1月末に米国ロサンゼルスで開催されたインディアン・モーターサイクルの新型車「Chief Vintage」の発表会は、単なるニューモデルのお披露目に留まらず、インディアン・モーターサイクルの過去を知り、未来を語るイベントとなった。ここではその様子を紹介する。
- ■試乗・文:河野正士 ■写真:インディアン・モーターサイクル
- ■協力:ポラリスジャパン https://www.indianmotorcycle.co.jp
- ■ウエア協力:クシタニ https://www.kushitani.co.jp/
まずはインディアン・モーターサイクル(以下インディアンMC)の新型車「Chief Vintage(チーフ・ヴィンテージ)」を紹介しよう。そのモデル名通りChief Vintageは、2021年にフルモデルチェンジしたChiefシリーズのビンテージ・スタイルモデル。熟成を重ねた排気量1890cc挟角49度空冷4ストロークV型2気筒3カムOHVエンジン/サンダーストローク116エンジンを、スチールパイプを組み合わせたオーセンティックな“鉄フレーム”に搭載したクラシカルなスタイルの大型クルーザーモデルだ。したがって、そのときにラインナップしたChief Dark HouseやChief Bobber、Super Chiefは1930年代から80年代にかけて流行したクルーザーのカスタムスタイルをオマージュしたものだ。そしてその後にラインナップされたSport Chiefは、いままさに流行しているクラブスタイルと呼ばれるカスタムスタイルをオマージュしたものであり、したがってChiefシリーズのモデルラインナップは、そのままアメリカンバイクの流行のヒストリーブックのようなものだった。
しかし、そこにひとつだけ抜けていたスタイルがあった。それが1940年代から50年代にかけてインディアンMCがラインナップしたChiefシリーズのスタイルだ。多くのバイクファンがインディアンMCと聞いて思い浮かべるそのカタチは、前後タイヤを深く覆うスカートフェンダーと呼ばれる流線型の前後フェンダー、ステアリングヘッドからリアホイールアクスル付近まで真っ直ぐに伸びるフレームに、幅広なハンドルとステップボード、流麗な燃料タンクとぴんと跳ね上がるサドルシートを合わせ、その抜かりなきエクステリアから浮き上がるように車体の中心に配置される、ビシッと揃った冷却フィンとプッシュロッドカバーが印象的なエンジン。まさに20世紀を代表するバイクデザインと言える、アレである。
インディアンMCのデザイン責任者であるオラ・ステネガルドも、当時のChiefシリーズのデザインは、建築や自動車、鉄道、飲料水のボトルなどと同様に、工業国として発展の一途を辿った当時のアメリカの力強さと美しさを象徴するものだったと、Chief Vintageのデザインプレゼンテーション時に語った。
新型車「Chief Vintage」は、その1940年代のChiefを現代に甦らせたようなモデルだ。試乗前日のプレゼンテーション会場のChief Vintageはスカートフェンダーをはじめ、先に書いたビンテージChiefのディテールをすべてインストールされていて、じつに自然に佇んでいた。なにより驚いたのは、とてもコンパクトに見えたことだ。
Chiefシリーズの一端を担うChief Vintageは、他のChiefシリーズ同様、共通のプラットフォームを採用する。したがってサンダーストローク116エンジンも、出力特性が異なるスポーツ/スタンダード/ツアーの3つのライドモードの設定も、シリーズで共通。Chief Vintageは前後に16インチホイールが装着されていて、同じく16インチホイールを装着するChief BobberやSuper Chiefと前後サスペンションユニットとそのセッティングも共有する。したがってその車体の大きさも兄弟モデルと変わらないはず。しかし、Chief Vintageは小さく見える。その理由は前後ホイールサイズと、スカートフェンダーのデザインにある。
プレゼンテーションを終えたあと、先述したオラ・ステネガルドは、とっかえひっかえやって来るジャーナリストに熱っぽく、こう語っていた。
「このフェンダーを見て欲しい。前後フェンダー中央の、この深いフェンダーは1つの金型で一度のプレスで型抜きしたものだ。この丸みと、このピンと跳ね上がった後端のラインを出すためには、この方法しか無い。そしてその深いフェンダーを挟むように、同じく美しい曲線を持つ2枚のサイドパネルを溶接している。そこにはブレーキ系やサスペンション、駆動系もあるから、スカートフェンダーはそれも包み込む必要があるが、デザインを間違うと馬鹿でかいフェンダーになってしまう。だから前後フェンダーは3ピース構造として(フロントはブレーキキャリパーをカバーするために1ピース追加の4ピース構造)、美しいラインを維持しながら、できるだけコンパクトにデザインした。でもコスト管理部署とは徹底的に議論した。深いフェンダーをワンプレスで型抜きするだけでも難易度が高く、コストが上がるのに、サイドパネルを追加して製造工程を増やし、複雑化したからだ。でも、ここは絶対に譲れなかった部分だ」
しかもリアホイールは、Chief BobberやSuper Chiefが5インチ幅なのに対して、Chief Vintageは3.5インチとスリム化。そこに装着するリアタイヤ幅も180から150にサイズダウン。それによってリア周りは、ふっくらとしたシルエットのスカートフェンダーを採用していてもコンパクトにまとめ上げられている。それにともない、フェンダー内側にレイアウトされるリアフレームはChief Vintage専用となり、シリーズ共通のリアバッグなどは専用のアタッチメントを介して装着することができる。
ユニークなことに、この幅狭のリア16インチホイールの装着が、走りにおいてもChief Vintageに独自の個性を与えていたことだ。前後16インチホイールのワイドタイヤ装着車は安定指向が強いのに対し、リアタイヤを細くしたChief Vintageは非常に軽快。Sport Chiefのような豪快なスポーツ感とは違うが、街中もワインディングも車体の動きがとても軽い。クラシカルなスタイルに軽快なハンドリングは、Chief Vintage独自の個性と言えるだろう。
