2022年に発売されたBMWの最新エレクトリックモーターサイクル、CE 04に試乗。特筆したいところはサイエンスフィクション的なスタイルだけで終わらず、かなりおもしろい乗り物に仕上がっている。乗った感想とともに、電動化について思うところを述べたい。
未来的デザインと長いホイールベース
BMWの電気モーターで動く2輪車には、これの前に『C Evolution』があった。普通のビッグスクータースタイルをしたC Evolutionと比べると、『CE 04』のデザインは未来のバイク的な斬新さ。少しだけ80年代〜90年代のコンセプトモデルっぽいディテールやアニメに出てくる乗り物っぽさがあって、新しいんだけど、新しくなりすぎていないようでちょっとおもしろい。見た目からすぐにわかるのは長いホイールベースだということ。数値としては1675mmある。同じBMWの機種でいうと直列6気筒エンジンの大型ツアラー、K1600GTLとほぼ同じくらい。ピンとこない人もいるだろうから、もっと身近な国内ブランドと比較すると、ホンダでは最もホイールベースが長いGold Wing Tourだけが20mm上回るくらい、日本で売られているヤマハ/スズキ/カワサキ車にはこれに近いスペックのものはない。
それでも、リアタイヤの上にはタイヤと一緒に上下するフィットしたフェンダー以外何もなく、フロントはスラントしており、全体が低いので、大きいという感想は持たない。ベンチのようにシンプルに伸びた細身のシートのデザインや、平面で構成されたメーターバイザー、縦型のウイング状になったサイド部分など遊び心満点で見ていて楽しい。僕らが小さい頃に夢見た未来のバイクが目の前にあらわれたようなワクワクする気持ち。今までと違う仕組みで動くのだから、既存のレイアウトである必要がなく、そうするとバイクのデザインそのものが変わってくる。慣れ親しんだバイクのカタチを捨て誰もが使いやすい新しい乗り物になれる可能性。そうは言っても、いくらエンジンより小さい電気モーターでも、大きくて重いバッテリーを積んで二輪車としての走りを実現していくのは苦労しただろう。まだまだカタチのパラダイムチェンジまではいかない。
重いものを可能な限り下に配置するレイアウト
スチールパイプで組んだ、一般的なものとは違う変形したダブルクレードルフレームの一番下にエネルギー源(今までだと燃料タンク)の空冷リチウムイオンハイボルテージバッテリーを搭載して(ボディの前からライダーのお尻の下方あたりまで)、それと並行した低い地の直後に自社開発の電気モーターがある。そこからディッシュタイプのリアホイールをベルトで駆動する。キャパシタやインバーター、基盤が入った制御系はそのモーターの上(運転席と後席の間にあるコブの下辺り)に縦に配置されている。試乗する前にハンドルを握って押してみると、やはり見た目から感じるイメージより重い。車両重量は231kg。既存の蓄電池である程度の実用性を感じられる航続距離にしようとすると、どうしてもバッテリーが大きく重くなってしまうのが、電動モビリティの難点だ。
BMWはそれら重量物を低いところに配置した。それに長いホイールベースも味方して、ゆっくりしたスピードでの安定感は抜群にいい。電気モーターは電気が流れてすぐに最大トルクを発生させられる特性なので、そのままバッテリーとつないでも乗れたもんじゃない。だから流す電気の量を制御するのだが、そこがキモになる。CE-04は、アクセルを開け始めてから前に進み出す動きが慣れ親しんできたこれまでのバイクに近いようにしている。急激にドンっと飛び出ることがなく、スーっと前に出ていく。ゆっくり走っているときの速度コントロールもしやすい。だから歩くような速さを苦労せずにキープできる。というか、この低回転域の特性は内燃機関よりスムーズで楽だ。
走りはこれまで通りで違和感のないことのすごさ
そろりと動き出してそこからアクセルを急開すると、押しつけられるような加速が続く。加速を得るのにエンジン回転数を上げていくタイムラグがないメリットを意識させる淀みがなく息の長い加速感。最大トルクは62Nmと600ccくらいのトルクスペック。ただ、それをゼロから4900rpmまで保持するモーターなのだから、気持ちのいい速度の伸びがある。定格出力は15kW(20PS)。定格出力:19kW(26PS )だったC Evolutionとスペックの違いを体感した。加速のヤバさはC Evolutionのほうが上だった。逆にアクセルを開けていくのを躊躇しないほどよさ。今までのバイクも愛しているというのを前提としてながらも、個人的にそれほどガソリンエンジンにこだわる気持ちはなく、新しいものになると、それはそれで楽しいに違いないと常日頃思っている私の好奇心を裏切らないエンジンとは違うフィーリング。
