新型コロナウィルスによる外出自粛規制の影響でバイクをいじることができません。というのもバイクをいじる場所が自宅ではなく、ちょっと離れた場所だから。県境を跨ぐ移動を伴ってしまうからなのです。そんなことを書いておけば、更新が滞っていたのを許してもらえそうな気がしたので、言い訳っぽく書いてみましたが、今レポートさせていただいている作業をしたのは昨年秋……。外出自粛は全く関係ありませんね(笑)。
さて、ボアアップキットを組み付けの続きです。組むに当たって、ちょっと気になることがあります。圧縮比がそれ。今回使うメーカー不明のボアアップキットは、ノーマルヘッド用、つまり排気量が増えても、ヘッドの燃焼室容積はノーマルのままで大丈夫というキットだと思われます。しかし排気量は50cc→80ccと1.6倍にもなるわけですから、圧縮比が相当高くなると思われます。エイプ50のノーマルの圧縮比は9.2:1なのですが、どれぐらい高くなってしまうのでしょうか?
言うまでもなくですけど、エンジンにとって圧縮はとても重要な要素のひとつです。高性能化には高圧縮化が必須。しかし高過ぎるとデトネーションの発生やポンピングロスの増大などの問題が発生します。そんなこともあり、メーカーのエンジニアさんや、エンジンチューナーさんなどは、カムシャフトのオーバーラップ量とか、求めるパワーとか、使用するシチュエーションとか、そんなもろもろの要素から圧縮の設定を行っているようです。
メーカー不明の80ccボアアップキットを組み込んだ場合、圧縮比は実際のところいくつになるのか? 残念ながら説明書などに組み込み後の想定圧縮比の記載はありません。ちなみに一流メーカーのボアアップキットも、エイプ50用はノーマルヘッド用がほとんど。一流メーカーのボアアップキットなら、組み込み後の想定圧縮比などの情報も公開されているであろうと、ウェブサイトで検索してみたのですが、残念ながらどこにもボアアップ後の圧縮比に関する情報を見つけることができず(汗)。
一流メーカーのキットなら、「メーカーが大丈夫と言っているんだから……」と自分を納得させることもできますが、メーカー不明の怪しげなボアアップキットとなると、正直なところちょっと心配です。そこでボアアップ後の圧縮比を計測してみました。ちなみに圧縮比は、上死点時のシリンダーと燃焼室の合計容積と下死点時のシリンダーと燃焼室の合計容積の比率。例えば下死点時の容積が50ccで上死点時の容積が5ccなら圧縮比は10:1となります。
それでは上死点時、下死点時それぞれの容積をどう計測するか? まずはヘッドの燃焼室の容積を実測します。ピストントップの形状が完全にフラットで、上死点時にシリンダー上面とピストン上面が同じ高さとなるエンジンであれば、上死点時の容積は、ヘッドの燃焼室容積にヘッドガスケットの厚さ分の容積を加えたものとなります。下死点時はそれに1気筒分の排気量を足したものとなります。しかしピストントップ部が山型に盛り上がっていたり、バルブリセスが掘ってある場合は、実質の燃焼室容積は増減するため、その部分の容積を計測する必要があります。ちなみに今回組み付けるボアアップキットのピストンは、まさにその山やリセスがあるタイプとなります。
実測した各部の容積はというと、まずエイプ50のノーマルヘッドの燃焼室容積が6.85cc。ちなみに可能な限り正確な計測値とすべく、5回計ったものの平均値となります。そしてピストンヘッド部の凹凸部分容積。これはシリンダーとピストンをエンジンに仮組みし、上死点からピストントップの凸部がシリンダー上面よりも低くなる任意の位置まで下げた状態で、シリンダー上面までの容積を液体を使って実測し、ボアに任意に下げた位置までの長さを掛けることで算出した円柱容積から実測値を差し引くことで求めることができます。その実測値が11.11cc。ピストンを上死点から5.43mm下げて計測していたので、ピストントップに凹凸がなければ11.93ccの容積となるので、そこから実測値の11.11ccを引くと0.82ccという数字がはじき出され、これがピストントップの凸凹部分の容積となります。
ヘッドの燃焼室容積である6.85ccからピストントップの凸凹部分の容積0.82ccを引くと6.03ccとなり、これにガスケット厚(0.25mm)分の容積となる0.55ccを足すことで、上死点時の実質容積が6.58ccと判明しました。下死点時はそれに排気量となる78ccを加えた84.58ccとなります。よって圧縮比は84.58÷6.58でおおよそ12.9:1と判明しました。
12.9なんていう圧縮比は、フルチューンしたエンジンなどでよく聞く数値。ちょっと高過ぎる気がします。そこでチューニングに詳しい方何人かに聞いてみると、「すごいカム入れてフルチューンするならともかく、ちょっと高過ぎじゃない?」的なお答えばかり。街乗りやツーリングがメインとなるXLR80Rのエンジンにはちょっと? いやかなり? 高過ぎるようです。さて、どうするか? 対応策は次回レポートさせていただきます。