ハーレーダビッドソンの2024年モデルで新しくなった注目すべきがストリートグライド、ロードグライドの2台である。ハーレーユーザーにとって気になるビッグイベント「ブルースカイヘブン」が6月1、2日に山下埠頭で開催される地、横浜。その同じ横浜でプレス向け試乗会が行われた。ストリートグライド、ロードグライドに加え、2機種を短時間ながら横浜の市街地で味わった。存在感、オーラともに「これだよな」と思わせるビッグツインに加え、普通二輪免許で乗れるX350も体験。ちょっと乗ってみた第一印象をお伝えします。
ストリートグライド&ロードグライド、
どこがどう変わったのか。
グランドアメリカンツーリングというファミリーに属するストリートグライドとロードグライド。ともにツーリングを意識しながらも、スタイルとしては旅にもカフェバイクとしても成立するカッコ良さを身につけた2台は、本国アメリカでも人気の高さを維持し続けている。
まずはストリートグライドから。
ハーレーダビッドソンのアイコン的モデル、ウルトラ系をベースに、軽快さとロードキングとも異なるアピアランスで登場したのがこのストリートグライド。2007年モデルから登場して以来、安定の人気を持つ。伝統のバッドウイングフェアリングと低いウインドスクリーン、フェアリング内にミラーを納めることで、ミラーがハンドルバーよりも高い位置にあり、見た目にデコボコすることがないクリーンな外観がなによりも特徴。サドルバッグ(左右のラゲッジケース)を持つ天地を薄く、前後を長く見せるスタイルが特徴。軽快さも合わせ持つのがこのストリートグライドだ。
■2024年のアップデイトは次のとおり。
・エンジン排気量を1868㏄から1923㏄へと拡大。
・フェアリング形状の変更
・ヘッドライト形状変更と導光チューブタイプのDRL+フロントウインカーの装備
・テールランプ、リアウインカー形状が縦型に変更
・メーターがアナログ4連からタッチパネル式12.2インチカラーTFTモニターに。
・インフォテイメントも専用OSでさらに快適に。
・ロード、スポーツ、レインのライディングモードの搭載、ハンドルスイッチ周りの刷新
・電子制御の進化。
・コーナリングABS、コーナリングトラクションコントロール
・電子制御連動ブレーキ、ドラッグトルクスリップコントロールシステム
・ビークルホールドコントロール(ヒルスタートアシスト)
・タイヤプレッシャーモニターシステムも装備。
というメニューが主な部分。
外観では、フェアリングとヘッドライトの意匠が変わり、見た目には「お! 新型!」と一目で分かる仕様となっている。このスタイルは2023年に登場したCVOストリートグライドと同様のものだ。
ロードグライドに加えられた変更もストリートグライドと同様のもの。こちらはシャークノーズフェアリングと呼ばれるフレームマウントのフェアリングを持ち、フロントウインカーについては導光タイプではないが、先代からは大きくデザインを変えてきた。
ナチュラルなビッグマシン。
ストリートグライドは面白い。
2.4メートルの全長、1625mmの長いホイールベース、いわば2リッターの2気筒エンジンがタンクの下に鎮座し存在感を放つ。伝統の45度V型エンジン、OHVのバルブトレーンなどはそのままだが、2017年に登場した現行ミルウォーキー8には4バルブヘッドが採用されている。
スタイルはもう伝統や存在感、オーラのマリアージュ。フロントフェンダーから始まるラインは、フェアリング、タンクの上面からシート、そしてリアフェンダーとサドルバッグ上を流れるように後方へと消えてゆく。368㎏という重量すら、重厚感に変異させるのはこのスタイルがあってこそ。重厚なんだけど、どこか軽快なマッスルカー的に見えるのが不思議。これは歴代ストリートグライドがもっている魅力だ。
イグニッションスイッチもスイッチボックスにあり、今時の他ブランドから乗りかえてもカルチャーショックは少ないだろう。ハンドル周りのスイッチ類も刷新された。そしてフェアリング内に収まる12.2インチのTFTモニターは、Bluetooth接続でiOSからCarPlayを画面上に展開することもできるから、大画面でナビゲーションしつつ目的地に向かうことも簡単。
切れ長ラインで入るDRLはウインカーも兼用で、ウインカー作動時には白色の導光帯がオレンジに変化。自分からは見えないがこれがちょっとかっこいい。
ライディングポジションはフットボードタイプのステップと715mmと低めながらお尻を包み込むように受け止めてくれるシート、広めながらナチュラルなポジションのハンドルグリップ位置によって183㎝の私にとってはゆとりのあるものとなった。
エンジンはアイドリング時こそこれぞハーレーのVツインだぜ、という鼓動を伝えてくるが、嫌な振動ではなく、これから始まるワールドの演出に思える。クラッチは想像以上に重たい。市街地に出るには気が重くなる感じだった。しかし鬼に金棒的な低速トルクの恩恵もありアイドリング発進でエンストする気がしない!
