インディアン・モーターサイクルの新型車「スポーツチーフ」が発表された。大坂/東京/名古屋の各モーターサイクルショーに展示されたことから、その実車をナマで見た方もいるだろう。ここでは、その「スポーツチーフ」が生まれた背景を考察し、そしてその乗り味を紹介する。
2021年、インディアン・モーターサイクル(以下インディアン)は、「チーフ」シリーズを一新した。インディアンはかつて、排気量が小さなエンジンとコンパクトでスポーティな車体を持つ「スカウト」と、大排気量エンジンと威風堂々としたスタイルの「チーフ」という二枚看板でファンを魅了していた。そして2011年にポラリスがインディアンを復活させたあと、真っ先にラインナップしたのは「チーフ」であり、そのすぐあとに「スカウト」を揃えた。
2021年にフルモデルチェンジした新生「チーフ」シリーズは、2014年に復活した「チーフ」のために開発した、挟角49度の空油冷OHV3カムV型2気筒2バルブ排気量1811ccのミッション一体型エンジン/サンダーストローク111エンジンの排気量を1890ccへと拡大し、ユーロ5にも対応したサンダーストローク116エンジンを搭載。シンプルでクラシカル、そして美しさを追求して新たに開発したスチール製のフレームとスイングアームを採用していた。
この新生「チーフ」シリーズは、インディアンのブランド創立100年を記念して自らのアイデンティティを復活させると同時に、クルーザーカテゴリーの中で高い人気を誇っていた、カスタムバイクカルチャーから生まれたスポーツクルーザー・カテゴリーへの刺客として開発された。したがって新生「チーフ」発表時にインタビューした、インディアンのデザイン部門のディレクターであるオラ・ステネガルドは、「チーフはのんびりと走るためのクルーザーではない」と明言したほどだ。
そして、その新生「チーフ」の派生モデルとして発表されたのが、ここで紹介する「スポーツチーフ」だ。そもそもスポーティなクルーザーとしてフルモデルチェンジした新生「チーフ」のスポーツバージョンと聞くと、すこしアタマが混乱しそうだが、その「チーフ」シリーズと「スポーツチーフ」には明確な違いがある。それはモダンか否かだ。
「チーフ」シリーズが、正立フォークやフロント16インチのボバーホイール、メッキパーツといったトラディショナルなディテールとスタイルを採用したのに対し、「スポーツチーフ」は倒立フォークやストローク量を増やしたリザーバータンク付きのリアショック、そしてダブルディスクブレーキで足周りを固め、また6インチライザー(約150mm高のハンドルクランプ)で高い位置にセットしたハンドルにミッドコントロールのステップ、クォーターフェアリングと名付けられたフロントフォークマウントのカウルを装着するなど、いまクルーザーシーンでトレンドとなっている、“クラブスタイル”と呼ばれるスポーティなスタイルとライディングポジション、そしてパフォーマンスを採用しているのだ。
いまクルーザーシーンは、パフォーマンス志向のユーザーが市場を牽引している。ロングライドを好み、そのスピードレンジが高く、ワインディングも楽しむ彼らは、エンジンにもサスペンションにもパフォーマンスを求める。そしてカスタムやチューニングにも積極的だ。バガーと呼ばれる、フレームマウントした大型カウルとサイドケースを装着するモデルが彼らの好みを反映したモデルカテゴリーであり、そのシェア争いを可視化したのがKing of the Baggers(キング・オブ・ザ・バガーズ)というバガーマシンによるロードレースだ。
そしてそのパフォーマンス指向が、新生「チーフ」が属するクラシカルなスポーツクルーザーセグメントにも及んだ結果、誕生したのが「スポーツチーフ」というわけだ。
もちろん、そのスポーツのあり方は、自分を含めた日本人ライダーが日本製バイクで慣れ親しんだそれとは違う。しかし「スポーツチーフ」が提案するアメリカン・スポーツは、なかなかに痛快で気持ちが良い。なにせ車重は300kgを超え、ホイールベースは1626mmの巨体だ。排気量1890ccの空油冷VツインOHVのサンダーストローク116は、その車体を軽々と走らせる。いや、出力特性が異なる3つのライディングモードの中からもっとも過激なスポーツモードを選択すれば、暴力的とも表現出来るほど強烈な加速で巨体を走らせ、ちょっとしたコーナーはもちろん、直線ですらスポーツを感じるパフォーマンスを発揮する。そして3000回転もエンジンが回っていれば十分に速く、低回転でスポーツするのはなんとも不思議な感覚だ。
そのスポーツする感覚を、さらに充実させているのが強化した足周りだ。フロントには、King of the Baggersレースに参戦するインディアンの最新バガーモデル「チャレンジャー」に装着されるKYB製倒立フォークをベースに、フロントフォーク長や減衰力特性を「スポーツチーフ」用にアレンジ。またリアサスペンションを、ストローク長を25mm伸ばしたリザーバータンク付きFOX製ツインショックに変更したことに伴い、変化した車体姿勢にあわせるとともに、スポーティなハンドリングを目指してフロントフォークオフセットを14mm減らし、それに伴ってトレールを変化させるなどしてフロント周りのアライメントを作り込んでいる。またラジアルマウントしたブレンボ製4ポットキャリパーをダブルでセットしたフロントブレーキ周りも「チャレンジャー」用をアレンジしてセット。狙ったラインをトレースできるハンドリングと、コーナーへのアプローチや立ち上がりでの車体の反応、ブレーキング時の安定感はシャキッとしていて、クルーザーモデルの中では群を抜いている。
そんなスポーティな車体を、ウデを水平に伸ばしたくらいの位置にある、ハイマウントのハンドルと、ドッカリと腰を下ろした低いシート、それにミッドコントロールのペグという、“クラブスタイル”のクルーザーモデル独特のライディングポジションでコントロールするのだ。アクセル操作に対するエンジンの反応も、アクションに対する車体の反応も、ブレーキのタッチも制動力も、すべてにダイレクト感があり、ライディングしていて楽しい。これならツーリング途中にワインディンがある日本のツーリングシーンにおいても十分に楽しめる。アメリカ・テキサス州オースティン郊外にある丘陵地帯テキサス・ヒル・カントリーで「スポーツチーフ」を走らせながら、そう感じたのだった。
(試乗・文:河野正士、写真:Garth Milan)
■エンジン種類:空油冷4ストロークOHV49度V型2気筒リアシリンダー休止システム付/Thunderstroke116 ■総排気量:1890cc ■ボア×ストローク:103.2×113.0mm ■圧縮比:11.0:1 ■最高出力:– ■最大トルク:162Nm/3200rpm■全長×全幅×全高:2301×–×–mm ■軸間距離:1640mm ■シート高:686mm ■車両重量:302kg ■燃料タンク容量:15.1L ■燃料供給方式:FI/クローズドループ直径54 mm シングルスロットルボディ ■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ形式(前・後):ブレンボ製320mmダブルディスク(セミフローティング型)×ブレンボ製4ピストンキャリパー・ブレンボ製300mmシングルディスク(フローティング型)×ブレンボ製2ピストンキャリパー ■ホイール(前・後):19×3.5インチ、16×5インチ ■タイヤ(前・後):Pirelli Night Dragon 130/60B19 61H・Pirelli Night Dragon 180/65 B16 81H ■車体色:ブラック・スモーク、ルビー・スモーク、ステルスグレー、スプリット・ブルー・スモーク■メーカー希望小売価格(消費税込み):3,280.000円~ ■国内発売時期:ディーラーに問合せ