70ps/200kgの耐え難い魅力
齢50を越えた頃から、バイクとの付き合いにひとつの回答が見えてきた気がしています。それは、人生最後のバイク=上がりのバイクをナニにするか、ってこと。
それはスーパーカブだ、という人は多いですね。またはSRだろう、と言う人もいる。
いや、それもいいけれど、でもスーパーカブじゃ物足りないし、SRはしんどいだろうなぁ、と私は思う。CB125RとGSX1100Sカタナに乗る私がたどり着いたおぼろげながらの答えは「空冷/出力70ps/2気筒エンジン/車重200kg」ってあたりのスペックです。もちろん、CB125Rでもカタナでもない。今はまだ、上がりのバイクへの途中なんですね。
でも実は、この「上がりのバイク」って、「人生最初のバイク」に通じることが多くて、つまりは私が人生最後のバイクに選びたいもの=人生最初のバイク、に推すものなわけです。もちろん650cc=大型免許だから「人生初の大型車」ってことです。
新しいバイクに乗るたび、あぁコレいいなぁ、と思うことばっかりです。基本、なんでも気に入っちゃうタチなんですが、「コレいいなぁ」の内容は、大きく分けて①スゴいなぁ②よく走るなぁ③欲しいなぁ、の3パターン。この③が「空冷/出力70ps/2気筒エンジン/車重200kg」あたりに多いのです。もちろん、今どき「空冷」は少ないから、2気筒エンジンの出力70psで車重200kgってセンが基準になりますね。
空冷っていうのは、反応が俊敏すぎないレスポンスとか吹け上がりが好きなのと、2気筒はドコドコ感とスムーズさを両立しているから。出力70ps/車重200kgは、衰える一方の私の体力でも(笑)きちんとコントロールできるからです。100psもちょっと多いし、160kgの軽量さもいらないな、って。
この数年で「おっ」と思ったのはスズキSV650、ヤマハMT-07。グッツィV7なんかも、ちょっと出力が低くとも、条件の範囲内。永遠の憧れはXS-1とか、かなぁ。そしてここに、Ninja650という新しい候補が加わりました。2気筒/68ps/車重は194kg。ぴったし^^
Ninja650は、カワサキお得意のミドルクラススポーツバイク。カワサキはハーフニンジャこと2気筒500cc(ニンジャの4気筒900ccを半分、という意味)あたりのモデルをずっと持ち続けていて、その現行モデルがNinja650というわけです。
Ninja650のルーツは2006年デビューのER-6n/6f。180度クランクを採用したERは、初めて乗った時に、低回転のトルク感、高回転のシャープな吹け上がりが印象的で、同時にヒラヒラとしたフットワークに感動したほどでした。私は、どちらかというと4気筒好きで、所有してきたバイクは大型の4気筒モデルばかり。そんな、私が知っているバイク像を軽くブチ壊してくれたのがER-6だったのです。思えばこの頃から「人生最後のバイク」って像が、おぼろげながら見えて来ていたのかもしれませんね。
そのNinja650、まずは実車を前にすると本当に650なんだか疑ってしまうほどボディがコンパクト。Ninjaシリーズでスタイリングイメージが統一されていることもあって、あれ? 間違って400借りてきちゃった? 250…ではないよね? まさか――って感じ。またがってみても「なんだこれ400だったじゃない」って腑に落ちちゃうほどコンパクトです。
もちろん、実際には現行モデルのNinja400は250と同じボディを使用しているので、400がびっくりするくらいコンパクトなんだけれど、またがった瞬間、それほど小さい。ちなみにシート高は250より5mm低く、400より5mm高い790mm。フューエルタンク上面が高く、シートと体がそこにすっぽり落ち込む感じだから、数字以上にシート高が低く感じるんです。
いざ走り出しても、まずは650ccのトルクを感じるというより、発進トルクをスムーズに出しているのがよくわかる。スリムな車体でビッグツインのどんつきを感じることもない。650ccといえば立派なビッグツインですが、そこを恐れることはまったくありません。アシスト&スリッパークラッチ装備のおかげで、クラッチもびっくりするくらい軽いしね。
