DR-Z4SMと同時に発表されたデュアルパーパスバイク、DR-Z4S。その開発意図などはこちらで解説しているので参照頂くとして、その走りを確かめようではないか。栃木県那須にある「つくるまサーキット」にある四輪向けダートトライアルコースが新型のテストの場になった。そこは深い砂利で覆われ、降り続く雨がつくる濁った水たまりが点々とするあいにくのコンディション。それでもイエローのDR-Z4Sは何事もなかったように楽しんでみせたのだった。
- ■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信
- ■協力:SUZUKI
- ■ウエア協力:ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI https://store.56-design.com/collections/spidi 、Xpd https://store.56-design.com/collections/xpd
シート高の功罪
DR-Z4Sのシート高は890mmでDR-Z4SMと変わらない。前後に17インチホイールを履き、サスペンション設定もロード寄りとなるDR-Z4SMと異なるのはシートそのものだ。DR-Z4Sの場合、より長いストロークのサスペンション、フロント21インチ、リア18インチと大径になったホイール径、ラフロード走行を前提にグランドクリアランスもSMよりも高い。そこでシート高を同値にするにはシートの厚みそのものを薄くする必要があった。
そのため跨がった時の印象がDR-Z4SMとは異なっていた。身長183㎝、84㎏の私が跨がるとDR-Z4Sのサスペンションはリアがしっとりと沈む。その点で足の裏が感じる足着き感は同等ながら、子細に表現するとDR-Z4SMとは次の点で異なっていた。
DR-Z4SのシートはSMのシートと比較して座面フォームを薄く低くした影響か、座面が広くその分、太股の付け根がシートのエッジに引っかかる印象で、足をストンと真下に下ろしにくく感じる部分がある。SMのシートはトップが高いので付け根から足がストレートに地面に下ろせるのだ。
座面が低い分、ハンドルバーに添える腕の角度はSMのポジションよりも腕が路面と平行に近い方向となる。ライザーを入れてハンドルバーを持ち上げたような印象で、シッティングポジションの時にややハンドルグリップ位置が高く感じられた。
それ以外跨がった印象に気になるようなポイントはない。膝がボディーパーツと触れる部分に引っかかりはなくスムーズ。サイドカバー部分もしっかりと絞られている。この辺はキッチリと考慮してデザインされた面はDR-Z4SMと同様だ。
足周り設定が絶妙
エンジン特性と電子制御が◎
ストロークの長い本格的なデュアルパーパスモデル、しかも400ccクラスでは昨今、海外ブランドのモデルが話題となることが多い。ラリーバイクスタイルだったり、スクランブラー、あるいはアドベンチャースタイルだったりと、それぞれにキャラが異なるのも特徴だが、DR-Z4Sのようにシンプルかつピュアなオフ車(デュアルパーパス)パッケージは久々。とにかくダートの上を走るのが楽しみだ。
試乗車の発着点からコースまでの間、河川敷にあるような角の丸い石が土の路面に埋まった部分が点在するダートを進む。雨、しかも角の丸い石ではさすがにフロントタイヤがはじかれるように滑るが、その動きにトリッキーな部分がない。スタンディングポジションで流していく。その時やや重心が高いような印象もあった。これはシッティングで進めば安定感に変わるような印象だ。
サスペンションの動きはスムーズ。そしてしなやかで路面からのキックバックをマイルドにライダーに伝えてくれるのが安心材料だ。このコース、四輪のダートトライアル用だけにハードパックのダート上に林道にあるようなバラス(砂利)を撒いた滑りやすく、滑り出すと収束までに時間を要する路面だ。それだけにこの足周りはきっと味方してくれるはずだ。
エンジンの特性はすでにDR-Z4SMの試乗でも確認済ながら低回転からスムーズさがあり取り出しやすいトルク特性に勇気付けられながらコースインする。
コースは雨で埃こそ立たないものの、ダート面とタイヤの接地点の間に入る砂利はフロント、リアを縦横無尽に動かそうとする。カーブの外側などすでに砂利が蹴り飛ばされて厚みが薄い場所ならまだしも、それがタイヤに飛ばされ厚みを増したところでは方向性が乱されながらも旋回をするような印象で、悪路の中、バイクの特性を見極めるのは難しい、と最初は感じた。
しかし慣れてくるとある程度の暴れで許容しながらガンガン前に進むDR-Z4Sの特性に感心することになる。第一に持ち前のエンジン特性がアクセル一体で掴みやすい。これによりアクセルを開けてテールがスライドしても右手の開度次第で明確に動きをコントロールできる自信が芽生える。挙動が捉えやすいのが魅力だ。第二にトラクションコントロールである。1、2、G(グラベル)モード、そしてオフと選択が出来るのだが、ダート向けのグラベルモードが有能で、以前に体験したV-STROM800DEに搭載されたものをさらにリファインさせた印象で、介入しても加速度が弱まる印象がない。無駄なスピニングを綺麗につまんでいるような印象だ。