そのため、重たいけどクラッチ操作に集中出来るのでこれはこれ。願わくば、工具不要でレバーの引きしろを調整できるアジャスターが欲しい。伝統的にこの装備を付けないのはきっとハーレーの拘りなのだろうけど……。
走り出せばもうこのバイクは動く存在感としか思えない威厳を放つ。高級なウルトラとは異なりストリートグライドはハンサムなワル、というイメージだが、そのまんまのオーラで路上を流す印象だ。
175N・m/3500rpmというスペックからも想像したとおり、1500rpmあたりからもうトルク感が素晴らしく、2500rpmから3500rpm、4000rpmへと伸ばせばもうド迫力の加速が楽しめる。さすが2リッターに迫る排気量だ。
横浜のやや渋滞と信号スパンの短い市街地では入って4速、2速3速を中心にした走りになった。5速、6速は80km/hあたりからだろうか。先日取材で走ったカリフォルニアのフリーウエイの移動速度を考えるとこれはこれで正しいギアレシオ。国内でも120km/h制限の高速道路を流せば、トルクバンドの入り口あたりからアクセル一つでズバっと加速するそこ力を楽しめるハズだ。
コーナリングを表現すると基本素直だ。市街地に多い交差点を左折するような場面では舵角が大きいとハンドルバーの切れ角が大きく、ライダー自身が腰から上を左に捻ってそれに追従しないと小回りに対応しきれない印象はあるが、それさえ意識すれば市街地で持て余すことは無い。もちろん重たさや発進直後の左折などちょっと緊張するけど、ここはストリートグライドの評価ポイントとして大きなテーマではないと思う。
むしろ、横浜を抜け三浦半島へもアクセス出来る首都高の湾岸線の下を通る国道にあるような大らかなカーブでは安定感、接地性も充分。サスペンションの吸収性が市街地でも良いのでブレーキング時にも安心。フロント4ピストン、リア2ピストンのブレーキが持つ制動性能はフロント中心でもしっかりとブレーキングできるので不安なし。フロント19インチ、リア18インチン、タイヤの幅も含めて素直でしっかりとした走りを支える足周りだ。
ストリートグライド2024のインターフェイスはTFTモニターに通常表示されるアナログメーターの視認性も、ナビを使ってメーター類が左側にまとまって表示される場合も使いにくさは無かった。ベースプライスが369万円3800円から、となるストリートグライド。そのユーザーが普段使いするクルマにも同様の装備がされているだろうから、モータリング時の使い勝手の親和性が摂れたのではないだろうか。
ライディングモードはロード、スポーツ、レインとそれぞれでしっかりと開け始めの部分で変化を感じられるのと同時に、マイルド過ぎな部分も、ドンツキ過ぎな部分も無かったので、味付けは悪く無いと思う。
その他、セフティーデバイスに関して、今回はドライ、市街地ということでまた別の機会に長い距離でも走るチャンスがあればその時に報告したい。
ロングツアラーは街で楽しめる!?
安定の人気、ロードグライドの秘密。
足周り、エンジン、フレームなどはストリートグライドと同様のロードグライド。一番の特徴はフレームマウントされたシャークノーズフェアリングと呼ばれる横幅の大きなフェアリングだ。ハンドル周りに重たいものが付かないロードグライドはハンドリングが軽く、過去にはワインディングでも走りを楽しんだ記憶が一度や二度ではない。
シート高、足着き感もさらにバケット感があるシートの恩恵で乗り心地はふんわり素晴らしい。その代わり、足着き感は少しストリートグライドよりも股の部分がワイドに感じるのも事実。しかしこれは市街地オンリーの試乗ならでは。高速道路、郊外路で停まらない道を走ればこのシートの本意が解るにちがいない。
2024年モデルのロードグライドは、ハンドルバーは高く上がりそして手前に引かれた位置にあり、肩からまっすぐ腕を伸ばした先にグリップがある印象だ。停まった時にショーウインドウに移る姿はなかなかワイルド。エレガントなロードグライドの中に潜むワル、という感じだ。
その分、低速ターン、特にUターンや路地の左折などハンドルが大きく切れる場面ではストリートグライド以上に気を遣う部分があった。大きなサイズのフェアリングも走り出すと市街地での取り回しにも馴染むことが解る。これはバイクそのものの走りが良くできているから。たしかに重たい。信号待ちでグラっときたらとアタマによぎるが、重心も低くそうなる気配も感じなかった。
そうなればロードグライドが放つ世界観の中から外界を見るような時間が始まる。バイクだけどオープンカーに乗っているというか、車の中に収まっているような囲まれ感を味わった。なるほど、これならオーディオを鳴らしつつ走りたくなる。ストリートグライドが持つバイク感とは異質の空間がライダーを包むのだ。
