボトムブリッヂのアルミ化や550g軽量化した新スイングアーム、LEDヘッドライト、エギゾーストパイプなど大きな部品から、中空のリアアクスルシャフトやスプロケットボルトといった細かな部品まで見直されている。なお、フレームのスリム化によりライディングポジションも操作入力や体重移動が容易になっているという。
 

エンジンはより低中回転域重視設定へ

 従来モデルのエンジンはロードモデルCBR250Rとユニットを共有すること、また確かなオンロード性能確保も念頭に置いていたことからか、わりと高回転志向だったといえるだろう。その分、低回転域でのパンチ、という意味でオフロードユーザーからの要望はあったかもしれない。
 新型では新設計のエアークリーナーボックスやエギゾーストパイプ、マフラーを採用すると共にインテークカムシャフトも変更し、点火時期の最適化と合わせて低中回転域を強化した。
 逆に高回転域が犠牲になったかと言えばそうではなく、高回転域も従来型を上回る性能を確保し、また全体的な出力カーブもよりスムーズでダイレクトなものを実現している。
 オフロード的瞬発力の発揮に寄与するもう一つの変更はギアレシオ。1~5速はこれまでよりショート化し使いやすさや瞬発力を確保。逆に6速は快適なクルージングのためハイレシオ化し、理論上の最高速は160km/hまで伸ばしている。
 もう一つのトピックはアシストスリッパークラッチの採用。後輪からの過度なバックトルクを逃がす機構ではあるが、それに加えクラッチレバーの荷重を約20%軽減することが魅力であり、さらなる接しやすさや長距離における疲労軽減を達成する。
 

最新CRFらしさ

 コンペモデルのCRFシリーズは非常に躍動的でカッコイイデザインをしているが、そのイメージを色濃く公道用車両であるCRF250Lに引き継ぐのはCBRなどロードモデル同様。全体的なイメージでコンペモデルCRF450RWをフォローアップする外装に一新した中で、特に注目されるのはヘッドライトだろう。薄型のLEDライトは先行販売されたCRF450Lと共通イメージで、従来型に比べるととてもコンパクトでフロントマスクを引き締めている。
 またフロントフォークのアルマイト色変更やブラックリムの採用など、細部のカラーリングにより全体的に引き締まった印象となり、フロントマスクだけでなくトータルとして新型らしいアップデートを果たしていると感じさせる。
 

 

RALLYはよりツーリング向きに

 2017年にタイプ追加されたRALLYも同時にモデルチェンジを果たした。車体の軽量化や各部剛性の最適化はCRF250Lと同様だが、RALLYはさらに航続距離の向上、居住性の向上、純正積載用品の設定充実を追求した。
 

 
 燃料タンクは2.7Lの容量アップを果たし、従来型の航続距離を理論上では100キロほど伸ばした。またそのような長距離ライディングを快適にこなせるようハンドルにはウェイトを、ステップにはラバーを設定し振動を軽減させている。さらにシートもL比で幅を+20mm、厚みも+10mm確保し、またシートが車体に載る部分もラバーマウントとすることでここでも快適性を向上させツーリングシーンをサポートする。
 

 
 スタイリングは昨年ダカールラリーでホンダに久しぶりの総合優勝をもたらしたCRF450RALLYのイメージで展開。
 純正オプションはグリップヒーターやアクセサリーソケット、リアキャリア、2種類のトップボックスなど用意する。
 

CRF250L。
CRF250 RALLY。

 

基本的なカタチは従来型から引き継ぐものの、主にダウンチューブ部及びパッチと呼ばれるシングルクレードルがダブルクレードルに分かれるエリアにおいて大幅にスリム化され、横剛性は25%も落とされてしなやかさを追求。25%と聞くと1/4なのだから凄い数値に感じるが、全体の軽量化ともリンクしていて全体のバランスを求めた結果である。軽量化はこのフレームだけで-2150gだ。

