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レース・イベント






2023年シーズン、不振を極めたホンダは
絶対王者マルク・マルケスをもってしてもランキング14位
チャンピオン経験者のジョアン・ミルは22位にしか入れなかった。
マルケスが抜けた24年は、ルカ・マリーニを加えた新布陣で臨んだものの
ミルとマリーニは、レギュラーライダーのワースト1-2を占めてしまった。
メーカータイトルもチームタイトルも最下位に終わった24年だったものの
復活を期す25年シーズンのウィンターテストでは
期待を抱かせる結果を見せ始めた。
復活はもうすぐそこ――なのだろうか。

■文・写真:中村浩史 ■写真提供:Honda

新布陣で臨んだ24年
序盤に方向修正を迫られる

 2025年シーズンのプレシーズンテスト、マレーシア・セパンとタイ・ブリラムのセッションを終えて、ホンダMotoGPチームが苦境を脱しつつあるように見える。
 ライダーはファクトリーチーム「ホンダHRCカストロール」に、24年から引き続き、ジョアン・ミル&ルカ・マリーニ、セカンドチームの「LCRホンダ」に、24年から引き続きのヨハン・ザルコと、今シーズンMotoGPクラスデビューを果たすサムキアット・チャントラ。
 もちろん、この2回のテスト結果で今シーズンの戦力を占えるわけではない。それでも、セパンの3回のセッション、ブリラムでの4回のセッションで、ホンダ勢はかわるがわるトップ10入りを果たし、ブリラムでの最終セッションでは、ミルが全体の2番手のタイムをマーク。
 テストでトップ10入りしただけで悪くない成績だ、というのは気が早いかもしれないが、過去2年のプレシーズンテストで、ホンダRC213Vはなかなかこのポジションにもつけていなかった。それだけ、このテスト結果に明るい兆しを感じるのだ。

##10 ルカ・マリーニ
2024 Honda RC213V #36 ジョアン・ミル車、#10 ルカ・マリーニ車

「2024年4月にレース運営室長に就任したんですが、それまでも別の場所に居ながら、MotoGPチームは苦しんでいるなぁ、と見ていました」と語るのは、新たにHRCのMotoGP活動の現場を指揮することになった、HRCのレース運営室長、本田太一さん。本田さんは2013年に、ホンダが20年以上のブランクを経てダカールラリーに復帰した時の開発責任者で、ホンダのラリーチームを、ほぼゼロから優勝チームに育て上げた人物だ。

「2023年モデルから24年モデルへの変更点は、やはり加速の効率を上げることでした。ライバルマシンに比べてホンダが負けているのは、やはりエンジンの特性に因るところが大きかったんです」と言うのは、開発責任者の佐藤辰さん。ここでは、パワーアップと言わず、「加速の効率」と説明してくれた。
加速の効率とは、エンジンの出力をきちんと路面に伝え、タイヤのグリップを最大限に使い切ることを指す。エンジンのパワーアップはもちろん、トラクションに優れた車体特性であり、無駄のないタイヤグリップを助ける電子制御と、この数年のMotoGPマシンのキーとなった空力特性と、ほぼマシン全体に及ぶ内容だ。

 ありとあらゆる箇所がブランニューとなった2024年モデルだったが、シーズン序盤に軌道修正を余儀なくされている。ファクトリーチーム、セカンドチームの4人が、そろって予選6列目や7列目に沈み、決勝レースでもポイント獲得がやっと、という位置しか走れていなかったのだ。
「エンジンの出力特性が、目指していたものと違ったんです。制御ではなく、エンジンの基本的な特性、ドライバビリティです。23年の成績でコンセッション(=優遇措置)が認められていたので、シーズン中にもエンジンをアップデートしました。細かい変更は5回、大きな変更を1回ですね」(佐藤さん)

 シーズン序盤、ライダーは一様に「リアのグリップが足りない」というコメントを残していた。トラクションとは加速時にアクセルを開けた時のタイヤの食いつきを指すが、この場合の「リアグリップ」とは、減速域からコーナー進入、旋回や脱出すべてにつながるリアタイヤの手応え、接地感だ。
 さらにその後は、ライダーコメントに「バイブレーションがある」という言葉も目立ち始めた。
「バイブレーションとは、文字通り振動のことなんですが、この症状は実は悪いことばかりではなく、タイヤをいいレベルまで使えるようになった、ということでもあるんです。開発サイドは『ようやくここまで来たか』という印象も持てました。タイヤにきちんと荷重をかけられている、そのグリップ限界を少しだけ超えてしまっている地点なのだな、ということです」(佐藤さん)

##10 ルカ・マリーニ
取材に対応いただいた本田太一HRCレース運営室長(左)と、佐藤辰HRCレース開発室長。佐藤さんは990cc時代のMotoGP時代にもスタッフに加わっており「24年はMotoGP初期の、フレームやエンジンを何種類も作っていた頃を思い出す忙しさでした」(佐藤さん)