スタイルを進化させたフェイスは、ダッジチャレンジャー、フォードマスタング、シボレーカマロにも似たマッスルカーライクな趣を以前のロードグライドよりも強く感じた。排気量による文句なしのパワー感とバランスしているようでこのバイクの存在意義が伝わってきた。
ローライダーST
前出の2台と同じ排気量のエンジンを搭載したローライダーST。サドルバッグと一つ目(ライト)のフェアリングとデタッチャブルなサドルバッグによりツーリング向けにも仕立てた一台。そのスタイルはかつてのFXRTからインスパイアされたもの。価格は316万5800円から。
ポジションはローライダーらしいもの。ミッドコントロールのステップ周りと適度な幅、適度な高さを持つハンドルバーで馴染みやすいもの。搭載するエンジンは1923㏄の空油冷Vツイン。吸排気レイアウトの違いからか、最高出力はロードグライド系よりも若干低い78kW/5020rpm、168N・m/3500rpmとなる。
327㎏とロードグライド、ストリートグライドと比較すれば軽く収まった車体や、そもそもスポーティーな現行ソフテイルシャーシが持つバランスの良さもあり、大排気量がもたらす加速をさらに楽しめる。市街地でのコーナリングも重さはあるが意のままに向きが変わる面白さがある。ブレーキのタッチや制動性能に鋭さは感じ無いものの、必要にして充分。雨の降り始めが滑りやすいアメリカのフリーウエイでも安心して使えるチューニングなのだろう。
アメリカの道は直線ばかりではなく、山間部を抜ける延々と続くワインディングも多い。そんな道を走ることを考えてサスペンションや最低地上高もしっかり考慮された車体なら日本の道でも楽しめるはず。マッスルスポーツツアラーなのだ。
ちなみにローライダーSにも乗ってみた。STからサドルバッグ、フレームマウントの大型フェアリングを取り外し、メーターバイザーとしたさらに軽快なルックスのバイクだ。70年代、FL系(ツーリング用モデル)が主体だったハーレーダビッドソンが、XL系(つまりスポーツスター系)のフロント周りを移植し、フェアリングなどを取り払って造ったスポーティーなバイク、FLとXLでFXとなったルーツをよく表せている。ダイキャストのスポークホイールも当時の史実を物語るかのよう。かつてのようにタンク上に縦2連のメーターではないが、雰囲気はよく、20㎏近くSTよりも軽いので身軽感はさらにあった。
X350はどう?
フラットトラッカーを思わせるスタイル、普通二輪免許でも乗り出せるハーレーダビッドソンとして送り出されたX350。アジアメイドのこの一台は69万9800円と価格的にも日本ブランドとしっかりと勝負できるパッケージになっている。
エンジンは水冷直列2気筒。360度クランクのもので、27kW/8500rp、31N・m/7000rpmを発揮する。フロントには41mm径のインナーチューブを持つ倒立フォークを採用。リアはフレーム右側に収まるレイダウンされたモノショックを採用。フレームはスチールチューブフレームとなる。
跨がってみると777mmのシート高は角張ったシート形状もあり内股にはやや尖った触感を感じるものの、足はまっすぐ下ろせるので足着き感は悪く無い。エンジンはスムーズに回転し270度位相クランクが大勢を占める直立二気筒勢にしてトルク感とスムーズ感のある360度エンジンはホッとする懐かしさがある。低速トルクがあるのはもちろん、ギアリングも少しパンチある加速にむけてか低め。そして2速からクロスレシオで繋ぐそれ以降のギアにより、40km/h当たりから6速の守備範囲となる。もう少しギア間のステップアップを着けても良かったのかも知れないが、スムーズでトルクフルだから余計にそう感じるのかもしれない。
サスペンションはよく動くタイプで、路面の荒れた市街地も気にならない。ハンドリングにシャープさはないが、素直で乗りやすいバイクに仕立ててある。
いわゆるマスの集中化した最近のプロダクトと比べると、全体に重たい(といっても車重は195㎏だが)印象があった。ちょっと古いバイクを思わせる乗り味だが、これはこれで面白い。リターンライダー、ハーレーブランドに憧れてバイク界に入る人には良き大排気量モデルへのステップになると思う。
全体の走りの洗練度でいえばあと一声欲しい部分はある。それでありながら輸入車でこの価格は円高時代には相当な競争力を持っているだけに、なるほど、国産ブランドもうかうかしていられない存在なのかもしれない。