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試乗・解説

ちょうどいい、という高性能 Kawasaki Ninja650
カワサキは早くからミドルクラスに注力してきたメーカーだ。
古くはZ400FXと550FX、GPZ400Rと600R
さらに「ハーフニンジャ」と呼ばれたGPZ400Sと500S――。
そして今、650ccシリーズがカワサキミドルの柱だ。
そして日本のバイク市場には、古くから言い伝えがある。
ミドルクラスのシリーズこそ日本にフィットするのだ、と。
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:松川 忍 ■協力:カワサキモータースジャパンhttps://www.kawasaki-motors.com/




70ps/200kgの耐え難い魅力

 齢50を越えた頃から、バイクとの付き合いにひとつの回答が見えてきた気がしています。それは、人生最後のバイク=上がりのバイクをナニにするか、ってこと。
 それはスーパーカブだ、という人は多いですね。またはSRだろう、と言う人もいる。
 いや、それもいいけれど、でもスーパーカブじゃ物足りないし、SRはしんどいだろうなぁ、と私は思う。CB125RとGSX1100Sカタナに乗る私がたどり着いたおぼろげながらの答えは「空冷/出力70ps/2気筒エンジン/車重200kg」ってあたりのスペックです。もちろん、CB125Rでもカタナでもない。今はまだ、上がりのバイクへの途中なんですね。
 でも実は、この「上がりのバイク」って、「人生最初のバイク」に通じることが多くて、つまりは私が人生最後のバイクに選びたいもの=人生最初のバイク、に推すものなわけです。もちろん650cc=大型免許だから「人生初の大型車」ってことです。
 

 
 新しいバイクに乗るたび、あぁコレいいなぁ、と思うことばっかりです。基本、なんでも気に入っちゃうタチなんですが、「コレいいなぁ」の内容は、大きく分けて①スゴいなぁ②よく走るなぁ③欲しいなぁ、の3パターン。この③が「空冷/出力70ps/2気筒エンジン/車重200kg」あたりに多いのです。もちろん、今どき「空冷」は少ないから、2気筒エンジンの出力70psで車重200kgってセンが基準になりますね。
 空冷っていうのは、反応が俊敏すぎないレスポンスとか吹け上がりが好きなのと、2気筒はドコドコ感とスムーズさを両立しているから。出力70ps/車重200kgは、衰える一方の私の体力でも(笑)きちんとコントロールできるからです。100psもちょっと多いし、160kgの軽量さもいらないな、って。
 この数年で「おっ」と思ったのはスズキSV650、ヤマハMT-07。グッツィV7なんかも、ちょっと出力が低くとも、条件の範囲内。永遠の憧れはXS-1とか、かなぁ。そしてここに、Ninja650という新しい候補が加わりました。2気筒/68ps/車重は194kg。ぴったし^^ 
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時のイメージが見られます。

 Ninja650は、カワサキお得意のミドルクラススポーツバイク。カワサキはハーフニンジャこと2気筒500cc(ニンジャの4気筒900ccを半分、という意味)あたりのモデルをずっと持ち続けていて、その現行モデルがNinja650というわけです。
 Ninja650のルーツは2006年デビューのER-6n/6f。180度クランクを採用したERは、初めて乗った時に、低回転のトルク感、高回転のシャープな吹け上がりが印象的で、同時にヒラヒラとしたフットワークに感動したほどでした。私は、どちらかというと4気筒好きで、所有してきたバイクは大型の4気筒モデルばかり。そんな、私が知っているバイク像を軽くブチ壊してくれたのがER-6だったのです。思えばこの頃から「人生最後のバイク」って像が、おぼろげながら見えて来ていたのかもしれませんね。

