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レース・イベント

大好きなバイクをもう一度学ぶ。 そしてライフワークにする学校が誕生。
千葉県君津市。雲海たなびく鹿野山九十九谷展望公園近くに、新しいバイクの学習施設が誕生した。MOTO MIXX SCHOOL。築51年目を迎えた都立高校の元野外活動施設をリノベーショして作り上げた新たな学び舎。いったい、どんな施設でどんな哲学を学べるのか。早速取材に出かけてみた。
■取材・文:松井 勉 ■撮影:増井貴光 ■協力:一般社団法人 安全運転研究所 ROAD +AID NETWORKS https://ran4681.com/






 MOTO MIXX SCHOOL(モトミックススクール)とは。その前にまず一般社団法人 安全運転研究所が運営するROAD +AID NETWORKSについてお伝えしよう。この名称は、ライダーにとどまらず、自転車に乗る子供からバイクのライダー、ドライバーに向けた様々な安全運転啓蒙活動を行う総称として存在している。

 そのROAD +AID NETWORKS が行う活動の中の一つであり、トレーニング拠点として2020年8月22日にオープンしたのがMOTO MIXX SCHOOLだ。
 

MOTO MIXX SCHOOLの入り口。玄関を入るとそこにはバイクが鎮座している。

 
 場所は千葉県君津市。鹿野山マザー牧場に近い山間に位置するこの場所は、敷地面積8000坪を誇る広さが特徴だ。その中に座学を行うホール、車両のガレージのほか、ゆくゆく様々に活用できる建屋が存在する。そのサイズ感がまず印象的。ここはいったい?

 実はこの場所、2006年まで都立白鳳高校の野外活動施設「元・鹿野山清和寮」だ。その施設をリノベーションして、バイクのことを様々学べるようしたのがMOTO MIXX SCHOOLというわけなのだ。
 

かつてはこの場所で100名ほどが集まって朝礼などが行われたホール。今回、この場所で活動説明などが行われた。

 
 房総半島内陸部に多い平地と山地がせめぎ合う地形。その山地の尾根にあるこの場所は、傾斜のある土地を活かし、敷地内に様々なトレールが走る。以前、校庭と呼ばれた広場には一周200メートルのオーバルコースも造られているのだ。そこにできたこの場所でどんなバイクスクールがおこなわれるのだろう。
 

キーマンは、二人の同級生。

 代表を務める淸水 豊さんがMOTO MIXX SCHOOLについて説明をしてくれた。
「MOTO MIXX SCHOOLでは“セルフ・ディフェンス・ライディング”つまり自衛運転というテーマでライディングレッスンを行っていきます。クルマと違い、バイクのライダーはむき身です。ヘルメット、肘、膝、脊髄、胸部などのプロテクターを全て装着していても事故、転倒にあったら身を守るには充分ではありません。また事故を回避するためには一人一人のスキルを上げるだけでは不十分な部分もあります。そこで、これまでの様々な経験からノウハウをお伝えしたいと思っています」
 

活動内容を説明する淸水 豊さん。

 
 例えば、と前置きして淸水さんは続けた。
「歩行者用信号が点滅を始めたら、対面する車両用信号が数秒後に青から黄色、赤へと変わります。ご存じのかたには当たり前のことですが、それを知らない方もいる。そうした変化が起こることを知ることも大切です。
 また、峠道などで対向車がセンターラインを割ってはみ出してくることがあります。驚きますよね。ドライバーの中にはそうした運転を無意識にしているケースがあります。走行中、前輪が今、どの位置を通過しているのか。車幅の間隔、ボディーの位置などの把握をしてないため、気が付かずに対向車線にはみ出してしまうのです。こうしたことも実際に君津周辺をツーリングしながらトレーニングするカリキュラムで知ってもらおうと思います。一泊二日のプランを用意し、オフロード、オンロード、ツーリングと様々な場面で楽しみながら学べるコンテンツを用意しています」
 

走行前の準備体操。背景にあるのは白鳳高校鹿野山清和寮時代からのシンボルツリーの一つ、櫻の木だ。
入り口に続く広場はかつてテニスコートだった場所。4輪のパーキングスペース兼、初心者向けオフロードエリアにもなる。

 
 他にも、右直事故についても、交差点に潜む危険としてお馴染みだが、そのメカニズムについても情報を共有していきたいという。また、夜間、暗くなったところで、様々な色のパイロンを並べ、ヘッドライトで照らすとどう見えるのか。そうしたことも文字的情報ではなく経験として実感する機会を持てるという。