もちろんタイトターンからガバッと開ければ一瞬駆動トルクは弱まるものの、その加速への復帰が早く、雨の砂利で速度が乗るのが楽しい。それに大きな水たまり手前で荷重移動とアクセルワークでフロントを持ち上げたい時でも意のままにその姿勢に持ち込めた。
緩急取り揃えたカーブの曲率も幅が広いコースということもあり次のような走りをしてみた。
1.タイトターンをタイトに曲がる。
2.出口をワイドオープンで緩やかな曲率で立ち上がる。
3.コースを仕切る土手にモトクロスコースのバンクのように当てて曲がる。
素質を試すのに1、2を中心に試してみた。3は土手部分だけがバンクとして代用できるが、フラットな路面に後輪が戻ると荷重がすっぽ抜け例の砂利が寝かせたバイクを盛大にすべらせるからだ。
いずれにしても、このつくるまサーキットが独特のコンディションだったこともお断りしておきたい。
1はさすがにスタンダードタイヤとの相性がキビしい。滑りを助長しないようバイクを極力立てた旋回が必要だった。このときDR-Z4Sは車体の重量が重さとしてライダーの動きを邪魔することがなく、辛い状況ながらライダーの意思をしっかりとバイクの挙動に変えてくれることが解った。そこからの加速は1速からでも空転しつつも加速する良いトラクション特性のエンジンとGモードに助けられた。
特にサスペンションの圧側、伸び側ともに減衰圧を弱める方向に調整してからはさらに滑り出しもマイルドに感じられ、安心感が増したのも印象的。ブレーキングを強めてもグリップ感と安定感が増したコトからも接地性が上がったのが解る。
次に2のような走り方では1同様、加速の楽しみがさらに増加。立ち上がりの加速中に2速にシフトアップして、盛大に右手を開いてもその速度の上昇感は途切れなかった。フワっとフロントが加速Gで軽くなる瞬間でも直進性が乱されることなく、安心感のまま3速、4速へと加速を繋ぐことができる。直線では80km/hを軽く越える状態からフルブレーキングをしてみた。このときもサスペンションの設定が適正で、荷重移動をしっかり受け止める印象があった。堅いベース路面との間に入った砂利があっても恐怖感はなく減速度を感覚的に合わせ込み、カーブへのアプローチを考える余裕があるのだ。
ライダーとしてはこうしたゆとりこそスポーツ走行を楽しむ時に必要な部分。良いバイクに共通した懐の深さのようなものを攻めるほどに感じられたのは嬉しい。つい夢中になって飛ばしまくったが、ペースを落としサスペンションへの荷重が少ない場面でもこの安心感、ソフト感、マイルドな挙動という印象は同様だった。オフロードの初心者には辛口のDR-Z4Sかも知れないが、しっかりと基礎を学びさらなる広がりを楽しみたい、という上昇志向のライダー、ゆとりを楽しみたいライダーにはまさにうってつけ。
今回、クローズドコースという限定的な場での試乗となったが、多様なダートに対応するだろうなぁ、と想像した。コースに作られた特設ジャンプでも、着地時のサスの受け止め方は余裕があるし、いわゆるデュアルパーパスモデルであってもスポーツ性を高めたエンデューロバイク的な領域までもサスペンションセットアップで詰めていけるベースだと思う。その点でも高く評価できる。
さて、DR-Z4Sの価格に悩むライダーも少なくないと想像する。個人的には、なにかを経由してたどり着くなら、一直線に手にしたほうが結果安上がり、という体験を過去に何度もしてきた。逆にスズキにしてこの価格、GSX-Rに比肩する渾身の開発努力を封入したDR-Z4。妥当な値段だと試乗後に納得。その点でDR-Z4SMとともにこのバイクはすでに傑作領域まで煮つめたバイクなのだろう。試乗を終えてそんな印象を持った。
(試乗・文:松井 勉、撮影:渕本智信)
■型式:8BL-ER1AH ■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ ■総排気量:398cm3 ■ボア×ストローク:90.0×62.6mm ■圧縮比:11.1■最高出力:28kW(38PS)/8,000rpm ■最大トルク:37N・m(3.8kgf・m)/6,500 rpm ■全長× 全幅× 全高:2,270[2,195] × 885 × 1,230[1,190]mm ■ホイールベース:1,490[1,465]mm ■シート髙:890mm ■車両重量:151[154]kg ■燃料タンク容量:8.7L ■変速機形式:常時噛合式5段リターン ■タイヤサイズ:80/100-21M/C 51P[120/70R17M/C 58H]・120/80-18M/C 62P[140/70R17M/C 66H] ■ブレーキ(前/後):油圧式シングルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS)■懸架方式(前・後):テレスコピック・スイングアーム ■車体色:チャンピオンイエローNo.2 ×ソリッドスペシャルホワイトNo.2、ソリッドアイアングレー[スカイグレー、ソリッドスペシャルホワイトNo.2] ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,199,000円[1,199,000円] ※[ ]はDR-Z4SM
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