2024年2月下旬、スペイン南部の街マラガで、ハスクバーナ・モーターサイクルズの新型車「Vitpilen 401(ヴィットピレン・ヨンマルイチ)」と「Svartpilen401(スヴァルトピレン・ヨンマルイチ)」の国際試乗会が開催された。ここでは、その試乗会で感じた2モデルの詳細を紹介する。
ハスクバーナ・モーターサイクル(以下ハスクバーナMC)を、オフロードブランドから総合バイクブランドへと進化させた立役者である「ヴィットピレン401」と「スヴァルトピレン401」が、新しくなった。両モデルが市場投入されたのは2018年。それまでオフロードモデルを中心にその存在感を発揮していたスウェーデン・ブランドは、この401シリーズによって次なるステージに歩を進めたのである。
「ヴィットピレン401」が、コンセプトモデルとして我々の前に登場したのは2014年のEICMA。KTMを有するピエラ・インダストリー傘下となってわずか1年後のことだ。そのとき、そのコンセプトモデルのデザインを手掛けたデザイン・カンパニーKISKA(キスカ)のMaxim Thouvenin(マキシム・トビーノ)は、高いパフォーマンスのエンジンとシャシー、最新のコンポーネンツを採用しながらも、目に見える機能パーツを減らし、ミニマルでクリーンなバイクを造り上げることが、コンセプトであると語っている。
そして新しくなった「ヴィットピレン401」と「スヴァルトピレン401」は、そのコンセプトを忠実に守り抜いている。わずかな時間で練り上げたデザインコンセプトと、そこから紡ぎだされたデザインが、コンセプトモデル登場から10年もの時が経っても受け継がれているという事実は、そのコンセプトとデザインがいかにハスクバーナMCにとって重要であり、またそれが市場に受け入れられ続けている証拠である。
曲面に、緊張感を感じながらも美しい張りを持たせた外装類は、旧401シリーズに比べ少し大きくなり、コンセプトを共有しながらより大きな排気量のエンジンを搭載した701シリーズに近いデザインとなった。新設計の鋼管トレリスフレームとアルミスイングアームにくわえ、メインフレーム同様に新設計されたトレリス構造の鋼管リアフレームによってライダーおよびパッセンジャーのシートスペースを広げていることが、大きく見えることの主たる要因だ。そしてライダー用シートは「ヴィットピレン401」「スヴァルトピレン401」ともに、旧401シリーズに比べ15mm低い、820mmのシート高を実現している。この新リアフレームがもたらす効能は、足着き性の向上に留まらない。ライダーをより車体の重心に近い位置に座らせることでバイクと車体の一体感が増し、ライダーがより積極的に車体をコントロールしやすくなっている。新しい鋼管トレリスフレームは、リアサスペンションを車体右側にセットし、シート下スペースを広げたことでレイアウトの自由度を高め、ライダーとバイクのコンタクトエリアを再構築したことで、足着き性を含めたバイクのUI(ユーザー・インターフェイス)向上を図っているのである。
このUI向上は、いたるところで見て、そして感じることができる。もっとも分かりやすいのは「ヴィットピレン401」のハンドル周りだ。旧ヴィットピレン401ではセパレートハンドルを採用した“カフェスタイル”を謳っていたが、新型ではアップハンドルを採用し“ロードスター”へと変化した。それにより、そもそも“スクランブラースタイル”と称しアップハンドルを採用している新型「スヴァルトピレン401」との、ライディングポジションと、それによるハンドリングの変化はごくわずかとなった。
しかし「ヴィットピレン401」のロードスター化は、より多くのライダーを401シリーズの世界に引き込むことができるほど、スタイルと扱いやすさが高い次元でバランスされている。ハンドルに覆い被さるような旧ヴィットピレンのライディングスタイルと違うのはもちろん、スクランブラーと言いながらステアリングヘッド位置が低く、なおかつシート高が高かった旧スヴァルトピレンとも違う、極々自然な、ネイキッドらしいライディングスタイルは、スポーツライディングでもツーリングでも、幅広いライディングのシチュエーションにフィットする寛容さを持っている。新型「スヴァルトピレン401」もそれに近く、両車のハンドリングの差は、ライディングスタイルではなく、「スヴァルトピレン401」が採用するスポークホイールとブロックタイヤによるもの。個人的には、シットリとしたハンドリングの「ヴィットピレン401」の方が好みだった。
