5月 ―――
野山には色鮮やかな花々が咲き乱れ、それらが解き放つ甘い香りは風に乗って私の元へと届き、鼻腔をくすぐる。
だんだんと強さを増してくる日差しの中で大空を舞う小鳥たちのさえずりが、忙しい日々の暮らしを癒すやさしいBGMに聞こえているのは、私だけではあるまい。
早朝、相棒のHONDA NC700Xのキーを回すと、トコトコトコという軽い音をたて、エンジンが目覚める。
「さて、今日はどこを目指そうか」
いや、今の私には目的地などはいらない。ただただ走ればいいのだ。
風の香りを、山の緑を、海の碧さを感じながらアクセルを開ければ、それだけで生きているという実感が涌いてくるのだから……。
……なぁんて、大昔のどっかのバイク雑誌のグラビアに載ってたような、エッセイ風の臭い文章(笑)を書いてみたのですが、その、最高の季節であるハズのこの時期に、約2ヶ月間も家に閉じこもってろ、なんて、これはオートバイ乗りにとってはまさに生殺しそのものですよね。
世の中完全に止まっちゃってるし、コンビニやスーパーへ行けば、まるでこちらを保菌者と決め付けたかのような態度で接客されるので、気分を害します。
給料も休業期間中は6割しか出せないと言われてしまいました。この先日本はいったいどうなってしまうのでしょうか?
こんなときだからこそ、どこか遠くへツーリングすれば、パーッと心が晴れるのでしょうが、それさえもできないとは……。
しょうがないので、行ったつもりの『エアキャンプ』なんてのをやってみることにしたのです。
まずは部屋ン中にテントを張ります。そして、できるだけ屋外にいるつもりで、飯ごうでご飯を炊き、ミニコンロでお湯を沸かし、おかずも作る。
そしてテントの中で食べるのです。
夜ももちろんテントの中で過ごし、少しだけお酒を呷ってシュラフにもぐりこめば、これまで旅してきた数々の風景が頭の中を駆け巡ります。
そして翌朝、大きく窓を開けて空気を入れ替え、朝日を拝めば、まるでそこは森林の中のキャンプ場にいるみたい…………なんてことにはまったくならずに、ちっとも眠れなかったので、頭がぼ~っとして、ただ腰が痛いだけ……なんてオチになってしまいました。
今回のネタは、皆さんこんなことやらないほうが身のためですよ、って言うお話でしたとさ。