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試乗・解説

PRO意識は捨てて、呆けて乗りたい! ルックスに反して優しいヤツ Kawasaki Z125 PRO
カワサキ版レジャーバイクとも言える、KSRの系譜がカッコ良くなって再登場。他排気量でも積極的に復活している「Z」の名前を冠してデビューしたZ125 PRO。2スト時代からのファンをはじめ、新規ファンも惹きつけるカワサキ最小排気量車である。
■文:ノア セレン ■撮影:松川 忍 ■協力:カワサキモータース・ジャパン https://www.kawasaki-motors.com/

 

ネバーダイ! スーパーバイカーズ
遡れば30年以上

 カワサキのミニバイクといえば、古くからの人ならばARとか言いそうだが、KS-1/2の記憶が強い人も多いだろう。まだモタードという言葉がなかった時代に生まれた元祖スーパーバイカーズであり、ライバルのヤマハTDM50/80と共に常に一定の支持を集めていたと思う。
 その後は水冷のKSR1/2に進化し、環境規制などから2ストが厳しくなってからはKSR110という4ストロークバージョンに進化。しかしこの110がなぜかクラッチレス仕様として登場したため、以前からのファンは「??」となった節があった。125クラスにオートマ限定免許が導入されていたこともあって一定の支持はあっただろうが、やっぱりこのクラスはマニュアルクラッチを駆使して操作し、目いっぱいFUNな乗り物として楽しみたい向きが強かったようで、後付のマニュアルクラッチキットなるものも流通したし、そもそもマニュアル仕様のKSR110PROというのも登場したが、その時にはすでに世の興味が鎮火してしまっていた感があり、「KSRどうした」という雰囲気になってしまっていた。
 そんな、KSRブランドがちょっと停滞しているタイミングで、ホンダは大ヒットであったエイプから、今度は125ccのグロムが登場してファン層を拡大。期は熟した、とばかりにカワサキが投入したのがこのZ125 PROというわけであり、KSRの名前こそ変わってしまったものの、カワサキミニバイクの復活の狼煙、といった所なのだ。
 
 
 

 

サーキットでの可能性

 ミニバイクやレジャーバイクなどと呼ばれる、各社12インチのこういった類のバイクは様々な楽しみ方があるだろう。トコトコとツーリングに行くもよし、ミニマムサイズ故にプライベートカスタムを楽しむもよし、そしてその気軽さからサーキット走行にチャレンジするもよし。というわけで、本サイトでは珍しいサーキット走行も試乗ルートに取り込んだ。
 ミニバイクコースに到着すると、まさに狙い通り、ヘビーカスタムが施された(ように見えた)Z125 PROがパドックで暖機運転をしていた。ウワッン!ウワッン!とフカシているその様を見るとなんとも速そう。「いったいどんなチューニングを?」と聞くと、ミッションを5速化して、あとはマフラーだけ。ツインリンクもてぎで行われるDE耐仕様のためほとんどノーマルなんですよ、と教えてくれた。実際に走っている彼を見たら素晴らしいペース。「楽しそう!」と素直に思え、こういった遊びを気軽に提供してくれるのもこういったミニバイクの魅力だと再確認できた思いだ。
 いざ自分で走り出す。長身の筆者にはさすがにコンパクトな乗車姿勢ではあるものの、窮屈というほどではない。ステップが妙に前の方にあってサーキット走行するには膝の曲りが緩すぎる感はあるが、とりあえずコースインしてみる。ミッションが4速であることや、空冷2バルブエンジンであることなどが組み合わさって、低中回転域から一定のトルクが、ずーっと続くような穏やかなエンジン。高回転域を積極的に使わなければ!という強迫観念が生まれず、適当なギア選択でもポコポコ走れてしまうのが好印象。
 ウォーミングアップが済んでペースを上げると、ステップ位置の違和感はぬぐえないものの車体の剛性はしっかりしていてけっこう「その気」になれた。ブレーキはしっかりと効くし、こんなに小さいのにハンドリングに神経質さはなく、ハングオンして体を預けていく感じを楽しめた。バンク角も意外や十分なのだが、この季節、この気温ではタイヤの性能が心もとなく、ステップを擦り始める前にフロントタイヤがトトトと滑り始めてしまい「このぐらいにしておこう」という心のブレーキとなった。サーキットを走るならまずタイヤ交換からしたいところ、次いでステップ位置も見直したいが、例のチューンド車を見てもわかったように、ポテンシャルは高く十分楽しめそうである。
 

 

見た目ほどスポーティではなく

 見た目のアグレッシブさゆえにまずはサーキットから走ってしまったが、大多数の人にとってサーキットは縁遠い所。公道へと舞台を移す。
 まずはポジションだが、想像通りに小さい。ハンドルの位置が少し低い感じもあり、長身だとUターン時などにはハンドルが膝に当たってしまうことも。またニーグリップ部もタンクの角が立っている所に当たってしまうなど、ライダーの「ハミ出し感」は否めない部分がある。リリースによるとタンデムも考慮しているというが、機能的・法的には問題ないとしても、安全に乗るにはライダー二人のサイズは良く考慮した方が良いだろう。またがり写真を参考にしていただきたいが、大柄な人は一度実車に触れた方が良いように思う。サーキットのように積極的に体を動かしていると気づかなかったが、公道ではバイクとのフィット感は大切なことだ。
 走り出すと先述したトルクフルなエンジンがとても印象良い。他社で恐縮だが、まさに「カブ感」。どこからでもストトトっと加速してくれて、なるほどこれなら4速ミッションでも大丈夫、とその設定に納得する。いつの間にか登り坂になっていてもシフトダウンしなければいけないということもなく、ただただトコトコと進み続けるのだ。それは決して速くはないのだが、ステップ位置を含めた車体全体ののんびりした雰囲気のおかげかトコトコペースが苦にならず、「加速しないなぁ」といった不満がでてこない。見た目のアグレッシブとも言えるようなスタイリングとは対照的に、牧歌的なツーリングが楽しめるような設定なのであり、気持ちも「活発に!」というよりは「呆けて」乗っているぐらいがちょうどよかった。
 