 淸水さんは、神奈川県警で30年にわたり白バイ乗務した経験を持ち、在任中は茨城にある安全運転中央研修所で多くの白バイ隊員、パトカーの乗務員の育成のほか、企業のドライバー、ライダーの安全運転教育をした経験も持つ。また多くの交通事故現場に立った経験から、それがなぜ起きたのか。教訓としてどう活かすべきか、というリアルな知識をもっている。同時に、交通事故が持っている負の側面である悲しみや、やりきれなさについてもだ。
 

施設閉鎖から14年。今なお片隅にサッカーゴールが残る校庭(グラウンド)だった場所の中央には松の木が生い茂る。この場所に一周200メートルのオーバルコースがある。
杉木立を縫って走る敷地内のトレール。ドライであればビッグアドベンチャーバイクでも問題無く走ることができた。

 
 また、元白鳳高校の野外活動施設であり、いわば校庭にあたる場所を活用したダートコースを設けた理由をこう話してくれた。
「オフロードを走行すると、オートバイにはアスファルトで起こる危険な挙動がより低い速度で比較的安全に体験することができます。それを体験してスキルを身につけるのがMOTO MIXX SCHOOLの目的でありメリットだと考えています」

 なるほど。汗を流して反復練習、ライディングを体にたたき込む、というスタンスではなく、見過ごしがちな路上のリアルを知ることで、ライダー自身がどのように危険から遠ざかるか、あるいは対応の幅が持てる情報としてライディングレッスンが存在していると感じた。
 

そしても一人のキーマン、内藤 学さん。

 
 そしてもう一人のキーマンがいる。淸水さんと高校時代の同級生で、当時からバイク仲間だったという内藤 学さんだ。

 内藤さんは24歳の時からオーストラリア、アメリカ、カナダでメカニックとして働いた経験を持つ。その後、ハーレーダビッドソンジャパンに入社し、サービスマニュアルの作成やメカニックの教育、指導にあたり、その後独立した人だ。また、ハーレー・オーナーズ・グループ、HOGでファーストエイドの普及にも努めてきた。

 内藤さんがメカニックとして留守にしていた間、地元ではまた別の現実が起こっていた。とても仲の良かった友人の一人がバイク事故で他界し、スピード自慢だった友人は事故で脊髄損傷を負っていた。内藤さんは事故の原因になったバイクやクルマを直すメカニックという仕事にすら嘆くようになりそれから2年間、メカニック用のツナギに袖を通すことも、工具を持つこともなかったという。
 

傾斜地の敷地内の最も低い場所にあるオーバルコース。そこからホールなどのある建屋のあるレベルまでトレールは段々畑的に登ってゆく。これもオフロードの醍醐味。

 
 その時期、地元湘南の大磯海岸でライフガードの活動に没頭した。冷酷な現場も体験しながらもウォーター・セーフティーに邁進する日々。そしてハタと気が付く。大好きなバイクにライフセービングがないじゃないか、と。

 実は、ハーレーダビッドソンジャパンへの入社志望理由がまさにそれで、ライダーに事故の際の応急手当を覚えて欲しい。二次被害を避け、バイク独特の見えない怪我にも配慮した実践的な方法を身につけて欲しい、というものだった。オーナーズグループが国内で発足するのにあわせ、そうしたレクチャーをしたいというものが大きな理由だった。
 

 
 MOTO MIXX SCHOOLの、セルフ・ディフェンス・ライディングの一つのコンテンツとして、ファーストエイド講習も行うと内藤さんは言う。
「事故現場では誰しも冷静ではいられません。ましてや友人や家族が事故に遭遇したら気持ちは間違いなくパニック状態という心理になるでしょう。助けよう、助けないと。その気持ちが助けようとする人を現場で二次被害に遭わせる確率を高くしてしまう。それが事故現場なんです。だからこそ安全を確保し、冷静に対処するためのステップをお伝えしたい。
 また、一人で出来ることは限られます。仲間と走っていたらその仲間と、一人であっても、現場に居合わせた人とレスキューチームを造り安全に救護をする。そんな手法もトレーニングプログラムに入れていくつもりです」
 

MOTO MIXX SCHOOLから20分ほどの距離にあるオフロード中級、上級向けの施設、MOTO MIXX PARK。クローズドエリアだが一部には林道、ヒルクライム、草原のような場所がある。