そしてプレゼンテーションでオラ・ステナガルドが熱弁していたのは、デザインの製作過程だ。その美しいボディラインは、すべて造形用粘土、通称クレイを削って整形されている。いま工業デザインの最先端ではCADや3Dプリンターが日常的に使用され、デザイン効率が高められている。もちろんインディアンMCもそれらを使用するが、車体のプロポーションを決める重要なポイントでは、いまもクレイが使用されている。野菜の皮をむくピーラーやチーズを削るチーズグレーダーに似たさまざまなツールを駆使して、人間が粘土を削って曲面を成型するクレイは、コンピューターを使って成型したそれに比べ情報量が多く、一見シンプルに見える面でもさまざまな曲面が複雑に重なり合い、人の目にも手にも馴染む。だからこそインディアンMCはクレイにこだわるのだという。
またシートにも、面白い開発ストーリーがあった。新型Chief Vintageには、1940年代から50年代のChiefシリーズに採用されていたサドルシートを現代風にアレンジしたフローティング・ソロシートが採用されている。開発の終盤、チームは人間工学の視点から開発を進めたソロシートを何度も試作したが、今ひとつしっくりこず、行き詰まってしまったのだという。そこでモチーフになった1940年代から50年代のChiefシリーズに採用されていたサドルシートそのものを装着してみたのだという。すると全員の予想を裏切り、いままでテストしたものよりもずっと乗り心地が良かったのだという。
そこで、その古いシートをベースに座面を改良し、長時間走行にも耐えるシートフォームを吟味したという。約200kmの試乗を終えて戻ってきたときに、オラが真っ先に尋ねてきた「シートの乗り心地はどうだった?」という言葉には、苦労して造り上げたシートに対する絶対的な自信があったからだと想像する。
総じて新型Chief Vintageは、非常にバランスが良いモデルだった。2021年にフルモルチェンジした新型Chiefのプラットフォームを持つ最後のモデルとしてファミリーに加わったのにもかかわらず、この布陣があらかじめ決まっていたかのように、共有するプラットフォームと専用パーツのバランスと、それによって構築されるChief Vintageの個性が際立っていた。もしかしてChief Vintageありきで新型Chiefシリーズの開発が始まったのか?とオラ・ステネガルドに尋ねると、もちろん開発の早い段階からそのイメージはあった、と答えた。しかしそのなかで、各モデルファミリーの個性を際立たせながら、プラットフォームをアップデートするのは至難の業であることは容易に想像できる。しかも大トリでラインナップするモデルが、インディアンMCのアイコン的要素を多数トッピングしたChief Vintageであればなおさらだ。これは開発陣を含め、プロモーションプランを練り上げた商品企画やマーケティングなどのチームワークによるものだろう。日本でその実車を見たならば、インディアンMCのチームにも想いを馳せてみて欲しい。
ここからは、インディアンMCの過去と未来について、紹介する。今年2026年は、インディアンMCにとって125周年の記念年だ。しかも今年は、アメリカ建国250年の記念年でもある。紆余曲折ありながらも、アメリカの歴史の半分を、インディアンMCはアメリカとともに歩んできた事となる。新型Chief Vintageの発表会翌日は、アメリカのディーラーを対象とした巨大なディーラーカンファレンスが開催され、そのディーラーとメディア、インディアンMCと関わりがあるレーシングライダーやインフルエンサーなど多様なゲストを招き、米国ロサンゼルスの自動車博物館/ピーターセン・オートモーティブ博物館において125周年の記念式典も行われた。
そしてインディアンMCの未来についても発表された。2011年からスノーモビルやサイドバイサイドなどを製造するポラリス・インダストリー社のブランドとして活動してきたが、2026年2月よりポラリスから独立し、二輪車専用メーカー/インディアン・モーターサイクル・カンパニーとして新たにスタートを切った。2025年9月頃よりその話はオフィシャルな情報として流通していたが、製造や販売についてさまざまな調整が必要であり、正式発表まで時間を要したようである。
そんなさまざまな年に発売される、インディアンMCの新しいアイコンである新型Chief Vintage。その気合いの入ったスタイルとディテールを、日本で見られる日をいまから楽しみにしている。
(試乗・文:河野正士、写真:インディアン・モーターサイクル)
■エンジン種類:空冷4ストロークOHV49度V型2気筒リアシリンダー休止システム付/Thunderstroke116 ■総排気量:1890cc ■ボア×ストローク:103.2×113.0mm ■圧縮比:11.0:1 ■最高出力:– ■最大トルク:156N・m/3300rpm■全長×全幅×全高:2441×887×1175mm ■軸間距離:1626mm ■シート高:686mm ■装備重量:327kg ■燃料タンク容量:15.1L ■燃料供給方式:FI/クローズドループ直径54 mm シングルスロットルボディ ■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ形式(前・後):298mmシングルディスク(フローティング型)×4ピストンキャリパー・298mmシングルディスク(フローティング型)×2ピストンキャリパー ■ホイール(前・後):16×3.0インチ、16×3.5インチ ■タイヤ(前・後):Metzeler Cruisetec 130/90B16 71H・Metzeler Cruisetec 150/80 B16 ■車体色:インディアン・モーターサイクル・レッド、ブラックメタリック■メーカー希望小売価格(消費税込み):3,380,000円~
[『CHIEFTAIN POWERPLUS Family試乗インプレッション記事』へ]
