Auto Race Ube Racing Team は、2022年の全日本ロードレース選手権への進出からスタートし、JSB1000クラスや耐久レースで実績を積み重ねてきた。2025年にはマシンをBMW M1000RRへスイッチ。浦本修充をエースライダーに据え、JSB1000クラスでポールポジションを獲得、さらに初優勝を挙げる快挙を成し遂げた。
鈴鹿8時間耐久(6位)世界耐久選手権(EWC)ボルドール24時間耐久(4位まで浮上するがリタイヤ)への参戦により全日本ロードレース選手権フル参戦とはならなかったものの、シリーズランキング3位を獲得。
そして今季、Auto Race Ube Racing Teamは日本初のBMW Motorrad Motorsport公式チームとしてEWCフル参戦へ新たな戦いへと踏み出す。
チームオーナーのジェームス文護氏に話を聞いた。
- ■文・佐藤洋美 ■写真:赤松 孝
- ■写真提供:Auto Race Ube Racing Team
──まず、バイクとの出会いから教えていただけますか?
「中学3年か高校1年くらいですね。1970年代のアメリカを代表するライダーのジーン・ロメオをご存じですか? デイトナ200マイルを制したカリスマ性のある存在でした。派手なヘルメットやファッションも含めて、とにかくカッコよかった。それがきっかけです。あの頃は、周りもみんなバイクに夢中でした。大学1年生で車の免許を取って、2年生の時に中型免許を取ってHonda CBR400FOURを買いました。これは今でも手放さずに持っていて、ガレージ に飾っています」
──大学では何を学ばれていたのですか?
「北海道大学で獣医師免許を取って、大学院ではビタミンの研究をしていました」
──レースとは無縁の道ですね。
「実家は山口にあるんですが、帰省のタイミングで鈴鹿8時間耐久の第1回(1978年)が開催されて、それを観戦しました。初めてのレース観戦でした。それまで生で見たことがなかったので、すべてが新鮮で興味深かった。そこから、夏は鈴鹿8耐を見ることがライフワークのようになりました。
卒業後の就職試験で、金曜日の試験は受けたんですが、土曜日は鈴鹿8耐の公式予選がある。どうしたものか悩んだ末、試験をキャンセルして鈴鹿に向かいました。第1回から一度も欠かさず観戦を続けています」
──鈴鹿8耐の何に惹かれたのですか?
「ヨシムラとホンダの対決もありますし、メジャーなチームでなくても、それぞれにドラマがあるじゃないですか。いろいろな視点で見られるのが面白い。見逃すわけにはいかないと思っていました。若い頃はお金がなかったので、駐車場で寝て、プログラムを買って、昔はFMラジオで情報が入ったので、それを聞きながら暑さの中で必死に観戦していましたね」
──大学院卒業後は、どのようなお仕事を?
「山口県庁の職員として衛生関係の仕事を10年ほど務め、その後、家業の建設業を継ぎました。運送業なども始めて、水平展開でいろいろなことをやるようになりました。分かりやすく言えばM&Aですね。面白い企業があれば引き継いでいく。すべてが成功するわけではありませんが、ベンチャー企業への投資などもしています。
そこに、現チームのチーム・ディレクターである中井貴之が投資の話を持ってきたんです。当時、彼もレースとは違う仕事をしていました。仕事の話が終わった後の雑談で、偶然レースの話になって、彼も元ライダーだったので盛り上がって……。『観客席じゃなくて、向こう側(ピット)に行きませんか?』と誘われました。
最初は彼が元在籍していた 山科カワサキチームへの支援という形でしたが、チーム結成の話が出て、そんなことが可能なのかと思いながらも、やってみようということになりました」
──レーシングチームを持つというのは、大きな決断ですよね。
「ビジネスでもそうですが、やると決めたら瞬間の判断で、圧倒的にやる、という主義なんです。だから決まってから結成までは、そんなに時間はかかっていません」
──オートレース宇部という名前は?
「現在59社あるのですが、その中のひとつで、レースに近い名前だったので使いました。レース運営自体は、James Racing株式会社で行っています」
──結成当初から、素晴らしい活躍でトップチームへと浮上していきました。
「でも、なかなか勝てなかった。それが、昨年ようやく優勝できました」
──優勝まで、長かったですか?