長く付き合えるオモチャとして

 試乗を終えて「これは無理がなくてよい」というのが印象だった。公道での走行写真を見ていただければわかるように、バイクそのものは尖っていて先鋭的なスタイリングをしているのに、ライダーと組み合わさるとどうにものんびりしたようなイメージがあるだろう。たぶんステップの位置がそうさせていると思うのとエンジンのキャラクター的にライダーの気持ちものんびりしているのだろうが、気軽に、ゆっくりと付き合いたくなるような接しやすさを感じた。それでいてサーキット走行やカスタムといった楽しみ方も十分許容するのだから、色んな方向に楽しみやすいベースマシンとして、最高のオモチャだろう。
 唯一気を付けて欲しいのはフィット感だけ。ある程度の許容力はあるものの、エラの張ったタンクや膝とハンドルの関係性など、長身のライダーにとっては「ちょっと難しいかも」という場面が無くもない。まずは現車の確認。実物を見たら素直に「楽しめそうだなぁ!」と思ってもらえるはずだし、大柄ライダーはその時にフィット感も確認できることだろう。
 多くのライダーを楽しませてきたKSRシリーズの後継は、今もまたカワサキファンのミニバイク愛好家たちを楽しませてくれる。KSRの名前こそなくなったが、そのスピリットが引き継がれたことを素直に喜びたい。
 
(試乗・文:ノア セレン)
 
 

 

ミニマムな車体は見ての通り。ステップ位置が前よりでしかも高い位置のため、長身だと膝とハンドルが近くなる。足着きはもちろん良好。それでいて窮屈さは感じず、トコトコとしたツーリングにも向いている。ライダー身長185cm。

 

シンプルな空冷2バルブSOHCエンジンは4速ミッションでノンビリとした性格ながら、低回転域のトルクが豊かでズボラ運転も許容する力強さを持っている。シンプルなエンジンながら、インジェクション仕様&セル付により始動も楽々。

 

KSR時代からのアイデンティティとも言える倒立フォークも継続採用。インナーチューブはφ30mmとし、セッティングはスポーティな味付けとしているとか。ブレーキディスクはペタルタイプと呼ばれるウェーブ状のもので効きも十分。

 

タンデム走行も考慮してプリロード調整式を採用したリアサス。ボックス形状のスイングアームもタンデムライドを想定したものだ。
テールランプは兄弟車種同様に「Z」の文字が発光するデザイン。タンデムも可能だがシート面積は少なく、限定的な機能に思う。

 

前後とも12インチのホイール。フロントは100/90-12、リアは120/70-12というサイズを採用。マフラーは近年一般的になっている腹下サイレンサーとしている。

 

シャープなフェイスはかつてのKSRのようなオフ車を意識したスーパーバイカーズというよりは、Zらしい、ストリートファイター系へと進化。ヘッドライトは安定のハロゲンだ。
アナログのタコとデジタルのスピード、シンプルで見やすいメーターは好印象だが、各種インジケーター類は三角形をしていたりして個性的。デザインされたアルミのトップブリッヂも高級感がある。

 

フィット感の高いシートは前後の自由度もあり、ライダーの体格を選ばないと同時にサーキット走行でも積極的になることができた。ヘルメットホルダーはカワサキとしては珍しくシートの下に挟むタイプ。
兄弟モデル同様にシュラウドがついてシャープなイメージを持つタンク。しかしステップ位置との関係もあり、長身だとまさにエラ部分をニーグリップすることになってしまうのが難点。タンク容量は7.4L、低燃費と合わせてワンタンク300キロ以上は余裕だろう。

 

 
■Z125 PRO(BK-EX250P) 主要諸元

全長×全幅×全高:1,700×750×1,005mm、ホールベース:1,175mm、最低地上高:155mm、シート高:780mm、車両重量:102kg、燃料消費率50.0km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、54.2km/L(WMTCモード値 クラス1 1名乗車時)、エンジン:水冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ、総排気量:124cm3、最高出力7.1kW(9.7PS)/8,000rpm、9.6N・m(0.98kgf・m)/6,000rpm、燃料タンク容量:7.4L、タイヤサイズ:前110/90-12、後120/70-12。メーカー希望小売価格:352,000円(エボニー)/359,700円(ライムグリーン)。
 

今回お世話になったのは、静岡県富士宮市にある「白糸スピードランド」さん。富士山の南側に位置するおかげで降雪がなく、年間通して楽しめる全長800mのミニバイクコースだ。料金も半日3000円、一日4000円とリーズナブル。サーキットデビューにも活用したいフレンドリーさをもっている。
http://www.shiraito-speedland.co.jp

 


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2019/12/18掲載