また前後サスペンションや電子制御も、走りをしっかりと支えている。調整機構付きの前後WP製サスペンションはよく動き、ハイスピードのワインディングにもしっかりと対応してくれる。試乗後にストローク量をチェックしたが、前後ともにフルストロークに近いところまでしっかり使えていて、乗車時の沈み込みも少し多めに取っている。それによって乗り心地の良さと、奥での踏ん張りをしっかりと造り込んでいる印象。フロントは圧側/伸側ともに5段階で減衰力を調整できるが、その変化量が分かりやすく、自分好みのセッティングも探しやすい。もちろん、その5段階という調整範囲も、ハスクバーナMCが狙って造り込んだUIである。
それにアップもダウンも使えるイージーシフト(いわゆるクイックシフター)や、トラクションコントロールやコーナーリングABSもよく機能している。エンジンを高回転まで回したときはもちろんのこと、低回転で雑にシフト操作したときもイージーシフトは応えてくれるし、気温も路面温度も低かった試乗会前半は、視界の端で何度かTFTカラーディスプレイの中にあるトラクションコントロールの作動ライトが点滅するのが見えた。その介入はじつに自然で、もしかしたら自分が気づかなかっただけで、より多くトラクションコントロールが介入していたかもしれないと思わせるほどだった。
エンジンも、素晴らしい。そもそも401シリーズが搭載する水冷単気筒エンジンは、単気筒エンジンのイメージを覆す、パワフルで高回転型のエンジンであった。そのエンジンは排気量を拡大するとともに、シリンダーヘッドやカムシャフト、FIのハードとソフトを新たに設計。シフト周りをアップデートするとともに、PASC(パワー・アシスト・スリッパー・クラッチ)を搭載することでクラッチ操作の負担を軽減し、シフトダウン時の挙動を抑え、快適性と安全性の両方を高めている。意地悪なクラッチレス・シフト操作にも対応する理由は、電子制御技術の向上だけでなく、こういった機械的なアップデートがしっかりと効いているのだ。
エンジンに話を戻そう。401シリーズがそもそも持っていた高回転型のエンジン特性はそのまま受け継がれ、5000回転を越えたあたりからの加速感は、まさに“胸がすく”ものである。身体の大きな他国のジャーナリストたちは、レッドゾーンの1万1000回転までエンジンを回していたようだが、自分は回転計のシフトライトが黄色く点滅し始める8500回転から、シフトライトが点滅から点灯に変わる1万回転手前まで、イージーシフトを駆使してエンジン回転をキープさせることで、かなりのハイペースでワインディングを楽しむことが出来た。高速道路では、160km/h付近からでもアクセルONでさらに加速する。ハスクバーナMCのシングルエンジンは速くて楽しい。改めてそう感じたのだった。
「ヴィットピレン401」と「スヴァルトピレン401」は、そのスタイリングやパフォーマンスから、好き嫌いが分かれるモデルであった。しかし今回のモデルチェンジで、高いデザイン性を維持し、パフォーマンスを高めるとともにユーザーフレンドリーな車体造りやUIを造り上げてきた。そして、そのすべてが高い次元でバランスされている。その完成度の高さは、これまで一歩引いていたライダーたちを一気にファンに変えてしまうほどの強いインパクトを持っている。僕自身が、まさにそうだった。そんな自分は、いまはこの2台にすっかり魅せられている。
(試乗・文:河野正士、写真:ハスクバーナ・モーターサイクルズ)
■エンジン形式:水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒 ■総排気量:398.6㏄ ■ボア×ストローク:89.0×64.0mm ■圧縮比:12.6 ■最高出力:33kW(45HP)/8500rpm ■最大トルク:39N・m/7000rpm ■燃料供給方式:FI ■軸間距離:1368mm(+/-15.5mm)■シート高:820mm ■車両重量:154.5㎏[159㎏] ■燃料タンク容量:13L ■レイク角:66度 ■フォークオフセット量:32mm ■トレール:95mm ■フレーム:スティールトレリスフレーム ■サスペンション(前・後):WP製APEX43mm倒立タイプ/伸側圧側減衰力調整/150mmトラベル・WP製APEX/伸側減衰力およびプリロード調整/150mmトラベル ■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ形式(前・後):320mmシングルディスク×4ピストンキャリパー・240mmシングルディスク×ツインピストンキャリパー ■タイヤサイズ(前・後)110/70-R17・150/60-R17 ■タイヤブランド:ミシュラン製パワー6[ピレリ製スコーピオンラリーSTR] ■価格 799,000円(税込) ※[ ]はSvartpilen401