 そのNinja650、まずは実車を前にすると本当に650なんだか疑ってしまうほどボディがコンパクト。Ninjaシリーズでスタイリングイメージが統一されていることもあって、あれ? 間違って400借りてきちゃった? 250…ではないよね? まさか――って感じ。またがってみても「なんだこれ400だったじゃない」って腑に落ちちゃうほどコンパクトです。
 もちろん、実際には現行モデルのNinja400は250と同じボディを使用しているので、400がびっくりするくらいコンパクトなんだけれど、またがった瞬間、それほど小さい。ちなみにシート高は250より5mm低く、400より5mm高い790mm。フューエルタンク上面が高く、シートと体がそこにすっぽり落ち込む感じだから、数字以上にシート高が低く感じるんです。
 

 
 いざ走り出しても、まずは650ccのトルクを感じるというより、発進トルクをスムーズに出しているのがよくわかる。スリムな車体でビッグツインのどんつきを感じることもない。650ccといえば立派なビッグツインですが、そこを恐れることはまったくありません。アシスト&スリッパークラッチ装備のおかげで、クラッチもびっくりするくらい軽いしね。
 街乗りを始めると、本当に650ccなのが信じられないコントロール性がわかります。車体設計がひと世代新しい250/400よりも重心が高い感じはあるんですが、ヒラヒラすぎない、しっとりしたハンドリング。
 低回転のトルクは特性を盛り上がり系に振っているようで、発進トルクはそこそこ、けれどストリートでの常用回転域である3000rpmあたりから力強い。そのまま回転を引っ張ってみると6000rpmあたりでさらに一段盛り上がり、このあたりのエリアだともうビッグバイクのスピードの乗り。おぉ、やっぱり650ccって速いなぁ、ってそんな感じです。
 これがツインエンジンのキャラクターです。低回転では鼓動を感じるとことこ感があって、高回転はシャープ。普段にスイーッと街乗りをするのも、ちょっと気を張って回したい時も、パワー特性に表情があります。
 

 
 高速道路に上がると、このあたりが650の得意分野。400よりも安定性たっぷりにクルージングできます。それでもNinja650は、たとえばZ1000なんかのリッタークラスに比べると軽快で、まさにZ400とZ1000の中間です。軽快すぎない、重厚すぎない。これぞミドルクラスのメリットですね。400の車格に650ccの力を載せているというか、1000ccの力を400ccの車格でコントロールできるというか、そういう「いいところ取り」です。
 トップ6速100km/hは4500rpm、120km/hは6000rpmほど。10000rpmは回るツインで言えば、ほんの中回転域ですね。この回転域に合わせ込んでいるのか、鼓動や振動がスーッと消えていくクルージングを楽しめます。
 

 
 もちろん、ワインディングでもこのいいところ取りを実感することは多くて、安定感がある中の軽快感という、ちょっと矛盾した魅力があるんです。安定感があるというのは、たとえば切り返しの面なんかでZ1000ほどの重量感がなくて、軽快感があるというのは、250や400のように、シュッとしたスピードでバンクするシャープさがない、ってことです。怖くないですね、これが人生最後のバイクと、大型最初のバイクに推す理由ですね。
 もちろん、ワインディングをがりがりに攻めるバイクじゃない。それはZX-6Rに任せましょう。広い道を、ただひたすらどどどどど、って進んでいくバイクじゃない。それはバルカンの方が気持ちいいもの。
 

 
 ちなみに現行のカワサキモデルのいくつかは「ライドオロジー」アプリを使ってスマホとブルートゥース接続できます。Ninja650はサスペンションセッティング機能こそありませんが、燃料計やオドメーターを表示したり、走った軌跡をGPSルートログで見ることができるんです。
 これ、これからどんどん実用化してほしい、今どきらしい技術ですね。使っていて楽しいもの。

 そういえば、私のバイクの使い方って、用途を限定せずに、いつでもどこでも乗る、走る。街乗りもするし、通勤にも使うし、ツーリングにだって行く。年に1度くらいはサーキットも行きたいし。だからNinja650が上がりのバイク候補に入ってきちゃうんでしょう。ちょうどいい、って言うのは見栄もハッタリもなくした、本当に自分が欲しいもの、っていう境地ですね。
 上がりバイクの条件「空冷/出力70ps/2気筒エンジン/車重200kg」に、新たに「ミドルクラス」が加わった取材となりました。
(試乗・文:中村浩史)
 