 
 ファーストエイドの方法は5年毎にアップデイトされるという。その最新内容と照らすと同時に、先述した2輪特有の見えない怪我にも配慮した手法を学べると言う。

「命を助ける。これがファーストエイドの当たり前の目的ですが、今はそれだけではありません。後遺症を残さないことを目的にした現場対応が重要になります。今、我々が行っているファーストエイドで、バイクの事故の場合、ライダーが目に見えない怪我を体内に負っていることが充分に想定でさます。
 ヘルメットを被っていても頭の中、また首、背中。大事な神経が通っている場所にです。そうした場所への怪我を見逃し、救援活動により後遺症を残してしまう可能性がある。これがバイク事故の恐いところです。この目に見えない怪我を想定して救護を行うベイシック・ライフ・サポートを行っています」

 こうしたトレーニングの中では心肺蘇生の手法も加わるという。市中に増えたAED(自動体外式除細動器)。これは使用すれば自動的に停止した心臓が動き出す魔法の機械ではないと話す内藤さん。胸骨圧迫、心臓圧迫が出来て始めて効果を生むという。血液を送り続けること。救急隊が到着するまでに出来る活動をしっかりと学べる。
 

オーバルコースの中央にはちょっとしたジャンプスポットも。

 
 そのほか、マスツーリングの時、先導をするツーリングリーダー、最後尾を走り、グループのバックアップをするスイーパーの育成もテーマの一つだ。
「アメリカのユーザー団体AMAにはツーリング時に共通のハンドサインがあります。1列で、2列で、曲がります、停まります、給油します等々ハンドサインで行うそうしたコミュニケーション術や、メカトラブルに対応するスキル、スイーパーには特にファーストエイドの習得が重要だと考えています」

 こうした活動のキーマンたる二人のほか、20代、30代の若いライダーもこの活動を下支えしている。ライダーの平均年齢が50代と言われる現在だが、若手ライダーの数も少なくない。乗っているバイクのメーカー、排気量、古い、新しいなどボーダーレスでライダーとして楽しみながら安全意識を学べる施設なのだ。
 

淸水さんは適切なアドバイスとともにパークの楽しみ方を教えてくれた。
かずさリゾート鹿野山ビューホテルのアスファルトの駐車場にて。

 
 

MOTO MIXX SCHOOLと近隣のコラボも。

 MOTO MIXX SCHOOLがある場所から10分とかからない距離に かずさリゾート鹿野山ビューホテルがある。その名の通り、客室からの眺めは広々として良く、静かな場所にあるホテルだった。このホテルは、一泊二日で行うスクール+ツーリングトレーニングのカリキュラムに合わせ、参加費と宿泊費合わせ29800円のおオトクなプランも用意している。

 嬉しいのは、2輪での来訪に備え、屋根付きのバイクパーキングの確保はもちろん、レインウエアを干せるスペースも提供するなど配慮が行き届いている。また、ホテルのアスファルトの駐車場の一部をスクールのトレーニングに解放するなど頼もしい理解者といえそうだ。

 このホテルのすぐ向かい側には神野寺という歴史ある寺があるほか、スクールへと向かう途中には九十九谷展望公園がある。早朝、見下ろす谷に雲海が埋まることもあり、ツーリングライダーにもお馴染みの場所だ。
 

かずさリゾート鹿野山ビューホテルは静かな場所にあるホテルだった。通常のツインルームの他、鹿野山マザー牧場とコラボした「モーモールーム」を利用することもできる。室内装飾はじめ、アメニティーも牛をイメージしたものに。コロナ禍で手のアルコール消毒をする機会が増えたのに配慮し、数種類のハンドクリームも用意している。

 
 MOTO MIXX SCHOOLは都心からアクアラインを使えば1時間ほどで到着できる地の利を活かし、ライダーにとって有益な学舎として活躍してくれそうだ。敷地にあるオフロードトレールは、なるほどバイクの挙動を理解しやすいものだった。同時に走る楽しさ、操る悦びまで動じに体験することができる。初めてのオフロード、初めてのアドベンチャーバイクなど、幅広いライダーに体験を通じた学習を届けてくれそうだ。

 バイクを持っていない、オフロードを体験してみたい、という人のためにレンタルバイクも用意している。運転をしてきたからこそわかること。運転をしていても気が付かなかったこと。あるいは身につけようと思ったが、棚上げにしていたこと。そうした知りたい、習いたいという需要に応える施設として期待大。今回の取材で感じたのはそんな部分だった。
 スクールに参加してこの施設を走行出来るほか、会員制の走行も受け付けている。オープンから当面はまずはスクールへの参加を優先するとのことなので、詳細は施設にお問い合わせを。
■問い合わせ:淸水 豊 淸水幸代
 E-MAIL:prin4681@ybb.ne.jp
 HP: https://motomix.net/ 
 

 





2020/09/28掲載