 

ストローク量を10mm増やし260mmとなったフロントフォークはそれに伴いセッティングも変更。ボトムブリッヂはアルミ材に変更したことで軽量化された。フォークアウター部の暗めのゴールドアルマイトはコンペモデル同様でイメージを引き締める。

 

軽量化と剛性バランスの最適化のため、スイングアームは新作。ピボット周辺の幅を15mmスリム化し、重量は-550g。リンクレシオも見直すことでONでもOFFでも快適な乗り心地を追求。

 

フレームの、左右のメインチューブの幅が狭められたことでボディカバーなどもスリム化。ライダーが膝で車体をホールドする部分も細くしたことで操作入力や体重移動が容易になっている。

 

全回転域において出力及びトルクを向上させたエンジン。主な変更点は新設計のエアークリーナーボックス、エギゾーストパイプ、マフラーと点火時期、そしてインテークカムシャフト。従来型以上に低回転域から扱いやすい出力特性を実現。

 

これも新作となったマフラーは、エギゾーストパイププロテクターとテールキャップの板厚を薄くすることで軽量化、キャタライザーの容量と配置最適化によりEURO5対応、インナーパイプ、テールパイプの径を見直し出力特性を改善させるなど実は変更点の多い箇所。

 

クラッチの押しつけ力を増幅するアシスト機構と、過度な減速側トルクを逃がすスリッパー機構を持つ「アシスト&スリッパークラッチ」を採用。街乗りからオフロードまで場面を選ばずライダーの疲労軽減・安心感向上を提供する。

 

技術説明後のQ&A

オンラインで行われた技術説明会の後、個別インタビューの時間が設けられた。まだ試乗していない現時点では質問する内容も限られているが、いくつか興味を持った部分について聞いてみた。

Q:オフロード性能の追求とあるが、モトクロスコース走行やエンデューロレース参戦から、林道ツーリングまで多岐にわたるオフロード走行の中で、CRF250Lはどの程度のオフロードを想定しているのか。

A:あくまでナンバーのついている公道用車両のため、合法的に走れる未舗装路という認識。海外市場によっては未舗装路がまだ多く残っているエリアもあるためオフロード路面については幅があるが、そういったあらゆるニーズに応えると共に、国内においては林道ツーリングや砂利ダート走行といったレベルのオフロードを想定している。国内外あらゆるレベルの(公道)オフロードにおいて今まで以上の扱いやすさ、自由度が確保できているはずだ。

Q:フレーム横剛性25%ダウンと聞くと大きな変更に感じるが、オフロード性能向上のため逆にオンロード領域で犠牲になった部分はないか。

A:従来型のオンロードでの性能を評価いただいているので、それは全く犠牲にせず、オフロード性能を上乗せしている。全体的にしなやかな方向性にシフトしているためオンロードにおける限界値が低くなっているのではないかという懸念が生まれるのも理解できるが、それを相殺してくれるのは今回の大幅な軽量化。6キロも軽くなればトータルでの扱いやすさが向上。オンロードにおいては、これまでの軽快さとはまた別のタイプの軽快さに多少変化はしているが、オンロード性能そのものは一切犠牲にしていないと自負している。

Q:エンジンは低回転域を強化したとあるが、高回転域のパワーフィールはどう変化しているか。また最低地上高確保のためクランクケースまで変わっているとなると、エンジンはフルチェンジと考えても良いか。

A:性能グラフを見てもらえばわかる通り、高回転域のパワーや扱いやすさは守っている。また低回転域は太くしただけでなくパワーカーブをスムーズにすることでダイレクト感、素直さ、扱いやすさを増している。吸気カムの変更によるところが大きいが、吸排気やギアレシオの変更とも相まって、試乗時には是非味わってほしい変更点。クランクケースについては、実は先行モデルチェンジされていたレブルの時に既にこの新型CRF250Lの構想があったため、その時点でドレンプラグの位置などを変更してもらえるようお願いしておいた。今回のモデルチェンジのためだけに行った新規変更点ではないため、エンジンはチェンジではなく小変更による熟成という認識。