前後15インチのホイールを履いたハンドリングは自然だ。曲がりにくいとか、重ったるいといったところはなく、反対にクイックすぎるもなく。飛ばしても安定していてヒラヒラっとリーンして向きが変わる。ポジションも合わせて操っている所感はスクーターライク。ブレーキの利きもいいので、試乗コースで可能な限り飛ばしてみると、重さを感じる場面も出てきて、リアサスペンションのストローク不足も顔を出すが、不安定と表現するほどまでではない。モーター制御も含めて特別な操作もいらず、これまで通りの付き合い方ができるのは、高性能なバイクを作ってきたBMWの真骨頂だ。電動バイクの世界ではユニットの組み合わせで作りやすいから新規メーカーがすでに多く参入してきているけれど、バイクとして完成度の高い走りができるものにするならば歴史を持つメーカーにはなかなか勝てないだろう。A地点からB地点まで移動できればいいのではなく、安全かつ走る悦びがないとつまらないもんね。
作って売っていることに意義がある
航続距離は130kmほどとなっている。これまでと同じような行動範囲、使い方をするにはまだまだ1回の充電で走れる距離が足りない。そのためには蓄電池の進化が求められる。もっと軽くて、航続距離が3倍ほどまで伸ばせると世界は変わり始めるだろう。そもそも、なぜ電気なのかというところから考えないといけない。温室効果ガスを差し引きゼロにするカーボンニュートラルを目指すから電動化というのはわかるけれど、たとえ乗り物単体でそこに近づいても、電気はどうやって作られているのかなどトータルで考える必要がある。日本の場合、4分の3が火力発電だ。石炭が26%ほど、石油が2.3%、LNG(天然ガス)が36%ほど。LNGは温室効果ガスが少ないとはいえゼロではない。電気を作るために大量の温室効果ガスを出している。さらにLNGも石油もほぼ輸入に頼っている現状。それを運んでくる船は燃料を燃やして温室効果ガスを出して動いているからね。電動化により大量に出てくるバッテリーの処分だってどうなることやら。だから電動だから環境に良いと簡単に考えてはいけない。インフラ整備など課題はたくさん。
ただし、ハイブリッド(二輪じゃスペース的に難しい)、水素を使った燃料電池、水素そのものを燃料にする、他の代替燃料もある。どれが近道なのかはまだはっきりしていない。だとしても今考えうる中でカーボンニュートラルに可能な限り近づけるところにあるのは電気モーターで動く乗り物だろう。だからこそBMWはこのシリーズを進化させ販売をしている。メーカー希望小売価格195万円でも、開発費もふくめて利益が出ているようには思えない。けれど作って売っている。それは未来への投資。どことは言わないが、短期的な利益を考えているのか、儲からないからコンセプトモデルを作ってアピールはするが量産はしないと決め込んでいていいのだろうか。まあ、それはさておき、サイバーパンク的でカッコいいのだから、それだけでも乗っていて心がはずむ。定格出力が1kWを超えて20kW以下の範囲に収まるので、これが普通二輪免許で乗れるってこともいいね。(試乗・文 濱矢文夫 撮影:渕本智信)
■モーター:永久磁石式同期電動機 ■最高出力:31kW(42PS)/4,900rpm ■最大トルク:62N・m(6.3kgf・m)/0-4,900rpm ■全長×全幅×全高:2,285×855×1,150mm ■ホイールベース:1,675mm ■シート高:800mm ■車両重量:231kg ■一充電走行距離:130km(WMTCモード) ■交流電力消費率:7.7kWh/100km(WMTCモード)■タイヤ(前・後):120/70 R15・160/60 R15 ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,639,000円
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