ミスティックシルバーとよばれる少し粗めのフレークが光をギラっと跳ね返すメタリックが特徴の外装と、透明で深みのあるブルーで塗られたフレームと足周り。クールでシンプルな出で立ちを、グッと締める色合いが今日の試乗車の特徴だ。SV650 ABSはストリートネイキッドのお手本のようなバイクだ。
そのプライスタグには75万2,400円(税込み価格)とある。お値打ちだ。乗ったあとに素直にそう思ったのと同時に「排気量? クラス? 関係ないね!」と思わせる乗り味こそSV650 ABSが持つ魅力の源泉なのだと気が付いた。
今や貴重なVツイン。
1980年代、並列2気筒から4気筒へ、そしてV2やV4へ。単気筒や並列2気筒が普段着に見えるほどその他のエンジン形式はオシャレで、高性能のアイコンだった。このSV650 ABSが搭載する水冷DOHC4バルブ、ツインスパークを採用する90 度V型2気筒も、鼓動と音、性能と外観意匠を一挙に整える魔法でもあった。
最近、このクラスと言わず1000クラスまで2気筒エンジンに並列2気筒が増えてきた。しかも、90度Vツインと同様の爆発間隔を得るためにクランクシャフトに位相角までつけて。つまりはV型のうま味を並列で再現しているわけなのだが、その理由を考えると、マシン造りとして前輪分担荷重を確保したい、長いスイングアームで挙動変化を穏やかにしたい、後ろが長く見えるデザイン、そして波状的に強化される環境規制対応に必須となるエクゾーストポートから離れていない場所に取り付けたいキャタライザー……。
トレンドの変化や規制対応を考えるとV型より圧倒的に並列2気筒のほうがレイアウトを造りやすく、長いモデルライフを考えたら応用力がある、というのが理由だろうと考えている。なので、SVのエンジンはとても貴重な存在に思えるのだ。
なにせ、並列2気筒ならばカムはDOHCでも2本、シリンダーは一つで済むのに、SVのエンジンときたら、シリンダーもヘッドもヘッドカバーも2つ、カムは吸排気合わせて4本、カムチェーンだって2組必要。工場で組み立てるにしても、時間的にはVツインのほうが掛かるのではないか。
そう、お金が掛かっているのだ。
良質なるフツウ。
かつてのTL650Sを知る身としては、SV650 ABSもあの手の大人しく見えて実はスポーツバイクイーターなのでは、と思っていた。しかし、偏向した期待は外れ、見たとおり、実に良質にまとめ上げたバイクだった。
SV650X ABSがミニライトカウルとセパハン、シングルシート風に表皮を変えたシートの採用などもありカスタムバージョン的なイメージがある。対してこちらはオーセンティックなモデルだ。
跨がると印象的なのがライダーのシートエリアがスリムな仕立てになっていること。太ももで挟むタンクの辺りも細く、足着き感が抜群。ステップはやや後方、合わせる上半身から伸ばしたところにハンドルグリップがある。どこにも違和感のない上質なフツウさがある。
同時に、跨がった印象では軽いにも関わらず一定の大きさ、長さを意識させるような感触がある。それはイヤな物ではなく乗り物に跨がる自分としてはとてもバランスが心地良い。あまりにコンパクト、と言った方がいいだろうか。
少しだけアクセルワイヤーの遊びを自分の好みに詰めてから走り出す。
ああ、Vツイン。
Vツインエンジンと聞いてイメージすることはナンですか?
そう聞かれたら、パルス感ある排気音とドコドコするバイブレーション、トルクフルな加速感、パンチのある伸び上がり……。抽象的なものが多いけどそうしたイメージがあるのではないだろうか。
エンジンを始動するとお望みのパルス感がいきなりマフラーから飛び出し、アクセルをそっと開けるとダダン、ダダダンとまろやかな振動が伝わってくる。ローにシフトしてそーっとクラッチを離すと、ローRPMアシストが働き、イメージとしては300回転ほどスッとエンジン回転をあげてくれるのだ。これによりいわゆるエンストしにくい環境を調えてくれるワケで、ゼロスタートから「エンストするかも!?」というストレスを低減してくれている。最初、1速で半クラにするとエンジンの回転が上がるのに違和感を持つ人もあるかも知れないが、慣れたらナシではいられないほど便利で頼もしい。
実はこうした機能、つぶさに観察するとライドバイワイヤーを採用した機種で多く採用されているのだが、わかりやすい機能として実感出来る点で嬉しいところ。
スタート後、2速、3速、4速とシフトアップを重ねると、市街地速度でも6速まで充分実用的なところがSV650 ABSのエンジンのこの小気味よさ、ビッグツインでは味わえないし、スムーズに走ってくれるのも嬉しい。取り回しも400クラス並み。車重が軽いのも嬉しい。
走行中も、車体全部が小さい、という感触ではなく、おおらかさの中にすばしっこさがあるような印象だ。90度Vツインを搭載するだけにエンジン前後長と排気系の取り回しがあるから、少し前後に車体が長い感触もある。ただ、それが市街地的右左折やUターンという場面ではあまり感じない。むしろ安定感になっていると思った。
高いギアからシフトダウンしワインディングでの走りを試してみた。前後のブレーキは握り込んでしっかりと制動力を調整できるタイプで、マイルドだけど速度を落とす能力は充分。コントロールしやすい。タイヤはダンロップのスポーツツーリングタイヤを履くから、ハンドリングは鋭すぎずマイルドすぎずというまさに良い塩梅。スリムで身軽だからヒラヒラ感を想像したが、どちらかというと手応えのある充実したコーナリングを楽しめた。
ここが実はとても重要で、スーパーバイク系のバイクだとツーリングペースではカンタンに曲がり始め、曲がり終えてしまいちょっとモヤモヤが残る。そう、もっと飛ばしたくなる。当然、一般道には制限があるから、それは難しい。「庭にサーキットが欲しい!」とほざきたくなる。が、SV650 ABSの旋回性はそれがない。フツーに流してブレーキを少し掛けて寝かせると一気に寝るのではなく、安心感あるリーン速度で希望したバンク角まで移行してくれるのだ。それでいて気持ち良いペースでじっくりコーナリングしている。そこからアクセルを開けて1速高めのギアからでもトルクでひっぱり息の長い加速を楽しむ……。
これだ! 鋭いとか最速とか有り体なタイトルホルダーではないものの、気持ちよさランキングではいつも上位。それはジョアン・ミルが今シーズンMotoGPチャンプへと着々と丁寧にポイントを重ねてきたのに似ている。ミルは1勝したが、逆に言うとSV650 ABSぐらい気持ち良ければ無冠の帝王なんて上等なる褒め言葉。
そんなことを考えながらコーナーを走っているとこのバイクに詰まったスマイルの元がジワジワと心に広がるのが解った。価格で選んで間違いなし。そんな一台です。
(試乗・文:松井 勉)
●全長×全幅×全高:2,140×760×1,090mm、ホイールベース:1,450mm、シート高:785mm、装備重量:197kg●エンジン種類:P511、水冷4ストローク90度V2気筒DOHC4バルブ、排気量:645cm3、ボア×ストローク:81.0×62.6mm、最高出力:56kW(76.1PS)/8,500rpm、最大トルク:64N・m(6.5kgf-m)/8,100rpm、燃料供給装置:フューエルインジェクション、燃費消費率:37.5km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、26.6km/L(WMTCモード値 クラス3、サブクラス3-2 1名乗車時)、燃料タンク容量:14リットル、変速機形式:常時噛合式6段リターン●メーカー希望小売価格:752,400円(消費税抜き684,000円)
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