街乗りを始めると、本当に650ccなのが信じられないコントロール性がわかります。車体設計がひと世代新しい250/400よりも重心が高い感じはあるんですが、ヒラヒラすぎない、しっとりしたハンドリング。
低回転のトルクは特性を盛り上がり系に振っているようで、発進トルクはそこそこ、けれどストリートでの常用回転域である3000rpmあたりから力強い。そのまま回転を引っ張ってみると6000rpmあたりでさらに一段盛り上がり、このあたりのエリアだともうビッグバイクのスピードの乗り。おぉ、やっぱり650ccって速いなぁ、ってそんな感じです。
これがツインエンジンのキャラクターです。低回転では鼓動を感じるとことこ感があって、高回転はシャープ。普段にスイーッと街乗りをするのも、ちょっと気を張って回したい時も、パワー特性に表情があります。
高速道路に上がると、このあたりが650の得意分野。400よりも安定性たっぷりにクルージングできます。それでもNinja650は、たとえばZ1000なんかのリッタークラスに比べると軽快で、まさにZ400とZ1000の中間です。軽快すぎない、重厚すぎない。これぞミドルクラスのメリットですね。400の車格に650ccの力を載せているというか、1000ccの力を400ccの車格でコントロールできるというか、そういう「いいところ取り」です。
トップ6速100km/hは4500rpm、120km/hは6000rpmほど。10000rpmは回るツインで言えば、ほんの中回転域ですね。この回転域に合わせ込んでいるのか、鼓動や振動がスーッと消えていくクルージングを楽しめます。
もちろん、ワインディングでもこのいいところ取りを実感することは多くて、安定感がある中の軽快感という、ちょっと矛盾した魅力があるんです。安定感があるというのは、たとえば切り返しの面なんかでZ1000ほどの重量感がなくて、軽快感があるというのは、250や400のように、シュッとしたスピードでバンクするシャープさがない、ってことです。怖くないですね、これが人生最後のバイクと、大型最初のバイクに推す理由ですね。
もちろん、ワインディングをがりがりに攻めるバイクじゃない。それはZX-6Rに任せましょう。広い道を、ただひたすらどどどどど、って進んでいくバイクじゃない。それはバルカンの方が気持ちいいもの。
ちなみに現行のカワサキモデルのいくつかは「ライドオロジー」アプリを使ってスマホとブルートゥース接続できます。Ninja650はサスペンションセッティング機能こそありませんが、燃料計やオドメーターを表示したり、走った軌跡をGPSルートログで見ることができるんです。
これ、これからどんどん実用化してほしい、今どきらしい技術ですね。使っていて楽しいもの。
そういえば、私のバイクの使い方って、用途を限定せずに、いつでもどこでも乗る、走る。街乗りもするし、通勤にも使うし、ツーリングにだって行く。年に1度くらいはサーキットも行きたいし。だからNinja650が上がりのバイク候補に入ってきちゃうんでしょう。ちょうどいい、って言うのは見栄もハッタリもなくした、本当に自分が欲しいもの、っていう境地ですね。
上がりバイクの条件「空冷/出力70ps/2気筒エンジン/車重200kg」に、新たに「ミドルクラス」が加わった取材となりました。
(試乗・文:中村浩史)
全長×全幅×全高:2,055×740×1,145mm、ホールベース:1,410mm、最低地上高:130mm、シート高:790mm、車両重量:194kg、燃料消費率32.1km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、23.6km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)、エンジン:水冷4ストローク何並列2気筒DOHC4バルブ、総排気量:649cm3、最高出力50kW(68PS)/8,000rpm、63N・m(6.4kgf・m)/6,700rpm、燃料タンク容量:15L、タイヤサイズ:前120/70ZR17M/C 58W、後160/60ZR17M/C 69W 。メーカー希望小売価格:880,000円/902,000円。
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