全日本ロードレース選手権の最高峰クラスJSB1000は、日本のホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ、そしてイタリアのドゥカティ、アプリリア、ドイツのBMWといった国内外の最新リッタースーパースポーツ市販バイクをベースにレース向けに仕上げられたマシンで争われている。200馬力以上を発揮するモンスターマシンをトップライダーたちがライディングし腕を競っている。
タイヤについては予選中の使用本数が2セット(前後タイヤ各2本)のみ使用が認められる。なお2017年からホイールサイズはフロント、リアともに17インチに限定されている。
2022年全日本JSB1000は、全13戦で行われた。ヤマハファクトリーの中須賀克行が、自身11回目のタイトルを獲得した。全戦全勝は昨年に引き続きで、連勝記録を23に伸ばした。
2022年無敵の王者・中須賀はYAMAHA FACTORY RACING TEAMに所属、チームメイトに岡本裕紀を迎えYAMAHA YZF-R1を駆った。加賀山就臣が引退を発表して監督としてYOSHIMURA SUZUKI RIDEWINを結成し、渡辺一樹がヨシムラチューンのSUZUKI GSX-R1000Rで参戦した。
一大勢力であるホンダ勢は、市販キット車のHonda CBR1000RR-Rで挑む。中須賀の最大のライバルであるTOHO Racing清成龍一、期待されたSDG Honda Racingの名越哲平は開幕前にケガを負う。Honda Dream RT SAKURAI HONDAの濱原颯道や、Astemo Honda Dream SI Racingのエースライダーに抜擢された作本輝介がJSB1000参戦開始。Honda Suzuka Racing Teamの亀井雄大が戦いに挑んだ。
亀井はホンダ鈴鹿製作所で働き、クラブチームで参戦している。メカニックも同じ会社員で、仕事優先の条件下で戦う。亀井は2019年からJSB1000の挑戦を開始、10kgもの体重増加で筋肉を増やし、2021年にはでランキング6位へと浮上しトップ争いに迫る走りを見せるようになる。
JSB1000は2レース開催の場合は、予選のトップタイムがレース1、セカンドタイムでレース2のグリッドが決まる。第3戦オートポリス2&4、予選はウェットコンデション、霧雨が降り、路面状況がどう変化するのか空を見上げるような状況で、亀井はスリックタイヤ(晴れ用タイヤ)に交換、乾き始めたラインを探して渾身のアタックを見せダブルポールポジション(PP)を獲得する。亀井は「まだ、路面は濡れていて、ビショビショの中で、乾き始めたラインを探してのアタックだった」とスリリングな走行を振り返った。レース1はアクシデントで急遽ピットイン後の復帰で22位。レース2は4位となる。
続くSUGOでもレース2のPPを獲得し、転倒&3位となり表彰台に登った。続く5戦目オートポリスでも連続表彰台を獲得。次戦へ期待が高まる中で、岡山国際サーキットのテストで肩から落ちる転倒で鎖骨を骨折、参戦が危ぶまれたが、医師の承諾を無理やり取り付けて参戦し5位を獲得している。
残るは最終戦鈴鹿のみ、ここは3レースが組み込まれた。中須賀は2019年ホンダワークスで参戦していた時に高橋巧が記録した2分3秒台に入れようと懇親のアタックを見せるがクリアがとれずに2分4秒487、2番手は渡辺で2分5秒608、亀井も2分5秒912と5秒台に入れホンダ勢トップとなる。プライベートチームで5秒台を記録してしまうポテンシャルに誰もが驚嘆することになる。
レース1のトップ争いは、渡辺と中須賀が接近戦を見せ、その後方では、亀井が3番手に浮上するが、復調の兆しを見せる清成が亀井をかわす。中須賀は独走優勝。2位に渡辺、3位清成が復調を見せて入り4位亀井となる。レース2は、清成がオープニングラップを制すが中須賀は首位に立つと、独走態勢を築き勝利、2位に渡辺、僅差の3位で清成、亀井は4位でチェッカーを受けた。
レース3決勝は15時20分から、15周のラストレースとして行われた。晴天に恵まれた1日だが、夕方にかけて空気の冷たさを感じるようになる。レース序盤から渡辺が首位に立つ、中須賀は2番手につけ、亀井は3番手に浮上する。6周目のスプーンカーブ立ち上がりで中須賀のテールがやや流れたのを見逃さずに、バックストレートから130Rへの進入で亀井は前へ出る。どよめくような歓声が沸いた。さらにシケインで渡辺をかわしトップに浮上した亀井は、そのままレースをリード、6周に渡ってトップを快走する。
中須賀が11周目のシケインで亀井をかわしてトップとなり、渡辺が12周目の1コーナーで亀井をかわした。中須賀が勝利。2位に渡辺、3位には亀井が岡本と作本を抑え3位に入り表彰台に登った。
亀井は「レース1、2を走り、レース3に向けてアジャストしたことがうまくいって走れたと思う。念願だった中須賀さんや渡辺さんの前を走ることが出来た。抜いた時はギリギリで、ごめんなさいという気持ちでもあったが、130Rで中須賀さんを捉えた時はヨッシャーと思いました。西陽が射してバトルをしているライダーの影がコースに写るんです。あー、迫られているのだと、わかっていたけど、それでも耐えていたけど、最後は抜かれてしまいました。でも、追いつくことも出来なくて、見ることも出来なかった中須賀さんに追いつけた。前を走れた。ファクトリー勢を押さえて、プライベートの自分がトップを走ることを、ずっと願って来たから、少しの間でも届いたことが嬉しい」と笑顔を見せた。
亀井は、マシンのマニュアルを読み込み、セッティング本やライディングの本を読み漁り、試したいことが出来るとミニバイクレースや練習で試す。クラブ員にも相談して、鈴鹿製作所の同僚や先輩に頼み込んで、レギュレーションの範囲で試作したパーツでブラッシュアップを図る。常に速く走るために出来ることはないかと模索し続けている。チーム員を鼓舞して、感謝して、挑戦することを諦めない。その姿勢がトップを走ることにつながった。
来季のJSB1000クラスはケガで欠場していた岡本、名越、清成らが完全復帰、海外参戦しているライダーたちも帰国することになると囁かれている。国内最高峰クラスとして選ばれたライダーたちの戦いが、繰り広げられる。