Q:スリッパークラッチの採用により、不意にエンジンが停止することもあるオフロードにおいて、とっさにクラッチを繋ぎ直すいわゆる「押し掛け」ができなくなっているということはないか。

A:テスト済み。押し掛けも可能。

Q:LEDヘッドライトは、数値上は明るさを確保できていても実際には明るく感じないことも多い。従来型はオフ車らしからぬ明るいヘッドライトが魅力的だったが、新型のLEDは大丈夫か。

A:そういった意見は把握しているため、数値だけにこだわらず徹底した実走テストを繰り返した。感覚的な明るさは一点の光量だけではなく均一な明るさが重要で、また周辺部もぼんやりと明るい領域を持たせることで感じられるもののようで、そのためレンズ内のカットを縦に配置し、従来型以上の光量はもちろんのこと、幅広い配光とすることで感覚的・直感的な明るさもしっかりと確保した。

Q:CRF250Lはバリュープライスも魅力の一つ。新型の価格設定はどうか。

A:従来型比では多少の値上げはしているものの、今回のモデルチェンジの内容と照らし合わせれば、価格価値的には十分バリューと思ってもらえるのではないか。

 以上、まずは技術説明会及び簡単なオンラインインタビューから得た新型CRF250L速報である。1月下旬ごろまでには試乗を含めた詳細レポートもできる予定のため、追記事に期待してほしい。
 

CRF250L。全体の印象を大きく引き締めたフロントマスクは、先行販売されていたCRF450Lのイメージ。先代よりもコンパクトで110g軽量化したほか、LEDとなったライトは数値上だけでなく、実際にライダーにとって直感的に明るく「感じる」ようテストを重ねたという。
CRF250L。リムがブラックとなったことで引き締まった印象になったフロント周りは、タイヤをこれまでの3.00-21から80/100-21へと変更。φ43mmのインナーチューブをもつ倒立フロントフォークは260mmへとストロークを伸ばしている。

 

CRF250L。使い勝手を考慮し荷掛けフックも装備。ストリートユースでは特に重宝する、独立タイプのヘルメットホルダーを備えるのも嬉しいポイント。
CRF250L。先代にも備わっていた車体左側の小物入れは、デザインをよりギアらしく洗練させ引き続き採用。なおフレーム幅が先代よりも細くなったことで、跨った部分はさらに細くなり足つきは向上しているはずだ。

 

CRF250L。ウインカーは新たにLEDを採用し、ここでも軽量化を果たしている。マフラーはEURO4に対応すると共にパワーアップに貢献する各種変更が加えられ、エキパイ部は軽量化も果たしている。

 

CRF250RALLY。先代からLEDを採用していたRALLYの特徴的なフロントマスクは継承。LEDウインカーの採用で軽量化をしている。なお隠れて見えないが、フォークを支えるボトムブリッヂもアルミ化され、見えないところで軽量化を進めている。
CRF250RALLY。RALLYのハンドルのバーエンドにはウエイトを設定し振動を軽減。グリップヒーターやアクセサリーソケットに加え、キャリアやトップボックスといったツーリング向けの純正オプションも用意する。

 

CRF250RALLY。ポジティブ液晶メーターは速度表示を大型化し見やすくなった。その他ギアポジションや平均燃費計、平均速度など多機能。ラリーでは先代同様カウルマウントとなり、視認性も良さそうだ。
CRF250RALLY。ラリーマシンイメージで、より長距離ツーリングなどに対応するCRF250RALLYは、新たに12.8Lタンクを装備。航続距離を先代よりも100kmほど伸ばしている。シートもより幅と厚みを持たせ、また防振対策も取られ快適な長距離ライドをサポートする。

 





2020/11/13掲載