順位よりタイムより
レース展開に見えた復活への道

 コンセッションに従って認められたプライベートテスト、そのうちミサノでのテストでトライした仕様が復活へのヒントになった。その結果、シーズン後半の成績が徐々に上向いてきたのだという。ミルはレース中に中盤グループを走るようになり、シーズン前半はポイント獲得がやっとだったマリーニはコンスタントにポイントを獲得。ザルコと中上貴晶はシーズン終盤で自己ベストリザルトを獲得した。
「ミサノテストで試した仕様が、シーズン後半戦のマシンのベースです。順位にはなかなか現れにくかったんですが、レース内容に手ごたえが感じられ始めました。この方向を伸ばしていけばいい、もっとマシンを進めていこう、となったんです」(本田さん)

 本田さんが言う「レース内容」とは、ひとつが順位と別の、レースがスタートしてからゴールするまでの「レースタイム」のこと。このレースタイムは、シーズン序盤に優勝ライダーからホンダ最上位のライダーまで、スプリントレースで約22秒、メインレースで1分以上の差を付けられたレースさえあったものの、この差が短縮。特に終盤戦のインドネシアGPで、優勝者とホンダ勢最上位のライダーがスプリントで約7秒、メインレースで約15秒になっていた。
 もうひとつの「いいレース内容」とは、レース終盤のペースのこと。フルタンクとニュータイヤで走る出すMotoGPマシンたちは、スタートから数周でタイヤグリップが最大となり、レース終盤で燃料が軽くなり、ペースを維持する走行を目指すことになる。ガソリンタンクが軽くなるレース終盤にタイヤグリップを残しておくマシン、それができるライダーこそが「強い」ライダーなのだ。
「予選タイムやレース前半のペースはまだ改善の余地があったんですが、レース終盤にペースが落ちないマシンになって来た。ミサノでテストした仕様が、タイヤをうまく使えるマシンに近づけられたんです」(本田さん)

 コンセッションで認められたプライベートテストとシーズン中のエンジンアップデート、さらにレースウィーク中にも新しいパーツをテストするという、今までに見られなかった改良への作業が、やっと形になって来たのが2024年シーズンだったのだ。
「特に、マリーニとザルコは、かなり忙しいテスト日程を積極的にこなしてくれました。そして、この数年はレギュラーライダーよりも走行距離が多いステファン・ブラドルも、テストやワイルドカード参戦と、精力的に活動してくれた。レギュラーライダーの中上君も、思うように走れないシーズンでしたが、たびたびホンダ勢最上位のレースをしてくれた。レースが重要なのはもちろんですが、シーズン前半は後半に備えて、シーズン後半は25年シーズンへ向けての準備も進められました。これで25年モデルの方向性が決まって、開幕に備えるだけです」(佐藤さん)

#HONDA MotoGP
#HONDA MotoGP

 2025年に入って、マレーシア→タイとプレシーズンテストが行なわれ、冒頭に記したように、手ごたえのある走りを見せたホンダ勢。特に、ファクトリーチームのミルは、タイムや順位も良く、それ以上にフィーリングの良さを強調している。
「もちろん、まだトップ勢との差はあるけれど、着実に向上していると思う。考えていた以上にいいテストができたと思う。タイムや順位よりも、思うようにバイクに乗ることができたし(ホンダに乗って3シーズン目)僕が乗ってきた中で最高のマシンだと思う」(ジョアン・ミル)

 2025年シーズン開幕は、2月最終週。舞台は最後にプレシーズンテストで走ったタイ・ブリラムだ。
 ホンダの低迷は、やはり日本のMotoGP人気に直結していると思う。強いホンダが帰ってくれば、MotoGPはもっともっと楽しくなる!
(文・写真:中村浩史)

#2024RC213V
アッパーカウルサイドのメインウィングレットの形状も大きく変わった24年の最終版。ラジエターまわりへの導風経路もカウルのカットラインが大きくなり、アッパーカウルが小型化されている。

#2024RC213V
カウルサイドに複数のフラップがレイヤードされた24年モデル。カウル本体の形状も段付きがありながら丸みを帯びた有機的なものになり、メインフレームの露出面積もかなり減っている。
#2024RC213V
23年モデルあたりまでは平面の組み合わせだったフューエルタンクも、上面がこんな形状に。ライダーが全伏せ姿勢をとった時にヘルメットや腕まわりに密着する形状になっている。

#2024RC213V
ウィングとともに、直線を走る時にリアの車高を手動で落とすライドハイトデバイスもキー技術。クラッチレバーはスタートの時しか使わず、直線に差し掛かる瞬間にレバーでリア車高を落とす。
#2024RC213V
かつてはテールカウルからとぐろを巻いたマフラーが顔を出すのがホンダ車の特徴だったが、今はサイド部にパイプがまとめられる。テールカウル内には一説にはマスダンパーが装備される?

#2024RC213V
サスペンション、ホイールやブレーキの組み合わせはほぼ完成の域に達している。スタート時にはフロントフォークを縮めた状態にキープするホールショットデバイスを使用する。
#2024RC213V
一時はフルカーボンもトライされたスイングアームも、いままたアルミスイングアームに回帰。サスペンションは前後オーリンズ、ブレーキはブレンボ、ホイールはOZレーシングを使用する。

#HONDA MotoGP
#HONDA MotoGP

2025/02/25掲載