「EWCに挑戦しようと、開幕戦のル・マン24時間耐久を視察に行ったんです。参加している皆さんの本気度、真剣さを目の当たりにして、自分の覚悟が足りないんじゃないかと思って禁酒を始めました。
それまでは朝からウイスキー、会社の冷蔵庫もビールでいっぱい、寝る前まで飲んでいました。レースウイークのパドックでも飲んでいたくらいです。でも、ル・マンから戻って酒を断ちました。スポンサーやスタッフにも、その覚悟を見せたかった。
その成果かどうかは分かりませんが、1年4か月の禁酒のあと、もてぎで勝つことができました」
──そして、ボルドール24時間耐久へ。
「実は新婚旅行はボルドールに行きたいと思っていたくらいなんです。鈴鹿8耐を見始めた頃は、ホンダの無敵艦隊がヨーロッパで活躍していた時代で、その歴史のある場所に一度は行きたいと思っていました。
県庁にいた頃、結婚すると休暇はもらえたんですが、お金がなくてボルドールは無理でした。結局、鈴鹿サーキットになりました(笑)。今年、実際にボルドールに行きましたが、ここに妻を連れてきたら顰蹙を買っていたかもしれませんね」
──ご自身の感想は?
「伝統を感じる素晴らしいレースでした。チームも初参戦ながら、よく戦ってくれたと思います」
──今年はいよいよフル参戦ですね。
「昨年の全日本、鈴鹿8耐、ボルドール24時間の戦いをBMWが評価してくれ、オフィシャルチームとして戦えることになり、勝てる体制は整ったと思っています」
──レースファンからチームオーナーになって、良かったと思うことは?
「結果が残るようになったこともありますが、昔憧れていたヨシムラの不二雄さんから声をかけていただいたり、森脇南海子さんが取り組んでいる災害支援・地域安全のためのボランティア組織『ライドエイド(災害支援ライダー隊)』のお手伝いをさせてもらえたりしていることですね。
ヨシムラ、モリワキといえば、鈴鹿8耐ファンの間では特別な存在。その方々に認めてもらえるのは、本当にうれしいです」
──これから成し遂げたいことは?
「山口出身で、地元の方の応援をいただいてチームを運営しています。これまでバイクやレースを知らなかった方々にも、鈴鹿8耐に足を運んでもらえるようになりましたし、地元企業の関心も高まっています。
もっと多くの方を巻き込んで、理解を深めていきたい。レースの世界を、もっと社会的に認められるものにしたい。それが願いであり、成し遂げたいことです。そのためのアイデア(まだ非公開)もあります。それを実行に移すためにも、チームの存在が重要。だからこそ、これまで以上の結果を目指します」
Auto Race Ube Racing Teamは、エースライダーの浦本修充、そしてBMW Motorrad Motorsportのファクトリーライダーであるシルヴァン・ギュントーリ、同じくファクトリーライダーのハンネス・スーマーという強力なラインナップでEWCタイトル獲得に挑む。
レースファンとして鈴鹿8耐を見続けてきたひとりの男が、今や世界耐久選手権の頂点を目指すチームを率いる。Auto Race Ube Racing Teamの挑戦は、単なる勝敗を超え、モータースポーツが持つ夢や可能性を示しているように思う。どんな戦いを見せてくれるのか注目せずにはいられない。
Name: Auto Race Ube Racing Team(オートレース宇部 Racing Team)
Category: Formula EWC
Motorcycle: BMW M1000RR
Number: No.76
Tire: Bridgestone
Riders:浦本修充(Naomichi Uramoto)、シルヴァン・ギュントーリ(Sylvain Guintoli)、
ハンネス・スーマー(Hannes Soomer)
TEAM OWNER: ジェームス文護(James Bungo)
TEAM DIRECTOR: 中井貴之(Takashi Nakai)
TEAM MANAGER: 伊神常高(Tsunetaka Igami)
MECHANIC: ラミロ・アブラハム(Ramiro Abraham)
FINANCIAL OFFICER: 白松万司(Manji Shiramatsu)
MARKETING OFFICER: 辻野ヒロシ(Hiroshi Tsujino)