 

スチール製丸パイプを使用したトレリスフレームは、軽量化としなりを持つ車体剛性に仕上げられた。パイプを可能な限り直線形状で構成したことで応力分散を図っている。

 

ブレーキはφ300mmのペタルディスクに片押し2ピストンキャリパーをダブルで装備。ABSを標準装備で、ガツンと効くより握り込むとグッと効力を増すタイプ。フォークはφ41mmの正立で、軽いストローク感と動きの良さが印象的だった。

 

エンジンは180°クランクを採用した水冷並列ツイン。360°や270°クランクのツインよりも高回転ハイパワー型で、それでいて中回転域のスムーズなトルクを目指したエンジンだ。650cc化したあとのカワサキミドルはほとんど乗ってきているが、ほぼ完成の域。

 

エンジン下にサイレンサーをレイアウトし、マスの集中化を図ったマフラー。運動性がいいのはもちろん、実際の押し引きでマフラーの張り出しがない分、さらにスリムさを実感。
リアサスはZX-10Rでも使用されているホリゾンタルバックリンクを採用。スペース効率が高く、リアサスを寝かせることでシート高を低く抑える効果がある。

 

スイングアームは、フレームともども、カワサキの新しい解析技術でスイングアームピボットからリアアクスルまでを可能な限り直線でつなぎ、軽量さと剛性を確保。リアブレーキはφ220mmのペタルディスクを採用。タイヤはダンロップ・ロードスポーツ2。

 

前後セパレートタイプのシートは、柔らかい座り心地で疲れも少なかった。タンデム部はキーで脱着可能、リッドを引いてフロントシートも簡単に外すことができる。残念なのは積載のことをほとんど考えられていなかったこと。リアシート下にETC車載器を標準装備。

 

Ninjaシリーズ一連の「SUGOMI」デザインは、スーパースポーツ風ルックス。Ninjaじゃちょっとイカツくて派手だな、という向きには兄弟モデルZ650もラインアップ。
タンク容量は15L。今回の取材での実走燃費は約26km/Lで、フルタンク350kmほど走る計算になる。やや高さのあるタンク前半にイグニッションキーがレイアウトされている。

 

外部ヘルメットホルダーはちゃーんと装備。タンデムステップステーも肉抜きが施されていたらドローコード(積載用コード)がひっかけられて積載性が上がるのに。
ウィンカーはクリアレンズ+オレンジバルブで、テールランプはX型にLEDを配置。タンデムシートは現行モデルで厚みを見直され、タンデムの快適性を増しているという。

 

トップブリッジ上にキャスティングハンドルを装着。セパハンに見えるが、実は左右一体型で、高さ、タレ角、絞りとも、幅広い体格のライダーにマッチしそうだった。メーターはフルカラー液晶となり、オド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費も表示する。純正アクセサリーで、メーターサイドに装着できるシガーソケットタイプの電源供給が用意される。

 

■Ninja650/Ninja 650 KRT EDITION(2BL-ER650H) 主要諸元

全長×全幅×全高:2,055×740×1,145mm、ホールベース:1,410mm、最低地上高:130mm、シート高:790mm、車両重量:194kg、燃料消費率32.1km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、23.6km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)、エンジン:水冷4ストローク何並列2気筒DOHC4バルブ、総排気量:649cm3、最高出力50kW(68PS)/8,000rpm、63N・m(6.4kgf・m)/6,700rpm、燃料タンク容量:15L、タイヤサイズ:前120/70ZR17M/C 58W、後160/60ZR17M/C 69W 。メーカー希望小売価格:880,000円/902,000円。

 


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2020/09/14掲載